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風の冷たい夕暮れ。佐切友也の通う大学は周辺が住宅街ということもあり、買い食いのできる商店街が近くにあった。学生の一部はこの商店街でバイトをしている。友也はそこでバイトをしているわけではないが、下宿先がその商店街の先にあるため、日々利用している。自転車通学の十分程度が辛かった夏が終わり、あっという間に寒さを感じる季節になった。年々夏が伸びて、秋が短くなってきている気がするので、貴重な季節といえるかもしれない。友也は寒さから、商店街の惣菜屋でコロッケを買って頬張っている。コロッケは好きだが、独り暮らしでは中々食べる機会に恵まれない。入学から半年、踏ん切りをつけて見知らぬ町の惣菜屋に足を踏み入れてから、週に一度は学校帰りに購入している。購入頻度は友也の授業に影響されていて、午後が一コマで終わる曜日に利用している。二コマあると、帰路の時間が夕飯時になってしまうためだ。友也はご飯のおかずというよりも単体として食べるコロッケが好きだ。午後の授業が一コマの曜日は週に二度あるが、今週は二度目のコロッケだった。寒さが友也にコロッケの頻度を向上させているようだ。
商店街が終わると辺りは一軒家の並び立つ町並みで、人の通りはまばらだ。友也は食べ終わったコロッケの包み紙をビニール袋にしまい、併せてもらった使い捨てフキンで口許をぬぐう。友也の通う惣菜屋ではコロッケが二種類あり、肉ありと肉なしだ。値段が違うわけだが、どちらにしろ良いところがあり、食べ分けも楽しめる。しばし至福である。友也が前方に視線を向けると、この近辺ではめずらしい人だかりができていた。友也はこの通学路を利用しはじめてから、この辺りの家は無人なのではないか、と疑うほどの人通りの少なさだったが、どうやらそれは杞憂だったらしい。電信柱の辺りを中心に囲うように数人の人が集まっている。自転車をこぎながら人の隙間に視線を向ける。…。停車。友也は思わずブレーキをかけた。人が倒れている。
友也は停車させた自転車に乗ったまま、電信柱の根元に横たわる男の姿を見ていた。男の周囲のアスファルトに血が広がっていた。死んでいるかもしれない。そう思うほどの血の量だった。いつのまにか手に汗をかいていたことに気づいた。友也は道の真ん中で自転車を停車させて塞いでいたことに気づいて、自分にどうすることもできない事態とも思えたので、走り去ろうと思った。すると、男を囲っていた人の中から、自分と年の変わらないくらいの小柄な女の子が男に歩み寄るのが見えた。友也は再び動きを止める。女の子は男の前でかがみ、血に触らないように気を付けながら、男に触れた。友也は、あっ、と思わず声を出してしまった。死体に触るというのが、なんだかしてはいけないように思えたからだったが、そもそも男が死んでいるとは限らないと気づいた。もし救える命ならできる処置があるかもしれない、と思い直して、友也は自転車を停めて、男の方に移動しようとした。しかし、近づくほど、男の死が生々しくなるだけに見えた。それでも女の子は男の体を幾度か触り、そして、うつ伏せの男の体を横から少し持ち上げた。その瞬間、友也は金属の輝きを確認した。ああ、ナイフがお腹に刺さっているのだ。そう理解できた。友也はそこで、女の子が男を助けようとしているのではなく、男を調べているのかもしれないと思った。
黒の長い髪の毛に黒のレザージャケット、黒のロングスカート、という全身黒の彼女が男の見聞をする姿はまるで葬式のような印象を友也に抱かせた。友也はその雰囲気に不謹慎だのと言葉をかける気にはなれなかった。周りの人たちも同じ意識なのだろうか。それとも単に関わらないように思うだけなのだろうか。友也は近づいてくるパトカーと救急車のサイレンに気をとられる。視線を男に戻したとき、先ほどまでの黒ずくめの彼女は見当たらなかった。
商店街が終わると辺りは一軒家の並び立つ町並みで、人の通りはまばらだ。友也は食べ終わったコロッケの包み紙をビニール袋にしまい、併せてもらった使い捨てフキンで口許をぬぐう。友也の通う惣菜屋ではコロッケが二種類あり、肉ありと肉なしだ。値段が違うわけだが、どちらにしろ良いところがあり、食べ分けも楽しめる。しばし至福である。友也が前方に視線を向けると、この近辺ではめずらしい人だかりができていた。友也はこの通学路を利用しはじめてから、この辺りの家は無人なのではないか、と疑うほどの人通りの少なさだったが、どうやらそれは杞憂だったらしい。電信柱の辺りを中心に囲うように数人の人が集まっている。自転車をこぎながら人の隙間に視線を向ける。…。停車。友也は思わずブレーキをかけた。人が倒れている。
友也は停車させた自転車に乗ったまま、電信柱の根元に横たわる男の姿を見ていた。男の周囲のアスファルトに血が広がっていた。死んでいるかもしれない。そう思うほどの血の量だった。いつのまにか手に汗をかいていたことに気づいた。友也は道の真ん中で自転車を停車させて塞いでいたことに気づいて、自分にどうすることもできない事態とも思えたので、走り去ろうと思った。すると、男を囲っていた人の中から、自分と年の変わらないくらいの小柄な女の子が男に歩み寄るのが見えた。友也は再び動きを止める。女の子は男の前でかがみ、血に触らないように気を付けながら、男に触れた。友也は、あっ、と思わず声を出してしまった。死体に触るというのが、なんだかしてはいけないように思えたからだったが、そもそも男が死んでいるとは限らないと気づいた。もし救える命ならできる処置があるかもしれない、と思い直して、友也は自転車を停めて、男の方に移動しようとした。しかし、近づくほど、男の死が生々しくなるだけに見えた。それでも女の子は男の体を幾度か触り、そして、うつ伏せの男の体を横から少し持ち上げた。その瞬間、友也は金属の輝きを確認した。ああ、ナイフがお腹に刺さっているのだ。そう理解できた。友也はそこで、女の子が男を助けようとしているのではなく、男を調べているのかもしれないと思った。
黒の長い髪の毛に黒のレザージャケット、黒のロングスカート、という全身黒の彼女が男の見聞をする姿はまるで葬式のような印象を友也に抱かせた。友也はその雰囲気に不謹慎だのと言葉をかける気にはなれなかった。周りの人たちも同じ意識なのだろうか。それとも単に関わらないように思うだけなのだろうか。友也は近づいてくるパトカーと救急車のサイレンに気をとられる。視線を男に戻したとき、先ほどまでの黒ずくめの彼女は見当たらなかった。
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