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真訳・アレンシアの魔女
最終話02 風が吹く丘
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回廊を進み、最後の入り口に辿り着く。
三年前と違い、ここには鋼鉄製の扉がはめ込まれ、鍵は魔法で固く封印されていた。
「あの、カナクさん、ここは?」
「マールが残した、五つ目の石碑を安置している部屋だよ」
「え、えええええええっ!? い、五つ目!?」
ネウが驚くのも無理はない。
表向き、ここに安置されている五つ目の石碑は、秘匿とされている。
ここの石碑だけは他のものと違い、読んだらその内容を忘れる魔法がかかっていない。
つまりマールの秘密が、この石碑だけでわかってしまうんだ。
「ネウ、この石碑が見せる文章は、誰にも言っちゃいけない。石碑の存在も喋っちゃいけない。この二つは約束して欲しい。できる?」
「はい!」
「誓える?」
「……マールの名にかけて」
僕は頷き、常にポケットに入れている鍵を取り出すと、扉の鍵穴に刺した。
魔法陣が浮かび上がり、鍵が本物であるかチェックした後、ガチャン、と大きな音がして鍵が開いた。
「じゃあ、案内するよ」
僕はネウを部屋の中に入れる。少しひんやりとした空気の中、荘厳な雰囲気を醸し出す黒い石碑が、僕らを待っていたと言わんばかりに鎮座していた。
そして今度は懐から、腕輪を出す。
「カナクさん、それは石碑巡りの? しかも、女性用では?」
「うん、ここの石碑は本当に特殊でね。これがないと魔法陣を見られないんだよ」
腕輪を石碑に翳すと、魔法陣が現れた。
その中に……マールの最期の言葉が刻まれている。
「僕は後ろを向いている。さあ、マールの言葉を読んで」
「はい」
ネウは返事をして、魔法陣を見上げる。
そして僕は、魔法陣から背を向けた。
暫くの沈黙の後。
ネウの、すすり泣く声が聞こえてきた。
「う、ええ? そんな……暁の賢者マールが、ユーリエさん? 何故? どうしてこんなことに……?」
すすり泣きは、どんどん大きくなっていく。
僕も目に涙をいっぱい溜めていたが、なんとか口を開く。
「三年前。アンダーグラウンドで最後の石碑を見た後、僕とユーリエはここにきた。でも、ジェド連邦軍の兵士まできてしまったんだ。そして致命傷を負った僕を助けるために禁術を使い……一〇〇〇年前に飛ばされた」
「うう、えぐ、ううう……」
「それからは君が知っている通りだよ。ユーリエはマールとして立派に生き抜いた。アレンシアの神と崇められるほどにね」
僕の背中に、とん、と衝撃があり、優しい温もりが広がる。
ネウが、抱き締めてくれていた。
「カナクさん、カナクさん!」
「うん。僕は全然大丈夫……じゃない、かな。まだ吹っ切れてない。今でもユーリエを愛しているし、片時も忘れたことはない。ユーリエは僕の全てで、誇りだから」
「うう、こんなことって、ううう――――っ……」
「ありがとう、ネウ。ユーリエのために泣いてくれて」
ネウに礼を言い、僕はまだまだ吹っ切れていない自分に安堵した。
吹っ切れるわけがないし、そのつもりもない。
僕は、前には進むよ。
でもそれは、ユーリエへの想いも一緒にだ。
君にしっかり幸せになれって言われちゃったからね。
「ネウ、次はこっちへ」
「……ふぇ?」
僕は振り向いて、涙で瞳を真っ赤に腫らしたネウの手を引いて、回廊に戻る。
扉の鍵をかけて、今度は回廊を逆に進んでいく。
すると、祠の裏手に出た。
そこは狭い場所だったけれど、草花が風にそよぎ、岸壁が屋根のように突き出している。その奥には、苔に覆われた大きな岩を抱き締めるように、聳えていた。
「これは、なんですか?」
ネウの問いに、僕は力なく応えた。
「マールの、いやユーリエの……墓標だよ」
「え、まさか、マールのお墓が、あったんですか!」
「うん」
「ということは、誰かがここにやってきた、と?」
「その通り。答えは、ここに書かれていた」
僕は懐から一冊の本を出す。
「マール経典の基になったのはセレニウス・ノートリアスの手記で、その弟のアレックス・ノートリアスが加筆修正したものだ。でもこれは、そのセレニウスが記した原本そのものなんだ」
そう。
マール経典は、マールが唯一、旅に随行させたノートリアスによって書かれたものと伝わっている。
しかし実際は、二人のノートリアスによって広まったものだった。
それを知ったのは、ここにきて石碑の裏でこの本を見つけてからだ。どうやらユーリエの草人が頑張って、なるべく人目につかないところに隠してくれたらしい。
小さな身体で頑張ってくれたんだ。
なにせ時間はたくさんあった。
一〇〇〇年も。
「な、何故、そのような貴重なものが?」
「この聖神殿の表に小人がいたでしょ? あの子がこれをずっと守ってくれてたんだ。そのお陰で、ノートリアスは二人いて、兄のセレニウスが弟のアレックスにマールを探し出し、その亡骸を弔って欲しいという遺言が書かれていたことがわかった」
「そんな、だって、マール経典は元々、ノートリアスが書いた“アレンシアの魔女”という本が――」
「あれはセレニウスがマールという大人物を神格化するために、この手記を許に書いたものなんだ。だからこれこそが真のマール経典であり、真の“アレンシアの魔女”ということになる」
「真訳・アレンシアの魔女、ということですか?」
「うん」
僕は本を懐に入れて、空を見上げた。
日光が岩肌に当たっている。
しかし半円形の屋根がマールの墓標を、その光の力で朽ちさせないように守ってくれていた。
一〇〇〇年も前から、今に至るまで。
「そしてこの真訳には、もう二つ、とんでもないことが書かれていた」
「え?」
「一〇〇〇年前、希少種族の銀獣人は存在しなかった。その時は蒼い髪と瞳を持つ半人半獣、蒼獣人と呼ばれていたんだ」
「え!?」
僕はネウに向かって、その目をしっかりと見据えた。
「セレニウス・ノートリアスは蒼獣人だったんだ。そしてマールと結ばれて、銀色の子供を産んだ。それが銀獣人の祖である、ゼクト・ノートリアスだ」
「…………!?」
ネウは両手で口を覆い、その大きな瞳を見開いていた。
驚きの連続で、もう言葉もないのだろう。
僕だってそうだったから。
「それでは、ユーリエさんは……マールは希少種族の母となったんですね」
「うん、それが一つ。もう一つは……」
「もう一つは?」
僕は拳を握りしめて顔をさげ、前髪を垂らす。
この銀色の髪を。
「僕は、銀獣人なんだ」
『!!』
それがどういうことか、瞬時に理解してもらえたと思う。
僕は、何故かゼクトという名を憶えている。
誰に教わったわけでもないのに、記憶の奥底からこの名前だけが浮かび上がってくる。なにも知らなかった時は気にも留めていなかったけれど、今となってはその重みに潰されそうになった。
僕は、マールの血族。
つまりユーリエの末裔ということだ。
あの、大好きな、ユーリエの……子孫なのだ。
この身体は、流れる血は、髪の毛は、ユーリエがくれたものだった。
すーっと、涙が頬を伝う。
もう枯れたと思ったのに。
「ユーリエは過酷な旅をしたけれど、立派に生き抜いた。だから僕はせめてもの償いとして、ユーリエのためになにかできないかと、ずっとここで模索しながら生きてきた」
「か、カナクざん……」
ネウは涙声だった。
ぼろぼろと大きな滴を地面に落とし、顔中がぐしゃぐしゃだ。
僕はネウに口許を緩めながら、告げる。
「この命が尽きた時、僕の亡骸をこの墓標の隣に葬ってくれる人を探してた。その人が今日、やっと見つかった」
「え?」
「これは誰にでも頼めるものじゃない。僕とユーリエと、マールを知る人じゃないとダメなんだ。つまりネウ、君しかいない。お願いできないかな?」
ネウは背筋を伸ばして涙顔のまま、僕に身体を向けた。
「承知しました。このネールロルミア、カナク神官長さまからの願い、受け取りました。そのかわり、あたしからもお願いがあります!」
「……なんなりと」
「あたしを、ここの修道士にして下さい。カナクさんと一緒に、ユーリエさんとマールを、偲んでいきたいんです!」
僕は微笑みながら頷いた。
こうして僕とユーリエの旅は、幕を下ろした。
ネウという後事を託せる人も現れたことで、少しゆっくりできる。
その日の夜。
僕は籠《かご》を持って、久しぶりに石碑の前にやってきた。
「やあユーリエ。今夜は蒼の月と紅の月が混じり合って、綺麗な紫月夜だね」
籠から桃を一つ取り出して、石碑の前に置く。
「村の人から、またもらったんだ。君と一緒に食べたくてさ」
僕も桃を手に取りそれを胸に当てて、石碑に背を預けた。
ユーリエが集めたマナが、この石に詰まっているからだろうか。
この石碑から、微かなユーリエの気配を感じるのは。
「驚いてよ、ユーリエ。今日、ネウがきたよ。憶えてるかな、ディゴバ・アンダーグラウンドにいたダークエルフのマール信徒だよ。彼女がここの修道士になってくれたんだ。これでもう思い残すことなく、そっちに行けるよ」
僕は桃を掲げて、石碑に話しかけた。
「この身体が朽ちたら、今度こそ君と結ばれたいな。本当は今すぐにでもそっちに行きたいんだけど、君にこっちで頑張れって言われちゃったからね。僕、もう少しだけ頑張ってみる。だから、待っててね……ユーリエ」
理不尽で、不器用で、乱暴で。
その上、猫かぶりで我が儘で自己中心的で照れ屋で強気で、わけわかんなくて。
とても切なくさせてくれた、心から愛するひと……ユーリエ。
そんな希代の魔導士に思いを馳せて桃を一口囓り、横になって眠りについた。
ずっと大好きだよ、ユーリエ。
(真訳・アレンシアの魔女 石碑巡りたち 完)
三年前と違い、ここには鋼鉄製の扉がはめ込まれ、鍵は魔法で固く封印されていた。
「あの、カナクさん、ここは?」
「マールが残した、五つ目の石碑を安置している部屋だよ」
「え、えええええええっ!? い、五つ目!?」
ネウが驚くのも無理はない。
表向き、ここに安置されている五つ目の石碑は、秘匿とされている。
ここの石碑だけは他のものと違い、読んだらその内容を忘れる魔法がかかっていない。
つまりマールの秘密が、この石碑だけでわかってしまうんだ。
「ネウ、この石碑が見せる文章は、誰にも言っちゃいけない。石碑の存在も喋っちゃいけない。この二つは約束して欲しい。できる?」
「はい!」
「誓える?」
「……マールの名にかけて」
僕は頷き、常にポケットに入れている鍵を取り出すと、扉の鍵穴に刺した。
魔法陣が浮かび上がり、鍵が本物であるかチェックした後、ガチャン、と大きな音がして鍵が開いた。
「じゃあ、案内するよ」
僕はネウを部屋の中に入れる。少しひんやりとした空気の中、荘厳な雰囲気を醸し出す黒い石碑が、僕らを待っていたと言わんばかりに鎮座していた。
そして今度は懐から、腕輪を出す。
「カナクさん、それは石碑巡りの? しかも、女性用では?」
「うん、ここの石碑は本当に特殊でね。これがないと魔法陣を見られないんだよ」
腕輪を石碑に翳すと、魔法陣が現れた。
その中に……マールの最期の言葉が刻まれている。
「僕は後ろを向いている。さあ、マールの言葉を読んで」
「はい」
ネウは返事をして、魔法陣を見上げる。
そして僕は、魔法陣から背を向けた。
暫くの沈黙の後。
ネウの、すすり泣く声が聞こえてきた。
「う、ええ? そんな……暁の賢者マールが、ユーリエさん? 何故? どうしてこんなことに……?」
すすり泣きは、どんどん大きくなっていく。
僕も目に涙をいっぱい溜めていたが、なんとか口を開く。
「三年前。アンダーグラウンドで最後の石碑を見た後、僕とユーリエはここにきた。でも、ジェド連邦軍の兵士まできてしまったんだ。そして致命傷を負った僕を助けるために禁術を使い……一〇〇〇年前に飛ばされた」
「うう、えぐ、ううう……」
「それからは君が知っている通りだよ。ユーリエはマールとして立派に生き抜いた。アレンシアの神と崇められるほどにね」
僕の背中に、とん、と衝撃があり、優しい温もりが広がる。
ネウが、抱き締めてくれていた。
「カナクさん、カナクさん!」
「うん。僕は全然大丈夫……じゃない、かな。まだ吹っ切れてない。今でもユーリエを愛しているし、片時も忘れたことはない。ユーリエは僕の全てで、誇りだから」
「うう、こんなことって、ううう――――っ……」
「ありがとう、ネウ。ユーリエのために泣いてくれて」
ネウに礼を言い、僕はまだまだ吹っ切れていない自分に安堵した。
吹っ切れるわけがないし、そのつもりもない。
僕は、前には進むよ。
でもそれは、ユーリエへの想いも一緒にだ。
君にしっかり幸せになれって言われちゃったからね。
「ネウ、次はこっちへ」
「……ふぇ?」
僕は振り向いて、涙で瞳を真っ赤に腫らしたネウの手を引いて、回廊に戻る。
扉の鍵をかけて、今度は回廊を逆に進んでいく。
すると、祠の裏手に出た。
そこは狭い場所だったけれど、草花が風にそよぎ、岸壁が屋根のように突き出している。その奥には、苔に覆われた大きな岩を抱き締めるように、聳えていた。
「これは、なんですか?」
ネウの問いに、僕は力なく応えた。
「マールの、いやユーリエの……墓標だよ」
「え、まさか、マールのお墓が、あったんですか!」
「うん」
「ということは、誰かがここにやってきた、と?」
「その通り。答えは、ここに書かれていた」
僕は懐から一冊の本を出す。
「マール経典の基になったのはセレニウス・ノートリアスの手記で、その弟のアレックス・ノートリアスが加筆修正したものだ。でもこれは、そのセレニウスが記した原本そのものなんだ」
そう。
マール経典は、マールが唯一、旅に随行させたノートリアスによって書かれたものと伝わっている。
しかし実際は、二人のノートリアスによって広まったものだった。
それを知ったのは、ここにきて石碑の裏でこの本を見つけてからだ。どうやらユーリエの草人が頑張って、なるべく人目につかないところに隠してくれたらしい。
小さな身体で頑張ってくれたんだ。
なにせ時間はたくさんあった。
一〇〇〇年も。
「な、何故、そのような貴重なものが?」
「この聖神殿の表に小人がいたでしょ? あの子がこれをずっと守ってくれてたんだ。そのお陰で、ノートリアスは二人いて、兄のセレニウスが弟のアレックスにマールを探し出し、その亡骸を弔って欲しいという遺言が書かれていたことがわかった」
「そんな、だって、マール経典は元々、ノートリアスが書いた“アレンシアの魔女”という本が――」
「あれはセレニウスがマールという大人物を神格化するために、この手記を許に書いたものなんだ。だからこれこそが真のマール経典であり、真の“アレンシアの魔女”ということになる」
「真訳・アレンシアの魔女、ということですか?」
「うん」
僕は本を懐に入れて、空を見上げた。
日光が岩肌に当たっている。
しかし半円形の屋根がマールの墓標を、その光の力で朽ちさせないように守ってくれていた。
一〇〇〇年も前から、今に至るまで。
「そしてこの真訳には、もう二つ、とんでもないことが書かれていた」
「え?」
「一〇〇〇年前、希少種族の銀獣人は存在しなかった。その時は蒼い髪と瞳を持つ半人半獣、蒼獣人と呼ばれていたんだ」
「え!?」
僕はネウに向かって、その目をしっかりと見据えた。
「セレニウス・ノートリアスは蒼獣人だったんだ。そしてマールと結ばれて、銀色の子供を産んだ。それが銀獣人の祖である、ゼクト・ノートリアスだ」
「…………!?」
ネウは両手で口を覆い、その大きな瞳を見開いていた。
驚きの連続で、もう言葉もないのだろう。
僕だってそうだったから。
「それでは、ユーリエさんは……マールは希少種族の母となったんですね」
「うん、それが一つ。もう一つは……」
「もう一つは?」
僕は拳を握りしめて顔をさげ、前髪を垂らす。
この銀色の髪を。
「僕は、銀獣人なんだ」
『!!』
それがどういうことか、瞬時に理解してもらえたと思う。
僕は、何故かゼクトという名を憶えている。
誰に教わったわけでもないのに、記憶の奥底からこの名前だけが浮かび上がってくる。なにも知らなかった時は気にも留めていなかったけれど、今となってはその重みに潰されそうになった。
僕は、マールの血族。
つまりユーリエの末裔ということだ。
あの、大好きな、ユーリエの……子孫なのだ。
この身体は、流れる血は、髪の毛は、ユーリエがくれたものだった。
すーっと、涙が頬を伝う。
もう枯れたと思ったのに。
「ユーリエは過酷な旅をしたけれど、立派に生き抜いた。だから僕はせめてもの償いとして、ユーリエのためになにかできないかと、ずっとここで模索しながら生きてきた」
「か、カナクざん……」
ネウは涙声だった。
ぼろぼろと大きな滴を地面に落とし、顔中がぐしゃぐしゃだ。
僕はネウに口許を緩めながら、告げる。
「この命が尽きた時、僕の亡骸をこの墓標の隣に葬ってくれる人を探してた。その人が今日、やっと見つかった」
「え?」
「これは誰にでも頼めるものじゃない。僕とユーリエと、マールを知る人じゃないとダメなんだ。つまりネウ、君しかいない。お願いできないかな?」
ネウは背筋を伸ばして涙顔のまま、僕に身体を向けた。
「承知しました。このネールロルミア、カナク神官長さまからの願い、受け取りました。そのかわり、あたしからもお願いがあります!」
「……なんなりと」
「あたしを、ここの修道士にして下さい。カナクさんと一緒に、ユーリエさんとマールを、偲んでいきたいんです!」
僕は微笑みながら頷いた。
こうして僕とユーリエの旅は、幕を下ろした。
ネウという後事を託せる人も現れたことで、少しゆっくりできる。
その日の夜。
僕は籠《かご》を持って、久しぶりに石碑の前にやってきた。
「やあユーリエ。今夜は蒼の月と紅の月が混じり合って、綺麗な紫月夜だね」
籠から桃を一つ取り出して、石碑の前に置く。
「村の人から、またもらったんだ。君と一緒に食べたくてさ」
僕も桃を手に取りそれを胸に当てて、石碑に背を預けた。
ユーリエが集めたマナが、この石に詰まっているからだろうか。
この石碑から、微かなユーリエの気配を感じるのは。
「驚いてよ、ユーリエ。今日、ネウがきたよ。憶えてるかな、ディゴバ・アンダーグラウンドにいたダークエルフのマール信徒だよ。彼女がここの修道士になってくれたんだ。これでもう思い残すことなく、そっちに行けるよ」
僕は桃を掲げて、石碑に話しかけた。
「この身体が朽ちたら、今度こそ君と結ばれたいな。本当は今すぐにでもそっちに行きたいんだけど、君にこっちで頑張れって言われちゃったからね。僕、もう少しだけ頑張ってみる。だから、待っててね……ユーリエ」
理不尽で、不器用で、乱暴で。
その上、猫かぶりで我が儘で自己中心的で照れ屋で強気で、わけわかんなくて。
とても切なくさせてくれた、心から愛するひと……ユーリエ。
そんな希代の魔導士に思いを馳せて桃を一口囓り、横になって眠りについた。
ずっと大好きだよ、ユーリエ。
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