誰の目にも輝きを

ヨージー

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 弥伊子が物語を書き始めたことに深い意味はない。ただ、獅童宰都に連れられ様々な物語へ触れるなかで、自分でも何か作れるのではないか、といった思い付きと、獅童宰都への気持ちを弥伊子が一人でいる間ぶつける向きが欲しかった、という点だった。弥伊子の獅童宰都への思いが溢れるほどに、こぼれ落ちる気持ちは言葉となって物語を成した。それは決して人に見せることのないもの、そういうことで作られた物語。だからこその自由で突飛な物語となった。それが運悪く、運良く一目についたのは芦屋恭子が弥伊子の家を再訪したタイミングで見つけられたためだ。その場で芦屋恭子が弥伊子と話していればそれより外には広がらなかったかもしれないが、芦屋恭子は、弥伊子の居ぬ間に手早く読み終えると、手帳に記されたその物語を手帳ごと自分の荷物に忍ばせた。翌日には演劇部の部長ら運営となる部員たちに閲覧させた行動力は目を見張るものがある。弥伊子が手帳の喪失に気づく頃にはすでに公演題目として活用できるかの最終チェックとなっていた。これには演劇部員たちが公演題目を見つけられずにいたことも幸い、災いした。弥伊子が芦屋恭子に事実を伝えられたころにはすでに物語は弥伊子の手を離れていた。
 芦屋恭子が物語手に演劇部に現れた情報は部員間を通じてすぐに広まった。そこにいち早く反応したのは藤田飛鳥だ。ところがいち早く反応できたはずの藤田飛鳥だが、芦屋恭子と部長たちの画策により、情報を知るタイミングが操作され藤田飛鳥が普段通り部活動に顔を出すまで藤田飛鳥はその話を知らされずにいた。これは藤田飛鳥が芦屋恭子に対してひどく苦手意識を持っていることが周知の事実だったためだ。かつて幾度かに及び、藤田飛鳥と芦屋恭子の合作とも呼べる公演は行われている。これらはかなりの評判となり賞賛されていた。けれど当事者の一方、藤田飛鳥は嫌がった。藤田飛鳥は自身でプランニングをした芦屋恭子ノータッチの公演を一度上演までこぎつけたことがある。これが先述した弥伊子が見た公演だ。しかし、この公演は可もなく不可もなく、あまり目だった成果とはいかなかった。藤田飛鳥が芦屋恭子からのオファーから逃げる日々、芦屋恭子は新たな逸材を求めて学内を練り歩いた。途中から意図が変わった点もあるが、この点が芦屋恭子が演劇部に顔を出さずに多くの生徒をメイクし始めたきっかけとなっている。つまりは藤田飛鳥のメイク姿が大変人気だったのだ。もちろん女形をしたわけで、当人は恥ずかしさのあまり部外にその情報が漏れることを恐れた。その条件をのむかたちでの公演だったため、藤田飛鳥が女形のこなせる俳優とは広まらなかった。けれど演劇部員には名前もわからぬ女優に対する質問があとをたたなかったとも言う。なかにはラブレターを託された部員もいた。藤田飛鳥は幸いにしてか、地声が高く、声にあまり気を使わなくてもよかった。当人としては出演経験になったものの植え付けられたコンプレックスの方が重かったとのちに他の部員に漏らしている。なんとか逃げた藤田飛鳥も芦屋恭子による執拗な追跡により捕縛される。芦屋恭子は一度藤田飛鳥にメイクを施してからえらく題材として気に入り、藤田飛鳥をとらえては公演に問わずメイクの練習台としていた。この追走劇は演劇部以外に気づかれない藤田飛鳥の危機察知のスキルと勘の良さから事実に気づいている部員以外の生徒はほぼいない。今回の公演のために弥伊子に知られてしまったことを藤田飛鳥はショックだったようだが、弥伊子の脚本ということで、比較的素直に引き受けてくれた。芦屋恭子はこだわりからシーンごとにメイクを変えるといい、練習から藤田飛鳥につきあっている。なんなら弥伊子にシーンの意図を伺うこともあった。そんなやり取りをする芦屋恭子に弥伊子は芦屋恭子の夢の形をみた。弥伊子は結果として獅童宰都と過ごす時間が他に人がいるにしても増えてそこは芦屋恭子に感謝している。須藤綾が芦屋恭子に直談判したとも聞いたが演劇部からの反発で実現していない。公演当日は写真部として参加すると田代啓司に声高に宣言していたらしい。
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