転生したら宗教テロリストだった。だけどオレ、推しのために闘うわ!

大友有無那

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1 ららたむという天使を知っていた

1ー4 名古屋で奇跡を分かちあう

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『しばらく日本には来られないかもしれないからご挨拶しにきました』

 ららたむが東京から地方拠点の新しいグループへ移ったのは出会って1年くらい後だったかな。
 大きな事務所での新グループには外国人ファンもついたけどマークさんみたいな白人のおじさんはさすがに珍しかった。

  握手会で日本語会話が難しい人は翻訳アプリを使う。
  ららたむファン同士でなだれこんだ居酒屋でマークさんと俺たちは互いの片言とスマホ翻訳を駆使してしゃべりまくった。

『結婚することになったんです』

 人の良さそうなおじさんの告白に皆で手を叩く。
『おめでとうございます!』
 マークさんはもっと真っ赤になってthank  youを言いまくる。

  スマホを示して説明するところによると、若い頃一度結婚して以来あきらめていたが今回縁があった。ららたむのことはずっと好きだしこれからも動画を見たりグッズを買ったりはするが、家庭にお金をかけなくてはいけないから来日は厳しいだろうーマークさんは涙ぐんでいた。

『そりゃそうだよ』
『お嫁さん大事にしなきゃだよな』
 何が何でも推しを優先! と迫る狂信的な奴は俺たちの中にはいなかった。俺は社会人なりたてで結婚には現実感がなかったけれど、人間幸せが一番だ! 推し仲間が幸せならもっといい。ららたむもきっと喜ぶ。
 誰がどれくらいの人数ライブに動員できるか、CDの枚数やグッズ、特典会の売上はプロアイドルとしてあげるべき「結果」だ。厳しさは販売職の仕事柄想像できる。
  それでもー

『ららたむはかえって私を慰めてくれました』

  マークさんは破顔した。
  悩んでいたけれど落ち着いたとにこにこ俺たち日本のヲタの顔を見回す。
  彼が英語で話しながら入力していく内容に感銘を受け、俺の方でも日本語へ訳してしゃべってその場に紹介した。

「By the way」
 アキッティsan、英語凄く上手くなりましたね! 驚きました、との言葉にここぞとふんぞり返った!

『ららたむのおかげです』

 新グループの本拠地・名古屋に転勤するには英語の資格試験の点数が必要だった。彼女の励ましであきらめず頑張れるようになったんだと。

「ららたむは、本当にwonderful……miraculous girlです」

  マークさんは英語混じりの日本語で、一言一言確かめるように言った。
  今この場の心はひとつだった。
  最高の推しに出会えたこと、その人を推せる幸福。
 わずかなポテトや敷物代わりのしなびたレタスが残る皿を前に俺たちは出会いの奇跡を味わっていたー
 

  また誤解を招いたかもしれない。
  ららたむの言葉に勇気づけられたのはおまけだ。
  少なくとも、俺が夢中になったのは彼女のパフォーマンスだった。

  新グループでは聞ける歌詞が増えた。振りが入っていない子はいなくなり、衣装も良くなったらしい。
  ららたむは歌によって表情を変えた。楽しい歌では思いっきりのアイドル笑顔を、切ない歌では悲しそうに。メンバー全員がそうではなかったのでそこはららたむが引き立って見えた。
 彼女の表情とダンスを目で追いかけるのが俺は何よりも楽しみだったー

ーーーーー

  ららたむのダンスはやわらかい。
  ほっと息がつけるような、安心できる曲線の美しさだ。
  声は高く細めで、でも弱くは感じずソロ部分では宝石みたいに硬質なままホールの奥まで響いた。
  色白で細身、清楚系って言われる派手ではなく品のいい顔だち、目を細める笑顔が好きだった。
  セミロングの黒い髪は左右ふたつに分けることが多く、よくあるコスプレ的なツインテールと違い白い頬に自然に流れるのもこれまた気に入っていた。



「ららたむもダンス上手いんだよ。パキパキ踊る人ばっか評価されるけど」
 ある女性ファンが力説した。
 特典会を別建物でやるので設営で時間が空いた時、顔見知りと連れ立ってコーヒーショップに入った。よく握手列で見るららたむの女ヲタ2人が俺たちのヲタクトークを聞いて合流してきた。
 新しいグループでは女性ファンも増えたんだ。メンバーと同世代の人が多かったね。

 ららたむが映える曲として「楽園からの追放者」は有名だ。
 失恋ソングの切なさが彼女のパフォで鋭く立ち上がる。
「ダンスブレイクからラストのとこ最高ですよね」
 言った俺に、ダンス経験者だというその女性は大きくうなずいて力説した。
「『空に問う 海に問う』のとこ、実は振り付けウェイブで上・下ってなってると思う。だけど曲線を決めるのって直線より難しいから。支えられる筋肉がないとできないし。できてるのはららたむとリクちゃんだけ」
  リクちゃんはダンスメンとして評価の高い中学生メンバーだ。
  確かに踊りには迫力があったけど、力が入り過ぎた感じでパフォは好みとは違った。
  何よりまだ中学生だよ! 
  笑顔も話し方も子どもで握手するのも申し訳ないくらいだ。


「でも『海に問う』で腕の動きが海に見えるのはららたむだけ! 私も無理。どんぶらこってなっちゃう」
 女性は腕を揺らして見せた。なるほど波だけど海には見えない。
「これじゃ桃太郎が流れてきちゃう」
 晴れやかに自身を笑っていたのを覚えている。


  当のららたむは意外にもダンスメンという自覚はなかった。
  踊るのは好きだけどあくまでアイドルとしてパフォ全体をファンに喜んでもらいたい、それが1番うれしいとはじかみながら語った。

「担当カラー変わらなかったですね。水色似合ってるからよかった……」
  ららたむにぴったりの色だ。特に、
「3曲目、ダンス良かったですよ。迷宮に囚われたお姫様みたいで、その、かわいいというか、いえ、ええといつもかわいいんですがー」
  特典会でいつものダメ詩人ぶりを発揮する俺。

  ららたむは構わず、
「ダンスブレイクを任せてもらえたの初めてなんです。アキッティさんのイメージ、合ってます! 」
  胸で両手を組んで力強く肯定する。
「あの時、水色の波きれいだった」
  漏らすとららたむはここぞとうなずいた。
  俺たち観客が振る水色のサイリウムの光が左右に揺れる海、その向こうのららたむは海に生まれたばかりの女神様だ!


『君がいなければ 夏は意味がない  きらめき 輝き 水の泡』


 それがまさかあんなことに繋がるとは俺も、他のファンも、ららたむ本人も勿論想像すらしなかったー
 
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