巨大昆虫観察

ごむらば

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第1章 巨大昆虫観察

#2 鑑賞

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香織とは長い付き合いで俺の性格をよく把握しており、嘘などついてもすぐに見抜かれてしまう。 
だから、番組について質問されても下手な嘘もつけずに着ぐるみを操演した女性が気になり、彼女の顔を見てみたかったと正直に打ち明けた。 
香織は「あなたって好きそうだものね、こういうのと」と言って、そのまま一緒にDVDを鑑賞する。
突然なにか聞かれるかもしれないと内心ドキドキしながら、妻の様子を警戒しつつDVDを見ていた。 
見ていてつい、「この着ぐるみに女性が入るのってきつくないのかなぁ」 
とあまり黙って見ているのもどうかと思い振ってみた。
すると、「暑くて大変なんじゃない」とそっけない返事。 
しばらく、二人で見ていたのだが、妻は急に立ち上がり部屋を出て行ってしまった。 
テレビ画面では、幼虫のイモムシが躰をくねらせながら、子ども達の後ろをついて行くシーンが映し出されていた。
次の日、妻は「どの着ぐるみが好きだったの?」と聞いてきた。 
どれも印象に残っていたが、動きに女性らしさがある成虫の2つ目と答えてハッとした。 
妻の香織も番組をよく知っていたのだ。 
答えを聞いて、ふうーんといった感じで笑みを浮かべている。 
そのあと、また2人で巨大昆虫観察を鑑賞した。
幼虫が糸を出して繭を作りサナギになる。 
子ども達は中を見たくてたまらず、ある日繭を破って中を覗く。 
サナギは全体的に光沢があり、くすんだオレンジ色をしている。 
人工物のようにも見えるサナギを子ども達は 
好奇心から繭をやぶってサナギを外に出してしまう。
外に出されたサナギを子ども達が触ると、その度にサナギはヒクヒクと動いている。 
サナギはしばらくすると皮を剥いで成虫が出てくる。 
実際の昆虫ではよくある光景だが、これは成虫の着ぐるみを着せられた女性が、さらにサナギの着ぐるみも着せられて出てこなければならない。 
これはとんでもなくキツイだろうと思った。 
そんな状況でもがんばっている彼女のこと 
を考えていると、変に興奮してきてしまう。 
放送されたシーンはほんの1分程度だが、実際の撮影では子ども達もいて、すんなり一発でOKはでなかったと思うと彼女はすごいと思った。 
「あのシーンって、相当苦しいんじゃないかなぁ」とテレビ画面を見ながら妻に話しかけたところ、耳を疑うような返事が返ってきた。 
「暑いし、苦しかったよ」と。 
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