講義にグレイが現れた

ごむらば

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脱げないグレイ

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着ぐるみのグレイの上から唯そっくりの皮を被った唯と学食へ行く事になった。

ややこしいので、偽物の唯としておこう、本物だけど。

偽物の唯は当然のことながら、唯よりも少し太って見えるが、それに触れるのはかなり危険だ。
この手の話で、過去なんども口を滑らせた結果口を聞いてもらえないほど、唯を怒らせた経験が何度もある。

偽物の唯は下着をつけて、服を着るとニット帽を被り、メガネを掛けた。
こうする事で、本人の顔よりも他のところに目が行くので、バレにくいらしい。

唯の皮の目は一点を見ているので、確かにメガネは有効なアイテムだと思った。
さらに、ニット帽をかぶる事で、髪の毛が風でなびいても、ファスナーは見えることはないだろう。

偽物の唯は、萌え袖にして4本指も上手く隠していた。

そうして、俺と唯は未確認生物研究部の部室を出た。


部室を出て早々に人とすれ違ったが、偽物の唯には全く気付いていない、それどころか気にも留めていなかった。
むしろ、俺の方がオドオドし偽物の唯に注意された。


学食で偽物の唯は器用に唯の皮、グレイの着ぐるみを着ているのか分からないほど滑らかに食事を口に運んでいた。
それを不思議そうに見ている俺に話し掛けてくる。
「浩太、今ならどんな質問にでも答えてあげるわよ」

俺は差し障りのない質問からする事にした。
「その格好なら講義に出れるんじゃないか?」
偽物の唯はこちらをジッと見て言う。
「あまりに長い時間近くで見られたらバレるかも知れないでしょ」
講義は一コマ90分、近くで見ていたら確かに異変に気づく学生もいるかもしれない。
俺は偽物の唯の言葉に納得して頷いた。

「他にはないの?」
俺は少し迷いながらも聞いてみた。
「トイレはどうするの?」
偽物の唯の箸が止まりゆっくりとこちらを見る。
「あんたねぇ、食事の時にそれを聞く?」
俺は慌てて取り繕う。
「ゴメン、話題変えよう」
そう言って、水を飲んだ。
「オシッコするところ見てみたい?トイレで確認してみよっか?」
想像もしていなかった偽物の唯の言葉に含んだ水を吐き出して咳き込む。

「もう、汚いわねぇ、大丈夫?」
「うん、大丈夫、ゴホゴホッ!」

「ウソ、ウソ、見せる訳ないじゃん」
その言葉に少し安心する自分がいた。

「じゃあ、さあ、お風呂は入れるの?」
俺はトイレの話題から離れるように別の質問をした。

「うーん、浩太はどう思う?」
「入れないと思う」
「残念、毎日入っているわよ」
偽物の唯が俺の顔に急接近してくる。
「クンクンしてみてよ!」

俺は急接近してきた偽物の唯にドキドキしながら、臭いを嗅いだ。
確かに汗臭くて堪らないと言う事はない。
ボディソープかシャンプーの香りに混じって少し汗の臭いがする程度だった。

「確かに、いい匂いがしてる」
偽物の唯は納得したように頷いていた。

「このグレイの着ぐるみもインナースーツも特殊なもので、去年卒業した梨田 隆之(なしだたかゆき)部長の家がお金持ちで未確認生命体研究部に寄付してくれたのよ」
声のトーンから嬉しそうに話していた唯だが、ボソッと付け加える。
「卒業してからは会えていないんだよね」

俺はすぐに分かった。
唯は部長の梨田さんと恋仲だったか、片想いである事に。

食事も終えたので、学食を出る。

俺は午後からは授業がない。
“唯はどうするんだろ?“
そう思って聞いてみた。
「午後もグレイで講義の手伝いするのか?」
「ううん、もう今日は終わり、浩太は?」
「俺も今日は終わり、家に帰るだけかな?」
「じゃあ、一緒に帰ろう!」

俺も唯も家から離れた大学へ進学したため、一人暮らしをしている。
ただ、大学の最寄り駅からはお互い逆の方向へと帰る事になる。

駅まで一緒に歩いて行き、そこで別のホームへと分かれるのが定番だったが、何故か今日は唯は俺の横にずっといる。
「お前んち、逆だろ!」
「いいの、いいの、浩太の家に今日は家庭訪問するから」

俺は唯に押し切られる形で家へと帰るとになった。
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