愛し逆廻りのかざぐるま~竜神と御曹司の甘く淫らな妖怪譚~

うめこ

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水色の章

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 本当に呪いを解くことができるかどうかは不明だ。ただ、女性が呉須の池について何かを知っていて、そして女性の身に起こっている不可思議な現象が咲耶と関係する妖怪によるものであるのなら、女性の呪いをどうにかできるかもしれない。妖怪の咲耶への想いを鎮めることによって、その妖怪の持つ負の感情を浄化できるかもしれないからだ。

 呪いを解くことができるかもしれない、それを織から聞いた女性は少し落ち着きを取り戻す。織を家の中へ入れてくれた。


「……あの池には、伝説がありました。昔、母から聞かされたものではあったのですが……」


 家の中は、すさまじい荒れっぷり。腐った食べ物、たかる蝿。たまったゴミと脱ぎ散らかした着物。あまりの汚さに、織は蕁麻疹がでそうになった。悪臭も鼻をつくが、そうして家の中が荒れ放題になっているのは女性の精神状態が芳しくないからだ、と思うと不快感よりも憐れみの感情のほうが強くなる。何がこの女性をこうさせてしまったのだろう――織は女性の話に耳を傾ける。

 呉須の池の近くには、昔、今も小さな村があったらしい。土地柄、穀物や家畜が育てやすく、上等な食料をつくることができたそうだ。そんな村であったから、ある日、盗賊の襲撃にあってしまった。村中の男が殺され、子どもは売り払うために捕らえられ、そして――女は、犯された。

 村の女たちは、多くが盗賊の子を孕んでしまった。しかし、堕胎など母体に大きな負担をかけてしまう。女たちは憎き盗賊の子を出産し、そして、精神を病んでしまった――そして。産んだ子にも、憎しみを抱いた。男を、子どもを殺した盗賊の血の通った子どもなど、顔も見たくなかった。だから――捨てた。女たちは、産んだ子をすべて、呉須の池に捨てたのだ。


「呉須の池には、捨てられた子どもの怨念が溜まっていると、言われていました……ただ、それは本当のことなのかはわかりません。ただ、伝承として残っていた」


 呉須の池という場所に伝わる伝承を、女性は話してくれた。それを聞いて、織は納得する。もしもその伝承が本当にあった出来事ならば、白百合が「危険な場所だ」と念押しした理由がわかる。罪もない子どもがたくさん捨てられた池など、すさまじい呪念が渦巻いているに違いない。

 これは本当に危ない目に合いそうだ、と織は頭が痛くなった。これからその地に向かうのかと思うと、怖かった。織が黙りこんでいれば、女性はさらに口を開く。


「……そして、私も……あの池に、子どもを捨てました」

「えっ」


 女性はかたかたと震え、えずきだす。


「……父に、孕まされた。頭のおかしい父だった。13歳のある日、私は――父に、孕まされたんです」

「……、」
 
「産まれるときは、死ぬかと思った。なんであんな男の子を、こんな想いをして産まなければいけないのかと、あてもなく、憎しみを抱いていた。父を殺したいと思っても、父は母に殺されていた。そして母は自殺した。私は恨む相手がいなかった。憎しみはすべて――産まれた子どもに向けた」

「……そして、その子を、」

「そう、捨てました。産まれた瞬間に、体を引きずって呉須の池に捨てにいきました」


 うつむき、自分の体を抱きしめ。か細い声で、彼女は告白した。あまりにも凄惨な話に、織は上手く言葉を紡ぐことができなかった。ぐ、と黙りこんで、震える彼女を見守ることしかできなかった。


「――そのときからだった。私のまわりで、おかしな現象が起こり出し始めました。何もないところで転んだり、家の中の物が勝手に動いたり。私は、悟りました。ああ……捨てた子に、呪われてしまったのだと。そして、やっと気付きました。やってはいけないことをしてしまった、と」

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