空中転生

蜂蜜

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第1章 幼・少年期 新たな人生編

第十四話 「グレイス王宮」

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 朝早く出たおかげで、昼過ぎに到着することができた。
 エリーゼが「久しぶりに来たわ!」と大きな声を出したため周りの人に一瞬で身バレし、大変なことになった。

「でっっっか……!」

 リベラのおかげで何とか逃げ切れた俺達は、王宮の前にいる。
 なんだこの巨大な建造物は。
 本当に人によって建てられたものなのだろうか。
 グレイス王国は中央大陸の中でも大きめな国だから、それだけ王宮もでかいのだろう。知らんけど。

「お待ちしておりました。
 おかえりなさいませ、エリーゼお嬢様、リベラ様」
「もうあたしはここの子じゃないの。
 お嬢様はやめなさい」
「お嬢様がどこへ行こうとも、お嬢様がコーネル様のご息女であることに変わりはありません」
「もうっ! だから嫌なのよ!」

 本当に堅苦しいのが嫌いなんだなぁ……
 それはそれとして。

 うおおおおおお!
 本物のメイドさんだ!
 メイドさんって、メイド喫茶以外にも存在したんだ!

 胸元は開いておらず、露出は控えめ。
 それでも、俺はメイドさんにお目に書かれただけで大満足だ。
 今日はもう帰ってもいいな。

「あなたが、ベル・パノヴァ様でございますか?」
「ひゃい」

 やっべ。
 緊張しちゃって変な声が出た。恥ずかしい。

「お嬢様のお命を救っていただいて、本当にありがとうございました」
「……いえいえ、実は僕の方も一度、命を助けていただいたんです。
 なので、僕からも感謝の言葉を送らせてください」

 エリーゼがいなかったら、俺はあそこで死んでいた。
 エリーゼを産んでくれた王妃様、エリーゼを育ててくれた全ての人たちに感謝をしなければ。

 メイドは「では、ご案内させていただきます」と一言添え、王宮の中へ先導してくれた。
 入り口でっか。
 巨人族でも住んでんのか。

 さて、俺たちは今日からここに一泊二日するわけだが。
 ここでの生活を体験してしまったら、もう元の生活に戻れなくなるかもしれない。

 だって絶対飯とか豪華だし、風呂だってとんでもない広さなんだろ。
 そんでもってベッドはって最高級素材を使っているとか言い出すんだ。
 あ、ここまでは全部俺の妄想だ。

 物珍しそうにキョロキョロと視線が右往左往する俺とは違い、エリーゼは表情を変えずに歩いている。
 これはこの王宮に対する嫌悪感からなのか、それとも久々に帰ってきたから変に緊張しているのかはわからないが、表情はいつもより強張っている。
 エリーゼでもこんな顔するんだな。
 魔物の襲撃の時とはまた違った顔である。

「ほんと、無駄に長い廊下だわ」
「足腰が鍛えられていいじゃありませんか」
「こんなので鍛えられる足腰があってたまるか」

 まあ、普通にこの廊下は長い。
 色んな部屋があるが、これらは全てメイドや使用人などの部屋なのだろう。
 無数にあるが、このくらいの数の使用人がいるということだろうか。
 エリーゼのお父さんの名前はコーネル、といったか。
 代わる代わるメイドさんが夜のご奉仕とかするのかな。
 あまりそういうことを考えるのはやめにしよう。

「こちらが、お客様のお部屋になります。
 リベラ様、エリーゼ様は別室でございます」
「あたしにも客室を用意してくれてるの?」
「いいえ。 お嬢様にはお嬢様の部屋がございます」
「じゃあ嫌。
 それならベルと一緒に部屋で寝るわ」
「おっふ」

 メイドの人は困っているが、珍しくエリーゼのデレが見れた。
 ちゃんと用意してくれてただろうに、ちょっとかわいそうだな。

「かしこまりました。
 それでは、お荷物を置き終わりましたら、陛下とのご謁見でございます」
「お父様には早く会いたいわ」

 この「かしこまりました」は、意訳すると「あっそ。じゃあ勝手にやって」ってところか。

 エリーゼは割と両親のことが好きだ。
 優しいんだろうが、いざ謁見をするってなると緊張するな。
 なんか変な汗かいてきたし。
 ここに泊まらせてもらう以上、ご挨拶は絶対にしなくてはならない。
 ニートだった俺でも、そのくらいの常識はある。

 荷物をおろし、身だしなみを整える。
 寝癖は立っていないか、目くそはついていないか、鼻毛は出ていないかなどを部屋の鏡で確認して、部屋を出た。
 何人もの使用人とすれ違うが、みんな挨拶をしてくれる。
 エリーゼも、「おかえりなさいませ」という言葉にうんざりとしている様子だ。
 帰省気分でいいと思うんだけどなぁ。

 王宮の中は、まさにザ・お城って感じだ。
 いちいちおしゃれな装飾がしてあるし、あちらこちらに生け花なんかが飾られてある。
 床にはもちろん、レッドカーペット。
 土足で歩いていいのか、これ。
 「不敬である」とか言って殺されたりしない?
 使用人が掃除をしてくれるから心配いらないんだろうが、それでも申し訳なく感じてしまう。
 こんな心を持っている俺は、王の器にふさわしくないのだろう。

「――おっ、おかえり、エリーゼ」
「ただいま、テペウス。 久しぶりね」

 ん、誰だ?

「グレイス王国の第一王子だ。
 こんにちは、テペウス様」

「こんにちは。 お勤めご苦労様」

 お、じゃあ、この人はエリーゼのお兄ちゃんか。
 第一王子ってことは、この人こそが最高王位継承者。
 次代の国を担う王様候補の筆頭ってわけだ。

「この子は?」
「初めまして、ベル・パノヴァです」

 俺は右手を胸に当て、深々と頭を下げた。
 これが貴族の挨拶の仕方らしい。
 王族を相手にする時は、やや深めに頭を下げる。
 国王みたいな権力の高い人に対しては、最敬礼くらいの深さまで頭を下げなければならない。
 エリーゼに教わっておいて正解だった。

「お、君が噂の男の子だね。
 礼儀作法もきちんとしている。
 素晴らしい」
「もったいないお言葉です」
「へえ、言葉遣いまで。
 君、うちに住まないかい?
 きっと父様も歓迎してくださるよ」
「ははは」

 この愛想笑いはまずかったかもしれない。
 ありがたいお言葉ですが、丁重にお断りさせていただきます。

 エリーゼとは違う茶色い髪をした、見るからに軽そうな見た目のテペウスは、俺たちをここまで連れてきてくれたメイドに「ここからは僕が案内するよ」と一声かけた。
 メイドは「失礼いたします」と言い残してその場を去っていった。

---

「君は確か、パノヴァ家の子だったかな。
 『剣帝』ルドルフの」
「はい。 面識があるんですか?」
「一度だけね。
 僕が十歳の時だったかな」

 あ、そうか。
 九星執行官撃退の件で、国王に謁見したことがあったって言ってたな。
 エリーゼは当時一歳。
 テペウスはやけに大人びて見えるが、まだ十七歳とかなのか。

 テペウスはその後も、俺が気まずくならないように積極的に話題を振ってくれた。
 こういう気遣いができる人間こそ、王様になるべきだ。
 王選の時絶対にこの人に投票しよ。
 俺に選挙権があるわけないか。

 階段を上がったり廊下を歩いたり、そんなこんなで一つの部屋にたどり着いた。
 他の部屋とは明らかに違う部屋だな。異彩すら放っている。

「ここがお父様の部屋だよ。
 お父様はとても寛大なお方だけど、くれぐれも粗相のないようにね」

 やべえ、胃がキリキリする。
 エリーゼはニコニコで、リベラも何でもない顔をしている。
 こんなに緊張しているのは俺だけだ。
 でも、一国の王と顔を合わせるんだぞ。
 こんな経験、普通に生きてたらこんな機会はない。

 これも貴重な経験だと思って、気張れ。

「お父様。 お客人です」
「入れ」

 ああ、命令口調タイプだ……
 寛大な人っていうのは父親を立てるためのお世辞だったんじゃないか……?

「し、失礼しま――」
「お父様! ただいま!」
「おお、おかえりエリーゼ!
 会いたかったぞ!」

 ……あれ、思ってたのと違う。
 もっと厳かな感じの人だと思っていたが。
 いや、エリーゼには甘いって言ってたな。 
 娘が大好きなだけか。

「お父様、こちらの方がベル・パノヴァです」
「お初にお目にかかります。
 ベル・パノヴァと申します」
「おお、君がワシの可愛い娘の恩人か!よく来てくれた!
 遠いところからわざわざご苦労」

 あ、この人本当にいい人だ。
 見た目こそ威圧感半端ないけど、話してみると意外と。
 ってか、結構老けてるな。
 なんて直接言ったら流石にぶちぎれそうだけど。

 エリーゼが九歳で、テペウスは十七歳(推定)。
 となると、この人は結構歳がいってそうだな。

「ゆっくりしていくといい。
 ここはワシの部屋だが、ワシが許可した人間にはくつろぐことを許している」
「そんな。 恐れ多いですよ」
「ワシに逆らうのか?」
「い、いえ。 そんなつもりは」
「ベルくん。
 お父様からのご厚意は受け取るのが無難だよ」
「はい……」

 早速、怒られてしまった。
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