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第2章 少年期 邂逅編
第三十六話 「決闘」
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「これで最後ですね」
俺は、全ての少女を助け出した。
数にして、15人。
思ったよりも少ないともいえるし、
こんなに多くの少女が攫われていたともいえる。
全員牢屋から出せたのはいいが、これからどうするべきか。
ひとまず街に戻って、俺達が泊まっている宿に連れていくか。
ゆっくりと地上への出口の扉を開き、外を覗き見る。
まだ外は暗い。
「どうするの?」
「安全な場所に連れていきます」
迂闊に動くと、相応のリスクが伴う。
だが、この場に留まれば、ナルシスが戻ってくる。
そしたら、振り出しに戻ってしまうだけだ。
いや、振り出しどころか、俺は間違いなく殺されるだろう。
まだ二人の男の遺体はこの場にあるからな。
「順番に出ましょう」
少女たちには、目を隠し、鼻を覆うように伝えている。
死体を目に入れるとトラウマになる可能性がある。
実際、俺もさっきなりかけた。
燃やしといた方がいいのだろうか。
でもそれはそれで、焦げた臭いが街の方に流れていきそうだしな……
とりあえずはこのままにしておこう。
「ありがとう……」
「お礼は完全に終わってからにしてください。
まだ何があるか分かりませんからね」
「――そうだね。
最後まで、何があるか分からない」
「――!」
この声。
ナルシスだ。
もう少しだったのに。
「皆は中へ入っていてください」
俺は一人の少女に囁いた。
15人の少女は、地下に戻った。
「さて。 君は何をやっているのかな」
「……見ての通りです」
「見ての通り、ね。
せっかく僕達が集めた女の子たちを逃がそうとしているように見えたけど?」
「大正解です」
これで、完全に確定した。
ナルシスを主犯とする、組織的犯行だ。
さっきの二人は、ナルシスの部下か何かだろう。
「どうしたんだい?
君の服には血がついているけど。
もしかして、僕の部下が君に何かしたのかな?」
「……」
「それとも、君が何かしたのかな?」
自分でもわかった。
俺は今、動揺している。
そして、震えている。
「君はまだ小さな子供なのに、立派なことだね。
囚われている少女を助け出し、敵を打ち滅ぼす。
まさに正義のヒーローだ」
「からかってるんですか?」
「いやいや、僕は君を心から尊敬するよ。
そんなに小さな体で、大きなことをしようとしているんだからね」
ナルシスは、俺の肩に手を置いて笑う。
褒められている気はしない。
俺は確かに人を殺した。
こいつはそれを遠回しに指摘し、俺を動揺させようとしている。
「いつから、気づいていたんですか?」
「最初からかな」
「エリーゼも、攫おうとしましたよね」
「あの子は可愛くて、身体も順調に発育が進んでいる。
正直、あの子は奴隷市に出さずに僕が可愛がっても良かったんだけど、そもそも手に入らなかったね」
「お前っ……!」
ゲス野郎が。
絶対お前なんかに渡さねえからな。
あの場にランスロットがいなかったら、危なかったかもしれない。
俺達だけではあの装置に気が付けなかっただろうし、どうしていいか分からなかっただろう。
そんな頼りになる男は、この場にはいない。
「……ランスロットさんは、どうしたんですか?」
「彼とは一度も会っていないよ。
僕を追ってきていることは知っていたけど、顔は合わせていない」
ナルシスを追って行ったはずなのに、一度も会っていないだと?
ナルシスは瞬間移動でもできるのか?
この世に転移魔術みたいな空間移動魔術は存在しないはずだが。
それとも、魔術ではない特殊な能力がそれを可能にしているのか?
「ベル君、君はいい子だと思っていたんだけど、残念だな」
「それは、こっちのセリフですよ」
「どういうことかな?」
「僕も皆も、あなたのことを信じていました。
この街に来たばかりの僕達を親切に案内してくれた時は、心からいい人なんだって」
「僕が観光ガイドをやっているのは本当だ。
だから、あれはあくまで仕事の顔。
本業は、密売人だ」
密売人……それも、人間のか。
この世界はどうしてこんなに殺伐としてるんだ。
「ベル君。
僕は今から、君を殺す」
「……」
「当たり前じゃないか。
いくら子供だからと言って、大人の仕事の邪魔をするようなことは許されるものじゃない」
「あんなに小さな少女たちの未来を奪うことは、許されると」
「何も命を奪うわけじゃないさ。
奴隷として貴族に仕えれば、良い人生経験ができる。
そして、僕達密売人は貴族から儲けを得る。
まさに、ウィンウィンだと思わないかい?」
こいつは、頭がおかしい。
自分たちのやっていることを正当化しているだけだ。
そもそも、家族と共に幸せに暮らしている少女を攫って奴隷として貴族に売ること自体が間違っている。
親も住む家もないような孤児を奴隷市に出すならまだわかるが。
「命を奪わなければ、何をしてもいいってわけじゃない!」
「おっと、何を怒っているのかな。
僕達はただ仕事をしているだけじゃないか」
両手を上げて、怖がるような素振りを見せるナルシス。
もう我慢の限界だ。
「時間稼ぎはもう終わりかな?
子供相手でも容赦はしないよ」
「……」
ナルシスは背中に刺していた剣を抜いた。
もう、戦いは避けられない。
今更命乞いをしても、無駄だ。
俺はナルシスの部下を二人殺しているからな。
足を踏ん張って、ナルシスに視線を固定する。
いつ、どこから来ても対処できるようにしなければ。
「言っておくが、僕は水聖級剣士だ。
君に太刀打ちできるとは思えないが、抵抗するのかな?」
「もちろんですよ」
「何もしなければ、君は幸せに暮らせていただろうに。
可哀想な最期を迎えることになりそうだね」
言ってろよ。
俺が死んだら、あの少女たちはまた今まで通りの生活に戻ってしまう。
そんなことは、絶対にさせない。
あの子達には何の罪もないんだ。
ただ家族と、幸せに暮らしていただけなんだ。
そんな子供たちの幸せを奪うような人間を、俺は人間だと認めない。
酷い扱いを受けるのがどれだけ辛いか、痛いほどわかる。
だから、俺と同じような思いはさせない。
「――」
目の前から、ナルシスの姿が消えた。
右か、左か、それとも上か。
「はァっ!」
「――っ!」
ナルシスは、右から現れた。
こいつ、速い。
エリーゼよりも遥かに速い。
これが、聖級剣士か。
剣のエキスパートと言われるだけあるな。
近接型魔術師を目指している俺ではあるが、まだまだ速度が足りない。
この戦い、とんでもなく俺に不利だ。
「『アイスブレイク』!」
五個連続で撃ったが、どれも命中することはなかった。
全てを剣で弾かれた。
ナルシスの握る剣は水を纏った。
俺の目の前で更に速度を上げ、俺の首目掛けて剣を振りかざす。
「土壁!」
咄嗟に頭上に土の壁を作り、剣撃を止める。
かなりギャンブルだったが、何とか防げた。
しかし、ナルシスの攻撃は止まらない。
「『砕氷』!」
今度は剣が白く光った。
魔術と同じで、水属性と氷属性は同じ扱いなのか。
今は、とにかく攻撃を食らうな。
どこかで必ず隙ができる。
魔物と戦うのとは訳が違う。
お互いに頭を使いながら、駆け引きをしなければならない。
ナルシスは、これでもかと猛攻を仕掛けてくる。
俺はそれを何とか防ぎつつ、ナルシスの動きを見る。
技を出すときには、決まった動きをする。
そうしなければ、技は完成しないからだ。
「っ……!」
「どうしたどうした!
そろそろ攻撃をしてもいいんじゃないかなぁ!」
ナルシスの挑発には乗らず、俺は防戦一方の状態を維持する。
でも、このままじゃジリ貧だな。
「ぐっ……!」
フレイムをナルシスに撃ち、衝撃で俺は後ろに吹っ飛ぶ。
だが、それでいい。
距離をとって、体勢を立て直すんだ。
ここから、攻撃を仕掛けよう。
「『アースウォール』!」
ナルシスの足元に、土壁を作る。
それを、繰り返す。
次から次へと現れる土壁を、ナルシスはテンポよく飛び移る。
どこかで必ず、こっちに飛んでくるはずだ。
――よし、来た。
ここで、俺の目の前に土壁を作る。
「しっ!」
ナルシスはその土壁を剣で真っ二つに斬り、俺の首を捉える。
「!?」
そうはさせない。
俺は直前に横っ飛びして、ナルシスの視界から消えた。
「『ストーンキャノン』!」
ナルシス目掛けて、もう一つの土魔術を放つ。
ナルシスはそれも剣で斬り裂いた。
かかったな、〇ッター。
「うっ……! このガキ……!」
岩の弾という意味合いを持つストーンキャノン。
だが、本質は土だ。
だって土魔術だからな。
俺の放ったストーンキャノンは、ナルシスの剣で粉々になった。
ナルシスの眼前で弾けた土は、目くらましとなってナルシスの視界を奪う。
「『炎竜』!」
一応森の中だから、大きな魔術は使えない。
上級の中でも規模の小さいフレイムドラゴンで、ナルシスを焼き尽くす。
一人殺したら、二人も三人も変わらないだろう。
これは、正しい殺害だ。
「小癪な真似を……するな!」
「……!」
土煙の中から、何かが飛んできた。
剣だ。
気づいたと同時に、俺の太腿に深く突き刺さった。
「が……ああああ!」
人生で経験したどの痛みよりも痛い。
視界がぐらっと揺らぐ。
痛みとふらつきで、俺はその場に尻もちをついた。
……痛がっている時間はない。
痛みは全部忘れるんだ。
土煙が晴れ、気持ちが悪いくらい口角の上がったナルシスが見えた。
地面を蹴り、俺の方に向かおうとしてくる。
「『炎爆』!」
尻もちをついたまま、俺は叫ぶ。
手から放たれた、巨大な火の玉。
自爆覚悟で、この森ごとナルシスを燃やし尽くす。
もう、森の被害なんてどうでもいい。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺とナルシスの叫びが、森中に木霊する。
俺の中に残っている魔力を全て使いきるんだ。
シャルロッテ、ランスロット……
そして、エリーゼ……
約束守れなくて、ごめん…………
俺は、全ての少女を助け出した。
数にして、15人。
思ったよりも少ないともいえるし、
こんなに多くの少女が攫われていたともいえる。
全員牢屋から出せたのはいいが、これからどうするべきか。
ひとまず街に戻って、俺達が泊まっている宿に連れていくか。
ゆっくりと地上への出口の扉を開き、外を覗き見る。
まだ外は暗い。
「どうするの?」
「安全な場所に連れていきます」
迂闊に動くと、相応のリスクが伴う。
だが、この場に留まれば、ナルシスが戻ってくる。
そしたら、振り出しに戻ってしまうだけだ。
いや、振り出しどころか、俺は間違いなく殺されるだろう。
まだ二人の男の遺体はこの場にあるからな。
「順番に出ましょう」
少女たちには、目を隠し、鼻を覆うように伝えている。
死体を目に入れるとトラウマになる可能性がある。
実際、俺もさっきなりかけた。
燃やしといた方がいいのだろうか。
でもそれはそれで、焦げた臭いが街の方に流れていきそうだしな……
とりあえずはこのままにしておこう。
「ありがとう……」
「お礼は完全に終わってからにしてください。
まだ何があるか分かりませんからね」
「――そうだね。
最後まで、何があるか分からない」
「――!」
この声。
ナルシスだ。
もう少しだったのに。
「皆は中へ入っていてください」
俺は一人の少女に囁いた。
15人の少女は、地下に戻った。
「さて。 君は何をやっているのかな」
「……見ての通りです」
「見ての通り、ね。
せっかく僕達が集めた女の子たちを逃がそうとしているように見えたけど?」
「大正解です」
これで、完全に確定した。
ナルシスを主犯とする、組織的犯行だ。
さっきの二人は、ナルシスの部下か何かだろう。
「どうしたんだい?
君の服には血がついているけど。
もしかして、僕の部下が君に何かしたのかな?」
「……」
「それとも、君が何かしたのかな?」
自分でもわかった。
俺は今、動揺している。
そして、震えている。
「君はまだ小さな子供なのに、立派なことだね。
囚われている少女を助け出し、敵を打ち滅ぼす。
まさに正義のヒーローだ」
「からかってるんですか?」
「いやいや、僕は君を心から尊敬するよ。
そんなに小さな体で、大きなことをしようとしているんだからね」
ナルシスは、俺の肩に手を置いて笑う。
褒められている気はしない。
俺は確かに人を殺した。
こいつはそれを遠回しに指摘し、俺を動揺させようとしている。
「いつから、気づいていたんですか?」
「最初からかな」
「エリーゼも、攫おうとしましたよね」
「あの子は可愛くて、身体も順調に発育が進んでいる。
正直、あの子は奴隷市に出さずに僕が可愛がっても良かったんだけど、そもそも手に入らなかったね」
「お前っ……!」
ゲス野郎が。
絶対お前なんかに渡さねえからな。
あの場にランスロットがいなかったら、危なかったかもしれない。
俺達だけではあの装置に気が付けなかっただろうし、どうしていいか分からなかっただろう。
そんな頼りになる男は、この場にはいない。
「……ランスロットさんは、どうしたんですか?」
「彼とは一度も会っていないよ。
僕を追ってきていることは知っていたけど、顔は合わせていない」
ナルシスを追って行ったはずなのに、一度も会っていないだと?
ナルシスは瞬間移動でもできるのか?
この世に転移魔術みたいな空間移動魔術は存在しないはずだが。
それとも、魔術ではない特殊な能力がそれを可能にしているのか?
「ベル君、君はいい子だと思っていたんだけど、残念だな」
「それは、こっちのセリフですよ」
「どういうことかな?」
「僕も皆も、あなたのことを信じていました。
この街に来たばかりの僕達を親切に案内してくれた時は、心からいい人なんだって」
「僕が観光ガイドをやっているのは本当だ。
だから、あれはあくまで仕事の顔。
本業は、密売人だ」
密売人……それも、人間のか。
この世界はどうしてこんなに殺伐としてるんだ。
「ベル君。
僕は今から、君を殺す」
「……」
「当たり前じゃないか。
いくら子供だからと言って、大人の仕事の邪魔をするようなことは許されるものじゃない」
「あんなに小さな少女たちの未来を奪うことは、許されると」
「何も命を奪うわけじゃないさ。
奴隷として貴族に仕えれば、良い人生経験ができる。
そして、僕達密売人は貴族から儲けを得る。
まさに、ウィンウィンだと思わないかい?」
こいつは、頭がおかしい。
自分たちのやっていることを正当化しているだけだ。
そもそも、家族と共に幸せに暮らしている少女を攫って奴隷として貴族に売ること自体が間違っている。
親も住む家もないような孤児を奴隷市に出すならまだわかるが。
「命を奪わなければ、何をしてもいいってわけじゃない!」
「おっと、何を怒っているのかな。
僕達はただ仕事をしているだけじゃないか」
両手を上げて、怖がるような素振りを見せるナルシス。
もう我慢の限界だ。
「時間稼ぎはもう終わりかな?
子供相手でも容赦はしないよ」
「……」
ナルシスは背中に刺していた剣を抜いた。
もう、戦いは避けられない。
今更命乞いをしても、無駄だ。
俺はナルシスの部下を二人殺しているからな。
足を踏ん張って、ナルシスに視線を固定する。
いつ、どこから来ても対処できるようにしなければ。
「言っておくが、僕は水聖級剣士だ。
君に太刀打ちできるとは思えないが、抵抗するのかな?」
「もちろんですよ」
「何もしなければ、君は幸せに暮らせていただろうに。
可哀想な最期を迎えることになりそうだね」
言ってろよ。
俺が死んだら、あの少女たちはまた今まで通りの生活に戻ってしまう。
そんなことは、絶対にさせない。
あの子達には何の罪もないんだ。
ただ家族と、幸せに暮らしていただけなんだ。
そんな子供たちの幸せを奪うような人間を、俺は人間だと認めない。
酷い扱いを受けるのがどれだけ辛いか、痛いほどわかる。
だから、俺と同じような思いはさせない。
「――」
目の前から、ナルシスの姿が消えた。
右か、左か、それとも上か。
「はァっ!」
「――っ!」
ナルシスは、右から現れた。
こいつ、速い。
エリーゼよりも遥かに速い。
これが、聖級剣士か。
剣のエキスパートと言われるだけあるな。
近接型魔術師を目指している俺ではあるが、まだまだ速度が足りない。
この戦い、とんでもなく俺に不利だ。
「『アイスブレイク』!」
五個連続で撃ったが、どれも命中することはなかった。
全てを剣で弾かれた。
ナルシスの握る剣は水を纏った。
俺の目の前で更に速度を上げ、俺の首目掛けて剣を振りかざす。
「土壁!」
咄嗟に頭上に土の壁を作り、剣撃を止める。
かなりギャンブルだったが、何とか防げた。
しかし、ナルシスの攻撃は止まらない。
「『砕氷』!」
今度は剣が白く光った。
魔術と同じで、水属性と氷属性は同じ扱いなのか。
今は、とにかく攻撃を食らうな。
どこかで必ず隙ができる。
魔物と戦うのとは訳が違う。
お互いに頭を使いながら、駆け引きをしなければならない。
ナルシスは、これでもかと猛攻を仕掛けてくる。
俺はそれを何とか防ぎつつ、ナルシスの動きを見る。
技を出すときには、決まった動きをする。
そうしなければ、技は完成しないからだ。
「っ……!」
「どうしたどうした!
そろそろ攻撃をしてもいいんじゃないかなぁ!」
ナルシスの挑発には乗らず、俺は防戦一方の状態を維持する。
でも、このままじゃジリ貧だな。
「ぐっ……!」
フレイムをナルシスに撃ち、衝撃で俺は後ろに吹っ飛ぶ。
だが、それでいい。
距離をとって、体勢を立て直すんだ。
ここから、攻撃を仕掛けよう。
「『アースウォール』!」
ナルシスの足元に、土壁を作る。
それを、繰り返す。
次から次へと現れる土壁を、ナルシスはテンポよく飛び移る。
どこかで必ず、こっちに飛んでくるはずだ。
――よし、来た。
ここで、俺の目の前に土壁を作る。
「しっ!」
ナルシスはその土壁を剣で真っ二つに斬り、俺の首を捉える。
「!?」
そうはさせない。
俺は直前に横っ飛びして、ナルシスの視界から消えた。
「『ストーンキャノン』!」
ナルシス目掛けて、もう一つの土魔術を放つ。
ナルシスはそれも剣で斬り裂いた。
かかったな、〇ッター。
「うっ……! このガキ……!」
岩の弾という意味合いを持つストーンキャノン。
だが、本質は土だ。
だって土魔術だからな。
俺の放ったストーンキャノンは、ナルシスの剣で粉々になった。
ナルシスの眼前で弾けた土は、目くらましとなってナルシスの視界を奪う。
「『炎竜』!」
一応森の中だから、大きな魔術は使えない。
上級の中でも規模の小さいフレイムドラゴンで、ナルシスを焼き尽くす。
一人殺したら、二人も三人も変わらないだろう。
これは、正しい殺害だ。
「小癪な真似を……するな!」
「……!」
土煙の中から、何かが飛んできた。
剣だ。
気づいたと同時に、俺の太腿に深く突き刺さった。
「が……ああああ!」
人生で経験したどの痛みよりも痛い。
視界がぐらっと揺らぐ。
痛みとふらつきで、俺はその場に尻もちをついた。
……痛がっている時間はない。
痛みは全部忘れるんだ。
土煙が晴れ、気持ちが悪いくらい口角の上がったナルシスが見えた。
地面を蹴り、俺の方に向かおうとしてくる。
「『炎爆』!」
尻もちをついたまま、俺は叫ぶ。
手から放たれた、巨大な火の玉。
自爆覚悟で、この森ごとナルシスを燃やし尽くす。
もう、森の被害なんてどうでもいい。
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