リアル人狼ゲーム in India

大友有無那

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第5章 疑惑へようこそ(新2日目)

5ー3 対立構図(下)(新2日目午前)

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「『奴ら』に殺された可能性の方も見ておこう。部屋は荒れてなくて壊れたものも見当たらなかったから、『ルール違反』の可能性は低いと正直思う。彼が『象』『子象』どちらかだったって可能性はある」
 アビマニュは話を進める。
「その場合、他の犠牲者が出ていない理由が『聖者』の『祝福』だったらとても恐い」
 如何にそれが恐ろしいかを昨夜に続き繰り返す。
「まして今回、最大『狼』は五人だ。全員生きていて今夜襲撃があったら、村人は一気にマイナス5だ。最悪の仮定だとこうだよ」

 例)現19名 人狼5 象2 村人12  
   夜の処刑で村人が犠牲に 人狼5 象2 村人11 
    →翌朝 人狼5 象2 村人6 

「最短、明日夜の処刑で村人を選んでしまったところで、『ゲーム』は終わる」
「こんな『ゲーム』なんてもう嫌。終わるなら早い方がいい」
 ウルヴァシが泣きそうに顔をしかめる。
「負けたら殺されるか売り飛ばされるかだよ、わかってる?」
 クリスティーナは投げた。わかっているが何日もは無理だと彼女はまた俯いた。
「あなた本当にわかっていないみたいだけど、『人狼』人数が最大の場合、こちらの十六人の中には最大ふたりとして、そちらの内三人が『狼』ってこと。今生き残りがゴパル、トーシタ、ディヴィアそしてあなた。ゴパルが『人狼』と仮定して、ここにいる三人のうちふたりが「狼」ってことだからね」
「そんな……」
 ラクシュミの指摘にウルヴァシは青ざめる。
「こっちがふたりの場合だ。こちらに残った『人狼』がひとりなら、そちらは四人。今いる全員が『狼』ってこともある」
 ジョージも攻める。
「やっぱり『狼』なんですか」
 ラディカが平淡に言う。
「ちょっと待って! 話が行き過ぎてる!」
 割って入った。このまま新入り組×古株の構図が出来るのはまずい。
「『人狼』の人数について確かなのは最初に五人いたってことと、私たち十六人の中に確実にひとりいるってことだけ」
 後の四人はいるのか、処刑や上の処分での死者に入っているのかはわからないと念を押した。

「ウルヴァシさん。僕はそんな捨て鉢にはなれない。どうだろうと『村人』として『ゲーム』に勝って生き延びるよ。昨日のメッセージが『聖者』に伝わっていればいいんだけどー」
 アビマニュが改めて軽々しく「祝福」を使わないようにと呼びかける。
「それで? アビマニュとクリスティーナに聞きたい。あなたたちはどの可能性が一番高いと思っている?」
 羅列されても混乱するだけだーラクシュミは辛辣だが間違ってはいない。
「僕はクリスティーナさんの箇条書きでの1かな。ゴパルさんが『人狼』と仮定して」
「アビマニュ! 君本気でそれ言ってる? サラージはゴパルさんの顔を腫れ上がらせるほど強いのに、殺されたの?」
「ですから薬のー」
「薬を飲ませるにも注射するにも腕力が必要でしょ? サラージは警備員だから訓練もしていたかもしれないし」
 ディヴィアの主張に、
「がたい、良かったですね」
 ロハンがぽつりと呟く。
「俺みたいに大柄じゃねえけど、いい筋肉の付き方でした」
 そうだとばかりに彼女は頷く。
「これは遊びの空想ごっこじゃない。私たちの生き残りがかかっているの。そんな夢みたいなことで時間を潰さないで」
「僕は、可能性が低いものも全て拾い上げて皆さんに見せるのが役目だと思っていますから。ディヴィアさんが現実的でないと判断するなら、それはそれでいいです」
 不機嫌さをよくあそこまで隠せるものだと関心する。自分には難しい。

「薬なら、襟元に二ミリ程度垂らせば殺害出来るものもある」
「そんな馬鹿みたいなー」
「VX」
 言い募るディヴィアを無視して静かに言う。
「前世紀末に日本のカルト教団が起こした地下鉄テロ事件は知らない? 映画『女神は二度微笑む』冒頭の電車シーンはあれがモデルだと思う。映画では純度の高い薬物の設定だったけど、実際の事件では低かったからそこまでの犠牲は出ず、それでも何千人もの被害者と十人以上の死者を出した」
 外国人だから知らないだろうとカルトが近づくこともある、知っておきなさいと指導教官がいくつか教えてくれて、資料を調べた。
「その教団が、個人を襲撃したテロでVXを使った。注射針が接触されただけで死んだ犠牲者は武道の有段者だったはず。ほかに気付かないほどの量を衿につけられた人が瀕死の重傷を負った」
 テーブルが静まり返る。
「そんな昔の話じゃなくて数年前でも、北朝鮮の指導者親族の暗殺に使われたのがやはりVXだったと思う。顔に吹きかけただけで暗殺は成功した。……今回は使われていないと思うけど。二次被害がないから」
 室内に入って遺体に触れた人間が気分が悪くなるなどの影響が出ていない、というとディヴィアは息を吐いた。
「なら意味ないでしょう」
「少量で殺害出来る薬物は他にもあるだろうって話。体力差があっても何とかなることはある。アビマニュの選んだ案の可能性はそこまで低くない、ってだけ」
 ああどうして、ここまで不快を隠さず話してしまうんだろう。これがアビマニュとの差だ。
「ならあなたも、1番だと思うの」
「違う」
 ラクシュミに否定する。
「皆の話を聞いていて新しい可能性を思い付いた。あらかじめ言っておくけどラクシュミ怒らないでね」
 言うのと彼女が露骨に不機嫌な顔をしたのは同時だった。
「これ以上話を複雑にしようって言うの?」
 苦笑いして続ける。
「さっきの箇条書きで言えば2のa」

2 「連中」がサラージを殺害(首輪)
  a 「ルール違反」の処分 設備破壊など

「設備破壊など、のなどのところに入る『暴力』により、『連中』に殺された」
 少しの間上を見る。コンクリート打ちっぱなしの天井にはいくつのカメラが仕掛けられているのか。
「ディヴィアが言うようにサラージは強かった。『人狼』ゴパルは傷を負って襲撃した部屋から逃亡、した後か部屋にいる間はわからないけど、『連中』はサラージを『ルール違反』だとみなした。理由は『プレイヤー』への暴力。『ルールブック』を見て」
 とタブレットの文書のページ数を示す。
『プレイヤー』間の暴力行為が許されるのは夜の時間の『人狼』の『仕事』においてのみ、ってあるでしょう? 襲ってくる『人狼』に反撃すればそれは『ルール違反』になる』
「それ無茶でしょ!」
 ファルハが悲鳴を上げる。
「無茶だね。でも『ルールブック』を忠実に読めばそうなる」
「だったら……私たちは『人狼』が襲ってきたら黙って殺されなきゃならないの?」
 アンビカの声も悲痛だ。
「……日本の人狼もので、『狼』が襲ってきた時に反撃すると首輪が締まって抵抗出来なくなる、『人狼』はそれで襲撃を完遂するってのをいくつか読んだ。それがヒントになった」
 この首輪は締まらないが、毒薬を注入することは出来る。
 サラージはそれで殺されたのではないか。
「日本のことなんて関係ないでしょ!」
「『連中』は日本の人狼コンテンツを知っている。『チュートリアル』は見たでしょう」
 今度も同じ男性アイドル動画が採用されていた。
「あれは日本のアイドル。『連中』が日本のリアル人狼ものを知らないと考える方が難しい」
 冷徹に返す。
(それに、あの「火葬室」ー)
 悔しげに睨むディヴィアに、
「その敵意は私ではなくて『上』に向けて。こんな『ゲーム』とやらから早く逃げ出せるように、その頭脳を使ってくれればうれしい」
 アビマニュやラクシュミのように。
「そして戻ったら、アルジュンやサラージや、亡くなった人たちのことも覚えていて必ず伝えよう。私は、そう願っている」
 懇々と諭す。
 ディヴィアはより悔しそうに唇を曲げただけだった。

「あのクリスティーナさん、それだとやはり『狼』の夜の仕事が出来ていないのではないかと思うんですが」
 イムラーンが切り出す。
「そこは、『連中』が殺したことでいいと見なしたと考えるしかないかな」
 いい加減な、と言葉を飛ばしたのは案の定ディヴィアだ。
「『人狼』がひとりじゃなかったら? 仮に仲間のゴパルが失敗したなら、他の『人狼』が殺しに行くと思うんですが。そうしないと殺されるんですよね?」
 自分たちの命を人質に脅迫される恐怖は昨日散々味わった、とディヴィアは主張する。あの薬の脅しを思い出してか何人かが身震いする。クリスティーナの体にも例の恐怖が甦った。
「その点がこの案の弱点、認めるよ。成立するかどうかは『連中』の判断にかかっている」
「難しいところだな」
 ジョージは呟くが、
「僕はいけると思います」
 アビマニュは切り込む。
「夜の時間の間、『人狼』たちは自由に外を動けるんです。ひとりが失敗してほかの『狼』が標的の部屋へ行ったら既に死んでいた。なら今夜は成功だ、と見なすのではないでしょうか」
(そうそう! こう上手く説明出来たら良かったのに)

「クリスティーナさんのお話は説得力があります。サラージさんの倒れ方は、今まで『上』の薬で『処分』された人たちと似ていました」
 体を伸ばさず膝を曲げて崩れ落ちるのは確かにそうだ。クリスティーナ自身は気付かなかったがダルシカの指摘もさすがだ。
「室温はどうだった?」
 ファルハが聞く。
「かなり暑かったです。って言うのは、『連中』は部屋の住人が死ぬと空調を切るらしいからいつ頃亡くなったかの目安になるんだけど、あれだとかなり早い時間ではないかと」
 アビマニュが、後半は新入り組に説明しつつ言った。
 奴らの「処分」ならどの時間でもおかしくないが『人狼』絡みなら事は十二時から三時の間。プージャのおそらくは明け方の死亡時間と比べれば「早い」といっていい時間だろう。
 「人狼」ゴパルへの暴力でルール違反を取られたなら、その時間の殺害でおかしくはない。
 だが他の人狼絡みでの死に方でもそれは同じだ。



 話し合いは、ディヴィアたち新入り組もゴパルの様子を見に行きたいと主張し、昼食は彼女らとラクシュミら古株の誰かと一緒に届けに行くと決まったあたりで終わった。
(結局、対立構造は残ったままだ)
 ディヴィアらはこちらを信用せず、ラクシュミらも彼女らだけで行かせると何の企みをされるかわからないと同行を主張した。
「本当は、誘拐されて『ゲーム』をさせられているのって、わたしたちだけなんじゃないですか? 皆さんも『ゲーム』を運営している人でー」
 クリスティーナたち十六人はそれを面白い見世物にするためのスタッフなのではないか、と涙目でウルヴァシが訴えた。
「ガキのスタッフなんてあるかよ」
 ラジェーシュが吐き捨て、
「それならこっちも言える。あなたたちこそ『連中』の犬なんじゃないの? 前の館は壊れて炎上、ビジネスとして相当な被害を負った。そういうことがないようにコントロールのために送り込まれてきたんじゃない?」
 ラクシュミがここぞと反撃する。
「『人狼』扱いを止めたら今度は『連中』扱いか。本当にあなたは疑うのが好きですね」
「この『ゲーム』は疑わなきゃ始まらないものでしょう。わかってないの?」
 ジョージと言い争う。
(昨夜ラクシュミは、新入り組以外で唯一ジョージに票を入れてた……)
「止めてください」
「止めて!」
 アビマニュと声が重なった。
「誰が本当に誘拐されたのか、『連中』側なのか」
 さすがにまさかとは思うが、
「本人はよくわかっていても、端から証明することは出来ない。私たちの間では前の三日間の記憶が確かにあるけど取り出して見せられないし、あーだこーだ言ってても進まない。お互いに気持ちが悪くなるだけ!」
 バンと軽くテーブルを叩く
「止めよう。それよりとにかく出来るだけ多くの人が助かるように考えよう。私は、そうする」
 ダルシカとファルハ、アンビカにイムラーンが頷いた。
 ディヴィアは刺すように自分を見つめ、ウルヴァシはうつむきトーシタは目を落として考えこむ。
「そろそろ疲れてきたよね。この後も気になることがあったら好きなように話していいんだし、お開きにしましょうか」
 アビマニュの言葉に全員がほっとしたに違いない。


「ベジ食堂、少し提供が遅くなる! 1時半目安で来て」
 ラクシュミが伝え、その後にディヴィアとレイチェル、ダルシカが着いて台所へ向かう。
 ディヴィアの会社は宝石も取り扱っていて、その縁でジャイナ教徒向きの料理も教わったことがあるそうだ。ダルシカが食べられる料理が作れるということで、彼女とレイチェルの台所負担はなかり軽くなったらしい。
(そういう良いこともあるんだけどなあ……)
 少しして、ゆっくりと自分たちに近づいてきたアンビカが言った。
「ノンベジはいつもの時間で」
 こうなると思って下ごしらえを済ませておいた、とにっこりと笑う。
「チキンにしっかり下味が着いているから、美味しいよ!」
 ノンベジ食堂組の腹が次々と鳴った。
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