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第1章 幼・少年期 新たな人生編
第三話 「魔術教本」
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翌日。
俺はあの後二階に上がって物置部屋を漁ったり、家の中にある本棚という本棚を探しまくって、ようやく魔術教本を見つけた。
ロトアの部屋のベッドの下に落ちていた。
「ゴッホゴッホ……!
何年ここにあったんだよ……」
ロトアの部屋は、かなり汚い。
掃除をサボっているのが丸わかりである。
長い間ベッドの下にあったためか、ホコリにまみれている。
俺の体の半分くらいの大きさがある本を抱えて、庭へと向かった。
ただでさえ自分で降りるのが怖いのに、どでかい本を持ちながらだったから十五分ぐらいかかった。
「体が小さいって不便だな……」
早く大人になりたい、とは思わない。
俺は大人になる辛さを知っているからだ。
ニートだったから、大人になってからの世間は知らないが。
大きな本を地面に広げ、最初のページを開く。
最初のページは目次だ。
おっ、ふりがな付きか。親切だな。
なるほど、属性ごとにページが分かれているのか。
難易度的にはどれが一番難しいんだろうか。
とにかく、実践あるのみ。
昨日は炎魔法をやったから今日は水属性に挑戦してみよう。
「初級水魔法は……『水球《アクアボール》』か」
厳密にはあと四種類の技があるが、これが一番簡単そうだ。
昨日やった感じで右手を前に出して、以下略。
「『水球』」
唱えると、俺の手から水の球が一つ落ちた。
うわ、最悪だ。
靴の上に落ちてきやがった。
でも、マジで楽しいな、これ。
靴の中が濡れてもこんなに気にならないのは初めてだ。
楽しいから、もう一回。
「『水球』」
……ん?
これ、前には飛ばないのか?
初級魔法なのだろうか。
お遊び程度の魔法ってわけか。
あ、そのための魔術教本だった。
何かヒントが書いてあるかもしれない。
「えっと……?
『生み出した水球を射出するコツ』……
これだな」
それらしい文章を見つけた。
まず、同じように水球を生み出す。
ここまでは十秒くらいあればできるようになってきた。
そして、もう一度水球を生み出すつもりで、魔力を流す。
さらに十秒くらいかけて、もう一つ水球ができる感覚を覚えた。
すると、
「うわっ!」
反動で体が後ろに倒れてしまった。
だが、確かに前に飛んだ感覚があった。
すげえ、すげえ!
俺、本格的に魔法使えてね?!
一つが手のひらに生み出されると、
後ろに控えているもう一つの水球がそれを押し出す、みたいなものか。
原理を理解したら、余計に面白いな。
いや、この解釈で合ってるのかは知らないが。
勝手に理解した気になっておくとしよう。
ともあれ、これで魔法を「習得」したことに違いはないだろう。
うっひょー!テンション上がってきたー!
「あーっ! 花壇が!」
「ん?」
体を起こして俺が水球を放った方向を見ると、綺麗に整えられていた花壇がことごとく破壊されているのが見えた。
まったく……いったい誰があんなことを……
「ベル!ちょっと来なさい!」
そんなに力を入れたつもりはなかったんだが、力加減を間違えたか。
俺はロトアに、こっぴどく叱られた。
---
一か月ほど練習を重ねた。
すると、唱えてから射出されるまでの時間が短くなった。
前までは、水球を生み出すまでに十秒、更にもう一つ生み出して射出するまでに十秒、計二十秒もかかっていた。
だが、毎日欠かさず練習を続けた結果、二十秒が十秒以内で収まるようになった。
俺が前世にできなかった「努力」というものの大変さ、そして楽しさを知った。
毎日継続するということは難しいが、必ず力になる。
俺は今、「継続は力なり」を体現しているのだ。
ほかの技にも手を出したいところだが、まずはこの『水球』に磨きをかけてからということにした。
それと、日に日に打てる魔法の量が増えたような気がする。
魔術教本に書いてあったのだが、人には「魔力最大量」というものが存在するらしい。
魔力最大量は、魔術の練習をすればするほどその量は増えていくのだという。
ただしその最大容量には個人差があるらしく、一定の量を超えるとそれ以上最大量が増えることはないらしい。
容量の限界が来たことを体が通知してくれるわけがないので、知る術はない。
爆発して五臓六腑がはじけ飛ぶなんてことがなけりゃいいんだが。
人並み以上にあってくれれば、幅広い魔術に手を出せるんだけどな。
使う魔術の階級が高くなれば、必然的に消費する魔力も増える。
神級の魔術とか、一発撃つだけでぶっ倒れるんじゃなかろうか。
なんでも、神級魔術師は世界に三人しかいないらしい。
ロトアのような特級魔術師は、世界に百人程度。
それでも十分すごいが、上には上がいるんだな。
「――あんっ!あっ……!」
「まだまだ、こんなもんじゃ終わらねえぞっ……!」
それはそうと、今日も今日とて、二人はお盛んだな。
俺が一歳になった頃から、決まって週に三日、行為に及んでいる。
俺はいい子(二十三歳児)だから、早寝をしていると思い込んでいるのだろう。
もちろん日付が変わるころには寝るように心がけているが、寝る前に必ず何か本を読むようにしている。
この物置部屋はたくさん古びた本があるから、それらを読んでいると勉強になる。
この世界に伝わる伝説やおとぎ話なんかもあって面白いんだよな。
特にこの、「銀髪の英雄」。
これはすべて実話をもとに書かれた物語であり、男心をくすぐるような出来事がたくさん描かれている。
絵本だけ読み続けるのはいかがなものかと思い、活字に着手してみた。
かつてこの世界で二度にわたって起こった『魔人竜《まじんりゅう》大戦』。
この世に存在する三種類の種族が三つ巴になって争った戦争であり、一度目は五百年前、二度目は百五十年前に起こった。
その青年は二度目の大戦の時に突然台頭してきて、人族の大将である『帝王』アリアス、魔族の大将である『魔王』メルセデスを討ち、戦乱を鎮めた、という伝説だ。
多少は誇張されているかもしれないが、終盤に近付くにつれて大怪獣バトルになっていくという展開は読んでいてつまらないわけがない。
あまりにも面白すぎて、三日で読み切ってしまった。
ちなみに主人公であるランスロットは長命族だから、まだ生きていてもおかしくはない。
俺もこんな伝説残してえなぁ……
「あんっ!あなたっ!もうっ……!
あっ!んっ……!」
………………もう少し、静かにできないだろうか。
俺はあの後二階に上がって物置部屋を漁ったり、家の中にある本棚という本棚を探しまくって、ようやく魔術教本を見つけた。
ロトアの部屋のベッドの下に落ちていた。
「ゴッホゴッホ……!
何年ここにあったんだよ……」
ロトアの部屋は、かなり汚い。
掃除をサボっているのが丸わかりである。
長い間ベッドの下にあったためか、ホコリにまみれている。
俺の体の半分くらいの大きさがある本を抱えて、庭へと向かった。
ただでさえ自分で降りるのが怖いのに、どでかい本を持ちながらだったから十五分ぐらいかかった。
「体が小さいって不便だな……」
早く大人になりたい、とは思わない。
俺は大人になる辛さを知っているからだ。
ニートだったから、大人になってからの世間は知らないが。
大きな本を地面に広げ、最初のページを開く。
最初のページは目次だ。
おっ、ふりがな付きか。親切だな。
なるほど、属性ごとにページが分かれているのか。
難易度的にはどれが一番難しいんだろうか。
とにかく、実践あるのみ。
昨日は炎魔法をやったから今日は水属性に挑戦してみよう。
「初級水魔法は……『水球《アクアボール》』か」
厳密にはあと四種類の技があるが、これが一番簡単そうだ。
昨日やった感じで右手を前に出して、以下略。
「『水球』」
唱えると、俺の手から水の球が一つ落ちた。
うわ、最悪だ。
靴の上に落ちてきやがった。
でも、マジで楽しいな、これ。
靴の中が濡れてもこんなに気にならないのは初めてだ。
楽しいから、もう一回。
「『水球』」
……ん?
これ、前には飛ばないのか?
初級魔法なのだろうか。
お遊び程度の魔法ってわけか。
あ、そのための魔術教本だった。
何かヒントが書いてあるかもしれない。
「えっと……?
『生み出した水球を射出するコツ』……
これだな」
それらしい文章を見つけた。
まず、同じように水球を生み出す。
ここまでは十秒くらいあればできるようになってきた。
そして、もう一度水球を生み出すつもりで、魔力を流す。
さらに十秒くらいかけて、もう一つ水球ができる感覚を覚えた。
すると、
「うわっ!」
反動で体が後ろに倒れてしまった。
だが、確かに前に飛んだ感覚があった。
すげえ、すげえ!
俺、本格的に魔法使えてね?!
一つが手のひらに生み出されると、
後ろに控えているもう一つの水球がそれを押し出す、みたいなものか。
原理を理解したら、余計に面白いな。
いや、この解釈で合ってるのかは知らないが。
勝手に理解した気になっておくとしよう。
ともあれ、これで魔法を「習得」したことに違いはないだろう。
うっひょー!テンション上がってきたー!
「あーっ! 花壇が!」
「ん?」
体を起こして俺が水球を放った方向を見ると、綺麗に整えられていた花壇がことごとく破壊されているのが見えた。
まったく……いったい誰があんなことを……
「ベル!ちょっと来なさい!」
そんなに力を入れたつもりはなかったんだが、力加減を間違えたか。
俺はロトアに、こっぴどく叱られた。
---
一か月ほど練習を重ねた。
すると、唱えてから射出されるまでの時間が短くなった。
前までは、水球を生み出すまでに十秒、更にもう一つ生み出して射出するまでに十秒、計二十秒もかかっていた。
だが、毎日欠かさず練習を続けた結果、二十秒が十秒以内で収まるようになった。
俺が前世にできなかった「努力」というものの大変さ、そして楽しさを知った。
毎日継続するということは難しいが、必ず力になる。
俺は今、「継続は力なり」を体現しているのだ。
ほかの技にも手を出したいところだが、まずはこの『水球』に磨きをかけてからということにした。
それと、日に日に打てる魔法の量が増えたような気がする。
魔術教本に書いてあったのだが、人には「魔力最大量」というものが存在するらしい。
魔力最大量は、魔術の練習をすればするほどその量は増えていくのだという。
ただしその最大容量には個人差があるらしく、一定の量を超えるとそれ以上最大量が増えることはないらしい。
容量の限界が来たことを体が通知してくれるわけがないので、知る術はない。
爆発して五臓六腑がはじけ飛ぶなんてことがなけりゃいいんだが。
人並み以上にあってくれれば、幅広い魔術に手を出せるんだけどな。
使う魔術の階級が高くなれば、必然的に消費する魔力も増える。
神級の魔術とか、一発撃つだけでぶっ倒れるんじゃなかろうか。
なんでも、神級魔術師は世界に三人しかいないらしい。
ロトアのような特級魔術師は、世界に百人程度。
それでも十分すごいが、上には上がいるんだな。
「――あんっ!あっ……!」
「まだまだ、こんなもんじゃ終わらねえぞっ……!」
それはそうと、今日も今日とて、二人はお盛んだな。
俺が一歳になった頃から、決まって週に三日、行為に及んでいる。
俺はいい子(二十三歳児)だから、早寝をしていると思い込んでいるのだろう。
もちろん日付が変わるころには寝るように心がけているが、寝る前に必ず何か本を読むようにしている。
この物置部屋はたくさん古びた本があるから、それらを読んでいると勉強になる。
この世界に伝わる伝説やおとぎ話なんかもあって面白いんだよな。
特にこの、「銀髪の英雄」。
これはすべて実話をもとに書かれた物語であり、男心をくすぐるような出来事がたくさん描かれている。
絵本だけ読み続けるのはいかがなものかと思い、活字に着手してみた。
かつてこの世界で二度にわたって起こった『魔人竜《まじんりゅう》大戦』。
この世に存在する三種類の種族が三つ巴になって争った戦争であり、一度目は五百年前、二度目は百五十年前に起こった。
その青年は二度目の大戦の時に突然台頭してきて、人族の大将である『帝王』アリアス、魔族の大将である『魔王』メルセデスを討ち、戦乱を鎮めた、という伝説だ。
多少は誇張されているかもしれないが、終盤に近付くにつれて大怪獣バトルになっていくという展開は読んでいてつまらないわけがない。
あまりにも面白すぎて、三日で読み切ってしまった。
ちなみに主人公であるランスロットは長命族だから、まだ生きていてもおかしくはない。
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