リアル人狼ゲーム in India

大友有無那

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第6章 不信へようこそ(新3日目)

6ー5 カルマ(新3日目夜)

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 クリスティーナはそこまで酷い人間だったろうか。

 寝付くまでとラクシュミは頭の中でマントラを唱え続ける。動揺を抑えるためだが気付くと何度も止まる。

 「人狼」だったかもしれないがそれは誘拐犯の割当だ。
 ディヴィアやシドを殺したなら罪でしかないがそれも「ゲーム」の強制だ。自分も毎夜会議でひとりを選びつるし上げて殺している。

 落ち着きがなく、いい年をしてすぐ喧嘩腰になり、単細胞気味だった。
 自己主張のエゴから神に与えられた境遇を良しとせず、ダルマを学ぼうとせず「汚れ」を場に広めた。
 だが後者は異教徒には共通だ。
 
 この愚かしいゲームを元から知っていて、「人狼」をカムフラージュする意図があったにしてもアビマニュと手分けして知識を分かち、犠牲を最小限にするように警告を周知しこの場に献身バクティしているように見えた。


『クリスティーナさんはあらゆる可能性を拾い出すことが大切だと言っていました』
 無口で粗暴な少年、プラサットの先ほどの指摘。

『協力お願い』
『って何しろって言うのよ』
『何が起こったか事実を把握して、そこから考えつく可能性を話してくれればいい』
『いつもやってる』
『知ってる』

 頼んだ彼女こそ率先して事実と推論をより分け、丹念に可能性を拾って提示した。朝のノンベジ食堂で明かしてしまうのではなく自分たちベジタリアンもいる場で占い結果を話すよう配慮していたのも知っている。

 感情はわりと軽々しく露わにしたが、その勢いに引きずられなかった。
 職場ですら人間関係で作業がしばしば中断しいらだつことも多いが、彼女は違う。無給のその「行動」カルマは正しく「献身」バクティだ。
 友達になりたいとは思わないが、一緒に「仕事」をするには悪くない相手だと思う。

 未成年の子や言葉が不自由な人たちのことをいつも気にかけていた。
 その姿を垣間見てラクシュミは彼らに配慮を忘れていたと度々気付かされた。


 『明日から筆記通訳お願い。簡潔に』
 姿は見ず背中で聞いた。直前の投票開始まで書き続けてはエクジョットに提示していた筆記。

『地震大国にいた人間の言うことは聞くものだよ』
 まともな手続きも取らずに死者が埋められた場所へ踏み出せなかった自分とアンビカに押し与えられたクッション。
 クリスティーナはレイチェル、ラディカ、ダルシカと少女たちにも頭を守れとクッションを投げたが、自らは取らなかった。
 きな臭さと暗い庭園、トゥラシーの植わった瓶、熱した空気とその後の武装連中の忌まわしさと共に思い出せる。

「っっ………………」
 動揺を止められない。

 いつもの「狼」対策は済ませた。
 ドアレバーに掛けたバケツに厨房から持ち出したスプーンやフォークを吊るし大きな音が出る自家製ベルにしてある。ドア前に移動させたテーブルの脚全部からドゥパタや他の服を捻った紐もレバーに結んだ。わずかばかりの足止めだ。
 これらは命を守るというより、開いたドアから響いた物音が他の人たちにどこで惨劇が起こっているか伝え、様子を窺った彼女らが「人狼」が自室へ帰る足音など証拠を掴み「狼」を割り出せるようにとの仕掛けだ。

 強いられて殺しに来た人間と対峙した時、自分には何が出来るだろうか。
 生きるため最後まで足掻く以外に。


 様々な場面ごとに助けになるのはどの神格でどのマントラかラクシュミは知っている、というより身に付けてきた。
 だがクリスティーナへ祈るマントラが見つからない。

 たった今、ひとつの魂が滅びるのを見た。

 自分でも言っていたように彼女は「再生族」ではない。もう終わった。
 宇宙がブラフマーの生成ーヴィシュヌの維持ーシヴァの破壊を繰り返し、有と無の間をゆらめく間に物理法則も違う宇宙で想像もつかない「体」を得て、生きては死に生きては死んで修業を終えられず、輪廻の浮遊を繰り返してきた魂が今断たれた。

 自分の心の収め方や助けを求めるマントラやバジャンならわかる。
 普段以上にマントラを唱え、プラーナヤーマ呼吸法も加えたがクンバカ止息が十二秒どころか八秒ですらやっとだ。心の平安シャンティは見事に失われている。

 今はいないクリスティーナへ捧げる祈りがわからない。
 感情の渦を制御出来ないまま明朝部屋を出るのはあやまちだ。汚れを場に広げることとなる。
 あとは委ねることしか出来ない。
 唇を動かし親しい神の名をマントラで呼ぶ。


 クリスティーナはロハンのような悪さはせず、大金を犯罪に投じてこの舞台を作っている誘拐犯グループのような悪事も行わず、むしろそこから救い出そうとした。
 与えられた場で人々へ献身的に「仕事」をしたカルマヨーガ

(その魂がこれを最後と滅びるなんてー)
 これまでに流れた生でいったいどれほどの凄まじいカルマを積んできたのだろう。


 シーツを握り込みラクシュミは慟哭した。



<注>
・バジャン 神への讃歌

 
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