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第7章 旅立ち
7ー5 人狼たちの時間3(3日目夜)
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〈3日目夜〉
「カマリから預かった」
広間のソファーでナイナが小袋の白い粉をかざした。
「毒中和薬だって」
自分は今夜殺されるかもしれないから有効に使ってくれと託されたと言う。誰かの切り札の毒薬を無毒化出来るのだそうだ。
「んなこと言われてもなあ」
ダウドが頭をかく。
「入れれば無毒化出来るような成分なら単独で使えば『毒』になるかもしれない」
使えるかもとナラヤンが預かった。
「ねえ。カマリじゃなきゃ駄目?」
部屋でひとりならシュルティもだよーナイナがもちかけた。
こういう時いつもの甘ったるい話し方をしないのがナイナの分別のあるところだ。より心に響く。だが、
「『武士』の守りは「人狼」の仕事の最大の障害だ。優先順位は揺らがない」
『この夜ぼくは絶望していた。
まずスティーブンが消えた。チームは違うにも関わらずぼくはあいつを頼りに思っていて、どうしていいのかわからなくなった。
人狼陣営についてならコマラがヤトヴィックの後を追い、ミナがおそらくは3日目脱出権で出て行って人狼はたった4人になった』
ナラヤン、ダウド、バーラムも数には入る。そしてただひとりの女子となったナイナ。
『どこかの部屋に人狼が生存しているとしてもあと2人』
その時の館内生存者は18人。味方の陣営は最大でも6人なら「標的」は12人。
『単純に計算して毎晩ひとりを処刑ひとりを襲ったとしても』
人狼の勝利、村人が同数になるまで7日としたらナラヤンとダウドはあと7人クラスメートを殺さなくてはならない。
『これ以上人狼はひとりも欠けないという最大限自分たちに有利な、机上の空論ですらこれだ。実際はもうぼくたち以外人狼はいないかもしれない。投票でぼくたちの誰かが処刑されるかもしれない。ならばもっともっとたくさん殺さなくてはならない』
道はあまりにも遠くはるかヒマラヤの山頂を越えるようで達成は非現実的に思えた。
それでもやり始めた以上後戻りは出来なかった。
「状況は人狼に厳しい。無駄な殺しをしている余裕はない」
ナイナとカマリは親しい友人だ。気持ちはわかるがそれで左右出来る問題ではない。
「今夜は君を占って『村人』だったことにする。それで生き延びてくれ」
スティーブンとアディティ、男女それぞれで議論が得意そうなふたりを味方にして自分が本物の占星術師だと信じ込ませる。彼らが信じれば他の誰も疑わない。
だが肝心のスティーブンが消えてしまった。
胸にぽかりと開いた穴はスティーブンを追いやったルチアーノへの怒りと化した。出来るなら今夜は彼をぶっ殺してやりたい。だがそれをしない程度には冷静だ。
この夜も運命はナラヤンに味方した。
神様がそばについていてくれるとその時は信じた。
ほんの気まぐれで道具箱の中のプロテクターを付けたことで隠し持った包丁で襲ってきたカマリから身を守れた。ノンベジの彼女が持ち出した包丁だったから翌日以降人狼はノンベジではと主張する材料となった。初日の吐き戻し放置でベジに疑いがかかったがバランスが取れたといえよう。
それでもカマリの悲鳴を聞き、女性の頼りない体を押さえつけるのに罪悪感を覚えないことはなかった。思ったより溢れた血に白い靴が染まる。見えにくいが黒いコートも血に濡れただろう。
ナラヤンとダウドは少しの間唖然と部屋に立っていた。
この夜ナイナは部屋の中にいると見張りを拒んだ。向かいの部屋だから必要もないだろうと。
血の匂いをさせて歩き回りたくない。
思いついてナラヤンとダウドは1階のラジューが使っているバスルームでシャワーを浴びた。ついでにコートと靴も洗った。湯を使うと血は余計落ちなくなるとは知らずー後でナイナに教えられたー靴は染まったまま、部屋に戻ればバーラムは血のついたものなど絶対持ち込むなと目の色を変えた。
「だけど外のどこかに置くわけにはいかねえだろ?」
「お前らと同じ部屋で寝るだけでも忍耐力が必要だ。そんなものを持ち込むならお前らが人狼だと会議でばらす」
「オイてめえ!」
「おれが巻き添えを恐れると思っているのか」
ダウドとバーラムがやり合う。
実際バーラムは覚悟が出来ていたし、何よりクラスメートを手にかけていない。3号室が人狼部屋とみなされても構わないだろう。
「わかった。何とかする」
「ってどこに」
言い募るダウドに手を振って黙らせる。思いついた場所があった。
「バーラム。ナイナから伝言だ。『命を大事にするのがあなたの法なら、私たちを生かすことを考えて』」
言葉をそのまま告げる。
「女子は何もしていない。ぼくたちとは違う。君には、ナイナが生き延びることについて考えて欲しいんだ」
バーラムはベッドに入ったままこちらを見た。
「ミナはいいのか」
「11時過ぎに出て行ったって。3日目の脱出権じゃないかな」
それ以上答えずバーラムはやがて首を背けた。
『ここから後はぼくがもう一度部屋を出てひとりでやったことだ。だけど未だにわからないんだ』
1階のバスルームでバケツを逆さにして乗って換気口を外し、血のついたコートと染まった靴を奥へ投げ込んだ。万一露見してもラジューに罪を被せればいい。一番いいのは彼もいなくなることだ。このバスルーム一帯が自由に使えるようになり人狼には便がいい。
ほとんど思いつきでナラヤンは「中和薬」を1階洗面の三つ並んだ蛇口の中央の向かって左端に仕掛けた。
『ダウドが水を飲んだ真ん中には何もしていない。これは本当だ。警察の人は何か知っているみたいでぼくにはあまり話を聞かなくて、教えてももらえなかった』
警察は全映像を押収・分析しているから真相を知らないはずはない。
「カマリから預かった」
広間のソファーでナイナが小袋の白い粉をかざした。
「毒中和薬だって」
自分は今夜殺されるかもしれないから有効に使ってくれと託されたと言う。誰かの切り札の毒薬を無毒化出来るのだそうだ。
「んなこと言われてもなあ」
ダウドが頭をかく。
「入れれば無毒化出来るような成分なら単独で使えば『毒』になるかもしれない」
使えるかもとナラヤンが預かった。
「ねえ。カマリじゃなきゃ駄目?」
部屋でひとりならシュルティもだよーナイナがもちかけた。
こういう時いつもの甘ったるい話し方をしないのがナイナの分別のあるところだ。より心に響く。だが、
「『武士』の守りは「人狼」の仕事の最大の障害だ。優先順位は揺らがない」
『この夜ぼくは絶望していた。
まずスティーブンが消えた。チームは違うにも関わらずぼくはあいつを頼りに思っていて、どうしていいのかわからなくなった。
人狼陣営についてならコマラがヤトヴィックの後を追い、ミナがおそらくは3日目脱出権で出て行って人狼はたった4人になった』
ナラヤン、ダウド、バーラムも数には入る。そしてただひとりの女子となったナイナ。
『どこかの部屋に人狼が生存しているとしてもあと2人』
その時の館内生存者は18人。味方の陣営は最大でも6人なら「標的」は12人。
『単純に計算して毎晩ひとりを処刑ひとりを襲ったとしても』
人狼の勝利、村人が同数になるまで7日としたらナラヤンとダウドはあと7人クラスメートを殺さなくてはならない。
『これ以上人狼はひとりも欠けないという最大限自分たちに有利な、机上の空論ですらこれだ。実際はもうぼくたち以外人狼はいないかもしれない。投票でぼくたちの誰かが処刑されるかもしれない。ならばもっともっとたくさん殺さなくてはならない』
道はあまりにも遠くはるかヒマラヤの山頂を越えるようで達成は非現実的に思えた。
それでもやり始めた以上後戻りは出来なかった。
「状況は人狼に厳しい。無駄な殺しをしている余裕はない」
ナイナとカマリは親しい友人だ。気持ちはわかるがそれで左右出来る問題ではない。
「今夜は君を占って『村人』だったことにする。それで生き延びてくれ」
スティーブンとアディティ、男女それぞれで議論が得意そうなふたりを味方にして自分が本物の占星術師だと信じ込ませる。彼らが信じれば他の誰も疑わない。
だが肝心のスティーブンが消えてしまった。
胸にぽかりと開いた穴はスティーブンを追いやったルチアーノへの怒りと化した。出来るなら今夜は彼をぶっ殺してやりたい。だがそれをしない程度には冷静だ。
この夜も運命はナラヤンに味方した。
神様がそばについていてくれるとその時は信じた。
ほんの気まぐれで道具箱の中のプロテクターを付けたことで隠し持った包丁で襲ってきたカマリから身を守れた。ノンベジの彼女が持ち出した包丁だったから翌日以降人狼はノンベジではと主張する材料となった。初日の吐き戻し放置でベジに疑いがかかったがバランスが取れたといえよう。
それでもカマリの悲鳴を聞き、女性の頼りない体を押さえつけるのに罪悪感を覚えないことはなかった。思ったより溢れた血に白い靴が染まる。見えにくいが黒いコートも血に濡れただろう。
ナラヤンとダウドは少しの間唖然と部屋に立っていた。
この夜ナイナは部屋の中にいると見張りを拒んだ。向かいの部屋だから必要もないだろうと。
血の匂いをさせて歩き回りたくない。
思いついてナラヤンとダウドは1階のラジューが使っているバスルームでシャワーを浴びた。ついでにコートと靴も洗った。湯を使うと血は余計落ちなくなるとは知らずー後でナイナに教えられたー靴は染まったまま、部屋に戻ればバーラムは血のついたものなど絶対持ち込むなと目の色を変えた。
「だけど外のどこかに置くわけにはいかねえだろ?」
「お前らと同じ部屋で寝るだけでも忍耐力が必要だ。そんなものを持ち込むならお前らが人狼だと会議でばらす」
「オイてめえ!」
「おれが巻き添えを恐れると思っているのか」
ダウドとバーラムがやり合う。
実際バーラムは覚悟が出来ていたし、何よりクラスメートを手にかけていない。3号室が人狼部屋とみなされても構わないだろう。
「わかった。何とかする」
「ってどこに」
言い募るダウドに手を振って黙らせる。思いついた場所があった。
「バーラム。ナイナから伝言だ。『命を大事にするのがあなたの法なら、私たちを生かすことを考えて』」
言葉をそのまま告げる。
「女子は何もしていない。ぼくたちとは違う。君には、ナイナが生き延びることについて考えて欲しいんだ」
バーラムはベッドに入ったままこちらを見た。
「ミナはいいのか」
「11時過ぎに出て行ったって。3日目の脱出権じゃないかな」
それ以上答えずバーラムはやがて首を背けた。
『ここから後はぼくがもう一度部屋を出てひとりでやったことだ。だけど未だにわからないんだ』
1階のバスルームでバケツを逆さにして乗って換気口を外し、血のついたコートと染まった靴を奥へ投げ込んだ。万一露見してもラジューに罪を被せればいい。一番いいのは彼もいなくなることだ。このバスルーム一帯が自由に使えるようになり人狼には便がいい。
ほとんど思いつきでナラヤンは「中和薬」を1階洗面の三つ並んだ蛇口の中央の向かって左端に仕掛けた。
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