空中転生

蜂蜜

文字の大きさ
8 / 70
第1章 幼・少年期 新たな人生編

第七話 「守るために」

しおりを挟む
「ま、まだ着かないんですか……?」
「おっかしいわね……
 こっちのはずなんだけど」
「ちなみに、何を根拠にこっちだと?」
「……女の勘よ」
「はぁ?!」

 ソースなんてどこにもないじゃないか。
 俺は結局わけのわからない土地を走り続けていることになる。
 命を助けてもらったのはありがたいが、まさかこんな大雑把な少女だったとは……!

 まずいな。
 今のところは運がいいのか、あれから魔物に出会っていない。
 でも、いつでも遭遇するかわからない。
 特に、集団戦とかになったらいよいよ詰むぞ。

「どうしましょう……」
「女の勘なんて言葉は嘘っぱちだったんだわ。
 お父様に嘘をつかれたじゃない」
「それを僕に言われても……」

 とにかく、身を隠せる場所を探したほうがいいな。
 むやみに動き回っても無駄に消耗するだけだし、死ぬ確率が上がるだけだ。
 どこかに隠れて、助けが来るのを待つしかない。
 この子が派遣された騎士だというなら、ほかにも応援が来てるはず。

「あそこに隠れましょう」

 いい感じの裏路地があった。
 村に裏路地があるなんて、もはや村じゃないだろ。

「ふぅ……ひとまず、ここで身を隠しますよ。
 大きな声を出したりしたら、魔物を呼び寄せることになりかねませんから、くれぐれも注意してくださいね」
「ええ」

 何時間か耐え忍べば、何とかなるだろ。
 何とかなってくれ。

「あんた、何歳なの?」
「五歳です」
「五っ!?
 五歳なのにそんなに喋れて、魔法まで……」
「しーっ!大声を出すなと言いましたよね!
 死にたいんですか!」

 俺は切実に、嘆願するように声を潜めて注意した。

「……ちなみに、あなたは?」
「あたしは八歳よ」
「あなたも、十分饒舌ですよ」
「ジョーゼツ?
 どういう意味よ」
「それは――」

 説明しようとした瞬間、遠くの方でとんでもない音が聞こえた。
 樹皮引きがここまで伝わってきて、胃のあたりが細かく震える感覚を味わった。

「何!?怖いわ!」
「ちょっと!大きな声を出すなと――」

 俺が再び注意をしようとした、その時だった。
 路地の入口から、猿の魔物が顔をのぞかせていた。

「『炎球フレイムボール』!」

 猿の顔面目掛けて魔法を撃ち、撃破した。
 もう居場所がばれた以上、ここにはいられないな。
 出るしかない。

「……え?」

 少女の手を引いて路地を出ると、俺たちはもう魔物に囲まれていた。

 まずいな。
 俺が懸念していたことがこうも早く実現してしまうとは。

 俺が使える魔法は全て初級魔法。
 少なくとも、その中には範囲攻撃ができる魔法はない。

 数えている暇はないが、ざっと十五体くらいか。
 これを一人で相手するとなると……まず無理だよな。

「……逃げてください」
「……えっ?」

 この子だけでも、逃がす。
 これが最終手段だ。

「でも、そんなことしたら……
 あんたが死んじゃうじゃない!
 どうして、そこまでしてあたしを守ろうと……」
「……あなた、本当は騎士なんかじゃないでしょう?」
「――」

 無言は肯定、と捉える。
 少女は途端に何も言わなくなってしまった。

「あなたの顔には見覚えがあります。
 あなたは、『グレイス王国第一王女』、エリーゼ・グレイス。違いますか?」
「――っ
 どうして、分かったのよ」
「次期王様候補ともあろうお方の顔を、グレイス王国民である僕が知らないとでも?
 騎士に扮して来るなら、変装のひとつでもしないと……
 『炎矢フレイムアロー』!」

 体力と精神の消耗が激しいのか、魔法を使ったらクラっとくる。
 反動でよろけて、尻もちをついてしまった。

「それと、なんの関係があるのよ」

「……次代の国を担うかもしれない人を、こんなところで死なせる訳には行かないでしょう……!
 『岩弾ロックショット』……!」

 一発しか出ないせいで、一度に倒せるのは一体だけ。
 こんなことなら、中級くらいまで頑張って仕上げておけばよかった。
 中級からは、かなり技の幅も広がるからな。
 威力も段違いだし、何より範囲攻撃が解放されるのがデカイ。

 ……でも、もうそれも覚えることは叶わないかもしれないな。

「早く……逃げて……」
「……っ
 でも――」
「――早く逃げろ!」
「――っ!」

 少し躊躇って、涙を流したエリーゼは走り出した。

 ……いつも、こうなる。
 変に正義感が強いせいで、俺はいつも貧乏くじを引く羽目になる。
 自業自得とは分かっている。
 でも、どうしても他人の幸せばかりを考えてしまう。

 この悪い癖は、転生しても変わらず残ってたんだな。

 これでよかったんだ。
 これであの子が王様になれば、俺はその命を助けた英雄として語り継がれるかもしれない。
 いや、別にその名誉が目的で逃がしたわけじゃないけど。
 何となく、あの子には生きていて欲しい。
 全ツンデレは、報われるべきだ。

「アクア……アロ……」

 魔力が枯渇するという感覚は、こんな感じなのか。
 この人生、最初で最後の感覚。

 視界が暗くなっていく。
 俺の鼓膜は、猿の鳴き声と燃える炎の音だけを拾っている。
 猿の足の隙間から左の方を見ると、エリーゼが走っていくのが見える。
 良かった。
 ヘイトは全部俺に向いてる。
 
 逃げて、生き延びてくれ。
 今度こそ、さよならだ。

「――葬」

 意識が途絶える直前、何かが聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...