ルーシアンミス

月白 翠

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一章 金青のアンダステ

八話 潜入

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 パテロ-ゼルダはヴァラキア空域の中で三番目の大きさである。アンダステで最も古いパテロの一つで、ガリア同様もとはヴァラキアの分家で第三王家と呼ばれていた。長く上納金や労役を強いるヴァラキアを疎ましく思い、はっきりと決別したのは三代前の事。
 その後は薬効のある植物や樹木を育て、卸と開発を行っている。はずだったが、現在それらはすべて停止しているようだ。
 ゼルダが霧に覆われているのがいい証拠だ。植物や樹木はほとんどが水耕栽培で多くの水を必要とし、ゼルダには巨大な水施設がある。これは常に稼働している必要がある為、使われない水は流れるままになっている。さらに広大な温室を持ち、それを維持する為のアサンせきを集めた施設もある。アサンせきはアサンの光と熱を蓄える性質の石でアンダステで熱源として広く使われている。

 パルナ老は霧でぼやけた門の向こうを見やると強い決心を持って足を踏み入れた。
 彼は合流したエギールと子飼いの部下達と共にパテロ-ゼルダの港へ入った。港湾空域へ入ると通常なら歩廊への誘導があるはずなのだが、いるはずの係がおらず、空いている歩廊へ船を停めた。ゼルダの港はがらんどうで静まり返っている。舟も誰も乗せなくなって久しいようで埃をかぶっていた。
 ゼルダはしばらく前から国民の移住を勧めていると噂になっていた。事業も停止し、空っぽの国になって来ている───と。
 その通りだった。これでは出入国は簡単だな、と思いながら何者でも住み着く事も出来るとパルナ老は思った。
 彼が一人で行く事を反対する孫と部下達を城から少し離れた所で待機させ、シャトウィルド達と連携して時期を見極めるように言い聞かせた。
 そうして城の中へ入った彼の前に一人の男が現れ、礼をすると案内の為に先を歩き出した。ゼルダの城は石造りの古城のせいか、空気がひんやりと重々しく感じられる。城の素材や人の少なさのせいかもしれない。
 しんと静まり杖の音が響く中案内された所はひと気のある広間だった。
 ゼルダ王家の色である白と朱色の幕が、短いものは部屋をぐるりと囲むように、長いものは中央に吊るされている。それを背にした椅子にグランサが座り、左右には警護兵が立っている。少し離れて執事らしき男が立ち、部屋の壁際には彼らを守るように兵が均等に並んでいる。
 パルナ老は進み出て礼をとるとグランサが声をかけた。
 「名高いパルナ殿が自ら起こしとは。どの様な用件かな?」
 パルナ老はグランサを一瞬見て首を傾げ、眉をひそめる。さらに相手を凝視して「否、初、だな───」と呟いた。
 「単刀直入に言おう。我が孫を返してもらおうか」
 部屋中に響く声でそう言ったがグランサは顔色を変えず答えた。
 「孫。そういう報告はなかったと思うが、わしのところに誰か滞在しておるのか?」
 控えている執事に視線を向ける。男は首を横に振った。
 「おらぬようだ。何かの間違いでは?」
 「間違いではない。連れ去った乗り物はここへ来ている」
 グランサは連れ去ったという言葉に驚いたように目を見開いた。
 「連れ去った。もしかしたら、勝手に入国しているのかもしれぬ。現在我が国は国民の移動を終えたばかりでな、簡単に入国出来る。あなたもそうやって入って来たのだろう?」
 どこか、全て承知というような眼差しを返してきた。
 「そもそも──何ゆえ国から民を出すのだ? この国をどうするつもりだ?」
 グランサはため息をつくと顔を曇らせて、
 「仕方がないのだよ。命を守る為だ。あなたもある意味一国のあるじだ。終わりというものがどういうものか、われが説明せずとも察する事は出来るだろう」
 悔しさを秘めた口調で語り、グランサはパルナ老の視線をかわすように横を向いて見えないところで口元を上げる。
 パルナ老は考え込むように顎を掻き、杖に体を寄せる。何かを確認するかのようにグランサをじっと見つめながら。
 沈黙が漂いグランサもパルナ老の視線を苦々しく感じ始めた頃、広間の入り口へ急使が足音をたててやって来た。急使は何か伝えようと焦っているが、勝手に入る事はなかった。その代わり執事が入り口へ向かう。
 急使から耳打ちされた執事は慌ててグランサを振り返る。グランサは何が起きたのか気になったがそれをパルナ老の前で聞くつもりはなかった。
 一方パルナ老もこれ以上グランサを相手にしていても何も得られないと感じ、この場を辞する時と考えた。
 「込み入っているようじゃな。ならばわしが本当に入国していないか探してもかまわぬだろうか」
 「問題ない。案内をつけよう」
 「ありがたい」
 本当は城の中が見たいと言いたかったが拒否されるのは明らか。幸いにも人員はまだいる。こちらに目を向けさせている間に探すという手もありだ。
 広間を出ると案内役、というよりお目付け役の人物が現れパルナ老を先導していく。
 グランサのもとに執事が素早く近づき、声を落として急使の知らせを伝えた。彼の顔は険しくなり、語気を荒立てて怒り出した。ハルストからの砕壁船さいへきせんが遅れている、という事だった。
 「どういう事だ」
 グランサは抑えきれない怒りを男にぶつける。
 執事は急使が伝えた事意外分かるはずもなく、おろおろと同じ事を繰り返した。
 グランサは男の胸を叩き、よろける彼に指示を出した。
 「小娘の見張りを増やしておけ。船が到着したらすぐに乗せるのだ。いいな」
 ふと、何か明暗が浮かんだのか目を異様にぎらつかせて口元を歪ませた。喉の奥から笑い声を漏らすと指を鳴らした。
 すると誰もいない場所に一人の男が現れた。灰色の髪に片目が白濁したどこか人離れした雰囲気を醸し出している。
 「何の用だ?」 
 ずけずけとした物言いで侮蔑の目をグランサへ向けた。そんな様子を気にもせずグランサは命令を出す。男は気味悪いほど口を歪ませて了承すると来た時と同じ様に消えた。
 残されたグランサの低い笑い声が広間に響き渡る。


 パルナ老が城から出て来たのを遠眼鏡で確認したエギールは祖父の部下達を振り返ると頷く。二人が離れてパルナ老の後をこっそり追い始める。それを見届けると再び遠眼鏡で今度はシャトウィルド達がいる方向を見てみる。
 五つの影──目立たなくする外套を着こんでいる──が固まっているが三つが離れ、さらに一つは別方向へそれぞれの目的地へ向かって行く。
 残った二人、シャトウィルドとロリイはソレル救出を目的に動く事になっていた。
 ロリイは軽く目を瞑り、集中していた。<ルーシ>を使って索敵を行っているのだ。
 ゆっくりと目を開けてシャトウィルドに頷く。
 「どうだ?」
 「思ったより人がいない」
 「そうか。パルナの情報通りだな。で、人が集中してる所は分かったか」
 ロリイは真っすぐ指を城方面へ向けた。
 「人はほとんどが城の中。それも真ん中のところ」
 「居館か」
 霧で見えにくいが目を凝らしてみると、ぼやっと城らしきものが見える。
 ゼルダの町は中心にある城へ向かって外縁から大路が三つある。その大路へ交わるように環状に横道が伸びている。さらに横道と横道を繋ぐ細道もある。目立つ大路を避けて横道と細道を進んで城を目指すつもりで道に入ったが、歩きにくさに襲われていた。小さいピグマ石を敷き詰めた道はところどころ隆起していて躓きやすくなっていた。
 横道には無人の建物がならんでいるがそれぞれ歪んで、辛うじて倒壊を免れているように見える。外壁にある明かりの石が命綱のようにぽぅと灯っている。
 移住の噂は本当なのだとシャトウィルドは思った。恐らく移住は済んでいて、残っているのは王とその周辺の者だけなのだろう。
 「ワインダーさん、僕は対象者を知らないのであなたが先行して下さい。僕は周りを警戒しながら進みます」
 ロリイはそう言うと周りをぐるりと見回した。シャトウィルドは腕にはめた通信装置を撫でながら頷く。
 「何かあった時の為に通信は繋げたままにしておいてくれ」
 ロリイは了承すると別の細道へ向かおうとして足を止めた。
 「そうだ。何か、得体の知れない感じがしたので、気をつけて下さい」
 「それはどういうのだ?」
 ロリイは眉根を寄せて考えるが答えが出ない。
 「索敵中に気付いたんですが、はっきりと分からないものです。そうとしか言えないもの。ただ、手強いと思います。すみません、うまく伝えられなくて」
 「人、という事か」
 得体の知れない何かを思い浮かべてみようと努力してみるが、乏しい想像力では無理だった。
 ロリイは考え込むように口をすぼめてどう説明すべきか悩んでいた。
 「人というより、人と何かが融合していると言った方が正しい・・・かな」
 とりあえず気をつけて行くよ、と言ってシャトウィルドは城へ向かって歩き出した。
 ロリイはまだ漠然としたものである為、自分が十分気をつけていればよいと決めて別の道へ入って行った。
 霧の中でその様子を黄檗きはだの隻眼が見ていた。

 ゼルダの城、少し離れた別棟の屋上には歩廊があり、今そこに砕壁船さいへきせんが着岸しようとしていた。
 予定よりかなり遅れての到着にグランサは苛立ちをやっと鎮める事が出来た。これで娘を送れば自分の役目も終わり、後の人生を自由気ままに過ごせると思うと口が綻ぶ。
 グランサは居館の窓から眺めて思う。長かった、今回の依頼は非常に難しかった、と振り返る。子供達に気付かれないように進めなければならなかったし、秘密裏に動ける者も必要だった。思いがけない事に腕の立つ者と薬物に通じた者も現れた。運がいい、というより運は自分に向かって来ていると思えるほど。どちらも役に立ったがもう必要ない。後はここを無人化し、成り行きにまかせておけばいい。彼の心が逸る。
 砕壁船さいへきせんが完全に着岸すると、グランサは口元を緩めた。
 「船が着いた。娘はまだか」
 声を張り上げる。誰も返事をしない。訝しんで振り返るとミレイシャが入って来るところだった。部屋を守る護衛兵がいたはずだがどこへ行ったのか。
 「お別れを言いに来ました。わたくしはこれよりハルストへ戻ります」
 ミレイシャはそう言いながら近づいて行く。どこか清々しい感じを漂わせて。
 「そうか。それは寂しくなるな」
 そんな事は微塵も思っていない。心の中で思うが表向き残念そうにする。
 「そなたはずっとここにいて良いのだぞ」
 心にもない事をさらに言う。かれの心の中はこれからの事しかない。
 ミレイシャもそんな事を本気にしていない様子だ。
 「お別れの前に陛下に尋ねたい事があります。姉との約束はどうなったのですか? 木が枯れていたのですが」
 グランサは意味が分からないという表情で答えた。
 「病の木はいずれ枯れるだろう」
 その返事はミレイシャに冷水を浴びせたようで、彼女から表情が消え無言で立ちつくす。
 グランサが労いの言葉を言って去らせようと口を開きかけた時、ボンッと大きな、何かが破裂したような音が響いた。
 音の方を見ると砕壁船さいへきせんから煙が上がっている。
 「何だ。何が起きたのだ! 誰かいないか」
 グランサの怒鳴り声が響く中で返事をする者はいなく、ミレイシャは静かに佇んでいた。
 (姉さんとの約束を破ればどうなるか聞いていたはずなのに、何て愚かな男なの)
 ミレイシャの心はざわざわと嵐が吹き荒れていた。
 そこへ駈け込んで来たのは執事。
 「大変です。船から煙が・・・・」
 「そんな事は見れば分かる。何が起きた」
 分からないと怯えて首を振る執事に苛つき、自分で確かめようと歩き出した。
 そこへソレルを迎えに行った兵が慌ててやって来た。
 「陛下、娘がいません」
 グランサを認めると叫んだ。
 一瞬その場がしんと静まり返ったが、ぐるりと振り向いたグランサは目を剥き、わなわなと震えている。その様子があまりにも可笑しくてミレイシャは笑いそうになる。
 「お前か。お前が逃がしたのか」
 顔を真っ赤にして激高する。初めて見る姿にミレイシャは人の究極の怒りとはこれ程なのかと知った。
 何も答えずにいるとグランサが大股で近寄り間近でもう一度尋ねる。
 「わたくしは何もしておりません」
 白々しく答えるとグランサの平手が左頬に強く当たった。その勢いでミレイシャの体が倒れる。床に手をついたミレイシャの服を乱暴に掴んで仰向けにさせると今度は固く握った拳をちらつかせた。
 「もう一度聞く。娘を逃がしたのか」
 怒りをすぎて冷静になったようだ。
 間近にいるグランサに、彼女は意外にも冷たい笑い顔を向ける。そして素早く右手に隠し持っていた細長いものを彼の腹めがけて突き出した。
 それは彼に一矢を報いるもののはずだった。もう少しのところで手が何者かに掴まれた。いつの間にか現れた灰色の髪の男。気配を感じさせず、ミレイシャの手首を容赦なく握ってくる。
 「これは何だ?」
 ミレイシャの手から細長いものを取り上げるとグランサに見せた。
 「毒か」
 「姉との約束を破った報いよ」
 吐き捨てるようにミレイシャは言った。
 その間も灰色の髪の男は初めて見るものを光に透かしてじっと見つめている。
 「知っておるぞ。お前は薬同様に毒にも精通しているとな。今まで何人を己の毒で葬ってきた? 金さえ出せば調合してきたのだろう?」
 嘲笑うと男に視線で命じた。男は毒の入ったものを躊躇なくミレイシャの首に打った。手を放すとミレイシャの体は床に転がった。グランサは見下ろして
 「己の毒で死ぬがよい」
 そう言って事態を治める為に歩き出しながら兵達へ指示を出していく。灰色の髪の男はゼルダにダルーナが侵入していると報告した。
 急に情勢が悪くなってきたと感じるグランサはこれも莫迦な女のせいかと舌打ちする。
 灰色の髪の男、レーキはダルーナは自分に任せてくれと言ってきた。グランサは彼を見て頷く。彼がダルーナを倒そうが、彼が倒されようが構わない。むしろ相打ちでもいいな、と単純に思う。レーキは元ダルーナで今までにない力を手にしているらしい。きっと最後に大いに役立ってくれるだとうと密かに思った。
 グランサはまずソレルを取り戻す為にある所へ向かった。

 毒を打たれたミレイシャは起き上がると目的地へ行く為に歩き出した。頬に痛みはあるが毒を打たれたところは痛みもない。毒を作った自分だから分かる事がある。この毒はすぐには効かないうえ、死に至る事は無いという事を。残された時間を上手く使い復讐する事が何よりも大事。そう自分に言い聞かせてゼイラーへ通じる秘密の通路へ向かう。まだ足が自由に動くうちに。
 ゼルダの城の中はにわかに騒がしくなってきた。砕壁船さいへきせんは来たものの、爆破されたのか煙が上がり、連行するはずのソレルはいない。
 少ない兵士達が忙しく動き回っており、ミレイシャ一人にかまう者はいなかった。
 ありがたい事にミレイシャは秘密の通路の入り口へたどり着いた。
 壁に手をついて息を整えている時、覚えのある声が届く。
 「ミレ」
 声の主はキッシア。
 様子を探りながら侵入していた彼女は小刀を手にして、直前までの持ち主を探す〈ルーシ〉を使ってここへたどり着いた。
 キッシアはミレイシャに近づくと様子がおかしいと感じる。
 「ミレ、どうしたの?」
 しゃがれた声で親しげに尋ねる。ミレイシャは久し振りに会う知り合いに弱々しい笑みを向けて、
 「因果応報よ。今までわたくしの毒で死んだ人達の」
 言葉そのままを受け取ったキッシアは慰めも憐れみも感じない。自分もその一人だから。
 「どこへ行くつもり?」
 「ゼイラーへ。わたくしの故郷へ。あの木の下に行かなければ。お願い、わたくしを連れて行って」
 ミレイシャはキッシアに縋る。きっと叶えてくれると信じて。
 キッシアはミレイシャに肩を貸して隠された扉を開けた。ミレイシャの方が背が高いので体重が直接かかっているはずなのだが、キッシアはそんな風に感じさせない位に楽々と歩いていた。
 秘密の通路に入ると空間が縮んでいるようであっという間にゼルダからゼイラーへ着いた。
 出た所は万能薬の樹がある場所。
 「どういう仕掛け?」
 不思議な体験をしたキッシアは尋ねる。普通に通路を通ったような感じで違和感は無かった。
 「わたくしにも分からない。三百年くらい前に作られたものよ。当時のお姫様が作ったとか、作らせたとか。真実は分からない」
 万能薬の樹の根元に腰を下ろすとそう言った。木は枯れているといっていいが根にはまだ命が僅かにあるようだ。
 ミレイシャは愛おしそうに木肌をさすり、縋るように自分の体を預ける。
 「ミレ、あたしはあたしの用でここに来ている。あたしの声をこうした件は不問にするから」
 キッシアは腕から伸ばした得物をミレイシャに向けてしゃがれた声をさらにきつくして言った。
 「我が王女にした事を全て話してもらうよ」
 厳しい目を真っすぐ向けて剣の刃先をミレイシャの目の前に構える。目の前に向けられる剣の刃先も今のミレイシャには意味がない。そのうち自分には死が訪れる。けれど彼女はそれを待つつもりはないらしい。
 「こんな事しなくても、全て話すわ」
 ミレイシャは一度目を閉じて、再び目を開けた時には顔つきが変わっていた。ハルストで面会した甥と姪との会話を思い出していたのだ。彼らが最も大事にしていると言っていた人の事を。
 ミレイシャは話した。
 ハルストで手に入れたこの麻薬について知っている事、試した手応えを。薬と毒の両方に精通している自分だから得た感想も何もかも。さらに、甥と姪の為にあえて中途半端に使ったと告白した。制御の筒を壊せば今は操る事は出来ないだろうと。但し麻薬の効果は残るのでそれを復活させる方法がそのうち出来るかもしれないとも。
 安心出来る内容ではなかったが、キッシアは剣を収めた。この話の内容は持ち帰って然るべき人に預けるのが良いと判断する。
 すっかり安心したようなミレイシャを見下ろし、キッシアは最後に何が出来るだろうかと考えた。何も無かった。自分達は毒使いとその毒を飲まされた者という関係。知らずに毒を作らされ、使われ後悔していると、毒にあたって床に伏した自分の見舞いに来てそう言っていた。あの時は二人とも若かった。自分は武者修行でハルストへ、彼女は勉強の為。気づけば利用される側だった。自分は護衛を務めるつもりだったが毒見に利用され、彼女は小動物を退治する薬の調合と言われて作ってみれば人に使う毒だった。あの時だったな、謝罪に来た彼女に思わず小刀を投げつけたのは。小刀は髪の一部と耳の薄皮を切った。
 その事件は彼女達に何かを考えさせる出来事だった。
 昔を思い出して笑ってしまったキッシアを不思議そうに見上げたミレイシャ。
 「キー、そろそろ行って。抜け出した王女を救いに行って」
 「あなたはどうするの?」
 ミレイシャは悪魔的な笑みを浮かべた。
 「ゼルダを滅ぼすの。昔ばなしに伝わるふたごの樹を目覚めさせてゼルダを滅ぼすのよ」

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