【完結】どうか私を思い出さないで

miniko

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16 満月の夜は

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 お店が定休日の今日は、アルバートと久し振りのデートだ。
 と言っても、彼は非番では無いので、勤務終わりの夕方に待ち合わせをして食事に出かける。


「コーデリア!!」

 仕事を終えたアルバートが、私を見つけて駆け寄って来る。
 その笑顔は凄く嬉しそうで、尻尾をブンブン振っている仔犬みたいに可愛らしい。
 なぜ彼と離れて生きて行けるなんて思ったのだろうか?

「アルバート、お仕事お疲れ様」

「待ったか?」

「全然。今来たところ」

 一応、末端の貴族位を取り戻した私だが、今は平民が着るような服しか持ち合わせていないので、あまり高級なお店には入れない。
 だから今日行くお店は、以前アルバートに誘われた、近くに新しく出来たというカフェ。
 夜はバーみたいになって、お酒も食事も美味しいと評判らしい。
 リッキーさんも冗談めかして「偵察して来い!」って言っていた。

 黒猫亭以外でお酒を飲むのは久し振りだから、ちょっと楽しみ。


「さあ、行こう」

 アルバートは私の手を握って夕暮れの街へと歩き出した。


 噂のカフェは黒と白を基調にしたシックな内装で、高級感があるのにリーズナブルな所が受けているみたいだった。
 チーズを使った料理が自慢だというので、それを中心に色々な料理を注文する。

「お待たせしましたぁ!熱いのでお気を付けてお召し上がりください」

 可愛らしい給仕の女性がチーズフォンデュを運んで来た。
 アルバートと目が合うと、彼女の頬にほんのりと朱が差した様に見えて、若干モヤッとする。
 まあ、いかにも貴族の坊ちゃんという優美な容姿なのだから、仕方が無いか。


 気を取り直して、フォークを手にする。
 熱々のチーズをブロッコリーにたっぷり絡めて、ハフハフしながら頂いた。

「熱いから気をつけて食べろよ」

「うん、大丈夫。美味しいわね。
 これ、今度、黒猫亭でリッキーさんにも作って貰おう」

「…うん……」

 曖昧に頷いたアルバートの顔色が少し曇った。

「どうしたの?」

「いや、コーデリアはさ……、やっぱり、黒猫亭を辞めるのは淋しいんじゃないかって思って……。
 今更だけど、君が二年かけて作った居場所を、僕が奪ってしまうんだなって」

 少しお酒が回ったのだろうか?
 申し訳無さそうにしょんぼりと項垂れるアルバート。
 その顔を見ている内に、私は漸く気が付いた。

 彼の記憶が戻ってから、自分の想いを彼に伝えていなかったのだと言う事に。


「……好きよ。アルバート。
 その気持ちはずっと変わっていない。
 私が、身を引いてまで貴方の幸せを望んだのは、貴方の事をとても愛しているから」

 私の言葉を聞いたアルバートは、パッと顔を上げた。
 その瞳は、微かに揺れている。

「私は、貴方の妻になりたい」

 視線を合わせてハッキリとそう言うと、彼は顔をクシャクシャにして笑った。




「なかなか良いお店だったわね。また行きましょう」

「あんまり他の店を褒めると、リッキーさんが拗ねるぞ」

 デートの帰り道。
 晴れた夜空の下を、黒猫亭までアルバートと手を繋いで歩く。

 その道中、私は小さな違和感に気付いて首を傾げた。

「なんだか、今夜はいつもよりも明るいみたい」

「満月だからな」

「ううん。月明かりじゃなくてさ、街灯が…」

「だから、それも満月のせいだよ。
 知らないのか?
 満月の夜は、大気中の魔素が濃くなるから、魔道具に供給される魔力が多くなるんだよ」

 この国には、魔石を燃料とした魔道具の街灯がある。
 魔素とは魔力の素となる物質で、普段から大気中に含まれている。
 その濃度が濃くなる事によって、魔石が魔道具に供給する魔力が増えるのだとしたら……。

 幼少の頃、母がポツリと言っていた言葉が急に頭に蘇る。

『満月の月明かりはね、私達に力を貸してくれるのよ』

 首を傾げた私に、母はフフッと笑った。

『コーデリアにはまだ難しかったかしら?』

 あの時は意味が分からなかったけど、その力と言うのが、魔力の事だとしたら───。


 私は、アルバートの肩をガシッと掴んだ。

「ねぇ!!それって魔力を持った人間の力も強くなるの?」

「え……、いや、そうかも知れないけど、僕やコーデリアの魔力はごく微量だから、少々増えた所でなんにもならないだろう?」

 私の勢いに気圧されたアルバートは、戸惑いながらそう言った。
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