リアル人狼ゲーム in India〈リターン&リベンジ!〉

大友有無那

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第6章 狼はすぐそこに(6日目)

6ー24 因縁

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赤2ラール・ドー赤2ラール・ドーを至急。14番と18番には赤3ラール・ティーン
(何だ)
 鳥面の言葉。
 不吉さに脅える自分を励ましつつルチアーノは周りに目を走らせる。何の符丁か。イジャイとヴィノードに対してなら赤3ラール・ティーンは殺せということか。
 黒コートたちの動きに警戒したが何も起こらない。
 引き金にかかったイジャイの指に力が入る。

『左上に外せイジャイ! もうひとりもだ!』

 ダミ声が突如上からがなり立てて響いた。放送だ。
 イジャイは半円を描いて銃を左上、奥の空いた男子席の上空に向け銃弾を放った。
 ドン! ズドン!
 目で追ってアッバースも天井を撃つ。
 ふたりともふらついたのは銃の反動というものだろうか。ルチアーノは素早く鳥面に取り付き後手にした両腕をぐいとこちらの両腕で握り込んだ。銃の脅しがなくなっても自由にはさせない。身をよじり逃れようとする鳥面の動きが止まる。アッバースががしりと肩を押さえたのだ。一瞬目を合わせルチアーノはすぐ退いた。力仕事は彼に任せる。
 ズジジジジジィ……
 はがいじめにされた鳥面の視線方向に目をやれば機械音が扉から聞こえていた。黒コートの何人かが閉じたドアに駆け寄る。
 パカン。
 扉に人ひとり通れるほどの穴が空いた。
「警察だ!」
 潜り抜けて来たのは細身の中年警官。続くカーキ色の制服たち。
 銃を構え、
「ー学院の生徒を保護する」

「渡しなさい」
 肩上に綺麗にセットされた髪型の若い女性警官が有無を言わず命じる.手を延べた部下らしき男性警官にイジャイが目を伏せて銃を渡した時、
12バーラー
 両脇を警官に挟まれた鳥面が呟いた。続いて、
「こいつらニセ警官だ! 従うな!」
 声を響かせる。
 アッバースは瞬時出していた銃を引っ込める。奥に集められていた黒コートたちと「警官」の間に揉み合いが始まった。
12トウェルヴ
(アッバースまで?)
 銃を手元に握り込んだ彼の視線の先を見てようやく理解した。
12トウェルヴ?」
 ルチアーノも口に出せば女性警官はぎろりと睨む。
(この人……)
 よく見ればそうだ。驚きに目を丸くする。

「あんたは警官じゃない! 水道の役人、それもマハーラシュトラ州のだ!」
 鳥面が女に叫ぶ。こいつに事をかき回されたくはないが、
(けど)
 取り囲むカーキ色の制服たちは「ムンバイ警察」だ。
「ここはムンバイなんですか」
 女性警官の視線の圧に抗しルチアーノは声を絞り出した。
「違う。UP州だ」
 隣の男性警官が答える。
(だったら何で)
 ムンバイはラクナウからはるか西南、アラビア海に面する大都市だ。スティーブンの推測によれば誘拐された当日夜自分たちはここで起こされた。荷物を漁りボディチェックも行いカードキーをセットして置き去りにする作業込みでそこまでの遠方には行けない。
 ウッタル・プラデーシュ州内ならなぜ「ムンバイ警察」なのか。

「本物だ!」
 反論にわめいたのはイジャイだった。
「だってさっき父ちゃんの声がした! 父ちゃん……俺の父親はラクナウ警察◯◯署の巡査部長だ! 父ちゃんが来てるなら間違いない。父ちゃんっ、いるんだろっ!」
 最後は絶叫だった。アッバースに体ごとぶつかり、
「銃は渡して! 早く!」

 イジャイに言われ制服にも手を出されアッバースは様子を窺いながらも銀色の銃を手渡した。女はイジャイの姓に巡査部長と階級をつけ、
「ご子息の保護と身元確認に寄越しなさい」
 目を上方に向ければ、
『もう向かっています』 
 元気な男声で放送が降ってくる。彼らが放送設備を乗っ取ったのか? イジャイが言うなら本物の警察? 自分たちは助かったのか。

「失礼ですがマダム」
 アディティがナイナの隣でテーブル上に座ったまま問いかける。
「あなたは、私たちに渡された動画の中で12番の腕章をつけたキャストととてもよく似ているんです。そういった動画に出演されたご記憶はありますか」
 ウールのショールに全身を包む彼女の唇が震える。
「リアル人狼ゲームの?」
「!」
 女はいとも簡単にゲームの名を口にした。警戒に身を固めた時、
「イジャイ!」
「父ちゃんっ!」
 横方向にがたいのいい中年の警官がイジャイに飛びつき抱きかかえた。
「父ちゃん、父ちゃん……」
 泣き出すイジャイ。
「恐かった。恐かったよ……」
 男は黙って髪をかき撫でる。
 女性警官が近づいた。
「イジャイ君。この人は君のお父上で間違いない?」
「はい、そうです」
 涙目をこちらに向けて答えた。
 イジャイを抱いたまま中年の警官がこちらに身分証をかざし、ラクナウ警察の警官だと告げた。そういえば角ばった顔の輪郭がよく似ている。これは本当だろう。ルチアーノは肩の力を抜いた。
「こちらは捜査協力で来てくださっているムンバイ警察の方々だ。間もなく地元警察も到着するだろう。わたしは案内役で同行してたまたま先に着いた。我々に従ってください」

「イジャイ君。この部屋にいる学院の生徒を1人ずつ指を指して数えて」
 女性警官に命じられ、父親の腕の中から体の向きを変えて指差す。
 アッバース、ルチアーノ。アディティ、ナイナ。ヴィノード、ナラヤン。
「あれ。7人のはずだけど……」
「お前が抜けてる」
 不安そうに目を泳がせたイジャイの頭を父親がぽんと叩く。
「後の人はどこにいるかわかる?」
 イジャイは口をつぐんだ。
 死んだ。今ここにいない者たちは。
 スティーブン、マリア、カマリ、サントーシュ……

「さっき、10分くらい前に2人連れて行かれました。ひとりがクラスの人間でもうひとりが……学校に勤めている人です。この部屋を出てからのことはわかりません」
「スディープ君なら我々が保護しています」
 アッバースに女性警官が返答した。
「昨日の夜23時過ぎに男子と女子ひとりずつがここを脱出しました。彼らの行方はわかりません」
 アディティの声は細い。
「彼らも保護済み。女子生徒、シャキーラさんの証言でここが割り出せた」
「やった!」
 アッバースと何人かが声を上げる。初日脱出権で出た多くのクラスメートたち、3日目に出たミナは殺されたからシャキーラとバーラムの行方も気がかりだった。

「その他は?」
 残りは生徒28人。教員1人、職員1人と女は淡々と告げる。
(この人わかってるんじゃないのか)
 人狼ゲームを知っているなら。
 ここで行われたと理解しているならールチアーノは眉をひそめる。
 イジャイの父親が言うなら確かに警官なのだろうが未だに理解出来ない。若いのに偉いならエリートだ。その彼女が何故人狼ゲームを知っている。あの動画に出演した理由は?
「ここには、いません。私たちも、どこにいるのかわかりません……!」
 と突然アディティが顔を上げ、
「オフィサー! 気をつけてください! この部屋の床は抜けます」
 女性警官は彼女たちがテーブル上に座っている理由を理解したようで部下に何か指示し、
「どこが抜けるの?」
 タイルカーペットごとに扉のようにとアディティが説明すれば彼女はタイルの際に両足を広げた。開いてもそこなら大丈夫だというのか。いい度胸だが彼女もラジューと同じで向こう側ということはないか?
「照明以外の電源は切ってあるけど、用心に越したことはない」
 言う彼女を目立たないように観察する。見れば見るほど、
(「論理的思考」の人だ)

「ご子息に同行して構いません。ただし聞き取りは必ず他の捜査員がいる所でー」
 とその彼女に声を掛けられ、
「うわっ!」
 巡査部長はイジャイを肩上に背負って歩き出した。
「ちょっ!」
 慌てて足をばたつかせるイジャイが部屋を出ていくのを微笑ましく見守った。
 間もなく部屋の外から彼の悲鳴が聞こえてくる。
「うわあああっ!」
 一瞬顔を見合わせた自分たちに、
「首輪を切断している」
 職人を連れてきたと女は言った。
「あれは恐い。わかる」
 やわらかく微笑む。
 混乱する。既に首輪の存在を知っていたような発言に。
 だから迷っていたが警官たちが扉から鋼板を敷いていくのを見てルチアーノは伝えることにした。
「オフィサー。生存者のことですが、職員でしたら多分そこです」
 黒コートが集められている奥への移動に抵抗する鳥面を指した。
「嘘吐き女に騙されるな! 前は会社員だと騙して今度は警官か!」
「ラジュー。見苦しい。もう止めなよ」
「え」
 漏れた声はヴィノードか。
「彼は犯行の手引きのため学校に潜り込んでいたようです」
 言えば女性警官は素早く鳥面首元のマジックテープを回し外し薄い面を上へ剥ぎ取った。
(やっぱり)
 面に付いてか黒い髪が逆立ち乱れる。ラジューは憎々しげに辺りを睨んだ。ルチアーノには目を向けなかった。
 アッバースが唖然として口を開ける。ナラヤンも目を見開く。
(気付いていなかったのか)
 対して女は顎を上げ悠然と言い放った。
「大人には転職ってものがあるの。知らないの」


(彼は末端の小物だ)
 圧力で解雇され続け仕事に就けなくなった。彼らがやったことなのに知らないのならその程度だ。

『マダム。大変不躾に思われるかもしれませんが、お仕事がないということでしたら警察うちへ来られるのはいかがでしょうか。内部の人間ともなればもう少し提供出来る情報が増えます』

 父の手配で逃げ込んだ精神病院を訪ねて来たクリシュナン警部補は言った。
 駄目元で応募しムンバイ警察の幹部候補生試験に受かった。訓練期間を経て実務についてからまだ日は浅い。
 犯人側、と言ってもただの雇われかこれが犯罪ー未成年の監禁だと理解していたのかはわからない。自分の時の経験から捜査陣に告げてある。その黒コートたちを会議室奥に集めていたクリシュナン警部補が振り向いて目を見開いた。
「ラクシュミマダム!」
 叫んだ部下が崩れ落ちナイフの切先はこちらにー


ーーーーー
※前回「鳥面」のセリフにおかしなところがあったのは誤字ではありません。
 精神状態によりヒンディー語が崩れかけてそうなりました。

※この話でほとんど姓が出てこない理由は調べきれないからだと白状しておきます。
 前の注で書いた職業集団、ジャーティを反映することが多く地方地域によっても変わります。プレイヤーたちの親の仕事設定にふさわしくかつ出身地域からおかしくない姓を選ぶのは自分には無理でした。活躍の少ない生徒と、出身に関係なく試験に受かれば就けるであろう仕事ー教師にのみ姓を付けてあるのはこういった事情からです。
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