【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko

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6 再会の王都

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七歳の時にエルヴィーノを避けて、クレメンティ公爵領に逃げ込んだアンジェリーナだったが、十五歳から十八歳の四年間は王侯貴族の子女達は王都にある王立学園に通うのが義務となっている。
入学を目前に控え、アンジェリーナも公爵家のタウンハウスに戻る事になった。

領地で過ごした約八年間、学園の長期休暇の時にはエルヴィーノも領地へやって来たが、アンジェリーナは彼を避けていた。
魔術の訓練を受けたり、自らの投資先との打ち合わせに出向いたりしている彼女は忙しく、空いた時間も友人の所にお邪魔したり、孤児院に出掛けたり、出来るだけエルヴィーノと顔を合わせない様にしたのだ。

そして学園を卒業してからのエルヴィーノは、メルクリオの側近となり扱き使われているらしく、領地へ来るのも稀だった。
つまり、八年の間は、ほぼ交流が無かったのだ。




王都へ向かう馬車の中。
アンジェリーナは、婚約者と久し振りに会わなければならない緊張に震えていた。
しかも、また同じ邸に住まなければならないのだ。

学園入学に際して、アンジェリーナは寮に入りたいと申し出たが、両親によって却下された。
公爵邸に比べてセキュリティ面での不安があるとの事。
そう言われてしまえば、我儘を言うわけにもいかない。
幸いエルヴィーノは忙しく働いており、王宮の休憩室で寝泊まりする事も多いらしい。

(あまり顔を合わせずに済めば良いのだけど・・・)

アンジェリーナは、婚約者との交流が再開される事で、忘れかけていた恋心が再燃するのを危惧していた。
もうすっかり失恋の傷は癒えたと思っていたのだが、彼に似た人を見かけたり、彼と同じ香水の香りを嗅いだりしただけで、未だにジクジクと傷口が鈍く痛み出す事があるのだ。

(八年も経っているのに、我ながら未練がましいわね)

フッと自嘲の笑みを浮かべる。

ただ、学園生活はとても楽しみにしている。
領地に引き篭もっていたアンジェリーナにとって、同じ年頃の者達と知り合う良い機会だ。
同性の友人も増やしたいし、上手くいけば次の婚約相手も見つかるかもしれない。

そんな事を考えている間に、馬車はタウンハウスに到着していた。




「お帰り、アンジー」

アンジェリーナに一番に駆け寄って抱き締めたのは、メルクリオだった。
この兄妹も、八年振りの再会である。

「メルクリオ兄様!
ご無沙汰しております。
お忙しいのに、わざわざ会いに来てくださったのですか?」

「ああ。兄上も凄く会いたがっていたから、近々王宮に遊びにおいで」

長兄のシルヴィオは、王太子としての執務が忙しくてアンジェリーナに会いに来られなかった。
今頃は執務室で書類に囲まれながら不貞腐れている事だろう。

「私も是非、シルヴィオ兄様にもお会いした・・・・・・え?」

笑顔で頷いた瞬間、横から伸びた大きな手が、そっとアンジェリーナの右手を掬い取った。

「久し振りだね、アンジェリーナ。
暫く会わない間に、素敵なレディになってしまって驚いた」

メルクリオを押し退ける様にして、再会を喜び合う兄妹の間に割り込んだのは、勿論エルヴィーノだ。
アンジェリーナの手をしっかりと握って、目の前で眩しい微笑みを振りまく婚約者に、クラリと目眩がした。

(エル兄様こそ、益々素敵になって・・・!)

「・・・・・・お褒め頂けて光栄です」

「なんだ、他人行儀で寂しいな」

「そ、そう、かしら?
きっと久し振りだから、緊張しているのね。
もっと兄様達とお話ししたいけど、長旅で疲れてしまったの。
今日はもう、部屋で休ませて頂くわ」

断りを入れて、素早くその場を辞した。
決して逃げた訳じゃ無い。
本当に移動で疲れているのだ。
・・・と、心の中で言い訳をしながら。



一方、取り残されたエルヴィーノは徐々に赤く染まっていく顔を両手で覆い、その場にしゃがみ込んでいた。

「はあぁ~、緊張した」

側で控えていたメルクリオの護衛騎士ラウルが、呆れ顔でエルヴィーノを見下ろす。

「思春期かよ。しっかりしろ」

「だって、お前も見ただろう?
ちょっと前までは子供だったのに、あんなに綺麗になって・・・・・・」

「ああ。姫さんは前から可愛らしかったけど、暫く見ない内にすっかり美しく成長したな」

肯定する言葉に過敏に反応したエルヴィーノは、振り返って殺気を込めた目でラウルを睨んだ。

「間違っても手を出すなよ」

「出さねぇよっ!!
お前の言葉に同意しただけなのに、理不尽過ぎるっ!
大体、彼女は俺の好みではない」

「なんだと?
アンジェリーナの魅力が分からないとは、許しがたい!!」

「いや、どんな答えが正解!?」

肯定しても否定しても怒られるとは、罠としか思えない。

普段は冷静で仕事が出来るエルヴィーノだが、大切なアンジェリーナの事となるとやや暴走してしまいがち。
彼女が幼かった頃からその傾向はあったが、益々それが顕著になっているらしい。

「だいぶ拗らせてるなぁ・・・」

メルクリオが残念な物を見る様な目で、エルヴィーノを見詰めた。
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