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第三章:愚者は見て見ないフリ
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なんだかその光景は、美しい絵画のようだった。
昨夜、ハルはラズワードとはろくに話すこともできず、やることは明日教えるからと言って彼を部屋に放り込んだ。奴隷としては異例であるが、ラズワードに私室を与えたのである。レッドフォード家には他にも大量の奴隷が飼われているが、このような扱いをされている者は少ない。それでもラズワードはハル専用の奴隷ということで、レッドフォードの者たちは納得しているようである。
朝をむかえ、ハルがラズワードのもとへ行けばこれだ。部屋の中の光景に、ハルはぽかんと立ちすくしてしまったのである。
いたって普通の光景だ。
ラズワードがベッドに腰掛け、窓ガラス越しの空を眺めている。それだけの光景である。
太陽の光に茶色の細い髪がキラキラと輝く。ほんの少し開けられた窓から吹く風が、カーテンを揺らす。身につけている青いシャツが異様に似合っている。その背中は細く華奢で、頼りない。
美しい青空が、彼の瞳を思わせる。眩しい。……綺麗だ。
それだけの、光景である。
「……ハル様……! おはようございます」
ラズワードが振り向いた。ぼーっと間抜けな顔をしていたハルは、ハ、と覚醒する。
「ああ、おはよう」
ラズワードは起きてから結構時間が経っているのか、しゃんと涼しげな顔をしていた。もう出会ってから時間が経っているのだから、彼を見たくらいで動揺したりしないだろうとハルは思っていたが、その思惑は外れだったらしい。理由は単純だ。昨日よりも、その容姿の美しさが際立っているからである。
昨日来ていた安っぽく汚い奴隷服ではなく、今は澄んだブルーのシャツを着ている。ちゃんとシャワーを浴びて、髪も整えたからか、清潔感が漂っている。明るい部屋にいるからか、白い肌が映える。そしてなにより、あの施設から離れたからだろうか、雰囲気が違う。凛とした高潔な空気をもっている。
「……今日から早速ハンターの代理やってもらうけど……大丈夫?」
「はい」
いつまでもそんな動揺に飲まれていてはいけないと、ハルは言葉を発した。そんなハルにラズワードはやはり、静かながらもしっかりとした通る声で受け答えをする。
その声に、思う。やはりほかの奴隷と違う。
レッドフォードの屋敷には、ほかの貴族の家に比べて多くの奴隷が買われていた。主にこの屋敷で働く者たちの性欲処理用である。ハルも正直なところ使ったことがあるが、酷いものであった。
もはや彼らは人ではない。その体も頭も快楽に支配されてしまっているのだ。男も女も関係なく、人としての威厳を捨て自ら快楽を貪り喰う。奴隷なんて身分に堕とされていることに違和感も覚えず、ただ性欲処理人形として使われることに悦びを感じている。
ハルが使った奴隷も同じだ。ドロリとした目でハルを見つめ、これから行われる行為に期待していた。
同じ人間なのに。同じ形をした生き物なのに。まるで自分と違う。それが、気持ち悪かった。
しかし、この奴隷。ラズワードは彼らとはまるで異質の存在だった。
涼やかな瞳。姿勢よく伸ばされた背筋。
とてもじゃないが性欲処理の道具なんて思えない。淫らな姿など想像もできない。踏み込んではいけない聖域のように、清らかだから。
「……まあ、じゃあ早速いこうか。獲物は毎回俺があらかじめ選んでおくから、ラズワードはそれを狩ってもらえばいい」
「わかりました」
「今日だけ俺がついていくよ。一応そんなに強くないもの選んでおいたけれど、やっぱり不安だし」
「ありがとうございます」
ラズワードには、きっと堅気な仕事が似合う。情夫の真似事などさせるべきではない。
ハルはそう納得して、ラズワードを部屋から連れ出した。
昨夜、ハルはラズワードとはろくに話すこともできず、やることは明日教えるからと言って彼を部屋に放り込んだ。奴隷としては異例であるが、ラズワードに私室を与えたのである。レッドフォード家には他にも大量の奴隷が飼われているが、このような扱いをされている者は少ない。それでもラズワードはハル専用の奴隷ということで、レッドフォードの者たちは納得しているようである。
朝をむかえ、ハルがラズワードのもとへ行けばこれだ。部屋の中の光景に、ハルはぽかんと立ちすくしてしまったのである。
いたって普通の光景だ。
ラズワードがベッドに腰掛け、窓ガラス越しの空を眺めている。それだけの光景である。
太陽の光に茶色の細い髪がキラキラと輝く。ほんの少し開けられた窓から吹く風が、カーテンを揺らす。身につけている青いシャツが異様に似合っている。その背中は細く華奢で、頼りない。
美しい青空が、彼の瞳を思わせる。眩しい。……綺麗だ。
それだけの、光景である。
「……ハル様……! おはようございます」
ラズワードが振り向いた。ぼーっと間抜けな顔をしていたハルは、ハ、と覚醒する。
「ああ、おはよう」
ラズワードは起きてから結構時間が経っているのか、しゃんと涼しげな顔をしていた。もう出会ってから時間が経っているのだから、彼を見たくらいで動揺したりしないだろうとハルは思っていたが、その思惑は外れだったらしい。理由は単純だ。昨日よりも、その容姿の美しさが際立っているからである。
昨日来ていた安っぽく汚い奴隷服ではなく、今は澄んだブルーのシャツを着ている。ちゃんとシャワーを浴びて、髪も整えたからか、清潔感が漂っている。明るい部屋にいるからか、白い肌が映える。そしてなにより、あの施設から離れたからだろうか、雰囲気が違う。凛とした高潔な空気をもっている。
「……今日から早速ハンターの代理やってもらうけど……大丈夫?」
「はい」
いつまでもそんな動揺に飲まれていてはいけないと、ハルは言葉を発した。そんなハルにラズワードはやはり、静かながらもしっかりとした通る声で受け答えをする。
その声に、思う。やはりほかの奴隷と違う。
レッドフォードの屋敷には、ほかの貴族の家に比べて多くの奴隷が買われていた。主にこの屋敷で働く者たちの性欲処理用である。ハルも正直なところ使ったことがあるが、酷いものであった。
もはや彼らは人ではない。その体も頭も快楽に支配されてしまっているのだ。男も女も関係なく、人としての威厳を捨て自ら快楽を貪り喰う。奴隷なんて身分に堕とされていることに違和感も覚えず、ただ性欲処理人形として使われることに悦びを感じている。
ハルが使った奴隷も同じだ。ドロリとした目でハルを見つめ、これから行われる行為に期待していた。
同じ人間なのに。同じ形をした生き物なのに。まるで自分と違う。それが、気持ち悪かった。
しかし、この奴隷。ラズワードは彼らとはまるで異質の存在だった。
涼やかな瞳。姿勢よく伸ばされた背筋。
とてもじゃないが性欲処理の道具なんて思えない。淫らな姿など想像もできない。踏み込んではいけない聖域のように、清らかだから。
「……まあ、じゃあ早速いこうか。獲物は毎回俺があらかじめ選んでおくから、ラズワードはそれを狩ってもらえばいい」
「わかりました」
「今日だけ俺がついていくよ。一応そんなに強くないもの選んでおいたけれど、やっぱり不安だし」
「ありがとうございます」
ラズワードには、きっと堅気な仕事が似合う。情夫の真似事などさせるべきではない。
ハルはそう納得して、ラズワードを部屋から連れ出した。
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