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第5章 束の間の休息(5日目)
幕間(2025年〜 ムンバイ近郊)
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響き渡ってはほこりまみれの風に消えるガネーシャ神のキールタン。人々のざわめき。腹を刺激する揚げ物の匂いとチャイの甘い香り。
「警察の旦那だとは存じておりますが」
先生からの要望ですのでーと運転手に懇願されクリシュナンは目隠しをしてリクシャーの客席に座った。仕事柄普段ならこのような危険な提案は断るが今回は仕方がない。少し走った静かな場所で誘導され草を踏んで車に移される。
かなりの時間が経って目隠しが外された時には既に目的の敷地の中だった。
それでも走行時間からはムンバイ近郊だろう。
乗ってきたタクシーから敷地内移動用のリクシャーに乗り換える。パリッとした白いシャツ、折り目の入った灰色のパンツは運転手の制服だろうか。揺れながら控え目に様子を窺う。
(上手く出来ている)
前方には竹がまとまって生えているが先が見通せないほどではない。手入れされた庭園の緑は目に優しく、目立たないよう各所に作られた垣根と扉ですぐセクションごとに封鎖出来るようになっている。
降ろされた薄緑色の建物のファサードにはアーチがあったが伝統様式の装飾はなくシンプルで心地よい。中庭に入ると照りつける光が遮られ一気に影の世界に入る。行き交う白衣のスタッフたちにようやく病院らしさが見えてくる。
ワイシャツ姿の男性職員に回り階段を先導されよく効いたクーラーにほっと息を吐く。
三階の受付で名前を書くと薄っぺらい紙の面会票を渡される。
ここは裕福な人々のための精神病院だ。
警官という仕事柄色々な場所に入り込むクリシュナンだがこのような施設は知らなかった。
「こちらです」
大きなガラス扉の向こうで女が立ち上がった。
「ご無沙汰しています。ラクシュミ・マダム」
クリシュナンは頭を下げ、続いて彼女らを保護した時のことを詫びる。
「リアル人狼ゲーム」というおぞましい殺し合いを強制した犯人を我々警察は捕まえられていない。上からの命令で捜査は中止され全てはほこりだらけの書類倉庫の奥に隠された。
(少し痩せられただろうか)
WSSO職員だった彼女と仕事で面識があったことから身元確認で呼び出されてからおよそ2年が経った。
肩上で内巻きにした艶やかな黒髪、頬の辺りには前より柔らかさが見えたが目元の強さは相変わらず、鋭さはむしろ増したようだ。
「この部屋には安全監視用のカメラがありますが映像も音も切ってもらいました」
部屋の隅を指す。気付いていた。
「代わりに彼がこちらを守っていてくれます」
ガラス扉のすぐ横に立つガードマンに顔をやる。次に窓の方へ向き、
「読唇術が出来るかもしれませんからこちらを向いて話しましょう」
サンルームの向こうに今自分がたどってきた竹の庭が見える。
その正面ではなく隅の白いテーブルと向かい合わせの黒いソファーに着く。
チャイのガラスコップが既に並んでいた。
「今煎れてもらったばかりです」
毒味をするようにまずは自分が一口飲むとすぐにジャーナリスト殺人事件の捜査の行方を尋ねた。
「担当ではないので細かい情報は入っていませんが」
犯人の目安は全くついていない。
数日前の朝、勤務先のビルに入るところでバイクから銃撃された会社員がジャーナリストへの情報提供者のひとりだったとわかり、
「連続殺人だと捜査本部が合流しました。ただし彼らが追っていたものが何かはわかっていません」
ジャーナリストは仕事部屋も私室も荒らされた後だった。
会社員について家族は、何か調べていてそのジャーナリストに頼んでいたと名刺を差し出した。後から義父が、郷里がらみの愛人がいた疑いもと涙に濡れる妻の隣で告げた。その方面にも捜査員を割いたが、
「上司がーあの時ラクシュミさんたちの聴取を指揮した警部ですがー上から圧力をかけられたそうです」
すぐ捜査員の数は激減した。
「その圧力のかかり方があの時と同じで、それで……」
某州知事右腕の息子、ロハンに接触しようとしたが周りがピリピリとしていて接触どころではないと現地警察から聞いた。そこで旧知のラクシュミへ、
「もう一度お話をお伺いさせていただこうと先生に無理を申し上げました」
父親の弁護士を通してやっと面会許可を得た。
「彼は殺された。こちらの彼もー」
ラクシュミは黄色のファイルからそれぞれの事件が報道された新聞を取り出す。
「クリシュナン警部補は奥様もお子様もいると伺っています。この話を聞いたら殺されるかもしれません。覚悟はありますか」
射抜く瞳。
「元々そういう仕事です」
そうじゃない、とラクシュミは組んだ足を投げ出した。
「彼は、」
新聞紙面で微笑む会社員の写真を指す。
「先週ここに来た」
驚きはあえて隠さなかった。ラクシュミは綺麗にメイクした目元から値踏みするように見据える。
「警部補も、私もロハンも殺されるかもしれない。その時にこの『リアル人狼ゲーム』というストーリーを隠し、守り、継いで伝えるところへ手渡す自信は? 私が知りたいのはその覚悟です!」
クリシュナンは目を閉じた。
信頼出来る同僚は誰か、隠し場所はー?
頭の中で検討してから、
「覚悟はあります」
伊達に警官稼業は続けていない。
「何%くらい?」
「成功率は85から90%ほどです」
かなり盛ってだが。
ラクシュミは不意に微笑んだ。一転しての笑顔は近所の寺院の女神像のようだった。
「では、あなたも巻き込みます」
女神様とはいつも恐ろしいものである。
「Y・K・ミッタルは大学でアラビア語を、第二専攻にフランス語を修め、」
アラブ地域の専門家として外交官となり何ヶ国かの大使館に勤めた。
その際とある王国の王子(山ほどいる中でも有力で大臣を兼ねていた)から依頼され、
「スナッフ動画を提供したようです」
クリシュナンは顔をしかめた。現実の殺人動画ということだ。
「彼の生家からそう遠くない所に治安の悪い地域があり、使用人の末端からたどれば小金で人を殺して録画させることは簡単でした。証言者はふたりいました」
ジャーナリストの死の直前、ひとりは川で溺れひとりは崖から落ち「事故」死した。
「……」
ミッタルは外交官を辞め映像製作・販売会社を設立した。
カモフラージュのドキュメンタリーを実力派の監督に製作させ下でスタッフを育て、本業の非合法な映像を売る。
「2022年の夏、日本の経済団体がムンバイを訪問します。そこにmacojinという企業の会長が同行していました」
企業経営から一線を引いていた彼とミッタルは長く会談し、
「2023年になってすぐmacojinから「火葬ユニット」三台が映像会社へ納入されました。我が国とは違う火葬文化からの、こちらの葬儀には使えないそれらは映像撮影に必要との名目で購入されています。それが、私たちに使われた『火葬室』」
macojinのブランドタグが壁に付いていたことを今でもはっきり覚えている。
「……教えてくれた人がいたから」
目を伏せてチャイを飲む。
ラクシュミらの逃亡を許した後会社は一時的に姿を消したが、
「2024年ミッタルはアフリカに支社を設立」
翌年には別のアフリカの国と東欧にも支社を置く。国内ではウッタル・プラデーシュ州ヴァーラーナーシーに事務所があるが名目だけのようで本拠地は不明。
ジャーナリストが調べ上げたのはそこまでだった。
続いて彼に依頼した会社員からの情報をラクシュミは語る。高給で採用されたグジャラート州の村の少女は人殺しの監視をさせられていると手紙の暗号で助けを求めた。
「彼女が死んだのは、私たちが最初に閉じ込められた館が使えなくなって次の建物に移されるまでの間」
グジャラートから来た少女は、おそらくラクシュミたちの「ゲーム」映像を監視し、殺害された。
「ミッタルの元で」
その声には鋼鉄のような冷たさがあった。
クーラーの冷気以上に彼は冷えた。
「それはー」
黄色いファイルの下から覗いたノートには見慣れない文字が見えた。
「ああ、これは何でもない。日本語を勉強し始めたんです」
開いて見せられるがさっぱりわからない、模様のような文字が並んでいる。日本は、中国や韓国と同じ文字を使っているのではなかったのだろうか?
「私はここに逃げている。父が探してくれました。でも、何もしなかったら本当に私は『病気』になってしまいそうです」
「敵」は「精神病院」入りのラクシュミの発言には価値がない、と攻撃することが出来る。それは真相の発露を遅らせるかもしれないが命が守られる確率は高くなる。
この場を用意した父親の愛情だ。
ラクシュミは州を退職したとされている。だが調べれば解雇と対する裁判闘争があり、最終的には名誉を回復するが退職と和解に持ち込んでいる。その後勤務した会社から先々月に事実上解雇、転職先でまたすぐ先月解雇。どちらも「上」から企業に圧力がかかった。
「狂った人は自分を頭の病気だとは思わない。……時々不安になります。自分が正常で身を守るためにここにいるというのも狂人の妄想なのではないか。クリシュナン警部補、どうですか?」
軽く姿勢を正す。
「私は狂っていますか?」
すぐに首を大きく横に振った。
「わたしには、以前と同じように健康で聡明に見えます」
彼女はすぐ皮肉気に唇の端を曲げる。
「おかしくなっていなければ後の評価はどうでもいい」
正気を保つために時間が潰せるものを探して、学習難易度が高いというヘブライ語と日本語のうち、
「日本語をやってみることにしました。縁もあったしね」
macojinという会社を追う足しにもなるということだろうか。
「どうですか?」
「あり得ない!」
大げさに肩をすくめた。
「母音と子音の組み合わせではなくて全部バラバラな形で40文字以上が二種類」
加えて中国語と同じ文字を何千文字も併用する。
「どれだけ合理性がない連中なのか?」
「相性が合いませんか?」
「発音の方はそう難しくない気がします。会話は割と早く出来るようになりそうなので、いずれカマクラへでも行きたいですね」
「カマクラ?」
「幼いエンペラーを滅ぼしたサムライが作った古都。そして、macojin会長邸がある場所」
ラクシュミは窓の外を見据えた。
「マダム。大変不躾に思われるかもしれませんが」
窓の大きい明るい部屋から暗い廊下へ戻る前にクリシュナンは敬礼し、一つ提案した。予想に反してプライドが高いであろう彼女は怒らなかった。
ただきょとんと目を丸くした。年相応の普通の娘らしい表情だった。
ーーーーー
2026年春。
様々なことを思い出しながらクリシュナンはハンドルを切り夜のハイウェイを駆け抜ける。
<注>
・キールタン 神を讃える歌
・WSSO マハーラシュトラ州給水及び衛生管理局
「警察の旦那だとは存じておりますが」
先生からの要望ですのでーと運転手に懇願されクリシュナンは目隠しをしてリクシャーの客席に座った。仕事柄普段ならこのような危険な提案は断るが今回は仕方がない。少し走った静かな場所で誘導され草を踏んで車に移される。
かなりの時間が経って目隠しが外された時には既に目的の敷地の中だった。
それでも走行時間からはムンバイ近郊だろう。
乗ってきたタクシーから敷地内移動用のリクシャーに乗り換える。パリッとした白いシャツ、折り目の入った灰色のパンツは運転手の制服だろうか。揺れながら控え目に様子を窺う。
(上手く出来ている)
前方には竹がまとまって生えているが先が見通せないほどではない。手入れされた庭園の緑は目に優しく、目立たないよう各所に作られた垣根と扉ですぐセクションごとに封鎖出来るようになっている。
降ろされた薄緑色の建物のファサードにはアーチがあったが伝統様式の装飾はなくシンプルで心地よい。中庭に入ると照りつける光が遮られ一気に影の世界に入る。行き交う白衣のスタッフたちにようやく病院らしさが見えてくる。
ワイシャツ姿の男性職員に回り階段を先導されよく効いたクーラーにほっと息を吐く。
三階の受付で名前を書くと薄っぺらい紙の面会票を渡される。
ここは裕福な人々のための精神病院だ。
警官という仕事柄色々な場所に入り込むクリシュナンだがこのような施設は知らなかった。
「こちらです」
大きなガラス扉の向こうで女が立ち上がった。
「ご無沙汰しています。ラクシュミ・マダム」
クリシュナンは頭を下げ、続いて彼女らを保護した時のことを詫びる。
「リアル人狼ゲーム」というおぞましい殺し合いを強制した犯人を我々警察は捕まえられていない。上からの命令で捜査は中止され全てはほこりだらけの書類倉庫の奥に隠された。
(少し痩せられただろうか)
WSSO職員だった彼女と仕事で面識があったことから身元確認で呼び出されてからおよそ2年が経った。
肩上で内巻きにした艶やかな黒髪、頬の辺りには前より柔らかさが見えたが目元の強さは相変わらず、鋭さはむしろ増したようだ。
「この部屋には安全監視用のカメラがありますが映像も音も切ってもらいました」
部屋の隅を指す。気付いていた。
「代わりに彼がこちらを守っていてくれます」
ガラス扉のすぐ横に立つガードマンに顔をやる。次に窓の方へ向き、
「読唇術が出来るかもしれませんからこちらを向いて話しましょう」
サンルームの向こうに今自分がたどってきた竹の庭が見える。
その正面ではなく隅の白いテーブルと向かい合わせの黒いソファーに着く。
チャイのガラスコップが既に並んでいた。
「今煎れてもらったばかりです」
毒味をするようにまずは自分が一口飲むとすぐにジャーナリスト殺人事件の捜査の行方を尋ねた。
「担当ではないので細かい情報は入っていませんが」
犯人の目安は全くついていない。
数日前の朝、勤務先のビルに入るところでバイクから銃撃された会社員がジャーナリストへの情報提供者のひとりだったとわかり、
「連続殺人だと捜査本部が合流しました。ただし彼らが追っていたものが何かはわかっていません」
ジャーナリストは仕事部屋も私室も荒らされた後だった。
会社員について家族は、何か調べていてそのジャーナリストに頼んでいたと名刺を差し出した。後から義父が、郷里がらみの愛人がいた疑いもと涙に濡れる妻の隣で告げた。その方面にも捜査員を割いたが、
「上司がーあの時ラクシュミさんたちの聴取を指揮した警部ですがー上から圧力をかけられたそうです」
すぐ捜査員の数は激減した。
「その圧力のかかり方があの時と同じで、それで……」
某州知事右腕の息子、ロハンに接触しようとしたが周りがピリピリとしていて接触どころではないと現地警察から聞いた。そこで旧知のラクシュミへ、
「もう一度お話をお伺いさせていただこうと先生に無理を申し上げました」
父親の弁護士を通してやっと面会許可を得た。
「彼は殺された。こちらの彼もー」
ラクシュミは黄色のファイルからそれぞれの事件が報道された新聞を取り出す。
「クリシュナン警部補は奥様もお子様もいると伺っています。この話を聞いたら殺されるかもしれません。覚悟はありますか」
射抜く瞳。
「元々そういう仕事です」
そうじゃない、とラクシュミは組んだ足を投げ出した。
「彼は、」
新聞紙面で微笑む会社員の写真を指す。
「先週ここに来た」
驚きはあえて隠さなかった。ラクシュミは綺麗にメイクした目元から値踏みするように見据える。
「警部補も、私もロハンも殺されるかもしれない。その時にこの『リアル人狼ゲーム』というストーリーを隠し、守り、継いで伝えるところへ手渡す自信は? 私が知りたいのはその覚悟です!」
クリシュナンは目を閉じた。
信頼出来る同僚は誰か、隠し場所はー?
頭の中で検討してから、
「覚悟はあります」
伊達に警官稼業は続けていない。
「何%くらい?」
「成功率は85から90%ほどです」
かなり盛ってだが。
ラクシュミは不意に微笑んだ。一転しての笑顔は近所の寺院の女神像のようだった。
「では、あなたも巻き込みます」
女神様とはいつも恐ろしいものである。
「Y・K・ミッタルは大学でアラビア語を、第二専攻にフランス語を修め、」
アラブ地域の専門家として外交官となり何ヶ国かの大使館に勤めた。
その際とある王国の王子(山ほどいる中でも有力で大臣を兼ねていた)から依頼され、
「スナッフ動画を提供したようです」
クリシュナンは顔をしかめた。現実の殺人動画ということだ。
「彼の生家からそう遠くない所に治安の悪い地域があり、使用人の末端からたどれば小金で人を殺して録画させることは簡単でした。証言者はふたりいました」
ジャーナリストの死の直前、ひとりは川で溺れひとりは崖から落ち「事故」死した。
「……」
ミッタルは外交官を辞め映像製作・販売会社を設立した。
カモフラージュのドキュメンタリーを実力派の監督に製作させ下でスタッフを育て、本業の非合法な映像を売る。
「2022年の夏、日本の経済団体がムンバイを訪問します。そこにmacojinという企業の会長が同行していました」
企業経営から一線を引いていた彼とミッタルは長く会談し、
「2023年になってすぐmacojinから「火葬ユニット」三台が映像会社へ納入されました。我が国とは違う火葬文化からの、こちらの葬儀には使えないそれらは映像撮影に必要との名目で購入されています。それが、私たちに使われた『火葬室』」
macojinのブランドタグが壁に付いていたことを今でもはっきり覚えている。
「……教えてくれた人がいたから」
目を伏せてチャイを飲む。
ラクシュミらの逃亡を許した後会社は一時的に姿を消したが、
「2024年ミッタルはアフリカに支社を設立」
翌年には別のアフリカの国と東欧にも支社を置く。国内ではウッタル・プラデーシュ州ヴァーラーナーシーに事務所があるが名目だけのようで本拠地は不明。
ジャーナリストが調べ上げたのはそこまでだった。
続いて彼に依頼した会社員からの情報をラクシュミは語る。高給で採用されたグジャラート州の村の少女は人殺しの監視をさせられていると手紙の暗号で助けを求めた。
「彼女が死んだのは、私たちが最初に閉じ込められた館が使えなくなって次の建物に移されるまでの間」
グジャラートから来た少女は、おそらくラクシュミたちの「ゲーム」映像を監視し、殺害された。
「ミッタルの元で」
その声には鋼鉄のような冷たさがあった。
クーラーの冷気以上に彼は冷えた。
「それはー」
黄色いファイルの下から覗いたノートには見慣れない文字が見えた。
「ああ、これは何でもない。日本語を勉強し始めたんです」
開いて見せられるがさっぱりわからない、模様のような文字が並んでいる。日本は、中国や韓国と同じ文字を使っているのではなかったのだろうか?
「私はここに逃げている。父が探してくれました。でも、何もしなかったら本当に私は『病気』になってしまいそうです」
「敵」は「精神病院」入りのラクシュミの発言には価値がない、と攻撃することが出来る。それは真相の発露を遅らせるかもしれないが命が守られる確率は高くなる。
この場を用意した父親の愛情だ。
ラクシュミは州を退職したとされている。だが調べれば解雇と対する裁判闘争があり、最終的には名誉を回復するが退職と和解に持ち込んでいる。その後勤務した会社から先々月に事実上解雇、転職先でまたすぐ先月解雇。どちらも「上」から企業に圧力がかかった。
「狂った人は自分を頭の病気だとは思わない。……時々不安になります。自分が正常で身を守るためにここにいるというのも狂人の妄想なのではないか。クリシュナン警部補、どうですか?」
軽く姿勢を正す。
「私は狂っていますか?」
すぐに首を大きく横に振った。
「わたしには、以前と同じように健康で聡明に見えます」
彼女はすぐ皮肉気に唇の端を曲げる。
「おかしくなっていなければ後の評価はどうでもいい」
正気を保つために時間が潰せるものを探して、学習難易度が高いというヘブライ語と日本語のうち、
「日本語をやってみることにしました。縁もあったしね」
macojinという会社を追う足しにもなるということだろうか。
「どうですか?」
「あり得ない!」
大げさに肩をすくめた。
「母音と子音の組み合わせではなくて全部バラバラな形で40文字以上が二種類」
加えて中国語と同じ文字を何千文字も併用する。
「どれだけ合理性がない連中なのか?」
「相性が合いませんか?」
「発音の方はそう難しくない気がします。会話は割と早く出来るようになりそうなので、いずれカマクラへでも行きたいですね」
「カマクラ?」
「幼いエンペラーを滅ぼしたサムライが作った古都。そして、macojin会長邸がある場所」
ラクシュミは窓の外を見据えた。
「マダム。大変不躾に思われるかもしれませんが」
窓の大きい明るい部屋から暗い廊下へ戻る前にクリシュナンは敬礼し、一つ提案した。予想に反してプライドが高いであろう彼女は怒らなかった。
ただきょとんと目を丸くした。年相応の普通の娘らしい表情だった。
ーーーーー
2026年春。
様々なことを思い出しながらクリシュナンはハンドルを切り夜のハイウェイを駆け抜ける。
<注>
・キールタン 神を讃える歌
・WSSO マハーラシュトラ州給水及び衛生管理局
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