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戯の章
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「……寒い」
半ば無理やり鈴懸は織の布団に潜り込んできた。実体がないといっても織は彼を見ることも触れることもできるため、こうして同じ布団にはいるとなると彼の存在をいやでも感じる。他人との交流に慣れていない織はそんな彼から感じる生物特有の熱が気持ち悪くて、布団からはみ出るようにして彼と距離をとっていた。
だから、寒い。布団からはみ出た腕やつま先が、夜の冷たい空気にさらされて冷える。
「だったらもっとこっちくれば? そんなに端っこにいるから寒いんだろ?」
「……貴方がどけろ」
「……警戒してるのか? 俺は別におまえに発情したりしないぞ? なんたって神だからな! そこらの低級とは違うんだ!」
「うるさい……」
「警戒しているのか」と問われれば、きっぱりと横に首をふることはできない。どうやら織を襲ってくるのは咲耶と交わった妖怪だけではなく、咲耶の魂に惹かれている妖怪全て。それはそれは異常な程に妖怪を惹きつけたらしい咲耶という女の魂は、今でもほぼ全ての妖怪を惹きつける。鈴懸も例外とはいえない――そう織は心のどこかで思っていた。
しかし、鈴懸にそのような様子は一切ない。実際の所、鈴懸も織という個人には一切興味がないうえに人間の女に恋情を抱くということはない。鈴懸が他の妖怪と同じように織を襲うなどということはありえないのである。織も彼に絶対の安心を抱きはしないものの彼が襲ってくることはないだろうと思っていて、それでも彼の側に寄りたくない。つまるところ、ただ人肌が苦手なだけ。
「……おまえさー」
だから、鈴懸を意識から遠ざけようと、織はひたすらに鈴懸に背を向けていた。そんな織の背中を、鈴懸は黙って見つめる。
織ほどの歳になれば、昔であれば刀を持っていたし、今であれば軍隊に入っている青年もいる。でも、織はそんな彼らとは違って体の線が細く、目に覇気がない。美しいが、儚い。孤独という言葉を体現したような、彼の風貌。そんな背中は、見ているとどこか不安を覚えてしまう。目が離せない。たとえ、織という人間の興味がなくても。この青年は、一生こうして孤独を纏って生きるのだろうかと思うと。
「……俺様を邪険にするなよなー」
鈴懸はため息をつく。こんな、人間一人を気にかけるなど馬鹿らしい。ただ、織の抱える強烈な孤独感は夜の闇のなかに在ると際立っていて、みているこちらが胸が締め付けられそうになる。細い首筋が青白く月光を反射して、なぜか目のやり場に困る。変にむかむかとしてしまって、放ってはおけなくて、鈴懸はゆっくりと織に近づいた。
半ば無理やり鈴懸は織の布団に潜り込んできた。実体がないといっても織は彼を見ることも触れることもできるため、こうして同じ布団にはいるとなると彼の存在をいやでも感じる。他人との交流に慣れていない織はそんな彼から感じる生物特有の熱が気持ち悪くて、布団からはみ出るようにして彼と距離をとっていた。
だから、寒い。布団からはみ出た腕やつま先が、夜の冷たい空気にさらされて冷える。
「だったらもっとこっちくれば? そんなに端っこにいるから寒いんだろ?」
「……貴方がどけろ」
「……警戒してるのか? 俺は別におまえに発情したりしないぞ? なんたって神だからな! そこらの低級とは違うんだ!」
「うるさい……」
「警戒しているのか」と問われれば、きっぱりと横に首をふることはできない。どうやら織を襲ってくるのは咲耶と交わった妖怪だけではなく、咲耶の魂に惹かれている妖怪全て。それはそれは異常な程に妖怪を惹きつけたらしい咲耶という女の魂は、今でもほぼ全ての妖怪を惹きつける。鈴懸も例外とはいえない――そう織は心のどこかで思っていた。
しかし、鈴懸にそのような様子は一切ない。実際の所、鈴懸も織という個人には一切興味がないうえに人間の女に恋情を抱くということはない。鈴懸が他の妖怪と同じように織を襲うなどということはありえないのである。織も彼に絶対の安心を抱きはしないものの彼が襲ってくることはないだろうと思っていて、それでも彼の側に寄りたくない。つまるところ、ただ人肌が苦手なだけ。
「……おまえさー」
だから、鈴懸を意識から遠ざけようと、織はひたすらに鈴懸に背を向けていた。そんな織の背中を、鈴懸は黙って見つめる。
織ほどの歳になれば、昔であれば刀を持っていたし、今であれば軍隊に入っている青年もいる。でも、織はそんな彼らとは違って体の線が細く、目に覇気がない。美しいが、儚い。孤独という言葉を体現したような、彼の風貌。そんな背中は、見ているとどこか不安を覚えてしまう。目が離せない。たとえ、織という人間の興味がなくても。この青年は、一生こうして孤独を纏って生きるのだろうかと思うと。
「……俺様を邪険にするなよなー」
鈴懸はため息をつく。こんな、人間一人を気にかけるなど馬鹿らしい。ただ、織の抱える強烈な孤独感は夜の闇のなかに在ると際立っていて、みているこちらが胸が締め付けられそうになる。細い首筋が青白く月光を反射して、なぜか目のやり場に困る。変にむかむかとしてしまって、放ってはおけなくて、鈴懸はゆっくりと織に近づいた。
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