資産家の秘密

ヨージー

文字の大きさ
1 / 13

1.

しおりを挟む
 紅葉が地域によってはみられ始める頃、黄瀬中学校の修学旅行は最後の夜を迎えていた。一クラスは三十名ほどで構成され、今年の修学旅行には三クラスが出向いていた。クラスごとに男女三班編成で分かれていた。二組の男子B班は他の部屋の男子たちとは異なり、比較的静かな夜の余興に及んでいた。
 明かりを落とした和室。並べられた人数分の布団。布団はそれぞれ膨らんでいる。それぞれが布団を頭からかぶり、声を潜めて話している。他に騒ぎを起こしている部屋もあるため、彼らが声を潜めなくてはならない理由はない。ただ、その話題の雰囲気がそうさせていた。
「俺実は、真田中の女子と付き合ってる」
 少年が一人ぼそぼそと話す。
「は、え、なんで」
 もう一人の少年が声を一瞬荒立て、すぐに声をすぼめて続ける。
「どこで会ったのさ」
「テニス部の対外試合」
「ナンパか?」
「いや、水道に水を飲みに行ったらばったりと」
 少年は苦々しく答える。
「ナンパか」
 一同が落胆とも、興奮ともとれるため息を漏らした。
「早く次に行けよ」
 秘密を暴露した少年は隣の少年に視線を送る。
「待てよ、もっと詳しく」
「ふざけんな、ほら、早く、智樹」
 智樹はせかされ、布団から顔を出す。
「秘密ねぇ、そんな隼人君みたいな話はないんだけど」
「もったいぶるなよ」
 智樹はせかす少年らを両手を使ったジェスチャで納める。
「おれはね、家に秘密がある」
「お、あの豪邸の秘密か」
「圭介、話の腰を折るなよ」
「悪い、悪い。ほら、智樹」
「えと、そうだね。実は俺も最近まで知らなかったし、今も完全に知っているわけじゃないんだけど」
「もったいぶるね」
「そういうつもりではないんだけど、今年の春じいちゃんが死んじゃったのは知ってるよね」
「…智樹やすんでたな」
「うん、それでね、じいちゃんがなくなるとき、少しだけ俺とじいちゃんだけになる時間があったんだ」

 広い部屋の壁には大きな絵画が飾られている。その向かいには大きさは普通のシングルサイズの、だが質のいいシーツの使われたベッドがある。間島久良木はそこに小さく収まっている。孫の間島智樹が彼の傍らにいる。中学生の孫が横になっている祖父の脇に何をするでもなくただ座っている。久良木は昨年から体調がすぐれない。医師からはもうあまり時間はないという話で久良木は自宅に戻ってきていた。しかし、久良木は予想に反して帰宅後元気に振る舞っていた。食欲も旺盛で、中学生の智樹に引けを取らなかった。それでも、年を開けたころから徐々に久良木の元気にも陰りが見えてきた。智樹の両親も、普段は共働きで、家にいないことが多いが、そのころは、少なくともどちらかが、家にいる時間を一日の内何時間か設けていた。
 その時智樹の母親は訪問してきた医師と共に席をはずしていた。智樹の祖母は智樹が生まれる前に亡くなっている。久良木には兄弟もなく、自身の子どももひとりだ。そのため、事ここに至っても、多くの人に囲まれる事態にはならなかった。久良木は自身が引退すると同時に自身の会社をたたんでいる。会社の関係者ともそこから疎遠になり、久良木が家に帰ってからは何度か訪問を受けたが、最近はもう見かけない。部屋には久良木と智樹の二人きりだった。

「智樹、お前も大きくなったな」
 智樹は薄く目を開ける祖父に焦点を合わせる。
「なにさ、突然」
間島久良木は歯を見せて微笑んだ。
「はは、そろそろ秘密を守れるだろう」
「秘密?」
「そう、秘密だ。この屋敷にはな、わしの他、誰も知らない部屋がある。もし、その部屋を見つけられたら、智樹、お前の好きにしていい」
久良木はそういうと智樹の額を震える指先で小突いた。

「ってことなんだけど」
「いや、おじいさんには悪いけど、別荘とかでなく、住んでる家にそんなの作れるかね」
その発言があって、智也に視線が集まった。
「…、うん、そうなんだよね。そこがわからない」
「ダメじゃん」
沈黙が場を包む。
「そろそろ、寝るか」
「オッケー」

修学旅行はすべてのカリキュラムを終えて、生徒たちは思い出話をバスの座席で語り合っている。智樹は窓の外の景色を眺めていた。
「おい、智樹」
「圭介、席移動しちゃダメだろ」
「交換した」
圭介は元の席に移ったクラスメイトに片手でわびた。
「でさ、話なんだけど」
「なんの?」
「んなもん、秘密の部屋についてに決まってっしょ」
「あ、それか」
「いまさら、嘘だったなんて言うなよ」
「え、いや、うそではないな」
「ほんとなんだな」
「見つかってないのもほんと」
「ちゃんと見て回ったのか」
「いや、家族にも言っちゃいけない感じだったからね」
「うんうん、オッケー」
「なにが?」
「俺も今度探しに行くわ」
智樹は一瞬言葉に詰まる。
「ほんき?」
「本気も本気」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

処理中です...