異形病院

おしゅれい

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患者メモ6日目 琴田蓮斗

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「やぁやぁ、先生。随分と頑張ってるみたいだね」
部屋で監視カメラの映像を見ていると、急に声をかけられた。
色の抜け落ちたかのような真っ白な髪に肌、その中にぽつりと浮かび上がる赤い瞳。背中には大きな羽が生えている。
見た目は変わってしまったが、僕はこの顔に見覚えがある。
「蓮斗君」
「お久しぶりだね、先生。ここも大分変わってしまったね」
「君は全て覚えているの?」
「うん、何にも忘れていないよ」
彼は知人だ。そして、記憶があるのなら、人間がなぜこんな風になったのかを知る貴重な人物だ。
もしかしたら彼は、人間を元に戻したがらないかもしれない。
「先生、先生は多分わかってると思うけど、俺は人間が嫌いだ。だから先生のやってることは反対だよ」
「うん、でも僕はやめないよ」
「知ってるし止める気もねぇよ」
クスクスと笑って彼は羽をパタつかせた。
「だって止めなくても人間は元には戻らないもん。ねぇ先生?こうなった元凶知ってるだろ?会ってみた?流石にもう見たよね。なぁ、あいつにはもうどうする力もないよ」
「わかってる。彼に力はない。でも僕は……」
彼は不思議そうに僕を見た。そして、不気味に目をギラつかせて僕に問う。
「ねぇ先生。とうしてそんなに元に戻したいの?人間に戻ったって良いことないよ。皆意識ない、今が1番幸せだろう。先生は人間が戻ってきたらどうなってしまうの?」
「人間に戻れば、温かい記憶と家庭が戻ってくる。皆あるべき人生に戻る。僕は皆の止まった時間を動かさなくてはいけない。皆、戻らなきゃいけない家があるんだ」
彼はチッと舌打ちをする。
「俺には帰るべきところも幸せもわからない。元に戻ったところで、大切な奴の悲しむ顔なんて見たくない。先生、ここにいてくれよ」
僕が黙って彼を見つめると、彼は不機嫌を隠すことなく顔に出した。
「あー、もう勝手にやれば良い。どうせ無理だ。でもいざとなったら俺は全力で邪魔するぞ。……例え誰かを殺しても」
バサリと音を立てて、彼は部屋を後にした。

僕は再び監視カメラを見る。
誰に何を言われても、僕の決意は揺らぐことはないだろう。
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