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第1章 幼・少年期 新たな人生編
第十一話 「守りたいから」
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エリーゼがパノヴァ家に来て、一カ月が経過。
ラニカ村での生活にもすっかり慣れて、たまにふらっと一人で遊びに出るくらいになった。
治安のいいグレイス王国の中でもとりわけ平和なラニカ村では、すれ違う人々はみなエリーゼに挨拶をする。
ルドルフが村の「守り人」にエリーゼのことを紹介し、堅苦しくならないように伝えたためか、エリーゼを王女だと思って接している人は一人もいない。
ベルを連れて遊びに行くことも増え、もはや自分が王族だということを忘れているのではないかと思わせるほど、のびのびとした生活を送っている。
「ねえ、お父さん。
あたしに剣術を教えてくれないかしら」
「おっ、来たな。
そろそろ来るんじゃないかと思っていたんだ」
エリーゼは、この家に来る前から決めていた。
誰かに剣術を教わり、もっと強くなりたいと。
「いつでも自衛ができるようにって鍛えられてたんだよな。
でも、もうその必要はないんじゃないか?」
「ベルを守ってあげられるくらい強くなりたいからよ」
「ほーん?
そりゃまたどういう意味なんだ?」
「と、特に深い意味はないわよ!
ただ……」
口を噤んだエリーゼを見て、にやにやしていたルドルフは表情を改める。
腰かけている椅子に座り直し、「どうした?」と問う。
「あの子、まだ五歳でしょ。
それなのに、あたしを守ろうと命を投げ捨ててまで戦おうとしたの。
あたしはベルより三つも歳上なのに、情けないって感じたわ」
エリーゼは、『大猿』襲撃事件の時のことを、今でも鮮明に覚えている。
まだ知り合って間もない、当時は名前すら知らなかったベルが、自分を逃がすために戦おうとしたことを。
その時感じたのは、「情けない」という感情。
自分よりも体が小さいベルに全てを背負わせてしまった自分に対する憤り。
走りながら涙を流したのには、そういう意味があったのだ。
「そうか。 だが、そんなに気負いすぎるなよ」
「どういう意味よ」
「『自分のせいで危ない目に遭わせてしまった』とか、そんなことは考えるな。
ベルはちゃんと生きているだろ?
だから、責任を感じすぎることはない」
「……でも」
「まあ、お前が強くなりたい理由は分かった。
俺は、すごい剣士だからな。
お前を凄い剣士に育て上げてやろう」
「本当?」
「ベルは五日でリタイアした。
耐え抜く覚悟があるなら、教えてやろう」
「望むところよ!」
こうして、ルドルフによるエリーゼの剣術稽古が始まった。
---
エリーゼとルドルフは、家の庭とつながるようにしてグーンと広がっている平原にいる。
「どこまで習得している?」
「炎中級剣術が最高階級よ」
「その年で中級剣士とは……
俺がお前くらいの年の時は、鼻水垂らしながら虫とか食ってたぞ」
「それはお父さんが異常よ」
エリーゼは木剣を腰に提げて、ため息をつく。
木剣のサイズは、ルドルフと同じだ。
最初、ルドルフはベルに持たせていたミニ木剣を渡したが、「舐めるんじゃないわよ」と返されてしまった。
エリーゼは基本的に、誰にでも同じような態度をとる。
家に来たばかりの頃は割と丸かったが、慣れてきたためかとうとうルドルフにまで毒を吐くようになってしまった。
当の本人《ルドルフ》は全く気にしていないため、エリーゼは悪びれる様子もない。
「それで、どんな練習をするのよ」
「リベラータさんからはどんな稽古を受けてきた?」
「リベラは素振りばかりだったわ。
たまに実戦的な剣の打ち合いはしたけど」
「ふむ」
リベラは、基本を重んじる人間だった。
「素振りは毎日怠るな」「一日でもサボれば戻すのに三日かかるぞ」が口癖であるほど、剣術に関しては厳しい人だった。
当時のエリーゼは明確な目標をもって稽古を受けていなかったため、たまに面倒になってサボったことがあった。
そのたびにリベラに叱られ、泣くこともしばしば。
「剣術は、とにかく実戦経験を積むことが大事だ。
どれだけ剣を振るスピードが上がっても、動きを覚えなければ使えない。
申し訳ないが、リベラのやり方には同意できない」
「じゃあ、どうするのよ」
「俺を殺すつもりで、斬りかかって来い」
「……?」
エリーゼは首をかしげる。
だが、ルドルフは至って真剣である。
「言葉のまんまだ。
俺を、殺してみろ」
「でも、本当に死んじゃったらどうするのよ」
「俺はこれでも、世界で二番目に強いとされている剣士なんだ。
ガキンチョなんざに殺されてたまるかよ」
「……何かムカつくわね」
エリーゼの心を揺さぶるルドルフ。
これにはれっきとした意図があった。
エリーゼは、少し怒りっぽいところがある。
そんなエリーゼを挑発することで、エリーゼの全力を見ることができるという考えだ。
人は、怒りの感情を抱いた時に本当の自分が出る。
剣術云々の前に、エリーゼの単純な戦闘能力をはかろうとしているのだ。
「かかって来いよ、エリーゼ。
お前がもたもたしている間に、俺はもうお前を十回は斬っているな」
「ああっもう! うっさいわね!」
「……よし来た」
エリーゼは地面を蹴り上げて、ルドルフに向かって突進する。
剣を振りかぶり、ルドルフの頭を目掛けて振り下ろす。
ルドルフは素早く首を横に傾けて、それをかわす。
空振りに終わったエリーゼは、振り下ろした剣を今度は下から振り上げ、戻り際のルドルフの首を狙う。
ルドルフはそれを、膝をわずかに曲げて再びかわし、更なる追撃をも軽々とかわした。
「くっ……!」
「どうした? 俺はまだ剣すら抜いていないぞ」
ルドルフは、腰に提げている剣を抜かずして、エリーゼの相手をしている。
特級剣士であるルドルフにとって、中級剣士など赤子も同然。
エリーゼも、弱いわけではない。
人よりもかなり速く動くことができ、リベラの稽古のおかげで剣を振る速度も速い。
それでも、エリーゼではルドルフの相手にならない。
中級剣士であるエリーゼはもちろんのこと、水聖級《すいせいきゅう》剣士であるリベラータでも、せいぜい手傷を負わせるのがやっと。
それほどまでに、ルドルフは圧倒的な強さを誇る。
「ふっ!はぁっ!」
エリーゼの速度は徐々に落ちつつある。
それでも、エリーゼは剣を振り続ける。
脳裏に浮かんでいる、あの顔。
苦しそうに魔法を放ちながら、エリーゼに「逃げろ」と叫んだ、幼い少年の顔を。
(もう、あんな顔はさせないわ)
エリーゼの速度が、再び上がった。
「そうだ! もっと速度を上げろ!」
ルドルフはやや興奮気味にエリーゼに言い放った。
(期待以上だ)
剣筋を見てその全ての斬撃を避け続けるルドルフは、腰の剣に手を伸ばす。
しかし、エリーゼの剣撃は止まることを知らない。
剣を抜かせる間もなく、エリーゼは剣を振り続ける。
「はぁぁぁぁぁっ!」
エリーゼは雄叫びをあげて、ルドルフの頭を狙う。
ルドルフの表情に、余裕はない。
「そこまで!」
たまらず、ルドルフはエリーゼを止めた。
その声を聞いて、エリーゼは剣を振る手を止めた。
「もう! 一撃も入れられなかったじゃない!」
「いや、十分だ。 正直、ここまでやるとは思ってなかった。
挑発するようなことをして悪かったな」
「……別に、気にして……」
「途中から速度が上がったのは、俺に腹を立てたからじゃないのか?」
「それもあるわ。 でも、ベルのことを考えると……
『こんなんじゃダメ』って、思えたから」
エリーゼは息を切らして、途切れ途切れにそう語る。
ルドルフは口角を片方だけ上げて、エリーゼはの頭に手を置いた。
「お前、さてはあいつのことが好きだな」
「違うわよ!」
「いっだぁぁぁぁぁぁぁぁ!
おい!『そこまで』って言ったんだから剣を抜くのはなしだろ!」
「さっきから小馬鹿にされてばかりだったから、一発くらい許しなさいよ」
エリーゼは腰に戻した木剣を抜いて、ルドルフの頭を叩いた。
ルドルフは叩かれた場所をさすり、「っつぅ……」と声を漏らす。
「そういえば、お父さんって、世界で二番目に強いって言ってたわよね。
上に一人いるってことなの?」
「そうだ。
ケントロン大陸にある『聖剣道場』剣を学んだ俺は、『剣神』アベルに『剣帝』という称号を授かった。
下から順に、『剣王』、『剣聖』、『剣帝』となる。
剣神はアベルただ一人、剣帝は俺の他に三人いる。
剣聖、剣王と呼ばれる奴らは、剣帝に比べると少し多いな」
ケントロン大陸は、中央大陸と天大陸の間に浮かぶ大陸で、大陸自体が一つの国だ。
地球でいう、オーストラリアのようなもの。
そこにある有名な剣の聖地、『聖剣道場』で剣を学んで結果を示し、認めてもらえれば、『剣神』アベルから四つの中のいずれかの称号を授かることができる。
『剣帝』、『剣聖』、『剣王』。
『剣神』は、アベルしか名乗ることを許されていない、唯一無二の称号である。
「アベルって確か、『七神』の一人よね」
「ああ。 七神の第五位だな」
『七神』とは、世界で最強の戦士と謳われる戦士を総称したものだ。
『龍神』、『魔神』、『獣神』、『天神』、『剣神』、『地神』、そして『月神』の順で序列が決まっている。
なお、『魔人竜大戦』の際の『魔王』と『魔神』、『龍王』と『龍神』は別人である。
「あたしも大きくなったら、その聖剣道場に行きたいわ」
「それまでに、聖級剣士くらいにはならなきゃな」
「遠いわね……」
「お前には素質がある。
俺が見込んだということは、間違いない」
「……それ、僕も言われましたけどね」
「べ、ベル? いたなら一声かけてくれよ」
「お邪魔になるかと思ったから」
「ちょっとあんた……
どこから見てたの?」
「『ベルを守れるくらい』あたりですかね」
ベルの言葉に、エリーゼの頬はみるみるうちに紅潮していく。
そして、剣を抜いてベルを追いかけ始めた。
「待ちなさい!」
「父さん! 助けて!」
「さ、先帰っとくから、晩飯までには帰って来いよー」
「ちょ、父さ……
おいこらルドルフてめぇ! 覚えとけよ……いでっ!」
エリーゼは鬼のような形相をして、ベルの頭を一発殴った。
思わず中の人が出てきてしまったベルは、この後ボコボコに殴られて、ロトアの治癒魔法行となってしまった。
最初の一撃以外は、全て素手によるものであったが。
ラニカ村での生活にもすっかり慣れて、たまにふらっと一人で遊びに出るくらいになった。
治安のいいグレイス王国の中でもとりわけ平和なラニカ村では、すれ違う人々はみなエリーゼに挨拶をする。
ルドルフが村の「守り人」にエリーゼのことを紹介し、堅苦しくならないように伝えたためか、エリーゼを王女だと思って接している人は一人もいない。
ベルを連れて遊びに行くことも増え、もはや自分が王族だということを忘れているのではないかと思わせるほど、のびのびとした生活を送っている。
「ねえ、お父さん。
あたしに剣術を教えてくれないかしら」
「おっ、来たな。
そろそろ来るんじゃないかと思っていたんだ」
エリーゼは、この家に来る前から決めていた。
誰かに剣術を教わり、もっと強くなりたいと。
「いつでも自衛ができるようにって鍛えられてたんだよな。
でも、もうその必要はないんじゃないか?」
「ベルを守ってあげられるくらい強くなりたいからよ」
「ほーん?
そりゃまたどういう意味なんだ?」
「と、特に深い意味はないわよ!
ただ……」
口を噤んだエリーゼを見て、にやにやしていたルドルフは表情を改める。
腰かけている椅子に座り直し、「どうした?」と問う。
「あの子、まだ五歳でしょ。
それなのに、あたしを守ろうと命を投げ捨ててまで戦おうとしたの。
あたしはベルより三つも歳上なのに、情けないって感じたわ」
エリーゼは、『大猿』襲撃事件の時のことを、今でも鮮明に覚えている。
まだ知り合って間もない、当時は名前すら知らなかったベルが、自分を逃がすために戦おうとしたことを。
その時感じたのは、「情けない」という感情。
自分よりも体が小さいベルに全てを背負わせてしまった自分に対する憤り。
走りながら涙を流したのには、そういう意味があったのだ。
「そうか。 だが、そんなに気負いすぎるなよ」
「どういう意味よ」
「『自分のせいで危ない目に遭わせてしまった』とか、そんなことは考えるな。
ベルはちゃんと生きているだろ?
だから、責任を感じすぎることはない」
「……でも」
「まあ、お前が強くなりたい理由は分かった。
俺は、すごい剣士だからな。
お前を凄い剣士に育て上げてやろう」
「本当?」
「ベルは五日でリタイアした。
耐え抜く覚悟があるなら、教えてやろう」
「望むところよ!」
こうして、ルドルフによるエリーゼの剣術稽古が始まった。
---
エリーゼとルドルフは、家の庭とつながるようにしてグーンと広がっている平原にいる。
「どこまで習得している?」
「炎中級剣術が最高階級よ」
「その年で中級剣士とは……
俺がお前くらいの年の時は、鼻水垂らしながら虫とか食ってたぞ」
「それはお父さんが異常よ」
エリーゼは木剣を腰に提げて、ため息をつく。
木剣のサイズは、ルドルフと同じだ。
最初、ルドルフはベルに持たせていたミニ木剣を渡したが、「舐めるんじゃないわよ」と返されてしまった。
エリーゼは基本的に、誰にでも同じような態度をとる。
家に来たばかりの頃は割と丸かったが、慣れてきたためかとうとうルドルフにまで毒を吐くようになってしまった。
当の本人《ルドルフ》は全く気にしていないため、エリーゼは悪びれる様子もない。
「それで、どんな練習をするのよ」
「リベラータさんからはどんな稽古を受けてきた?」
「リベラは素振りばかりだったわ。
たまに実戦的な剣の打ち合いはしたけど」
「ふむ」
リベラは、基本を重んじる人間だった。
「素振りは毎日怠るな」「一日でもサボれば戻すのに三日かかるぞ」が口癖であるほど、剣術に関しては厳しい人だった。
当時のエリーゼは明確な目標をもって稽古を受けていなかったため、たまに面倒になってサボったことがあった。
そのたびにリベラに叱られ、泣くこともしばしば。
「剣術は、とにかく実戦経験を積むことが大事だ。
どれだけ剣を振るスピードが上がっても、動きを覚えなければ使えない。
申し訳ないが、リベラのやり方には同意できない」
「じゃあ、どうするのよ」
「俺を殺すつもりで、斬りかかって来い」
「……?」
エリーゼは首をかしげる。
だが、ルドルフは至って真剣である。
「言葉のまんまだ。
俺を、殺してみろ」
「でも、本当に死んじゃったらどうするのよ」
「俺はこれでも、世界で二番目に強いとされている剣士なんだ。
ガキンチョなんざに殺されてたまるかよ」
「……何かムカつくわね」
エリーゼの心を揺さぶるルドルフ。
これにはれっきとした意図があった。
エリーゼは、少し怒りっぽいところがある。
そんなエリーゼを挑発することで、エリーゼの全力を見ることができるという考えだ。
人は、怒りの感情を抱いた時に本当の自分が出る。
剣術云々の前に、エリーゼの単純な戦闘能力をはかろうとしているのだ。
「かかって来いよ、エリーゼ。
お前がもたもたしている間に、俺はもうお前を十回は斬っているな」
「ああっもう! うっさいわね!」
「……よし来た」
エリーゼは地面を蹴り上げて、ルドルフに向かって突進する。
剣を振りかぶり、ルドルフの頭を目掛けて振り下ろす。
ルドルフは素早く首を横に傾けて、それをかわす。
空振りに終わったエリーゼは、振り下ろした剣を今度は下から振り上げ、戻り際のルドルフの首を狙う。
ルドルフはそれを、膝をわずかに曲げて再びかわし、更なる追撃をも軽々とかわした。
「くっ……!」
「どうした? 俺はまだ剣すら抜いていないぞ」
ルドルフは、腰に提げている剣を抜かずして、エリーゼの相手をしている。
特級剣士であるルドルフにとって、中級剣士など赤子も同然。
エリーゼも、弱いわけではない。
人よりもかなり速く動くことができ、リベラの稽古のおかげで剣を振る速度も速い。
それでも、エリーゼではルドルフの相手にならない。
中級剣士であるエリーゼはもちろんのこと、水聖級《すいせいきゅう》剣士であるリベラータでも、せいぜい手傷を負わせるのがやっと。
それほどまでに、ルドルフは圧倒的な強さを誇る。
「ふっ!はぁっ!」
エリーゼの速度は徐々に落ちつつある。
それでも、エリーゼは剣を振り続ける。
脳裏に浮かんでいる、あの顔。
苦しそうに魔法を放ちながら、エリーゼに「逃げろ」と叫んだ、幼い少年の顔を。
(もう、あんな顔はさせないわ)
エリーゼの速度が、再び上がった。
「そうだ! もっと速度を上げろ!」
ルドルフはやや興奮気味にエリーゼに言い放った。
(期待以上だ)
剣筋を見てその全ての斬撃を避け続けるルドルフは、腰の剣に手を伸ばす。
しかし、エリーゼの剣撃は止まることを知らない。
剣を抜かせる間もなく、エリーゼは剣を振り続ける。
「はぁぁぁぁぁっ!」
エリーゼは雄叫びをあげて、ルドルフの頭を狙う。
ルドルフの表情に、余裕はない。
「そこまで!」
たまらず、ルドルフはエリーゼを止めた。
その声を聞いて、エリーゼは剣を振る手を止めた。
「もう! 一撃も入れられなかったじゃない!」
「いや、十分だ。 正直、ここまでやるとは思ってなかった。
挑発するようなことをして悪かったな」
「……別に、気にして……」
「途中から速度が上がったのは、俺に腹を立てたからじゃないのか?」
「それもあるわ。 でも、ベルのことを考えると……
『こんなんじゃダメ』って、思えたから」
エリーゼは息を切らして、途切れ途切れにそう語る。
ルドルフは口角を片方だけ上げて、エリーゼはの頭に手を置いた。
「お前、さてはあいつのことが好きだな」
「違うわよ!」
「いっだぁぁぁぁぁぁぁぁ!
おい!『そこまで』って言ったんだから剣を抜くのはなしだろ!」
「さっきから小馬鹿にされてばかりだったから、一発くらい許しなさいよ」
エリーゼは腰に戻した木剣を抜いて、ルドルフの頭を叩いた。
ルドルフは叩かれた場所をさすり、「っつぅ……」と声を漏らす。
「そういえば、お父さんって、世界で二番目に強いって言ってたわよね。
上に一人いるってことなの?」
「そうだ。
ケントロン大陸にある『聖剣道場』剣を学んだ俺は、『剣神』アベルに『剣帝』という称号を授かった。
下から順に、『剣王』、『剣聖』、『剣帝』となる。
剣神はアベルただ一人、剣帝は俺の他に三人いる。
剣聖、剣王と呼ばれる奴らは、剣帝に比べると少し多いな」
ケントロン大陸は、中央大陸と天大陸の間に浮かぶ大陸で、大陸自体が一つの国だ。
地球でいう、オーストラリアのようなもの。
そこにある有名な剣の聖地、『聖剣道場』で剣を学んで結果を示し、認めてもらえれば、『剣神』アベルから四つの中のいずれかの称号を授かることができる。
『剣帝』、『剣聖』、『剣王』。
『剣神』は、アベルしか名乗ることを許されていない、唯一無二の称号である。
「アベルって確か、『七神』の一人よね」
「ああ。 七神の第五位だな」
『七神』とは、世界で最強の戦士と謳われる戦士を総称したものだ。
『龍神』、『魔神』、『獣神』、『天神』、『剣神』、『地神』、そして『月神』の順で序列が決まっている。
なお、『魔人竜大戦』の際の『魔王』と『魔神』、『龍王』と『龍神』は別人である。
「あたしも大きくなったら、その聖剣道場に行きたいわ」
「それまでに、聖級剣士くらいにはならなきゃな」
「遠いわね……」
「お前には素質がある。
俺が見込んだということは、間違いない」
「……それ、僕も言われましたけどね」
「べ、ベル? いたなら一声かけてくれよ」
「お邪魔になるかと思ったから」
「ちょっとあんた……
どこから見てたの?」
「『ベルを守れるくらい』あたりですかね」
ベルの言葉に、エリーゼの頬はみるみるうちに紅潮していく。
そして、剣を抜いてベルを追いかけ始めた。
「待ちなさい!」
「父さん! 助けて!」
「さ、先帰っとくから、晩飯までには帰って来いよー」
「ちょ、父さ……
おいこらルドルフてめぇ! 覚えとけよ……いでっ!」
エリーゼは鬼のような形相をして、ベルの頭を一発殴った。
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