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第二章
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「ひ、氷高……だから、俺……この先誰かとその……き、キスしようとか今は思ってないから、練習はいらない、……」
「夜の公園はキスをするには最高の場所ですね、契さま」
「だから話を聞いて!?」
広い公園の中を歩いていき、二人は噴水の前までやってくる。水面に街灯の光が反射して、夜だというのにきらきらと眩しい。契がちらりと氷高を見上げれば、水面の揺らめきが氷高の頬と体に映っていた。
……なんだか。すごく、氷高が大人っぽく見える。元々見た目はかっこいいけれど、この夜の公園の雰囲気が相まって、艶っぽく見えるのだ。夜の漆黒に溶ける黒髪と黒い瞳に揺蕩う水面の光。どきりとして、なぜか、息が詰まった。
「この場所は完璧ですね……契さま。ロマンチックなファーストキスの練習にもってこいの場所です」
「いやだからですね……俺はキスをする予定はないので、練習はいらないって言ってるんです! っていうか、ファーストキスって初めてのキスだろ! ファーストキスに練習なんてないから!」
「おっといけない、練習にかこつけて契さまのファーストキスを奪う計画を口を滑らせて言ってしまった」
「なんなんだおまえは!?」
せっかくの雰囲気が、氷高の発言で台無しである。
契がどんどん本性を露わにしてくる氷高にげんなりとしていると、氷高がにこやかに笑う。
「さあ、そういうわけですので、ファーストキスをください、契さま」
「はあ!? 嫌に決まってんだろおまえ!」
変態執事にファーストキスをやるのなんざ、ごめんだ。
契はぐいぐいと迫ってくる氷高を押し返して、キスを拒絶した。どうせするなら、もっと紳士的でとろけるようなキスをして欲しい。氷高にならできるはずだ、こいつの潜在能力はこんなものではない、キスをするなら本気をだせ氷高!
心のなかでこんな悪態をつく契の気持ちなど、氷高は知る由もなく。ひたすらに拒絶されて、氷高はがくりとうなだれたのだった。
「くっ……今の俺にはまだ契さまとキスをする資格がないということか……徐々に好感度をあげなければいけないと……」
「そういうのを口にしちゃうところがだめなんだと思うよ」
「契さまが俺のキスだけで腰がくだけてしまうというのが、俺の夢だったのに……」
「そういうのを口にしちゃうところがだめなんだと思うよ」
かっこいい氷高などここにはいなかった。情けなくも座り込み、キスを拒絶されたことにめそめそと嘆く、ダサい男。噴水の前に来た瞬間の氷高は、すごくかっこよかったのに。口を開いた瞬間ダメダメになった氷高に、契も思わず笑いそうになってしまった。
……俺のことになるとかっこよくなるようで、超絶キモくなるんだな。なんて。
契は氷高の前に座り込むと、わしゃわしゃと頭を撫でてやった。「?」とどんよりとした顔で自分をみてきた彼をみて、ついに吹き出す。
「……予約くらいなら、させてもいいけど?」
「……え?」
「……どうせこの先、氷高よりいい人なんて、現れないし。俺の……ふぁ、ファーストキス、氷高だけに予約させてやる。もっとかっこよくなっったら、あげてもいいよ」
「……契、さま」
照れながら、それでいてふんぞり返りながら契は言った。
これだけ一心に自分を想ってくれる執事・氷高。キモいとは思うけれど、嫌いになれるわけがない。彼になら、ファーストキスをあげても後悔は絶対にしないだろう、契はそう思ったのだった。
……それに、時々見せるちょっといじわるで大人っぽい彼にキスをされたら……ちょっと、嬉しいかもしれない、なんて。
「……契さま。それは、卑怯ですよ」
「え? 卑怯って――」
そんな、ちょっと期待を込めた顔をした契を見て。氷高は、時が止まったような錯覚を覚えた。
心臓の鼓動が急激に加速し、血液が体中に一気にまわって、体が熱くなる。理性など、溶かしてしまうくらいに。
「契さま――」
「ん――……!?」
頭の中が、くらくらする。
抑え込んだ情動が、暴れ狂う。
氷高は、衝動のままに契の腕を引っ張り――そのまま、唇を奪ってしまった。バランスを崩した契は、抵抗をすることもできず……そのまま、氷高のキスを、受け入れる。
「……、……!」
……え?
なに?
俺、キスされている!?
一瞬、衝撃で思考がふっとんでいた契も、徐々に自分のおかれている状況に気付いた。ファーストキスを、奪われた、ということに。
「……え、えっと……」
唇が離れ、うっすらと開かれた氷高の瞳とばちりと視線が交わる。切れ長でまつげの長い、色っぽい瞳に至近距離で見つめられ――契の体温がかっと上昇した。
「よ……よ、予約って言ったじゃん……なに、今、してんの……」
「……あまりにも、契さまが愛おしかったので」
「いっ……愛おしいって……ば、ばかじゃないの!」
……嫌じゃない。今のキスに、不快感など一切覚えなかった。むしろ……ちょっと、足りないなんて、思ってしまった。
腕を掴む、力強い手。見つめてくる、熱視線。静かな吐息と、甘い熱。
契の言葉を無視して、突然ファーストキスを奪ってきた氷高。そんな彼に、間違いなくドキドキとしてしまっている。それを、契は自覚した。聞き分けの悪い、ただの変態執事のくせに。今のキスは……正直、かっこよかった。
「め、命令違反だぞ、氷高! なに俺のファーストキスを奪って……」
「欲望にはあらがえませんでした……すみません……」
「謝り方キモい!」
しかし、かっこよかったのは一瞬。すぐに、いつもの変態に戻ってしまう。
抱いたような気がするときめきも、すぐに砕け散ってしまった。契はため息をつきながら、氷高の手を引いて立ち上がる。……怒る気にはなれない。……別に、嫌ではなかったのだから。
「も、もう練習は終わりだろ。帰るぞ、氷高」
「……は、はい」
「……また今度、してよ。普通に、デート……」
「……! ……!? ……!!」
さあ、もう屋敷に帰ろう。
帰路に就く契を、氷高がきらきらとした目で見つめる。今度は……練習ではなくて、本番のデートができるのだろうか。それを思うと、氷高はにやけが止まらなかった。
……そのにやけ面を契に見られて、また「キモい」と言われたのだが。
「夜の公園はキスをするには最高の場所ですね、契さま」
「だから話を聞いて!?」
広い公園の中を歩いていき、二人は噴水の前までやってくる。水面に街灯の光が反射して、夜だというのにきらきらと眩しい。契がちらりと氷高を見上げれば、水面の揺らめきが氷高の頬と体に映っていた。
……なんだか。すごく、氷高が大人っぽく見える。元々見た目はかっこいいけれど、この夜の公園の雰囲気が相まって、艶っぽく見えるのだ。夜の漆黒に溶ける黒髪と黒い瞳に揺蕩う水面の光。どきりとして、なぜか、息が詰まった。
「この場所は完璧ですね……契さま。ロマンチックなファーストキスの練習にもってこいの場所です」
「いやだからですね……俺はキスをする予定はないので、練習はいらないって言ってるんです! っていうか、ファーストキスって初めてのキスだろ! ファーストキスに練習なんてないから!」
「おっといけない、練習にかこつけて契さまのファーストキスを奪う計画を口を滑らせて言ってしまった」
「なんなんだおまえは!?」
せっかくの雰囲気が、氷高の発言で台無しである。
契がどんどん本性を露わにしてくる氷高にげんなりとしていると、氷高がにこやかに笑う。
「さあ、そういうわけですので、ファーストキスをください、契さま」
「はあ!? 嫌に決まってんだろおまえ!」
変態執事にファーストキスをやるのなんざ、ごめんだ。
契はぐいぐいと迫ってくる氷高を押し返して、キスを拒絶した。どうせするなら、もっと紳士的でとろけるようなキスをして欲しい。氷高にならできるはずだ、こいつの潜在能力はこんなものではない、キスをするなら本気をだせ氷高!
心のなかでこんな悪態をつく契の気持ちなど、氷高は知る由もなく。ひたすらに拒絶されて、氷高はがくりとうなだれたのだった。
「くっ……今の俺にはまだ契さまとキスをする資格がないということか……徐々に好感度をあげなければいけないと……」
「そういうのを口にしちゃうところがだめなんだと思うよ」
「契さまが俺のキスだけで腰がくだけてしまうというのが、俺の夢だったのに……」
「そういうのを口にしちゃうところがだめなんだと思うよ」
かっこいい氷高などここにはいなかった。情けなくも座り込み、キスを拒絶されたことにめそめそと嘆く、ダサい男。噴水の前に来た瞬間の氷高は、すごくかっこよかったのに。口を開いた瞬間ダメダメになった氷高に、契も思わず笑いそうになってしまった。
……俺のことになるとかっこよくなるようで、超絶キモくなるんだな。なんて。
契は氷高の前に座り込むと、わしゃわしゃと頭を撫でてやった。「?」とどんよりとした顔で自分をみてきた彼をみて、ついに吹き出す。
「……予約くらいなら、させてもいいけど?」
「……え?」
「……どうせこの先、氷高よりいい人なんて、現れないし。俺の……ふぁ、ファーストキス、氷高だけに予約させてやる。もっとかっこよくなっったら、あげてもいいよ」
「……契、さま」
照れながら、それでいてふんぞり返りながら契は言った。
これだけ一心に自分を想ってくれる執事・氷高。キモいとは思うけれど、嫌いになれるわけがない。彼になら、ファーストキスをあげても後悔は絶対にしないだろう、契はそう思ったのだった。
……それに、時々見せるちょっといじわるで大人っぽい彼にキスをされたら……ちょっと、嬉しいかもしれない、なんて。
「……契さま。それは、卑怯ですよ」
「え? 卑怯って――」
そんな、ちょっと期待を込めた顔をした契を見て。氷高は、時が止まったような錯覚を覚えた。
心臓の鼓動が急激に加速し、血液が体中に一気にまわって、体が熱くなる。理性など、溶かしてしまうくらいに。
「契さま――」
「ん――……!?」
頭の中が、くらくらする。
抑え込んだ情動が、暴れ狂う。
氷高は、衝動のままに契の腕を引っ張り――そのまま、唇を奪ってしまった。バランスを崩した契は、抵抗をすることもできず……そのまま、氷高のキスを、受け入れる。
「……、……!」
……え?
なに?
俺、キスされている!?
一瞬、衝撃で思考がふっとんでいた契も、徐々に自分のおかれている状況に気付いた。ファーストキスを、奪われた、ということに。
「……え、えっと……」
唇が離れ、うっすらと開かれた氷高の瞳とばちりと視線が交わる。切れ長でまつげの長い、色っぽい瞳に至近距離で見つめられ――契の体温がかっと上昇した。
「よ……よ、予約って言ったじゃん……なに、今、してんの……」
「……あまりにも、契さまが愛おしかったので」
「いっ……愛おしいって……ば、ばかじゃないの!」
……嫌じゃない。今のキスに、不快感など一切覚えなかった。むしろ……ちょっと、足りないなんて、思ってしまった。
腕を掴む、力強い手。見つめてくる、熱視線。静かな吐息と、甘い熱。
契の言葉を無視して、突然ファーストキスを奪ってきた氷高。そんな彼に、間違いなくドキドキとしてしまっている。それを、契は自覚した。聞き分けの悪い、ただの変態執事のくせに。今のキスは……正直、かっこよかった。
「め、命令違反だぞ、氷高! なに俺のファーストキスを奪って……」
「欲望にはあらがえませんでした……すみません……」
「謝り方キモい!」
しかし、かっこよかったのは一瞬。すぐに、いつもの変態に戻ってしまう。
抱いたような気がするときめきも、すぐに砕け散ってしまった。契はため息をつきながら、氷高の手を引いて立ち上がる。……怒る気にはなれない。……別に、嫌ではなかったのだから。
「も、もう練習は終わりだろ。帰るぞ、氷高」
「……は、はい」
「……また今度、してよ。普通に、デート……」
「……! ……!? ……!!」
さあ、もう屋敷に帰ろう。
帰路に就く契を、氷高がきらきらとした目で見つめる。今度は……練習ではなくて、本番のデートができるのだろうか。それを思うと、氷高はにやけが止まらなかった。
……そのにやけ面を契に見られて、また「キモい」と言われたのだが。
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