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「獅童宰都、、」弥伊子は授業中誰にも聞こえないような小さな声で呟いていた。今までずっと頭の中の存在でしかなかった彼に名前ができた。しっくりこない、というのは変な感想だろうか。時間が空いて、あの図書室での出来事が幻のような時間に思えていたのだ。そこに突然、現実が重なってしまった。嬉しいことに違いないはずだ。私はその為に、そう、それを夢見て図書室に通い続けたのだから。そうだ、授業の後に様子を見に行こう。獅童宰都はなんと同学年だった。二つとなりの教室に彼は、弥伊子と同じように席について、同じように授業を聞いているはずだ。あたり前のことなのに、なぜかピンとこない。彼に会って現実を実感しなくてはならない。
廊下は騒がしく話す生徒たちで溢れている。彼らの日常。自分の含まれていたはずの風景に溶け込みきれないのは、自分が緊張しているせいだとわかった。獅童宰都の教室の前で急にどうやって人の教室を覗き込んだらいいのかわからなくなって少しパニックになった。不自然ではないだろうか。そう思うと途端に恥ずかしくなってきた。辺りの生徒が自分に対して違和感を感じているような気がする。みんなが見ている、そんな気がした。
「宰都、お前なんで授業でてなかったのにさっき答えられてたんだよ?」
彼の名前が聞こえたときに教室の中を見た。彼は窓際の席にいた。
「自習はしてたからね」
「自習してたお前に負けてたら俺は学校に来てる意味がねぇな」
「ほんとだ」
「否定しろよ」
獅童宰都はクラスメイトの男子と話している。自然な笑顔に目が話せない。ああ、やはり自分には彼が特別なんだな、と変に納得してしまった。
「獅童くんはあんたみたいな木偶の坊とは違うの、ねぇ獅童くん」
髪を巻いた女子生徒が獅童宰都へ話しかけた。獅童宰都は笑顔で応える。途端に弥伊子は落ち込んだ。あれ、なんで、なんだか廊下の空気が暗くなったように感じられた。クラスの子と話すことなんて当たり前なのに、弥伊子と獅童宰都の二人だけの図書室の時間が汚されてしまったように感じた。
「お前、俺のバスケの試合見てみろよ。俺を木偶の坊なんて二度と言えなくなるぞ」
「行くわけないでしょ」
「んだよ」
「また後でね獅童くん」
巻髪の子は獅童宰都へ笑い掛けてそばを離れた。獅童宰都と話をしていた男子生徒も移動した。獅童宰都に視線を戻す、途端に声が漏れそうになった。こちらを不審そうに見ていた。そこから弥伊子は自分の席に着くまで何をしたか覚えていない。慌ててかけ戻った、のだろう。頭が真っ白になって逃げ出してしまったのだ。なぜだろう、あんなに、あんなにも会いたかった、話をしたかった相手のはずなのに。そう、そうだ。あの巻き髪の子のような自信が自分に持てなかったのだ。恐らく獅童宰都に対して気があるのだろう彼女、彼女は遠目で見ても化粧が上手く、髪を整えていた。そうなのだ、大切な相手へ向き合う準備をしていたのだ。私は、私はどうなんだろうか。何か自分を変えられていたのだろうか。彼が私を見てくれるような何かを。その時、昨晩の鏡の前の自分を思い出した。あの時の私なら獅童宰都へ自信を持って話しかけることができるだろうか。
廊下は騒がしく話す生徒たちで溢れている。彼らの日常。自分の含まれていたはずの風景に溶け込みきれないのは、自分が緊張しているせいだとわかった。獅童宰都の教室の前で急にどうやって人の教室を覗き込んだらいいのかわからなくなって少しパニックになった。不自然ではないだろうか。そう思うと途端に恥ずかしくなってきた。辺りの生徒が自分に対して違和感を感じているような気がする。みんなが見ている、そんな気がした。
「宰都、お前なんで授業でてなかったのにさっき答えられてたんだよ?」
彼の名前が聞こえたときに教室の中を見た。彼は窓際の席にいた。
「自習はしてたからね」
「自習してたお前に負けてたら俺は学校に来てる意味がねぇな」
「ほんとだ」
「否定しろよ」
獅童宰都はクラスメイトの男子と話している。自然な笑顔に目が話せない。ああ、やはり自分には彼が特別なんだな、と変に納得してしまった。
「獅童くんはあんたみたいな木偶の坊とは違うの、ねぇ獅童くん」
髪を巻いた女子生徒が獅童宰都へ話しかけた。獅童宰都は笑顔で応える。途端に弥伊子は落ち込んだ。あれ、なんで、なんだか廊下の空気が暗くなったように感じられた。クラスの子と話すことなんて当たり前なのに、弥伊子と獅童宰都の二人だけの図書室の時間が汚されてしまったように感じた。
「お前、俺のバスケの試合見てみろよ。俺を木偶の坊なんて二度と言えなくなるぞ」
「行くわけないでしょ」
「んだよ」
「また後でね獅童くん」
巻髪の子は獅童宰都へ笑い掛けてそばを離れた。獅童宰都と話をしていた男子生徒も移動した。獅童宰都に視線を戻す、途端に声が漏れそうになった。こちらを不審そうに見ていた。そこから弥伊子は自分の席に着くまで何をしたか覚えていない。慌ててかけ戻った、のだろう。頭が真っ白になって逃げ出してしまったのだ。なぜだろう、あんなに、あんなにも会いたかった、話をしたかった相手のはずなのに。そう、そうだ。あの巻き髪の子のような自信が自分に持てなかったのだ。恐らく獅童宰都に対して気があるのだろう彼女、彼女は遠目で見ても化粧が上手く、髪を整えていた。そうなのだ、大切な相手へ向き合う準備をしていたのだ。私は、私はどうなんだろうか。何か自分を変えられていたのだろうか。彼が私を見てくれるような何かを。その時、昨晩の鏡の前の自分を思い出した。あの時の私なら獅童宰都へ自信を持って話しかけることができるだろうか。
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