リアル人狼ゲーム in India

大友有無那

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第6章 不信へようこそ(新3日目)

6ー3 新3日目会議(下)

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 今空気はインド人にも明白で自分を敵と見なしている。「人狼」だ殺せと叫んでいる。
「私は『人狼』じゃない。他の人たちとは違ってアビマニュと私だけは前から『ゲーム』を知っていたことと、私たちをこんな目に合わせたあいつらが許せないから、何とかしようと発言してきた」
 暗い天井に下がる照明の奥、黒いスピーカーを目で刺す。
 もやもやとした黒いイメージが今も自分たちを見下ろしている。
 「顧客」とやらの外国人たちも楽しんでいる。ネトフリかZeeを見るように。本当にこんなことを観て楽しいのかと改めて思う。

「クリスティーナはずっと本当の敵は誘拐犯で私たちはどんな役が与えられていても同じ被害者だって言い続けてきた。本当そうだなって思ってきたんだけど、それって自分が『狼』だったからなの?」
「違う!」
 アンビカに返すが、
「今思えばそういうことだよね」
「最初から無理があった。三つの陣営のどれかしか無事に解放されないのなら、私たちは同じ被害者であっても味方にはなれない」
 スンダルは納得しラクシュミは温度の低い声で述べる。
「それこそ『誘拐犯』で見世物ビジネスをしている『連中』の思う壺。あなたがそこまで理解出来ないとは思わなかったけどラクシュミ?」
「何をほざこうとあなたが『人狼』ではないということにはならない」
「違う! 三つの陣営に囚われすぎているってことで、私が『人狼』かどうかには関係ない! 『連中』の分断策に乗ってしまっているだけ。イギリスの植民地政策みたいなものだよ」
 「人狼」も「象」も「村人」も操られて互いに殺し合う。
 パンダヴァもカウラヴァも殺戮を重ねて滅びたように。
(あんたたち神様気取り?)
 そもそも犯罪者を信じるのが間違いだ。賞金どころか勝者は解放するというのも本当なのか。秘密を守るためにも誘拐した人間は最初から皆殺しの予定ではないのか。

 「河川の多くの激流が、まさに海に向かって流れるように、これらの人間界の勇士たちは、燃え盛るあなた(クリシュナ神)の口の中に入る。」
 (バガヴァッド・ギーター11.28)


 よりによって昨夜やっと包丁くじに当たった。
 今朝ほど食堂に返しに行った時にアンビカと目が合うと一気に脅えが顔に走った。既に彼女はディヴィアの死を知っていた。人殺しが武器を持ってやってきたイメージだったのだろう。
 やっと打ち解けて話せたのにと思うとやりきれない。

「『狼』が少ないとも言った」
 アンビカの声は続く。
「こっちに移ってきた日のことですよね。あれは俺もちらっと引っかかりました。人数が少なくて今まで『狼』に不利過ぎたって、『人狼』の立場で話しちゃってますよね」
「違う。『人狼ゲーム』での『狼』役の人数って客観的問題。というか事実」
 スンダルに返す。そんなのググれ! とネットがあれば簡単に証明出来ることがここではどうにもならない。それが命を左右する。
 自分が標的になって実感する。なんて残酷なんだろう、「デスゲーム」って奴は。
「アビマニュ、二十七人に三人は少ないよね」
「あの時にも言いましたが僕は十人前後でしかプレイしたことがないんです。八人とかならひとりか二人、十人超えれば二三人って感じですから二十七人で三人が少な過ぎるのは確かです。ゲームとしてバランスが悪い。クリスティーナさんが主張したかったのはそういうことでしょう?」
 頷く。周りの顔と顔は納得していない。


「クリスティーナの出した占い結果も信用出来ねえんだから、アビマニュが『狼』って可能性もあるんだよな」
「ラクシュミさんも?」
 ロハンの後でレイチェルが首を傾げる。
「それは違う! 何度言わせるの? 私たち先行組の中の『人狼』の人数は三人。今少ないの何のって話が出たばかりでしょ。偽『占星術師』のクリスティーナ、本物が『狼』だと暴露したジョージ、このふたりが『人狼』」
「占い結果の判断が本物か偽物かによるって考え方自体は勿論間違ってないよ。『ルールブック』にある『人狼』の人数より増やして考えるのはおかしいってだけだ」
 ラクシュミの説教に続きアビマニュが公正にフォローする。


「逆に聞きたいんだが。クリスティーナさんが『狼』だと思ってないのはアビマニュとダルシカと、ジョージでいいか」
 ラジェーシュに彼らは頷く。
「ファルハさんは?」
「やっぱり『狼』なのかな。考えたくはないけど、ディヴィアが死んだのは確かだし」
「『狼』じゃなくてもその陣営の『漂泊者』や象陣営の『子象』や『象使い』の可能性もある。皆も忘れないで」
 指摘しておくが反応はない。誰も自分の言葉に耳を傾けない。傾けまいとの意思を持っているように見える。
 これはよく知っている。
 自分を「人間」として見ていない、いや本当は同じ人間だと知っているのに同類扱いしたくないのだ。
(……)

「他にいるか?」
 思わぬ人間が挙手した。
「オイ! 何考えてるんだやべぇぞ!」
 隣からロハンが説く。ラジェーシュに理由を聞かれるが、
「何となく。違うと思います」
 頼りなくプラサットは答える。
「今までのことだったら演技だぞ」
 ロハンは噛み付かんばかりだ。
「そういうんじゃないです。……クリスティーナさんはあらゆる可能性を拾い出すことが大切だと言っていました。『狼』だったとしてもそうするんじゃないですか。そうしたら、もうひとりの『占星術師』が殺されたら一気に疑われることとか、『狼』の中で仲間割れして誰かが切り捨てられるとかも全部考えに入れると思うんです。だったらこんな流れになることは放置しない。だからおかしいと思ったんです」
 ぼそついた口調だが筋は誰よりも通っているークリスティーナは感心した。
「私もそう思います。いくら言われても、同じ役の人が死んだ後にこうなることをクリスティーナお姉さんがわからないとは思えません」
 ダルシカも追撃する。
「言ったじゃん。そうやって裏の裏で反論出来ると思ったからって。でも考えたほど上手くいかなかったってところだろ」
 スンダルが返し、
「『狼』仲間に裏切られたとしたらクリスティーナならやらないような失策だって考えられる」
 ラクシュミがちらりとウルヴァシに目を走らせる。アンビカが二回頷き、胸がちりっと焼ける


「タブレットのことも今考えると変だった。あのインド工科大のー」
「マートゥリー?」
 スンダルに助け船を出されファルハは、
「そう。私たちだけがいた三日目の朝、クリスティーナさんは『幽霊』騒動がよくわかっていないみたいに見えた」
「教えてくれって聞いて回ってたよな」
 ラジェーシュが眉を顰める。
(聞き回るってほどじゃない)
「枕の下にタブレットを入れて寝てたからって言ったけど、そんなことする? 夜は充電にかけるだろうし、コンセントはベッドサイドの壁で、そこからケーブルをつなぐなら普通テーブルに置くでしょ」
「恐かった。タブレットが『現実』を持って来るというか突きつけてくる感じで、寝ている間くらいは目を逸らしたかった。本当なら言いたくないけど、変に疑われるのは嫌だから言っておく」
 嘘はするするとしゃべれているだろうか。
 実際は『人狼』に襲撃されたら録画されるように隠して立て掛けておいたのだ。今後のためにもバラしてしまうのはまずい。
「そんな眠れるような時期じゃねえだろ!」
 ロハンが怒鳴り、あれ誘導尋問ぽかったよねとスンダルが呟く。
 誘導自体はその通りだ、鋭い。ついでに自分が罠にかかっていることも気付いてくれるといいのだが、攻撃の先鋒ということは彼が「狼」という可能性もある。
「最近は疲れ切って寝てしまう人もいるみたいだけど、まだ二回目の夜で十二時が過ぎれば皆息を潜めて様子を伺ってるのがほとんどだった。寝落ちてたけど画面が点灯してそれで起きた人もいたよね」
 ファルハは今や静かに語り出す。それは自分への疑惑が確信に変わったことを告げる。またひとり味方がいなくなる。
「わたしはそうでした」
 ラディカが答える。
「枕の下に入れてたって明るくなる」
「気配はより感じやすいかも」
 スンダルは口を挟み、
「クリスティーナ。本当にタブレットの反応に気付かなかったっていうの? 『人狼』として外に出ていたからタブレットが手元になかったんじゃないの」
「『狼』なら十二時過ぎに丁度活動を始めるから、ベッドで寝てないですよね」
 ファルハにレイチェルも続ける。
「違う。どうして起きなかったかとか自分でわかる訳ない。元々一旦寝たらなかなか起きないタイプだからってくらい」
 光が漏れないよう注意してタブレットを隠した。だから画面の点灯もわからなかったのだ。
 ファルハは苦くこちらから目を逸らした。


「だいたい人様の税金で長く学校行ってる癖によ。どうせ留保制度で入ったんだろ」
(!)
「ロハン! それは関係ないでしょう!」
 アンビカが叱責した。
「人格攻撃は止めて。それに日本に留保制度はないよ」
「国費留学でもないからね。自分が働いたお金貯めて、どの国の留学生にも共通の試験をパスして入っただけだよ」
 高校へは優遇で入った。学費の減免に奨学金の授与まであって自分とは世界の違う金持ち学校に入った。正に「SOTY」の世界だ。
 だがそれで良かった。
(お金持ちの友達が出来た)
 自分が好きで貧乏ではないのと同じように彼女たちも好んで金持ちの子女に生まれ落ちたのではない、たまたまだ。進学に悩み家庭の事情に心を痛め、タラパティの新作を心待ちにし封切りされれば劇場に突進し、観た後はうっとりと映画の話をしながら未来の夫や家庭と仕事の両立にと不安を語り合う。
 豊かな人も同じ人間なんだと実感出来た。自分たちを押さえ付ける敵だとの思い込みは外れた。
 皆、同じ人間。だから平等で、踏むのも踏まれるのも間違い。
 社長令嬢だったり、州の首相の方のお嬢さんだったりする友人たちが今幸せに過ごしていること、未来が輝くものであるようにとクリスティーナは心から願う。
 それらの優遇は人生に学歴に加えての素晴らしいものを贈ってくれた。
 侮蔑されるのは腹が収まらない。

『投票の五分前になりました。皆さん、考えは決まりましたか。投票の五分前ー』


「日本の大学は入ったら易しいってしゃべってただろ」
 ロハンは続けて批判する。よく覚えていたものだ。ダルシカとの雑談に耳をそばだてていたのか。
「学部はね。それも うちインドやアメリカと比べたらって程度。 修士マスターは違う。国際基準の修論出して修了しているし、」
 これもネットがあれば論文をダウンロードして突きつけるのに。
「今の 博士課程ドクターコースにはその手の入学制度はない。これだけでも私が学業で成果をあげてきたことは証明出来ると思う」
 研究は自分の「仕事」で誇り。胸を張ってロハンを見返す。

「研究したいことがあったんだよね。長く時間かかるんだよね。だから、生き延びたかった?」
 アンビカの声は悲しげで、
「あんたは味方を裏切ったりしないタイプだと思うが、お仲間はそうでなかったのが不運だったな」
 ラジェーシュはしんみりと言う。
 心が冷える。
 ウルヴァシの「仲間割れ」説は強かった。一番強い武器「ゲームを知ってる自分が疑われる馬鹿はしない」論でサチンのようにバットを振り回しても最早ボールはかすりもしない。道ばたでクリケットごっこをする幼児レベルだ。


「生まれ変わりもしない畜生以下! 『人』は転生するうちに修業していつかそこから抜けて真実に戻る。お前にはわからねえだろう!」
 ロハンが攻撃的なのはラディカへのセクハラ事件の日、投票で殺せと自分が率先したからだ。わかるがだから黙って殺されるとはいかない。
「だったら『再生族』の皆さんからあの世にいったらどう? さっさと次の修業に移ればいい。今度は悪さしない人間性に生まれることを祈ってあげる。私には先がないんでしょ? だったら命を譲って。私は『人狼』じゃない。私に投票することはただの間違い。どんなに私が気に食わなくても、あなた自身に刃物を突きつける自殺行為になるってだけ! さっさと家に帰りたいんでしょう?!」
 豊かな家、世間で名のある家に生まれたからといってこんな馬鹿は一握りだ。
 それを優遇で入った高校で学んだ。

「アビマニュ。あなたも度々強調してきた。処刑の夜の回数は限られている。何度も失敗したらあっという間に『村人』は減って、『人狼』か『象』の勝利で終わってひまう。こっちの建物に連れて来られてからもう三日目、失敗する余裕はそうないでしょう?」
 投げると、
「クリスティーナさんが『村人』だったらね。……僕にはよくわからなくなった」
(え?)
 木目のテーブルに目を落としアビマニュは言った。
「今最大にいたとして『人狼』は四人。僕たちの方と、後からの方を合わせれば。『象』も『子象』も残っていたとして合計六人。残りの僕たち『村人』は十二人。多いと思うかもしれないけど」
 この後処刑で確実に失敗、夜の噛みは必ず成功と考えれば『村人』はふたりずつ減り、
「明明後日の六日目には『村人』は四人になってその時点で『人狼』と同数でゲームは終了する。この村人最悪の設定では『象』が両方残っている設定だから勝利陣営は『象』で僕たちは負けだ」
「今回は食糧も多くない。短期決戦を望まれているんじゃないかって話だったよね」
 アンビカの指摘が切迫感を増す。
 だが。
「だから安易な投票は止めてくれ」
 言ってアビマニュはそのまま口を噤んだ。
(……)
 はしごを外されたことがはっきりとわかった。

 彼は空気を読んだ。そして身を守る方へ走った。
 帰る場所も国も家族もいるから、そういうことだろう。
 怒りは沸かず悲しみのみが胸に広がる。


「つまり今日はクリスティーナさん、明日はジョージさん。明後日にウルヴァシかトーシタを審議すればいんだよね」
「それは駄目!」
 スンダルの、彼の個性なのだろうが会議の場でも軽く聞こえる口ぶりに思わず叫んだ。自分たちふたりは確実に『狼』ではない。
「アビマニュが言った通りになる!」
 「村人」陣営が危ない。
「ラクシュミさん、どうです?」 
 しらりとした空気が自分を包んでいた。スンダルも取り合わない。返事より前に、

『二十二時半、投票の時刻になりました。今から一分間の間に今夜処刑したいと思う人の番号を入力してください』

 いつものヒンディー語・英語の繰り返しアナウンスが流れ、
「よく考えろ。自分の首を絞めるな」
 ジョージが低く警告を投げた。



<注>
※バガヴァッド・ギーターの引用のうち括弧内は筆者による補足

・パンダヴァもカウラヴァも
 「バガヴァッド・ギーター」を含むインド神話「マハーバーラタ」は、パンダヴァ族とカウラヴァ族の争いがストーリー上の主題で、最後の大戦争で互いにほとんどが滅亡することとなる。
・Zee インドの映像系総合エンターテイメント企業。配信は「ZEE5」が担当する。
・留保制度 入試や公的機関の就職への指定部族や指定カースト優先割当制度。アファーマティブ・アクションの一種。高カーストの進学機会を奪っているなど議論が沸騰している。
・サチン サチン・テンドルカール。誰もが知るクリケットのスター選手(引退済)
・再生族 一定より上のカーストの人間のみが生まれ変わるという説で該当する人々。それより下の人間は転生せず、輪廻からの解脱が得られなくなるという。
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