雷神姫の異世界現代物語

ユウイチ

文字の大きさ
10 / 50

10 謁見という名の脅迫(?)

しおりを挟む
近づいてくるわけでもないその集団を見て、わたしは判断に迷っていた。

確かに鐘を鳴らさなければならないほどの数だけど、特に攻撃してきたりするわけでもないわけで。

結果奇妙な静観状態に陥っていた。

様子見以外の明確な指示を出せないまま十数分がすぎ、ようやく、グラセフさんが到着した。



「すまない、雷の巫女様。遅れた」



「いえ、それよりあの集団に見覚えは?」



「おそらくどこかの氏族のものだとしか····ここ最近はあまり、ほかの氏族とは交流を取れていなかったもので」



「そうですか·····」



有力な情報はなし、と。

それじゃあますます、動けない。

ほんとにどうしよう、と考えていると、集団がざわめきだした。



「···?人?」



出てきたのは女性一人、男性二人の三人組だった。

白地に黒の蛇の紋章。あれは確か交渉を求めるものだったはず。



「雷の巫女様。いかがしますか?」



「応じないわけにもいかないし。いくしかないでしょ」



交渉旗を掲げた相手を攻撃するのは暗黙の了解で禁止されているし、もしすれば、次から交渉を受けることもすることも、難しくなる。

かといって、無視も得策ではないし、第一このまま睨み合っているわけにもいかない。



「こっちも交渉旗を掲げて」



持ちかけられた側が交渉旗を掲げるのはそれを受けたという合図。

······本で勉強していて良かった。

知らなかったら大恥をかいていたところだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



交渉場所は三時間後に城でと決まり、レムリア氏族から志願していたメイドさんたちが準備に奔走していた。

グラセフさんやレムリア氏族の幹部級の面々を集め、話し合ううちに約束の時間になった。

そんなこんなでやっと交渉に入ったのだけど



「お初お目にかかります。私はロマリス氏族族長フォネア・ロマリスと申します」



「アンカム氏族の族長、リグルス・アンカム」



「フレンツェ氏族のウルガ・フレンツェです」



何故か聖座の間(いわゆる玉座の間。レムリア氏族の人たちがそう呼んでいる)での謁見という体になっていることに対して、内心頭を抱えていた。

なんとか表情には出さずにこの一時間で必死に覚えた謁見の順序を思い出しながら進める。



「顔を上げてほしい。わたしはシオリ·スメラギ。よく来たね。三氏族の長たち。」


三人の長たちとその従者たちが顔をあげた。

長たちは表面上は変わりないが、従者たちは明らかに少女のわたしを見て侮ったような表情になった。

長たちはいいけど、従者たちは明らかにこういう交渉の場には不合格だ。

表情を隠せない者は交渉の場では不利な材料にしかならないからね。


「長ったらしい挨拶はいらない。要件だけを答えてほしい」


わたしの挨拶はいらない、と言ったところで従者たちがわずかに怒りの表情をみせる。

こういう場での挨拶はいらないという言葉は、挨拶を聞く価値がないというのと同じだからだ。

まあ、わかっていて挑発したんだけどね。ここで怒り狂うぐらいなら交渉するほどの価値は彼らにはない。


「ーーーはい。厚かましい願いだとは思いますが、どうか私達を配下の一員としていただけませんでしょうか」


「·····ん?配下····?」


「はい。私達のいた土地は魔物たちに奪われてしまいました。慌てて逃げてきたのですが、行く宛もなく·····」


なるほど、グラセフさんたちと同じように住んでいた土地を奪われてやってきたようだった。でも疑問も残る。


「ふむ。じゃあなんでわたしのところに?他のところにも氏族はたくさんあったでしょう?」


別にわたしじゃなくてもいいはずだ。それこそ別の無人の土地で一からやり直すという選択肢もあったはず。


「確かにそうです。しかし他の氏族に身を寄せてもその氏族まで魔物たちにまたやられては意味がありません。一からやり直すのも同じです」


「··········」


「そこで、この魔竜王の縄張りの中で堂々と暮らして行けているあなた達を見て、ここならと思いこうして参ったのです」


「そう······」


まあ、確かに避難したところまでやられちゃったら意味ないしね。

それに、農地や街の建物はまだまだある。

じゃあ受け入れるかなと思っていると、従者の方から横槍が入った。


「もう我慢ならん!」


「ん?」


「黙っていればいい気になりやがって!」


「よせ、やめろ!」


「臆病風に吹かれた親父は黙ってろ!!」


なんとそいつは、ウルガさんの息子さんだったらしい。

それに同調するように従者のうちの何人かが立ち上がった。


「こんな小娘になんか従わずにそいつを捕まえて、ここの土地を奪えばいいじゃないか!!」


「やめろといっている!!!」


ウルガさんはもうあおざめていた。

その言葉と同時に護衛の兵たちが殺気立つが、わたしが静止をかける。

息子さんはそんな護衛たちに怯まずに真っ直ぐにわたしを睨みつけてきた。


「捕まえる、ね。どうやって?」


わたしが面白そうに聞くと、彼は顔を真っ赤に染める。


「ふ、ふざけんなぁ!!!!」


剣を持って襲いかかってきた彼を<雷閃>の一撃で文字道理わたし以外の認識が追いつかないほどの速さで吹き飛ばした。

剣は粉々になり、本人は壁にめり込んでいた。

他の立っていた従者たちは、武器を抜いたところを護衛たちが次々に制圧し、拘束していった。


「弱っちいの。遊びにもならないし」


ボソリと不満を漏らすと、三人の族長たちの表情が引きつっていた。

どうやら彼が一瞬でやられるとは思っていなかったらしい。

······彼は戦士としては強い方だったのだろうか?


「他にわたしの配下になるのに反対の人はいる?」


わたしが尋ねると彼らはブンブンと首を振った。どうやら後は賛成らしい。


「それじゃあ、受け入れるよ。ーーーーようこそわたしの元へ。歓迎するよ」


こうしてまた配下が増えたのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...