リアル人狼ゲーム in India

大友有無那

文字の大きさ
127 / 152
第10章 ムンバイへの道(新7日目)

10ー1 キャサリン(新6日目夜ー7日目)

しおりを挟む
 ボン!
「きゃあああっ!」
 アンビカの悲鳴、バックミラーに光の奔流。
 瞬時アクセルを踏み直線的にスピードを上げる。
 炎に巻き込まれたら洒落にならない。
 いつまでも火がそばに? と思った時アンビカが叫んだ。
「スンダルが燃えてる!」

 それでも三十メートルほど進めてから軽トラを止めた。



 目の前が炎で覆われた。
 熱いというよりは恐怖が体に走る。声が出せたのはそこまでだった。
「横になって這い回って!」
 マーダヴァンの声に顔を横に振る、とその風でまた火の勢いが上がる。
 服にこぼれたガソリンに引火しやがった。引火点が低く気化しやすいガソリンは簡単に延焼すると思い返す。
 下手に転げて可燃物だらけの荷台に火が回ったら、
(この車は終わる)
 どうにもならない。
 ジリリ……
 頬が熱い。髪にも火がついたようだ。
 ふと「火葬室」を思い出した。悲鳴をあげて抵抗したアルジュン、覚悟の背中を見せて消えていったクリスティーナー
「足首を掴んで、両方! イムラーンは水! 箱の中のは全部使っていい!」
 ラクシュミの声。直ぐそばで聞こえる。
 そう言えば車が止まっている。いいのか? 
「私にも水! アンビカは来ない! そこで見張り!」

 ぐい、と温かい手で足首が握られ、ふらついた上半身が引かれて腹の何かを支えに頭が軽く下に下がる。
 腕に布が巻かれ固い所に打ち付けられる。腕に、頭に、背に首に水。勢いが痛い。
「まだっ!」
 左側視界から炎が消えた。見えているのは暗い空間と、
(車台の下か?)
「自分でも板に押しつけて!」
 またも上から布を押しつけてきたのはラクシュミの声だ。
「延焼危ないですから……」
「しゃべる暇があったら押しつける! ここは燃えない」
(荷台の後ろか)
 下半身は荷台に伏せ、腹から後部の鋼板に乗り出している状態だとやっと理解した。何とか動かし押しつける腕に何度も水が注がれる。少しして後ろから荷台に引き上げられたスンダルはやっと火が消えたことを理解した。
 右の腕から首、左頬から首が痛い。
「大丈夫、致命傷になる広さじゃない。服は剥がせるかな……」
 しゃがむスンダルの隣にマーダヴァンがかがみ巻かれたルンギ布を外していく。
「痛てぇっ!」
「シャツは脱がせない方がいいみたいだね」
 右肩に再度ミネラルウォーターが注がれる。
 ボハン!
 爆風に顔を背ける。強くなった光に奴らの車が爆発したと悟った。


 水で冷やし火傷の薬を塗り包帯を巻きと一通りの治療が済んだスンダルは、ラクシュミと連れだち勢い良く燃える車に近づく。
 バチバチバチ……
 アーマーの男はひとりだけ、音を立てて燃えあがる車の傍らに転がっている。距離は取っているのでこのままでも火には巻き込まれないだろう。動いているので生きてはいるが、意識はないようだ。
 ラクシュミが小銃を突き付けながらかがみ、胸から携帯を取って路肩の向こうへ放り投げる。
「もうひとりは?」
 まさか逃げたのでは。
「車内で火に包まれてた。君の最初の攻撃で」
 投石で風通しを良くした敵車内に最初にガソリン、次に「キャサリン」を投げ込んだ。
「栄光ある戦死を遂げたドスティちゃんに敬礼!」
 左腕でおどけてみせた。
「え?」
「掃除機で空気圧の調整をして、アタを燃焼剤にしました」
 ドスティやティーンタルを可愛がっていたのは興味だけではない。
 ロボットではない旧来型の掃除機こそ爆弾作成に欠かせなかった。「ゲーム」中は時限装置にして自分との関係がわからないようにする必要があり、布を調理用のゴマ油を浸し長さを調整、台所の火を盗んで付けると工夫が大変だったが、今回は奴らの居場所からライターを奪ってきたので楽、な筈が至近距離で火を使ったことで自分が火傷した。

「あのラクシュミさん。決してやり返すつもりではないのですが……。俺、少しの間運転無理そうです」
 彼女は短く頷く。
「しばらく荷台で休んでいて」
 音を立てて燃え続ける車からの匂いが鼻につく。右の髪は揺れるが燃えて焦げたらしい左側はなびかない。風の方向が変わり始めたか。
「行きましょう。追っ手がひと組とは思えない」
 ラクシュミの声は硬かった。
「で、『キャサリン』には敬礼しなくていいの?」
「……いいんじゃないっすか? 大英帝国の輩だし」


「……よく俺に近づけましたね」
 軽トラへ帰りながら軽口を叩いた。
 大したことはなかったらしいが、目の前が炎だけになった時死を覚悟した。自分だったら、燃焼物だらけのトラックの上で燃える男を何とかしようとはしない。距離を取り、必要なら荷台から蹴り落として走り去る。
「論理的思考の結果だけど」
 ラクシュミは不服そうだ。
「私だけが私服で、確実に天然繊維だった」
 マーダヴァンのポロシャツはおそらく化繊入り、アンビカのサルワール・カミーズは明らかに化繊の割合が多くかつ男性の服よりなびくので絶対に近づけられない。
「イムラーンのTシャツとパンツは化繊は入っていないかわずか。だから私が一番そばで、次にイムラーン」
 マーダヴァンには足首を握って体を固定させアンビカは見張りと分担を指示した。

「アンビカの服を着ていたら消火は別の人に任せた」
 運転席へ歩いて行くラクシュミの白いワンピースの背が燃える車の光にひときわ明るく見える。
(適わないですよ、あなたには)
 思った時、頬と腕の痛みがぶり返した。それでも殴られ叩かれた痛みよりはマシだ。
(仕事……でしたね)
 あなたみたいな人ばかりならこの国はもっと良くなるだろうに。


「なら一人は死んじゃったの」
 アンビカはこわごわとした声を出した。このあたりはカーブが少なく軽トラックは気持ち良く国道を進む。
「多分。もう一人もこのままじゃどうかわからない」
「通報しなくていいの」
「手段がない」
 所在が捕捉されやすい携帯類は奪い持ったりしていない。
「あなたは助けたいの」
「勿論だよ!」
 声を高くする。その肩にはライフルの紐がかかったままだ。
「殺そうとして来た人には反撃しなきゃ駄目だよ、当然。だけどもう脅威じゃなくなったなら救急車くらい呼んであげてもー」
「無理」
 脱出時の彼らのことも通報はしていない。
「心配しなくてもカルマは指示を出した私が負う。あなたはマントラでも唱えてなさい」
 
 『獅子シン』という言葉が出たら決行の合図。
 各自即座に自分の仕事を果たすように』
 最後の会議前にチャットへ流した。

 これが神の仕事カルマヨーガである限り悪いカルマを負うことはない。
 ただし常に「目を覚まし」意識的でかつハートに神を棲まわせておかなくてはならない。
 次々と後方へ去る外灯のオレンジの光に幻惑されぬようラクシュミはしっかり目を前方に向けた。



<注>
・ルンギ 男性が下半身に着用する伝統服かつ普段着。基本、綿。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

処理中です...