優しくして、ご主人さま!〜危ない執事とツンデレ御曹司のラブコメディ〜

うめこ

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第二章

11

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「……ん、」


 体が、ひどく怠い。
 
 ずん、と腰の重みを感じて……しかし不快ではない、そんな怠さと共に、契は目を覚ました。カーテンの隙間からは光が差し込んでいる。もう、朝になってしまったらしい。


「……え、……うわっ……」


 いつものように、二度寝を決め込もうとした契。しかし、ふと感じた温もりに、気付く。

 自分の隣で、寝ている氷高。すう、と気の抜けた顔で、氷高が一緒に寝ていたのだ。


「……!」


 びっくりして、恥ずかしくなるのと同時に。契は、妙な高揚感を覚えた。

 氷高の寝顔。すごく、珍しい。

 髪の毛は乱れていて、そして年相応に表情はゆるんでいて。こんな顔、見ることができるのは……もしかして、世界に一人だけ、俺だけ? そんなことを思うと、どきどきとしてきてしまったのだ。


「……あれ、契さま……」

「あっ」


 じっと、そんな氷高の寝顔を見つめていると。氷高が、ゆるりと瞼をあける。


「おはようございます……契さま」

「えっ……、あ」


 氷高は契の姿を認めると、ふ、と柔らかく微笑んだ。そんな、甘く優しい微笑みに契がどきっとしていると、氷高がそっと契の頬に手のひらを添える。そして……そっと、唇を寄せてきた。

 キス、される。

 そう感じ取った契は、顔を真っ赤にしながらそっと目を閉じる。微睡みの朝、柔らかな朝日のなかで……ひとつのふとんのなかで、キス。なんだかすごく嬉しくて、契がじっとキスを待っていると。


「はっ」

「えっ」

「しまった……すっかり契さまのことを恋人だと思っていた」

「えっ?」


 がばっと氷高が起きあがって、乱れた髪の毛を手櫛で整え出す。

 ……そうだった。恋人の練習は、昨日で終わりだ。今は、もう……ただの主人と執事だ。

 つい浮かれていた自分が恥ずかしくなって、そしてなんでこんなに自分が浮かれているのかわからなくて。契は慌てて起きあがる。

 なんで、こんなに残念な気持ちになっているのだろう。


「……着替えをしてから、改めて挨拶させていただきますね。こんな格好では、執事なんて名乗れない」

「えっ、う、うん……」


 ベッドから抜け出して、着替えを始めた氷高。昨夜、契を抱いたままの格好から、みるみるうちにいつもの執事姿に変わってゆく。

 契は、そんな氷高を見つめながら……本当に、昨日の恋人のような時間は練習だったのだと、実感した。氷高もあんなに熱烈に迫ってきたくせに……すっかり、いつもの素敵な執事様になってしまっている。


「ひ、氷高……」

「……はい?」

「あっ……な、なんでもない」


 なんなんだろう。氷高は、何を考えているのだろう。

 氷高は異常なくらいに自分のことが好きなのだと、そう確信していた契は、その氷高の変わり身にただただびっくりしてしまった。そして、ちょっぴり寂しく思ってしまった。


「……契さま」

「……、」


 服装を整え終えた氷高。何を考えているのか、全くわからない彼。

 そして……わからないのは、彼のことだけじゃなくて。


「おはようございます。いい朝ですね」


 自分自身の、心も、わからない。

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