66 / 94
66.
しおりを挟む
俺は一歩前に踏み出して言う。
「はは…幾ら何でも突然過ぎませんかね…」
冗談まじりに苦笑いをしてみせた。
目の前の五十嵐は少し冷や汗を掻いたように見えた。強張りを解くかのように仕切りに首を横に振ると、俺の視線を捉える。
「…と、突然も何もこちらの不手際が問題だったのは伝えた筈ですが」
表情こそ穏やかだが目が笑っていない。薄く敵意が感じられた。
部室に入る前に確認した限りでは入部及び体験入部期間の締め切りは一週間も先の話であった。即ち、五十嵐さんは特別候補生(※特に夜崎)を部室に入れたくない為に、一歩的に拒んでいるのだ。これは余りに理不尽で失礼この上ない対応である。自分が携帯を所持していれば証拠写真という確定要素を提示出来るのだが、自ら所持しないと決めている俺だ。いつも通り、言論で争うしかない。
俺はため息一つした。
「…部室に入る前、張り紙に書かれた締め切り期間は一週間も先の期限が記載されていたと記憶しています。これが事実ならここで拒否されるのはおかしな話ですよね?」
千里眼が如く、俺は五十嵐を咎めた。
妙な雰囲気に圧倒されたのか、五十嵐は一歩距離をとった。同じタイミングで後ろの女子三人が身を寄せ始める。
くくっ…これが俺様、夜崎にしか出せない不のオーラよ。…うーん、見る限りでは圧倒されているというより軽く引かれてますね…。
五十嵐は言い淀みながらも答えた。
「…ぐっ……き、”記憶しています”って、多分貴方の記憶違いだと思います!」
動揺してどこまでも嘘くさい必死な回答ではあったが、案外痛い所を突いてくる。五十嵐の雰囲気にあまり似つかない勇猛な声音だったせいか、女子三人は小さく歓声を上げている。
『新入部員募集!』という張り紙をはっきりと視認していなかったせいで”記憶しています”なんて言わなくてもいい事実を無意識に放ってしまっていた。我ながら不覚。我ながら相手に好機を与えてしまう失態。
「いや…記憶違いでは決してないですね。第一、後ろの女子生徒が抱えた張り紙を見せてもらえば諦めもつきますよ」
敵意を滲ませた不自然な笑顔で振るまって見せた。
名指しされた千田は身をよじって、張り紙を絶対に渡すまいとしている。…困ったな。何が困ったかって、後ろ女子三人の中でも千田は抜きんでて気が弱そうに見える。このやり取りに耐えられなくなって、俺が無理やり張り紙を奪い取ろうものならポリスコール待った無しだろう。周囲に弁護してくれる目撃者はおらず、問答無用で異端児夜崎はブタ箱行きか……って待てよ。そういえば、この高校には監視カメラが無数に取り付けられているから、目撃者が存在せずとも証拠は残るのか。フッ、であればやることは一つしかない。
「…」
急に無言になった俺を不自然に感じたのか。はたまた我慢の限界が近づいてきているのか。五十嵐は多少苛立った声で言う。
「た、多分印刷ミスです…そう!印刷ミスです!これで納得して頂けますかっ」
五十嵐は閃いた!とばかりに俺に説得を続けるがもう遅い。
「納得……出来るわけねーだろっ」
俺は端的に言い放つと同時に素早く前進して千田の目の前に立った。そして、躊躇なく懐に手を伸ばした。
「ちょっ…!貴方、ねぇ!」
不意を突かれた五十嵐が援護しようと駆け寄るが間に合わない。
「ッ…!」
眼前には今にも悲鳴を上げそうな表情をする千田がいる。
「証拠…見させて貰うぞ!」
「何をしているんですか?」
しめた!と、張り紙の上部を掴んだ所で突然、この騒動をまるで考慮しない冷めた声音が飛んできた。
掴んだ姿勢のまま首だけ振り返ると、そこには怪訝な表情をする錦織の姿とにこやかな表情をした綾崎先生が佇んでいた。
「はは…幾ら何でも突然過ぎませんかね…」
冗談まじりに苦笑いをしてみせた。
目の前の五十嵐は少し冷や汗を掻いたように見えた。強張りを解くかのように仕切りに首を横に振ると、俺の視線を捉える。
「…と、突然も何もこちらの不手際が問題だったのは伝えた筈ですが」
表情こそ穏やかだが目が笑っていない。薄く敵意が感じられた。
部室に入る前に確認した限りでは入部及び体験入部期間の締め切りは一週間も先の話であった。即ち、五十嵐さんは特別候補生(※特に夜崎)を部室に入れたくない為に、一歩的に拒んでいるのだ。これは余りに理不尽で失礼この上ない対応である。自分が携帯を所持していれば証拠写真という確定要素を提示出来るのだが、自ら所持しないと決めている俺だ。いつも通り、言論で争うしかない。
俺はため息一つした。
「…部室に入る前、張り紙に書かれた締め切り期間は一週間も先の期限が記載されていたと記憶しています。これが事実ならここで拒否されるのはおかしな話ですよね?」
千里眼が如く、俺は五十嵐を咎めた。
妙な雰囲気に圧倒されたのか、五十嵐は一歩距離をとった。同じタイミングで後ろの女子三人が身を寄せ始める。
くくっ…これが俺様、夜崎にしか出せない不のオーラよ。…うーん、見る限りでは圧倒されているというより軽く引かれてますね…。
五十嵐は言い淀みながらも答えた。
「…ぐっ……き、”記憶しています”って、多分貴方の記憶違いだと思います!」
動揺してどこまでも嘘くさい必死な回答ではあったが、案外痛い所を突いてくる。五十嵐の雰囲気にあまり似つかない勇猛な声音だったせいか、女子三人は小さく歓声を上げている。
『新入部員募集!』という張り紙をはっきりと視認していなかったせいで”記憶しています”なんて言わなくてもいい事実を無意識に放ってしまっていた。我ながら不覚。我ながら相手に好機を与えてしまう失態。
「いや…記憶違いでは決してないですね。第一、後ろの女子生徒が抱えた張り紙を見せてもらえば諦めもつきますよ」
敵意を滲ませた不自然な笑顔で振るまって見せた。
名指しされた千田は身をよじって、張り紙を絶対に渡すまいとしている。…困ったな。何が困ったかって、後ろ女子三人の中でも千田は抜きんでて気が弱そうに見える。このやり取りに耐えられなくなって、俺が無理やり張り紙を奪い取ろうものならポリスコール待った無しだろう。周囲に弁護してくれる目撃者はおらず、問答無用で異端児夜崎はブタ箱行きか……って待てよ。そういえば、この高校には監視カメラが無数に取り付けられているから、目撃者が存在せずとも証拠は残るのか。フッ、であればやることは一つしかない。
「…」
急に無言になった俺を不自然に感じたのか。はたまた我慢の限界が近づいてきているのか。五十嵐は多少苛立った声で言う。
「た、多分印刷ミスです…そう!印刷ミスです!これで納得して頂けますかっ」
五十嵐は閃いた!とばかりに俺に説得を続けるがもう遅い。
「納得……出来るわけねーだろっ」
俺は端的に言い放つと同時に素早く前進して千田の目の前に立った。そして、躊躇なく懐に手を伸ばした。
「ちょっ…!貴方、ねぇ!」
不意を突かれた五十嵐が援護しようと駆け寄るが間に合わない。
「ッ…!」
眼前には今にも悲鳴を上げそうな表情をする千田がいる。
「証拠…見させて貰うぞ!」
「何をしているんですか?」
しめた!と、張り紙の上部を掴んだ所で突然、この騒動をまるで考慮しない冷めた声音が飛んできた。
掴んだ姿勢のまま首だけ振り返ると、そこには怪訝な表情をする錦織の姿とにこやかな表情をした綾崎先生が佇んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい
沢尻夏芽
恋愛
自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。
それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。
『様子がおかしい』
※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。
現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。
他サイトでも掲載中。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
蒼き樹海の案内人
蒼月よる
ファンタジー
辺境の森で育った少年ユーリには、不思議な目がある。魔素の流れが光の粒として見えるのだ。
蒼の樹海——人を喰らう巨大な森に足を踏み入れた彼は、遺跡屋の青年カイと出会い、冒険者として歩み始める。樹海の奥に眠る遺跡、港街の裏に潜む陰謀、灰に覆われた滅びの国、そして首都に隠された世界の秘密。
仲間と共に世界を巡るうちに、ユーリは気づいていく。この世界の「魔法」も「神」も、すべてが何かの残骸なのではないか——と。
冒険・バトル・素材経済・食文化を軸に、ファンタジーの裏に潜むSF的真実へと辿り着く、全4巻の冒険ファンタジー。
この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。
・世界観・設定の管理補助
・プロット段階の壁打ち
・作者による執筆後の校正
{完結保証}規格外の最強皇子、自由に生きて無双する〜どこへ行っても、後世まで語られる偉業を残していく、常識外れの皇子〜
Saioonji
ファンタジー
母に殴られ、命を奪われた――そのはずだった。
だが目を覚ました先は、白く豪奢な王城の一室。
赤子の身体、仕えるメイド、そして“皇子”という立場。
前世では愛されず、名前すら価値を持たなかった少年が、
今度は世界の中心に生まれ落ちてしまった。
記憶を失ったふりをしながら、
静かに、冷静に、この世界を観察する皇子。
しかし彼の中には、すでに常識外れの思考と力が芽生えていた。
――これは復讐でも、救済でもない。
自由を求めただけの少年が、
やがて国を、歴史を、価値観そのものを揺るがしていく物語。
最強であることすら、彼にとってはただの前提条件だった。
重複投稿作品です
小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる