リアル人狼ゲーム in India〈リターン&リベンジ!〉

大友有無那

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第8章 大団円はリベンジの後で

8ー1 ヨコハマ

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 現地時間16時、ほぼ予定通りに豪華客船は横浜港を出発した。

「マイケルご夫妻! クリスチャンだったんですね」
 ロビーにてイタリア人医師の中年妻がインド人夫婦に声をかける。
 新婚旅行だという細身で人の良さそうな口ひげの夫は、
「はい、カトリックです」
 笑顔で答えた。 
「私たちも最後が山下公園で、お二人がインドの塔の所にいらっしゃるのが見えたのよ!」
 興奮気味に話す赤いワンピースのイタリア人妻を夫が低くたしなめる。
「たまたま行き違った時にお祈りをしているのが見えたんです」
 インド水塔は関東大震災で犠牲になった在日インド人のメモリアルだ。
 横浜港で上陸した客の多くが船内で募集されたタクシーによるプライベートツアーに参加した。ルートは大きく分けて横浜・鎌倉と組み合わせたツアーと、横浜だけ回るものの二つとなる。マイケル夫妻は横浜ツアーを選んだ。
 彼らがインド人だと知った運転手兼ガイドは丁寧にインド水塔の由来を説明し、祈る時間をとってくれた。揃って胸で十字を切ったところを見られたのだろうか。
「インドの方なのにカトリックなのね」
「インドには皆さんが思われるよりずっとクリスチャンは多いんですよ」
 両手を駆使してマイケルが説明するのを英国人の老夫婦は微笑ましく見守っていた。

 前の逗留地までは夫人の体調が思わしくないと上陸しなかったのを彼らは知っている。せっかくの日本を楽しめたようで本当に良かった。
 数日前に乗船してきた彼らはとある金持ちにこの旅行を贈られたのだと夫妻にそっと伝えてきた。大したことをしたつもりはなかったが、金持ちの方が恩に着て新婚旅行にと一週間ほどの船旅をくれた。
『ですから、わたしどもはこういった場所での振る舞いをよく知らないんです。気になるところがありましたらわたしの方にそっと教えてください』
 新婚旅行で妻に嫌な思いをさせたくないーマイケルはこっそり伝えてきた。
 妻の方は初めあまりに若く見えて児童婚の果てかと心配したが、聞けば高等教育を済ませ今は夫婦で専門職に就いているという。
 職業は確かに自分たちとは「クラスが違う」ものだったが、
『協力してあげましょうね』
『奥様を守ろうするなら立派な紳士ージェントルマンだものな』
 イギリス人夫妻は話し合ったものだった。

「台風が来るんですって。今日観光出来てよかったわ」
 高い声はポーランド人の令嬢だ。
「心配ですね」
 眉をひそめたマイケルにイタリア人医師は、
「この船は心配ないよ。我々がこの海域を離れた明日の夜以降に天気が荒れるという話だから」
 親切心ともしかしたら少しの侮蔑を含ませた説明にマイケルは曖昧な笑みを見せた。


 程よく毛足の長い黄色い絨毯の船室に入りマイケル夫妻は表情を厳しく変えた。
「検索は駄目だよ」
 スマホを開いた妻にマイケルは言う。
「相手は我が国インドの警察じゃない。日本警察だ。聞いたよね」

『日本警察は世界トップクラスの技術力と、レベルの高い捜査員を惜しげもなく投入した粘り強い捜査を得意とする。まして……なら手は抜かない。証拠は残したら終わりだと思って』

 マイケルの注意に妻は無言で頷く。
「終わってからならいいよ。まだ起こってもいないのに、どうして検索したのかって」
 目をつけられたならスマホやパソコンも解析される。
「我慢しよう」
 耳元でささやく声は確かに新婚らしく甘く優しかった。
「日本のニュースも見ちゃ駄目?」
 上目遣いする妻に、
「普通に見るんならいいと思うよ」
 穏やかに答え目を細める。
 Japan、newsで検索すると日本の英字新聞サイトがいくつか並んだ。
 今日観光した地を懐かしむように漠然とニュースを眺めたが当然ながら起こってもいない事件は載っていなかった。

「そっちは成功したんでしょ」
「うん」

 事前のリクエスト通りにヨコハマ観光は進みクイーンズスクエアに入ったところでマイケルはトイレに寄りたいとガイドに頼んだ。
 巨大なショッピングモールは、細長くゆるいカーブの建物に吹き抜けがビルというよりは街を連想させ、きらびやかさを抑えているのが洗練された印象を与えた。
 トイレへの通路で秘匿性の強いアプリにチャットを飛ばす。

『2F MINATOMIRAI TOKYU SQUARE  奥』

 すぐに、
『TOKYU SQUAREの番号? 1ー4棟があり』
 端的な表現の中に彼らしい苛立ちを感じさせるメッセージが返る。
『1』
 パウダースペースに移って髪を整える振りで時間を潰す。自毛とは違う癖のある髪のかつらはともかく口上の薄い付けひげがどうも気になって仕方がない。
「!」
 鏡の後ろに大男がぬっと写る。
 懐かしい顔だが余計な挨拶などしない。目も合わせず一言も発さず紺色のナップザックから大きな灰色のケースを鏡前に置きすぐさま歩き去る。
 やはりトイレに寄った妻を待つ間に立派ながたいの男は黒いスーツケースを転がしマイケルらと反対の奥へ歩いていった。

「トラブルがあったなら連絡がくる。モノは無事に渡ったはずだ」
 この後心配なのは台風だ。日本への出入りに問題が起こらなければいいがー
「ロハンたちの無事を祈ろう」
 船室にセットした十字架の前にふたりはぬかずいた。
 昼間行き違った日本の人々の姿を思い出す。家族連れ、仲睦まじい夫婦たち、制服の学生グループ……自分と同じように日々を重ね懸命に生きる人々は、ニュースに不安で心を曇らせるだろうか。
 善良な人々を害する意志は毛頭ないのにと心苦しい。
 主よ、速やかにかつ安全に害虫が駆除されますようにとマイケルは祈った。
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