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16 加害者は誰なのか
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《side:リベリオ》
ヤツが狂っているのだとしても、それは魅了が原因じゃないと伝えると、クラウディア様は大きなアメジストの瞳を揺らした。
「クラウディア様は、あの男に見覚えがあったのでしょう?
いつ会ったのか覚えていますか?」
「多分、五歳か六歳の頃だったと……」
記憶の引き出しを探りながらそう答える彼女に、イメルダが直ぐに訂正を入れた。
「七歳ですよ。
外務部に勤める貴族の子息であるあの男が、父親に連れられて王宮に来ていた時に姫様とすれ違い、軽く挨拶を交わしたのです」
「七歳……じゃあ、魔道具は……」
「付けていらっしゃいましたよ。当時はまだ眼鏡は掛けてませんでしたが」
「じゃあ、やっぱり魅了が漏れて……」
不安そうに呟くクラウディア様。
きっと、自分が加害者であるという思い込みが強過ぎるのだろう。
こんな事なら、初めて眼鏡を取った顔を見せてもらった時に、ちゃんと言っておくべきだった。
「違います。
貴女の魔力はおそらく魔道具のブレスレットがしっかりと封印してくれてますよ。
大体、魅了魔法のせいだったら、クラウディア様から暫く離れれば、簡単に解けるはずでしょう?」
「……それもそう、ですね」
戸惑いながらも彼女達は頷いた。
「あの男は、ただの偏執的なストーカーだ。
貴女に執着していたのは魔法のせいなんかじゃない。
ただ、貴女が可愛いからだ」
「え……?…かわ………えっ?」
驚き戸惑った様子のクラウディア様の頬が、ほんのりと薄紅色に染まる。
『可愛い』とか、あんまり言われた事無いんだろうなぁ。
人から愛される事を嫌がる彼女は、自分を可愛く見せるのとは真逆の努力をずっと続けていたのだから。
カリーナ達や家族からは言われていたかも知れないが、それもお世辞だとか身内の欲目だとか思い込んでいそうな気がする。
「そう。クラウディア様はとても可愛い。
だけど、貴女に惚れた人間が暴走するのは貴女のせいなんかじゃ無い。
そいつ自身の責任だ。貴女が責任を感じる必要は全く無いんですよ」
「私の……せいじゃ、ない……?」
放心した様に呟くクラウディア様に、深い頷きを返すと、見る見る内にその瞳が潤んで行き、やがて大きな雫がポロリとこぼれ落ちた。
「っわた、し、……ずっと、全部、自分のせいだって……自分が悪いって、そう、思って……」
「うん」
子供の様にボロボロと泣き始めたクラウディア様は、鼻を啜りながら、途切れ途切れに心情を吐露する。
彼女の隣に座り直した俺は、ポケットに突っ込んであったちょっとシワの付いたハンカチで、その涙を拭った。
「……ずっと……、ずっと、怖かったっ……」
あっと言う間にハンカチがびしょびしょになったので、泣きじゃくる彼女を自分の胸に抱き寄せて、その背をさすった。
「うん。大丈夫。貴女は何も悪くない」
「……うぅ……ぁぁ……」
彼女は『狂った愛情を向けられるのが怖い』と言っていたけど、本当は自分の魔法で人を狂わせてしまう事に怯えていたんじゃないだろうか?
だが、今回の件に関しては彼女はただの被害者で、あの男は完全に加害者なのだ。
胸に抱いた彼女の嗚咽を聞きながら、俺は彼女が泣き止むまで、何度も何度も「大丈夫」と繰り返した。
ヤツが狂っているのだとしても、それは魅了が原因じゃないと伝えると、クラウディア様は大きなアメジストの瞳を揺らした。
「クラウディア様は、あの男に見覚えがあったのでしょう?
いつ会ったのか覚えていますか?」
「多分、五歳か六歳の頃だったと……」
記憶の引き出しを探りながらそう答える彼女に、イメルダが直ぐに訂正を入れた。
「七歳ですよ。
外務部に勤める貴族の子息であるあの男が、父親に連れられて王宮に来ていた時に姫様とすれ違い、軽く挨拶を交わしたのです」
「七歳……じゃあ、魔道具は……」
「付けていらっしゃいましたよ。当時はまだ眼鏡は掛けてませんでしたが」
「じゃあ、やっぱり魅了が漏れて……」
不安そうに呟くクラウディア様。
きっと、自分が加害者であるという思い込みが強過ぎるのだろう。
こんな事なら、初めて眼鏡を取った顔を見せてもらった時に、ちゃんと言っておくべきだった。
「違います。
貴女の魔力はおそらく魔道具のブレスレットがしっかりと封印してくれてますよ。
大体、魅了魔法のせいだったら、クラウディア様から暫く離れれば、簡単に解けるはずでしょう?」
「……それもそう、ですね」
戸惑いながらも彼女達は頷いた。
「あの男は、ただの偏執的なストーカーだ。
貴女に執着していたのは魔法のせいなんかじゃない。
ただ、貴女が可愛いからだ」
「え……?…かわ………えっ?」
驚き戸惑った様子のクラウディア様の頬が、ほんのりと薄紅色に染まる。
『可愛い』とか、あんまり言われた事無いんだろうなぁ。
人から愛される事を嫌がる彼女は、自分を可愛く見せるのとは真逆の努力をずっと続けていたのだから。
カリーナ達や家族からは言われていたかも知れないが、それもお世辞だとか身内の欲目だとか思い込んでいそうな気がする。
「そう。クラウディア様はとても可愛い。
だけど、貴女に惚れた人間が暴走するのは貴女のせいなんかじゃ無い。
そいつ自身の責任だ。貴女が責任を感じる必要は全く無いんですよ」
「私の……せいじゃ、ない……?」
放心した様に呟くクラウディア様に、深い頷きを返すと、見る見る内にその瞳が潤んで行き、やがて大きな雫がポロリとこぼれ落ちた。
「っわた、し、……ずっと、全部、自分のせいだって……自分が悪いって、そう、思って……」
「うん」
子供の様にボロボロと泣き始めたクラウディア様は、鼻を啜りながら、途切れ途切れに心情を吐露する。
彼女の隣に座り直した俺は、ポケットに突っ込んであったちょっとシワの付いたハンカチで、その涙を拭った。
「……ずっと……、ずっと、怖かったっ……」
あっと言う間にハンカチがびしょびしょになったので、泣きじゃくる彼女を自分の胸に抱き寄せて、その背をさすった。
「うん。大丈夫。貴女は何も悪くない」
「……うぅ……ぁぁ……」
彼女は『狂った愛情を向けられるのが怖い』と言っていたけど、本当は自分の魔法で人を狂わせてしまう事に怯えていたんじゃないだろうか?
だが、今回の件に関しては彼女はただの被害者で、あの男は完全に加害者なのだ。
胸に抱いた彼女の嗚咽を聞きながら、俺は彼女が泣き止むまで、何度も何度も「大丈夫」と繰り返した。
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