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6 守れなかった義娘
《side:フェルトン伯爵》
義理の娘になるはずだった、コーデリアからの手紙を読んだ妻は、床に崩れ落ちて泣いた。
その手紙には、私達を案ずる言葉ばかりが書かれていたから。
エルウッド家の現状が大きく変わってしまった以上、フェルトン家を巻き込まない様に、婚約を破棄した方が良いと考えた事。
きっと、アルバートはどんなに説得しても受け入れてくれないだろうから、魔女の秘薬を使ってコーデリアの記憶だけを消した事。
爵位と領地を国に返還し、自分はこのまま姿を消すから、残されたアルバートの事をよろしく頼むという事。
封筒の中には手紙と共に婚約解消の書類がしっかり同封されていた。
手紙を読んだ私達は、直ぐに使用人に捜索をさせたのだが、コーデリアは見つからなかった。
コーデリアの父親とは、貴族学園で同じクラスの仲間だった。
学生時代は特別に仲が良かった訳ではなく、お互いに爵位を継いだ後になってから親交を深めていった。
邸が近かった事もあって色々と協力し合ったり情報交換をしたり、それにコーデリアとアルバートが同じ年に生まれたのも、親しくなった要因だったかもしれない。
妻同士もママ友として仲良くなり、義母が亡くなった時には、エルウッド子爵夫人が落ち込む妻を慰めてくれた。
幼いアルバートがコーデリアと結婚したいと言い出した時は、一時的な感情なんじゃないかと思ったりもしたが、二人は順調に交際を続けて正式な婚約者となり、私達も二人の結婚を心待ちにしていたのに……。
何故、こんな事になってしまったのか。
あの堅物が、横領なんてするはずが無いのに。
エルウッド夫妻は、上司にあたる財務大臣補佐のマクダウェル侯爵が領地の邸で開催した夜会に出席し、一晩宿泊した翌日の帰宅時に事故に遭った。
実はこの事故には、ちょっと疑わしい点がある。
馬車を整備点検したばかりだという記録が見つかっているのだ。
それなのに、事故を起こした馬車は車軸が折れていたらしい。
そして突然の横領疑惑。
どう考えても怪しいのは、上司であり、夜会の主催者でもあるマクダウェル侯爵。
だが、証拠も無い上に、相手は侯爵だ。
下手な手出しは出来ない。
コーデリアは聡い子だから、きっと私と同じ様に考えて、私達を巻き込まない為に身を引いたのだ。
魔女の薬を飲んだというアルバートは、コーデリアの手紙の通り、目を覚ますと彼女の記憶だけが綺麗さっぱり消えていた。
ツテを辿って王宮の魔術師を派遣してもらい、検査を受けさせる。
「薬に掛けられていた魔術が綺麗に発動してますね。
健康的な問題は一切ありませんが、無理に思い出させようとすると混乱するかもしれないので、お勧め出来ません。
彼女の情報にはなるべく触れさせない方が良いでしょう」
そう説明を受けて、学園内でもコーデリアの話をアルバートになるべくしない様にと学長に依頼した。
魔女の薬が原因だなんて言えないので、表向きは『婚約者の失踪にショックを受けて記憶を失った』という事にしてある。
だが、記憶を失ってからのアルバートは心なしか覇気が無い様に見える。
記憶が無くなっても、まだ心の何処かでコーデリアを求めているのかもしれない。
コーデリアの失踪から二ヶ月余りが過ぎた。
あれからずっと捜索は続けてきたのだが、彼女の行方は杳として知れない。
そんなある日、妻がポツリと呟いた。
「もう、そっとしておいてあげた方が良いのかもしれない…」
「コーデリアの事か?」
「ええ。あの子の事が心配で、なんとか見つけなきゃって思ってたけど……。
二ヶ月経っても見つからない。犯罪に巻き込まれた形跡もない。あの子らしき死亡者の情報も無いって事は、何処か遠くで幸せに暮らしているのかも。
貴族として生きるのが幸せとは限らないわ。
あの子の両親みたいに、陰謀に巻き込まれてしまったり、酷い目に遭う事も多いもの」
そう言った妻は、辛そうに顔を歪めた。
親しかったエルウッド夫妻を助けられなかった。
そして、娘の様に可愛がっていたコーデリアの事も、守ってあげられなかった。
その無力感に苛まれているのだ。
義理の娘になるはずだった、コーデリアからの手紙を読んだ妻は、床に崩れ落ちて泣いた。
その手紙には、私達を案ずる言葉ばかりが書かれていたから。
エルウッド家の現状が大きく変わってしまった以上、フェルトン家を巻き込まない様に、婚約を破棄した方が良いと考えた事。
きっと、アルバートはどんなに説得しても受け入れてくれないだろうから、魔女の秘薬を使ってコーデリアの記憶だけを消した事。
爵位と領地を国に返還し、自分はこのまま姿を消すから、残されたアルバートの事をよろしく頼むという事。
封筒の中には手紙と共に婚約解消の書類がしっかり同封されていた。
手紙を読んだ私達は、直ぐに使用人に捜索をさせたのだが、コーデリアは見つからなかった。
コーデリアの父親とは、貴族学園で同じクラスの仲間だった。
学生時代は特別に仲が良かった訳ではなく、お互いに爵位を継いだ後になってから親交を深めていった。
邸が近かった事もあって色々と協力し合ったり情報交換をしたり、それにコーデリアとアルバートが同じ年に生まれたのも、親しくなった要因だったかもしれない。
妻同士もママ友として仲良くなり、義母が亡くなった時には、エルウッド子爵夫人が落ち込む妻を慰めてくれた。
幼いアルバートがコーデリアと結婚したいと言い出した時は、一時的な感情なんじゃないかと思ったりもしたが、二人は順調に交際を続けて正式な婚約者となり、私達も二人の結婚を心待ちにしていたのに……。
何故、こんな事になってしまったのか。
あの堅物が、横領なんてするはずが無いのに。
エルウッド夫妻は、上司にあたる財務大臣補佐のマクダウェル侯爵が領地の邸で開催した夜会に出席し、一晩宿泊した翌日の帰宅時に事故に遭った。
実はこの事故には、ちょっと疑わしい点がある。
馬車を整備点検したばかりだという記録が見つかっているのだ。
それなのに、事故を起こした馬車は車軸が折れていたらしい。
そして突然の横領疑惑。
どう考えても怪しいのは、上司であり、夜会の主催者でもあるマクダウェル侯爵。
だが、証拠も無い上に、相手は侯爵だ。
下手な手出しは出来ない。
コーデリアは聡い子だから、きっと私と同じ様に考えて、私達を巻き込まない為に身を引いたのだ。
魔女の薬を飲んだというアルバートは、コーデリアの手紙の通り、目を覚ますと彼女の記憶だけが綺麗さっぱり消えていた。
ツテを辿って王宮の魔術師を派遣してもらい、検査を受けさせる。
「薬に掛けられていた魔術が綺麗に発動してますね。
健康的な問題は一切ありませんが、無理に思い出させようとすると混乱するかもしれないので、お勧め出来ません。
彼女の情報にはなるべく触れさせない方が良いでしょう」
そう説明を受けて、学園内でもコーデリアの話をアルバートになるべくしない様にと学長に依頼した。
魔女の薬が原因だなんて言えないので、表向きは『婚約者の失踪にショックを受けて記憶を失った』という事にしてある。
だが、記憶を失ってからのアルバートは心なしか覇気が無い様に見える。
記憶が無くなっても、まだ心の何処かでコーデリアを求めているのかもしれない。
コーデリアの失踪から二ヶ月余りが過ぎた。
あれからずっと捜索は続けてきたのだが、彼女の行方は杳として知れない。
そんなある日、妻がポツリと呟いた。
「もう、そっとしておいてあげた方が良いのかもしれない…」
「コーデリアの事か?」
「ええ。あの子の事が心配で、なんとか見つけなきゃって思ってたけど……。
二ヶ月経っても見つからない。犯罪に巻き込まれた形跡もない。あの子らしき死亡者の情報も無いって事は、何処か遠くで幸せに暮らしているのかも。
貴族として生きるのが幸せとは限らないわ。
あの子の両親みたいに、陰謀に巻き込まれてしまったり、酷い目に遭う事も多いもの」
そう言った妻は、辛そうに顔を歪めた。
親しかったエルウッド夫妻を助けられなかった。
そして、娘の様に可愛がっていたコーデリアの事も、守ってあげられなかった。
その無力感に苛まれているのだ。
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