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51 黄金の守護
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早速、三人で手分けして残りの二割を完成させていく。
「陛下は多才ですね。一体いくつに手を出されているのですか?」
「そんな多くないよ?わたしもグラセフと同じで趣味みたいなものだし、所詮は素人の猿真似だよ」
「猿真似でこんなものを作り出されては、魔導具師たちは堪まったものではないでしょうなぁ。どうみても一流以上の腕はありますぞ」
「数だけは結構作ってたしね。なれもあると思う。」
「経験というわけですな」
「ある意味一番大切でしょう。いくら実力があったところで経験が不足していれば失敗するでしょう。頭でっかちなどよりは余程マシですよ」
「褒め過ぎだよ·······!」
好きでやってたことだから、そこまで褒められるといい気分を通り越して恥ずかしい。それに魔宝石や魔力結晶、ミスリルなど超高価な素材を失敗を前提に湯水のごとく使って作り続けてたんだし、お金もかかるしでかなり力技での修練方法だから、あんまり自慢しづらい。
「これはこっちで合ってる?」
「はい。すいませんがこっちの所はおまかせしても?なかなかうまくいかず·······」
「りょーかい。じゃあこれを頼むね」
三人だと分担できるから早い。ものの三時間程度で完成してしまった。
後はそれらを精霊樹を囲むように魔法陣を描きながら配置する。そのまま地面に露出させたままだと雨風で劣化したり、すぐに魔力の影響を受けてしまうから、無属性魔法の<保存>をかけて土属性魔法で作った箱の中に入れて無属性魔法の結界を張った。これならそうそう壊されはしないはず。
「········まさかそれら一つずつに戦術級結界を張るとは。単純な魔法能力では儂を既に上回っております可能性もありますなぁ」
「一瞬なにか襲撃でも感じ取ったのかと思いました。一体どこにそれを設置しようとしていたのかと思いましたよ」
「今回は威力は少なめにしてるからそんなにすごいものじゃないよ。超級魔法には一発ぐらいしか耐えられないし、禁呪にいたっては消し飛んじゃうだろうし。使い捨てみたいなものだからね」
「そもそもここに埋めたこれが、結界が発動した時点で聖城内が危機的状況になっているだろうし十分だと思われます。ここに侵入できる時点で化け物レベルですから」
グラセフの言う通り、聖城内でしかも精霊樹のある最高の兵が守っているこの場所が戦場になったらもう負けは確定してるだろうから、意味があまり無いというのはわたしも思う。
でも、想定外の事故とか魔力暴走は危険だからそっちを主にして陣を構築させてる。
万が一関係のない人が巻き込まれるのは流石にアレだし、何よりその後始末をするのはわたしだし、そんな手間をかけるのも嫌だしね。
わたしは楽がしたいんだ。
完成してすぐに精霊樹の周りに作った魔導具を配置していき結界起動の準備をしていく。
皇都内の住人たちには予め今日、皇都を覆う守護結界を張るって通達してある。いきなり結界が現れたりしたら大騒ぎになるのが目に見えてるし、無用な不安を与えるのは良くないからね。何よりもまたみんなにメチャクチャ怒られることになっちゃうのは嫌だ。
「そっち側の準備いいー?」
「問題ないぞ」
「問題ありません」
「念の為にもう一回確認しとこう。爆発したら事だし」
「慎重じゃのう」
「······別にしなくてもいいけど、リリアの相手は一人で頼むね」
軽く笑うリグルスにわたしがボソッと呟くと、グラセフまで一緒に黙った。
本気で怒ったリリアはやばいからね。元ゴーレムだからか淡々と理論を元にした事実と反論できない正論をず———っと言い続けるんだ。無表情なのに全身から滲み出る怒気と極寒の眼差しは本能的な恐怖を思い出させる。魔竜王の殺気なんかよりもよっぽど怖かった。
城を壊すなんてしたらどうなるかなんて想像したくもない。
無言で再確認が行われ、これでもかと安全確認がされてから魔力の充填を行う。
まずは回路に予め魔力を通しておかないと精霊樹の魔力密度に焼き切れる可能性があるから。最後の最後でのミスはしたくないし、これまで以上に慎重に魔力操作を続けた。
「よし、出来た。じゃあいくよ。———展開<神聖結界>」
一際精霊樹が光り輝き、放たれた光がドーム状に中庭を越え城壁を越え、都市防壁を越えたあたりで膨張が止まる。
でも、光の粒はその勢いを止めず、皇都周辺の僅かな邪気を次々に浄化しながら拡散していった。
「これはなんと········」
「こころなしか体が軽くなるようです」
「これは派手な光だねぇ。まあ、頼もしそうではあるかな」
まるで荘厳な神殿のような空気が漂うことと、空をまるごと覆い尽くしている黄金の光の膜に、三人で感嘆の息を吐きながら見惚れる。
聖城の外からもかすかに城下のどよめきと歓声が聞こえた。やっぱり目に見える結界はここが安全だと認識するためには最適なものだった。
ここに住む住人の殆どは魔獣の脅威に晒され続けて生きてきた人たち。その長年の脅威から開放されるという安心感はどんな言葉でも強兵たちでも引き出すことはできない強固なものになる。
執念とも言えるようなこの大陸のひとの忍耐力と負けず嫌いさ、そして過酷だったからこその硬い団結力は、この皇都という安全の象徴を得て更に高まるはず。
今までは家族として、これからは国家として。
人は家族と守るべき場所を得てこそ戦える種族なんだから。
『皇国万歳!姫王陛下万歳!我らが神聖旗の元、栄光あれ!!』
『我らが新たなる安寧の地に繁栄あれ!!』
『雷の女神よ、永遠なれ!』
これはなかなか収まりそうにないなと城下の熱気を感じながら苦笑する。
今頃他の街でもこんなふうになっていると思うと、下手したら祝日とかにしようとかの案が出てきそうだなぁと考える。
まあ、この国のみんなが笑って喜べる日もあったほうがいいだろうし、真面目に検討するのもいいかもしれない。
ふと、人の気配に気づいて振り向くと、そこにはフォネアとウルガを筆頭に百を超える重職に付く城の者たちがいた。そこにグラセフとリグルスが並ぶ。
「この度の結界の構築おめでとうございます。そして、我らが皇国民を代表して感謝を申し上げます······!!」
グラセフがひざまずくと同時に全員がザッとその場に跪いた。
「これまで常にギリギリでしか生きられず、魔物たちの脅威から身を震わせて生きてきた我らに豊かさと庇護を与えてくださるだけでなく、安住の地までも与えてくださるとはどれだけ感謝しても足りません!!」
「いや、でもこれは三人で作ったものだし、わたしひとりのものじゃないから———」
「いいえ!!!」
わたしの言葉に被せるようにグラセフの言葉が強くわたしの認識を否定する。
「陛下がおられなければ、我々が揃ってここにいることはなかったでしょう。手を取り合うことはおろか、戦いにさえなっていたところもあるでしょう。こうして豊かさを知ることも享受することもなく、未だ細々と生きるだけだったでしょう。陛下がいらっしゃったからこそ精霊樹が生まれ、こうして魔物たちに怯えて暮らすしかなかった我々に安全を約束する結界を作り出すことが出来たのです」
「陛下が私達をこうして救ってくださいました。他の誰にも出来ない、まるでこの今こそ私達にとっては奇跡そのものなのです」
「この場所、この時民たちが歓喜の声を上げている姿そのものが儂らの理想そのもの。陛下じゃからこそこの光景を作り出せたのだ」
「オレたちから最上の感謝と再び忠誠を誓うことをお許しいただきたい。どうか心からの忠誠を」
四人の目はわたしを見て一切揺らがなかった。あったのは狂おしいまでの熱量。そこに疑問を挟む余地のないほどのものだった。
他のものを見ても同じ思いを感じた。感極まってしまったのか涙を流し、肩を震わせるものもいた。
ああ、彼らにとって安寧の地とはここまで大きなものだったんだ。
ストンと心に彼らの思いが入ってきた。
彼らの忠誠と思いに———ならばわたしも皇国の姫王として応えよう。
「許します。でもわたし一人じゃきっとみんなを笑顔にするのは難しいでしょう。だから———手伝って欲しい。ここにいる全員が協力すればきっと出来るはずです。理想を実現するための力をみんなからも貸してほしい」
みんなを笑顔に。
なんて甘くて幼稚な願いだろう、理想だろう。
みんながなんてきっと出来ない。わたし一人じゃカケラも届きもしないだろう。
———でも、ここにはこれだけの人達がいる。少なくともみんなの、皇国の民たちの幸せを思う者たちがいる。ならば———届くかも知れない。
『御意のままに!!』
再び全員が頭を下げたのを声をかけて上げさせる。
「早速今日から頼みたい———と言いたいところだけど、こんなめでたい日に仕事の話は無粋でしょう。今日はすべての業務を今このときより終え、存分に城下で楽しんで来るように。これは王命ですよ」
「———御意。配慮に感謝します」
「祭はみんなで楽しむものですからね。節度を守って羽目を外しすぎないようにね」
「もちろんですよ」
みんなが一斉に礼を取り、下がっていく。その場にはリリアだけが残った。
「リリアも行ってきていいんだよ?」
「私はゴーレムですので。それに、人の多いところは少し苦手です」
「ふふふ、苦手かぁ。それじゃあ仕方ないね」
意外な弱点だなぁと思うと少し口元が緩んでしまう。
常に完璧という姿ばかり見てきたから少し新鮮だ。
「ちょうど今日は二人っきりになるみたいだし、ワインでも飲み交わそうよ。ちょうどサウィード王国の百三十年ものが手に入ったんだよね」
以前、城下に息抜きで行ったときに参加したオークションで見つけて飲んだもので、むちゃくちゃ美味しかったから役人たちに命じてあるだけ集めさせたんだ。予想外に大量に集まってしまって、就寝前の寝酒としては全く使いきれてなかった。
寝酒は悪いみたいなんだけどあんまり酔わないし、睡眠も短いからわたしには悪影響はあんまりないし、飲みやすいから一本まるごと飲んじゃうんだよね。流石にそれ以上は飲まないけど。
「それは、有名な極上と言われる大当たりの年のワインですね。超高額で取引される代物です。いったいいくらだったのですか」
「一本金貨八十枚(八百万円)ぐらいかな?あるだけ買いあさったから三桁以上はあるからいっぱい飲もうよ。リリアも味わかるし少しは酔えるでしょ?」
「はい、そうですね。ぜひお供させていただきます」
「オッケー。じゃあ行こう!」
わたしの寝室にあるテラスで傾いて赤く染まり始めた太陽を背景に、なんてことのないこれまでの話をしながらグラスで飲み交わした。
「リリア」
「——? はい」
「これからもよろしくね?また頼りにさせてもらうね」
「もちろんです。が、あまり危険に飛び込むような真似はやめていただきたいです」
「わかってるよ。気をつける」
「マスターが自重する可能性は六パーセント以下です」
「はははっ、これは厳しいね~」
笑うわたしをジトリとした目で見てくるリリアに、僅かに肩をすくめた。
その目から逃げるようにして力強く輝く太陽を見て目を細める。
「ここに千年王城を作ろう。誰もが素晴らしいと思えるような羨むような都を作ろう」
そうすればきっとみんなも笑えるはずだから。
「陛下は多才ですね。一体いくつに手を出されているのですか?」
「そんな多くないよ?わたしもグラセフと同じで趣味みたいなものだし、所詮は素人の猿真似だよ」
「猿真似でこんなものを作り出されては、魔導具師たちは堪まったものではないでしょうなぁ。どうみても一流以上の腕はありますぞ」
「数だけは結構作ってたしね。なれもあると思う。」
「経験というわけですな」
「ある意味一番大切でしょう。いくら実力があったところで経験が不足していれば失敗するでしょう。頭でっかちなどよりは余程マシですよ」
「褒め過ぎだよ·······!」
好きでやってたことだから、そこまで褒められるといい気分を通り越して恥ずかしい。それに魔宝石や魔力結晶、ミスリルなど超高価な素材を失敗を前提に湯水のごとく使って作り続けてたんだし、お金もかかるしでかなり力技での修練方法だから、あんまり自慢しづらい。
「これはこっちで合ってる?」
「はい。すいませんがこっちの所はおまかせしても?なかなかうまくいかず·······」
「りょーかい。じゃあこれを頼むね」
三人だと分担できるから早い。ものの三時間程度で完成してしまった。
後はそれらを精霊樹を囲むように魔法陣を描きながら配置する。そのまま地面に露出させたままだと雨風で劣化したり、すぐに魔力の影響を受けてしまうから、無属性魔法の<保存>をかけて土属性魔法で作った箱の中に入れて無属性魔法の結界を張った。これならそうそう壊されはしないはず。
「········まさかそれら一つずつに戦術級結界を張るとは。単純な魔法能力では儂を既に上回っております可能性もありますなぁ」
「一瞬なにか襲撃でも感じ取ったのかと思いました。一体どこにそれを設置しようとしていたのかと思いましたよ」
「今回は威力は少なめにしてるからそんなにすごいものじゃないよ。超級魔法には一発ぐらいしか耐えられないし、禁呪にいたっては消し飛んじゃうだろうし。使い捨てみたいなものだからね」
「そもそもここに埋めたこれが、結界が発動した時点で聖城内が危機的状況になっているだろうし十分だと思われます。ここに侵入できる時点で化け物レベルですから」
グラセフの言う通り、聖城内でしかも精霊樹のある最高の兵が守っているこの場所が戦場になったらもう負けは確定してるだろうから、意味があまり無いというのはわたしも思う。
でも、想定外の事故とか魔力暴走は危険だからそっちを主にして陣を構築させてる。
万が一関係のない人が巻き込まれるのは流石にアレだし、何よりその後始末をするのはわたしだし、そんな手間をかけるのも嫌だしね。
わたしは楽がしたいんだ。
完成してすぐに精霊樹の周りに作った魔導具を配置していき結界起動の準備をしていく。
皇都内の住人たちには予め今日、皇都を覆う守護結界を張るって通達してある。いきなり結界が現れたりしたら大騒ぎになるのが目に見えてるし、無用な不安を与えるのは良くないからね。何よりもまたみんなにメチャクチャ怒られることになっちゃうのは嫌だ。
「そっち側の準備いいー?」
「問題ないぞ」
「問題ありません」
「念の為にもう一回確認しとこう。爆発したら事だし」
「慎重じゃのう」
「······別にしなくてもいいけど、リリアの相手は一人で頼むね」
軽く笑うリグルスにわたしがボソッと呟くと、グラセフまで一緒に黙った。
本気で怒ったリリアはやばいからね。元ゴーレムだからか淡々と理論を元にした事実と反論できない正論をず———っと言い続けるんだ。無表情なのに全身から滲み出る怒気と極寒の眼差しは本能的な恐怖を思い出させる。魔竜王の殺気なんかよりもよっぽど怖かった。
城を壊すなんてしたらどうなるかなんて想像したくもない。
無言で再確認が行われ、これでもかと安全確認がされてから魔力の充填を行う。
まずは回路に予め魔力を通しておかないと精霊樹の魔力密度に焼き切れる可能性があるから。最後の最後でのミスはしたくないし、これまで以上に慎重に魔力操作を続けた。
「よし、出来た。じゃあいくよ。———展開<神聖結界>」
一際精霊樹が光り輝き、放たれた光がドーム状に中庭を越え城壁を越え、都市防壁を越えたあたりで膨張が止まる。
でも、光の粒はその勢いを止めず、皇都周辺の僅かな邪気を次々に浄化しながら拡散していった。
「これはなんと········」
「こころなしか体が軽くなるようです」
「これは派手な光だねぇ。まあ、頼もしそうではあるかな」
まるで荘厳な神殿のような空気が漂うことと、空をまるごと覆い尽くしている黄金の光の膜に、三人で感嘆の息を吐きながら見惚れる。
聖城の外からもかすかに城下のどよめきと歓声が聞こえた。やっぱり目に見える結界はここが安全だと認識するためには最適なものだった。
ここに住む住人の殆どは魔獣の脅威に晒され続けて生きてきた人たち。その長年の脅威から開放されるという安心感はどんな言葉でも強兵たちでも引き出すことはできない強固なものになる。
執念とも言えるようなこの大陸のひとの忍耐力と負けず嫌いさ、そして過酷だったからこその硬い団結力は、この皇都という安全の象徴を得て更に高まるはず。
今までは家族として、これからは国家として。
人は家族と守るべき場所を得てこそ戦える種族なんだから。
『皇国万歳!姫王陛下万歳!我らが神聖旗の元、栄光あれ!!』
『我らが新たなる安寧の地に繁栄あれ!!』
『雷の女神よ、永遠なれ!』
これはなかなか収まりそうにないなと城下の熱気を感じながら苦笑する。
今頃他の街でもこんなふうになっていると思うと、下手したら祝日とかにしようとかの案が出てきそうだなぁと考える。
まあ、この国のみんなが笑って喜べる日もあったほうがいいだろうし、真面目に検討するのもいいかもしれない。
ふと、人の気配に気づいて振り向くと、そこにはフォネアとウルガを筆頭に百を超える重職に付く城の者たちがいた。そこにグラセフとリグルスが並ぶ。
「この度の結界の構築おめでとうございます。そして、我らが皇国民を代表して感謝を申し上げます······!!」
グラセフがひざまずくと同時に全員がザッとその場に跪いた。
「これまで常にギリギリでしか生きられず、魔物たちの脅威から身を震わせて生きてきた我らに豊かさと庇護を与えてくださるだけでなく、安住の地までも与えてくださるとはどれだけ感謝しても足りません!!」
「いや、でもこれは三人で作ったものだし、わたしひとりのものじゃないから———」
「いいえ!!!」
わたしの言葉に被せるようにグラセフの言葉が強くわたしの認識を否定する。
「陛下がおられなければ、我々が揃ってここにいることはなかったでしょう。手を取り合うことはおろか、戦いにさえなっていたところもあるでしょう。こうして豊かさを知ることも享受することもなく、未だ細々と生きるだけだったでしょう。陛下がいらっしゃったからこそ精霊樹が生まれ、こうして魔物たちに怯えて暮らすしかなかった我々に安全を約束する結界を作り出すことが出来たのです」
「陛下が私達をこうして救ってくださいました。他の誰にも出来ない、まるでこの今こそ私達にとっては奇跡そのものなのです」
「この場所、この時民たちが歓喜の声を上げている姿そのものが儂らの理想そのもの。陛下じゃからこそこの光景を作り出せたのだ」
「オレたちから最上の感謝と再び忠誠を誓うことをお許しいただきたい。どうか心からの忠誠を」
四人の目はわたしを見て一切揺らがなかった。あったのは狂おしいまでの熱量。そこに疑問を挟む余地のないほどのものだった。
他のものを見ても同じ思いを感じた。感極まってしまったのか涙を流し、肩を震わせるものもいた。
ああ、彼らにとって安寧の地とはここまで大きなものだったんだ。
ストンと心に彼らの思いが入ってきた。
彼らの忠誠と思いに———ならばわたしも皇国の姫王として応えよう。
「許します。でもわたし一人じゃきっとみんなを笑顔にするのは難しいでしょう。だから———手伝って欲しい。ここにいる全員が協力すればきっと出来るはずです。理想を実現するための力をみんなからも貸してほしい」
みんなを笑顔に。
なんて甘くて幼稚な願いだろう、理想だろう。
みんながなんてきっと出来ない。わたし一人じゃカケラも届きもしないだろう。
———でも、ここにはこれだけの人達がいる。少なくともみんなの、皇国の民たちの幸せを思う者たちがいる。ならば———届くかも知れない。
『御意のままに!!』
再び全員が頭を下げたのを声をかけて上げさせる。
「早速今日から頼みたい———と言いたいところだけど、こんなめでたい日に仕事の話は無粋でしょう。今日はすべての業務を今このときより終え、存分に城下で楽しんで来るように。これは王命ですよ」
「———御意。配慮に感謝します」
「祭はみんなで楽しむものですからね。節度を守って羽目を外しすぎないようにね」
「もちろんですよ」
みんなが一斉に礼を取り、下がっていく。その場にはリリアだけが残った。
「リリアも行ってきていいんだよ?」
「私はゴーレムですので。それに、人の多いところは少し苦手です」
「ふふふ、苦手かぁ。それじゃあ仕方ないね」
意外な弱点だなぁと思うと少し口元が緩んでしまう。
常に完璧という姿ばかり見てきたから少し新鮮だ。
「ちょうど今日は二人っきりになるみたいだし、ワインでも飲み交わそうよ。ちょうどサウィード王国の百三十年ものが手に入ったんだよね」
以前、城下に息抜きで行ったときに参加したオークションで見つけて飲んだもので、むちゃくちゃ美味しかったから役人たちに命じてあるだけ集めさせたんだ。予想外に大量に集まってしまって、就寝前の寝酒としては全く使いきれてなかった。
寝酒は悪いみたいなんだけどあんまり酔わないし、睡眠も短いからわたしには悪影響はあんまりないし、飲みやすいから一本まるごと飲んじゃうんだよね。流石にそれ以上は飲まないけど。
「それは、有名な極上と言われる大当たりの年のワインですね。超高額で取引される代物です。いったいいくらだったのですか」
「一本金貨八十枚(八百万円)ぐらいかな?あるだけ買いあさったから三桁以上はあるからいっぱい飲もうよ。リリアも味わかるし少しは酔えるでしょ?」
「はい、そうですね。ぜひお供させていただきます」
「オッケー。じゃあ行こう!」
わたしの寝室にあるテラスで傾いて赤く染まり始めた太陽を背景に、なんてことのないこれまでの話をしながらグラスで飲み交わした。
「リリア」
「——? はい」
「これからもよろしくね?また頼りにさせてもらうね」
「もちろんです。が、あまり危険に飛び込むような真似はやめていただきたいです」
「わかってるよ。気をつける」
「マスターが自重する可能性は六パーセント以下です」
「はははっ、これは厳しいね~」
笑うわたしをジトリとした目で見てくるリリアに、僅かに肩をすくめた。
その目から逃げるようにして力強く輝く太陽を見て目を細める。
「ここに千年王城を作ろう。誰もが素晴らしいと思えるような羨むような都を作ろう」
そうすればきっとみんなも笑えるはずだから。
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