空中転生

蜂蜜

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第3章 少年期 デュシス大陸編

第六十四話 「『月神』ルナディア」

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 グッドモーニング、マイワールド。
 あの後、死ぬように眠った。
 というか、一回死んだんじゃないかというレベルですぐに寝落ちした。

 それで……

「……で、ここはどこだ?」

 いや、どこだよここ。
 しかも全然朝じゃねぇし!
 また攫われたっていうのか?

 空を見上げると、綺麗な満月が俺を見ていた。
 体を起こして周りを見渡す。

「――!」

 俺は思わず、息を吞んだ。
 目の前に広がっているのは、綺麗な湖だ。
 神々しささえ感じる青白い光が、その湖から放たれている。
 もしかして、これが「ルナディア湖」ってやつか。
 意図せず観光に来てしまった。

「――目が覚めましたか」

 聞こえたのは、女の声。
 鈴の音のような、揺れるような綺麗な声だ。

「あの、どちら様でしょうか?
 あと、どこにいるんですか?」
「ここに居ますよ」

 うおっ!
 びっくりした!

 真っ青な髪の毛を、両耳の辺りでクルンと巻いている。
 キリッとした青い眉に、キリっと上がった眦。
 一言でいえば、絶世の美女だ。
 今まで見てきたどの女性よりも、美しいという言葉が似合う。
 いや、エリーゼが一番かわいいけども。

「余は、『月神』ルナディアです」
「るっ、ルナディア!?」

 あ、やべ。
 驚きのあまり呼び捨てにしてしまった。
 『七神』ともあろうお方を呼び捨てにするなんて、まずいことをしてしまっただろうか。

「どうして、こんなところに?」
「余は、たまにこうしてこの湖で月光を浴びるのです。
 定期的に満月の光を浴びないと、この『月光剣』は使い物にならなくなってしまいますから」

 そう言って、ルナディアは剣を見せてくれた。

「触ってみますか?」
「えっ、そんな。
 いいんですか?」
「減るものではないので」

 なら、体を触っても文句は言わないってことか。
 ルナディアは肩と腹を出して、胸元だけ隠している。
 締め付けられていて苦しそうだから、解放してあげたい。
 下心とかは、一切ないぞ。
 ないぞ。

「凄い……」
「この世界にこの一本しか存在しない剣です。
 余も、もうこの剣を使い始めてから何十年も経ちます」

 え?
 ってことは、この人ももしかして結構歳がいっているのか?
 シャルロッテみたいな感じで、長命族ってことか?

「僕は、何でこんなところにいるんですか?
 寝ていたはずですけど」
「余が、話し相手のために連れてきました」
「やってること誘拐じゃないですか」
「それは……ごめんなさい」

 まあ、こんな美女に誘拐されるなら許せるか。
 どんな誘拐のされ方をしたんだろうか。
 変なことをされていないだろうか。
 変なことの一つや二つくらいはされててもいいけどな。

「その代わりと言ってはなんですが……
 見返りに、何でも一つ欲しいものを与えます」
「何でも、一つ?」

 あなたが欲しいです。
 なんて言ったら、こんなに優しい目もゴミを見るような目に変わるのだろうか。
 いざ軽蔑の目で見られたら普通に傷つくんだよな。

「例えば、何があるんですか?」
「そうですね……過去には、この剣を求める人も多くいましたが」
「流石にそれは、ダメですよね」
「これを失えば、いよいよ余が戦う術がなくなってしまうので」

 少し笑いながら、ルナディアは『月光剣』を見つめる。
 金色に光り輝くその剣は、見ていてとても惚れ惚れする。
 そりゃ、できることならこの剣が欲しいが。
 いやでも、俺は剣術が使えないしな。

「余が与えられる能力と言えば、例えば『月詠眼つくよみがん』ですね」
「何ですか、それ?」
「簡単に言えば、未来が見える『魔眼』です」
「魔眼……」

 厨二心がくすぐられる響きだ。
 しかも、未来予知ができる目ときた。
 これは、貰えるなら貰っておいた方がいいな。

「それにします」
「分かりました。
 では、こちらに来て下さい」
「どうやってその目を授かるんですか?」
「貴方の眼球を取り出して、月詠眼を埋め込みます」
「やめときます!」
「えっ」
「そこまでして欲しくないです!」
「でっ、ですが、一瞬の痛みに耐えれば、貴方は未来予知ができるようになるんですよ?」
「いいえ! 大丈夫です!
 痛いのは嫌いなので!!」

 せっかくの機会だったが、やめておこう。
 眼球を取り出すなんて、聞いただけで目ん玉が飛び出そうだ。

「では、戦闘に直接役立つ『能力』を一つお教えしましょう」
「能力、ですか?」
「ええ。 剣術は使えますか?」
「使えません。
 一応、魔術は雷聖級ですが」
「その歳で雷聖級とは、驚きましたね」

 そうだろう。
 シャルロッテ師匠のおかげだ。
 いずれは神級魔術師になる予定です。

「それなら、魔術を教えましょう」
「お願いします」

 ルナディアは優しい笑顔で手招きをしている。
 導かれるままにルナディアの元へ歩いていく。

「それでは、失礼します」
「えっ?」

 俺の返事を待たずして、ルナディアは手を伸ばした。
 俺の目に。

「ギャアァァァァァァァ!」

 左目に激痛が走った。
 ジタバタともがくが、全然動けない。
 なんて力だ。逃げられない。

「あまり騒ぐと人が来ますよ。
 大人しくしてください」
「大人しくしろって言う方が無理だって!
 何すんだギィアァァァァァァァ!」

 ものもらいが出来た時の100億倍痛い。
 だって、眼球取り出して目をはめてるんだろ?これ。

「はい、終わりました。
 よく頑張りましたね。 よしよし」
「そんなんじゃ足りません。
 抱き締めてください」
「はい、これでいいですか?」

 柔らかい。
 痛みが全て飛んだ。
 いや、それは嘘だ。
 めちゃくちゃ左目が痛い。

「ゆっくり、目を開けてごらんなさい」

 そう言われ、俺は恐る恐る目を開ける。
 すると、

「み、見えません」
「あ、術をかけるのを忘れていました」

 右半分しか見えない。
 ちゃんと目はついてるのだろうか。

「――『月神』ルナディアの力を以て、この者に『月蝕』の権能を授ける」
「――」

 ルナディアの声と共に、頭が柔らかな熱に包まれる感覚を覚える。
 反射的に目を閉じて、それを受け入れる。

「今度こそ、大丈夫なはずです。
 目を開けてごらんなさい」

 今度こそ大丈夫なんだろうな。
 俺はゆっくりと目を開ける。

 すると、さっきとは違ってちゃんと目が見えるようになった。
 でも、何か見えにくいな。
 左の方だけ異常にぼやけるというか。

 地面には小さな血だまりができている。
 これ、全部俺の目から出た血か。

「数日は慣れないかもしれませんが、我慢してくださいね」
「僕は何の能力を授かったんですか?」
「『月蝕』です」
「何ですか、それ?」
「月が出ている間は、魔力が著しく増大します。
 別名、『月の加護』ですね」
「そんなものがあるんですね」
「今考えました」

 何だそれは。
 見かけによらず、意外と人間っぽい一面もあるんだな。

 ってか、魔術を教えるって言ったよな?
 目ん玉ほじくり出されて魔眼を埋め込まれたんだが。
 俺は騙されたってことか。

「でも、月が出ている間だけなんですか?」
「そうですね。
 ですが、日中に弱体化するなんてことはないので、安心してください」

 なるほど。
 単純に、強くなれたってことか。
 でも、それだけか。
 正直、味わった痛みに見合ってないような気がする。
 それこそ、痛みに耐えた褒美に『月光剣』が欲しい。

「僕の目、どうなってるんですか?」
「左目は、赤い目になっています」
「それ、充血してるわけじゃないですよね?」
「いえいえ。 それは『月蝕眼』。
 一種の『魔眼』ですよ」

 待てよ。
 つまりだ。
 俺は、オッドアイになったということか。
 ちょっと嬉しいな。

 だが、エリーゼ達にはどう説明しようか。
 『月神』に会って魔眼を授かったと言っても、信じてくれるかどうか。

「月が出る夜に魔術を使うと、その目が赤く光ります。
 それが、魔力が増大しているというサインです」
「……本当でしょうね」
「余は人生で、嘘をついたことがありません」

 得意げに胸を張るルナディア。
 どうだかねぇ。

「では、余はそろそろ行きます
 少しの間相手をしてくださり、ありがとうございました。
 また会えた日には、その魔眼の感想を聞かせてください」

 そう言って、ルナディアは目の前から消えた。
 ドップラー効果を残して、文字通りどこかへ消えた。
 本当に神様みたいな人だったな。
 やり方は全然神様じゃなかったけど。
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