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インセスト~ヘンゼルとグレーテルによる悲喜劇~
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しおりを挟む「……」
あまりにも淫らなその光景に、側で見ていたドクターは口元をひくつかせる。
二人の男の欲望を煽る、ヘンゼルの色香。初めて会ったときにはここまでこの青年が変貌するとは思っていなかった。それはきっと、頭ひとつ抜けた容姿のせいだけではない。ヴィクトールへの想いがヘンゼルのなかで抱かれることへの歓びを沸き起こし、あんなにも淫猥な表情と仕草をするようになってしまったのだ。
長い付き合いであるヴィクトールがあんなにも一人の人間に執着するのを初めて見たドクターは、ヘンゼルの痴態をみて、ここでようやく納得する。これは、欲しくなるのも仕方がないと。ゾッとするほどの独占欲を抱えてしまうのもおかしくないと。
「もう、だめ……いく、イク……」
涙で頬を濡らし、快楽にどろどろにとけたその表情で、ヘンゼルはヴィクトールに懇願するように言葉を絞り出す。びくびくと小刻みに身体を震わせるその身体は、もう限界に近い。
友人であるテオに見つめられながら絶頂を迎えるのが嫌だったのだろう、我慢していたようだが、もうダメのようだった。ゆるして、もうやめて、とでも言うように首を振っている。
「んん? そんなにイきたくない? ヘンゼルくん……イッちゃいなよ、そこで」
「い、や……やだ、……やだ、ヴィクトール……」
「何が嫌なの?」
ヴィクトールがにやりと嗤う。自身の体を揺らし欲望をヘンゼルの体に擦り付けている、テオを見下ろしながら。
「ヴィクトール……ヴィクトール……」
ヘンゼルがよろよろと振り返り、ヴィクトールを見つめる。訴えるように濡れた瞳でヴィクトールに視線を投げかけるが、言葉はでてこない。自分でも何が嫌なのか、わかっていないようだった。
「ああ、わかった……僕の腕のなかでイきたい?」
「……っ、……!」
ヴィクトールに問いを投げかけられ、ヘンゼルはこくこくと頷いた。自分では動けないほどに快楽に溶かされた体は、くたりとテオの体に寄りかかったまま。縋りつくような目線をヴィクトールに送れば、ヴィクトールが勝ち誇ったようにテオに笑いかける。
「ヘンゼルくん……さいっこうに可愛いね……そんなに僕のことが好き?」
ヴィクトールはヘンゼルをテオから引き剥がすと、後ろから抱きしめるようにして抱え込む。背面座位の状態でヘンゼルの表情がテオからも見えるようにしてやると、ちらりとテオを見て、冷たく言い放つ。
「……君はそこで憐れに一人でイッていればいい。ヘンゼルくんが僕に抱かれて達するのをみながら」
クッと吐き出すように嗤い、そしてヘンゼルの唇を奪う。歓びに震えるように目を閉じてヴィクトールのキスを受け入れるヘンゼルは、哀しいほどに美しかった。
そのまま腰を突き上げられれば、儚げな声を漏らし、たちあがったものの先からぴゅくぴゅくと白濁液を飛ばしながらあっという間に達してしまう。
くたりとヴィクトールに身を預け、はーはーと熱い吐息を吐くヘンゼルの姿はあまりにも淫靡で倒錯的。町の片隅で恐喝をしていた素行の悪い彼はもういない、悪の頭に抱かれ嬌声をあげよがる、そんな別人のようになってしまったヘンゼルの姿にショックを受けながら――テオは一人、布の下で精を吐き出してしまった。
「はは……無様だねぇ……好きな子を目の前で犯されて、それを見てイク気持ちってどんなものなの? 君みたいな凡人は一生ヘンゼルくんを手にすることができない……彼はもう、僕のものだ」
「……くそ、……くそ……」
「いいよ、その惨めな姿をみせてくれたんだし、今回はゆるしてあげる。……次はないと思え」
ドクターいくよ、と一言言って、ヴィクトールはヘンゼルを抱えたままお菓子の家へ向かってゆく。ひゅー、と小さく口笛を吹きながらドクターは震えながらうずくまるテオに手を振り、触手の生物を連れてヴィクトールについていった。
残されたテオは、自らの精液でシミになった服を見つめ、惨めさにぼろぼろと泣き出す。あの町で共に過ごした日々の映像をに思い浮かべることは、もうできなかった。そうすると、郷愁に胸が裂けてしまうくらいに傷んだから。
先にヘンゼルに手をだしたのは自分だが、ああして実際に男に犯されているヘンゼルを見せつけられて、思い出が穢されたような気がした。もう、わけがわからない。自分がどうしたかったのかもわからない。それくらいにテオはヘンゼルのことが好きで、大好きで、たまらなかった。
目の前にそびえるお菓子の家が、自分とヘンゼルを隔てる大きな壁のように思えた。
もう二度と、彼に会うことはできない。
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