ワンダラーズ 無銘放浪伝

旗戦士

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最終章: Wanderers

第百十二伝:戦場に慈悲は無し

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<連合軍第5制圧ポイント>

 一方その頃。
雷蔵達突入班を護衛し、無事彼らをロイの研究所へと送り届けたヴィクトール率いる防衛班は一度基地に戻り、フレイピオス軍の一隊に加わっていた。
この部隊はゼルギウスが間接的に指揮するうちの一つで、遊撃の役割を担っている。
加えてマティアスとの戦いを終えたギルゼンやインディスも彼らと合流を果たしたが、二人は迎撃部隊の方へと向かう手筈となっていた。
それ故現状は防戦一方となり、怒涛の勢いで突撃してくる人工魔獣の大群に苦戦を強いられている。

「怯むなぁっ!! 確実に奴らの息の根を止め、戦線を上げろォッ!! 」

小隊を指揮する騎士の一人の怒号が飛ぶ。
その声を横目にヴィクトールは愛用の十字槍を振るい、対峙した人工魔獣の首を飛ばした。

「こう数が多くちゃ敵わねえな……! エヴァリィさんよ、敵の指揮官は分かるか! 」
「未だ不明だ! だが彼らの言う通り、進まなければどの道死ぬぞ! 」

分かってるよ、と言わんばかりにヴィクトールは槍を持つ手を変えて振るう。
群れを成したスケルトンの身体を四散させた後、すぐ傍で戦っていたギルベルトとクレアの下へ向かった。
現在、彼らはヴィダーハ平原に残っている遺跡を背にして魔獣軍と交戦している。
ヴィクトールの防衛班とフレイピオスの一個中隊が奮戦しているが、スケルトンやガーゴイル、大型の人工魔獣であるキマイラに徐々に押されつつあった。

「お二人さん、進軍だ! あの砦が見えるな、あそこに向かうぞ! 」
「承知しました! クレア、往けるか? 」
「仰せのままに、マスター。他の方はどうなさるのですか? 」
「俺が引っ張ってくる! 」

それだけ告げるとヴィクトールは矢と魔力弾が飛び交う戦場を横切り、エヴァリィ達と共に魔物と交戦していたゲイルとルシアの下へ駆ける。
初の戦場とあってか緊張した面持ちで得物を握り締める彼らは押され気味で、彼から見ても体勢を立て直す必要があった。
リザードマンと鍔競り合っていたゲイルをカバーするかのように魔物の背後に移動し、背中から腹部を槍で貫く。

「隊長!? 」
「ルシア! ゲイル! あの砦に移動するぞ! エヴァリィ! 聞いてたな!? 」
「無論だ! 各員、私とヴィクトール隊長の後に続け! 」
「す、すまねぇ隊長……! 」

防衛班はヴィクトールやギルベルト達を除いてほぼ全員がヴァルスカ帝国軍の経験豊富な兵士たちで構成されていた。
彼らの所属するリヒトクライス騎士団の殆どが騎士団長であるデフロットの指揮の下、イシュテン軍として戦場に立っている。
ヴィクトールの指揮する部隊は彼らを含めおよそ50人以上にのぼり、共に行動していた。

「行くぞ、俺に続けェーッ!! 」

高らかに声を上げながらヴィクトールは走り出し、それをゲイル達が追う形となって彼らは進軍を再開した。
進軍を阻止しようとする魔物の攻撃を肉薄しながら彼らは足を進めていく。

「止まるなッ! 進め、進めェ―ッ!! 」
「畜生、次から次へと湧いてきやがる……! 」

エヴァリィの怒号が彼らを鼓舞し、ヴィクトール達4人はギルベルト達の待つ合流ポイントへ向かう。
周囲には魔導銃のけたたましい銃声が幾つも鳴り響き、彼らの身体を本能的に強張らせた。
ギルベルト達の率いる小隊が見えるなりヴィクトールとゲイルは駆ける足を速め、二人を囲んでいたリザードマンとガーゴイルを急襲する。

「二人とも! 行くぞ! 」
「助かります、ゲイルさん! ヴィクトールさん! 」
「私が援護します! 早く脱出を! 」

ルシアの魔導弓から光の矢が形成され、白い光刃が空中を滑空していた魔物を仕留めた。
その拍子に4人は走り始め、ルシアもエヴァリィに連れられて再び戦場の中へと走り始める。
大きな岩陰に隠れながらヴィクトールは通信媒体を取り出すと、装置を起動した。

「こちら第45遊撃班隊長ヴィクトール! これからエリア5に位置する敵陣の砦へと突入する! 近辺の部隊は援護を頼む! 」
『リヒトクライス騎士団第一遊撃班デフロット! 了解した! 』

緑色の宝玉から聞き覚えのある声を聞き取るとヴィクトールは懐に通信媒体を仕舞い、残った隊員たちを先導するように岩陰から飛び出る。
愛用の槍から魔導銃に持ち替えた彼は、眼前に映る四足歩行の魔獣へ向けて引き金を引いた。
魔導長銃の内部に仕込まれた撃針が火属性の魔法の弾丸を打ち付け、長い銃身から鋭く尖った魔力弾が射出される。

「ビンゴ! 撃ち続けろ! この一帯を殲滅するぞ! 」

彼の掛け声と共に部隊の全員が魔導長銃に持ち替え、迫り来る魔獣の群れに魔力弾の嵐を見舞う。
隣に立つエヴァリィが軍刀を引き抜き、空高く掲げた。

「第一波! 交代しろ! 第二波、続けて撃てェーッ!! 」

一度整列した部隊の兵士たちが後続の部隊と場所を入れ替え、再び弾幕を形成する。
突進する事しか出来ない魔獣の軍勢は一身にその嵐を浴び、地に伏せていく。

「ヴィクトール隊長。我々の軍から工兵部隊が援軍に来るそうだ。しばらく耐えられるか? 」
「出来ない事は無い。ギルさん、あんたのところは? 」
「此方からも一個中隊の魔導兵隊が来ます。しばらく此処で防衛ラインを形成した方が良いかと」

ギルベルトの言葉に頷くとヴィクトールは自身の部下であるゲイルとルシアに視線を向けた。
ゲイルは震える腕を止めようと必死に手首を掴み、奥歯を嚙み締めている。
彼の隣にはルシアとクレアが介抱するかのようにゲイルの背中をしきりに撫で、落ち着かせようと尽力していた。

「ゲイル、大丈夫か? 」
「へ、へへっ……カッコ悪いところ、見せちまったな……」
「無茶するんじゃねえ。お前たちは戦場に出るのも初めてなんだ、そうなるのも無理はない」
「で、でもよぉ……! みんな戦ってるんだ、俺だけこんな情けないカッコ晒すなんて出来ねえよ……! 」
「……ヴィクトール様。一度、本陣に帰られては如何でしょうか? このままでは……」

クレアが彼の隣に立ち、二人に聞こえないように耳打ちをする。
彼女の提案する理由もヴィクトールには理解出来ていた。
新兵にはあまりにも過酷すぎる環境に加え、気を抜いてしまえばいつ死に至るか分からない。
ゲイルのような明朗快活な男でも、このように変貌させてしまうのが戦場だ。
同時に、彼の脳裏に忌々しい過去の記憶が甦る。
自分の指揮や策略が崩され、彼以外の全員が死んだ光景が映し出された。
だが今は過去に浸っている余裕は無い。
一歩間違えればここにいる全員がまた、死に追いやられることとなる。

「……いや、このままでいい。あいつは俺がカバーする。クレアはルシアの援護に回ってくれ」
「承知致しました」

クレアは深く頭を下げると再度ゲイルの下へ戻り、彼の傷を回復魔法で治療し始めた。
そんな3人を一瞥するとヴィクトールはギルベルトとエヴァリィの下へ戻り、彼らと視線を交わす。

「戦況は? 」
「問題ありません。さすが魔導兵器、と言った所でしょうか」
「当然であろう。ヴァルスカとフレイピオス、イシュテンの三国の技術力が結集した代物だ、そう簡単に打ち破られてしまっては困る」

僅かばかりエヴァリィが口角を吊り上げ、再度戦列を保持する兵士へと視線を向けた。
既に魔導銃を駆使する兵士によって魔獣の戦線は壊滅状態にあり、彼らの接敵していた群れの殆どが死滅している。

「このままで終わりゃいいがな……」
「何か不安でも? 」
「こういう時ほど臆病なくらいが丁度いいのさ。何があるか分からない」
「仰る通りですな、ほっほっほ」
「そう言うギルベルト殿は全く怖じ気づいていないように見えるが」
「まあ、これでも幾多の修羅場をくぐり抜けた経験はありますので。エヴァリィさんもそのようにお見受けします」

当然だ、と言わんばかりにエヴァリィは腰に手を当てながらギルベルトと視線を交わした。
そんな彼女を見てギルベルトは顎髭を撫でながら笑みを浮かべる。
ひと段落付いたところで、ヴィクトールは鎧の懐を弄り一本の巻き煙草を取り出した。
吸い口の部分を咥え、息を吸いながら指先に火の魔法を発動すると重苦しい煙が体内に入り込む。

「ふぅーっ……」

ようやく一息つける。
そんな安堵感を覚えた、その時だった。
その場にいた全員の背筋に得も言われぬ悪寒が走り、各々が咄嗟に愛用の得物を手に取る。
ヴィクトールは内心、嫌な予感が当たったと毒づくとその気配を放つ正体へ視線を向けた。

禍々しい殺気を放つモノが、彼らの手によって出来上がった魔獣の死骸を掻き分けて迫る。
凍り付いた身体をいち早く動かし始めたのはエヴァリィだった。

「何をしている! まだ敵は残っているぞ! 撃てッ、撃てェーッ!! 」

彼女の大喝が全員の硬直を解き、向かってくる一人の騎士に何度も引き金を引いた。
しかしその男は銃弾の嵐を避けるどころか迫り来る魔力弾を手にしていた両刃の剣で叩き落とし、真っ二つに切り裂きながら駆けてくる。
やがてヴィクトールたちとの距離が狭まり、その騎士は魔導銃隊戦列を飛び越え彼らの下に降り立った。

「なっ……!? 」

改めてその姿を相まみえたヴィクトールは思わず言葉を失う。
白い鎧に身を包んでいるが、その甲冑は全て骨で作られている。
おそらくこの世に存在する生物のものではない。
ボロボロになった深紅のマントを靡かせながら、その騎士は被っていたヘルメットを脱ぎ捨てた。
青肌の両頬には真っ白い髭が顔を覆うように生えており、短く切り揃えた白髪を揺らしながらその男はゆっくりと周囲を見渡す。

「……ほう。中々骨のある連中が揃っているな」

その騎士は笑みを浮かべながらヴィクトールとギルベルトに目を配せ、得物の柄を握り締めた。
彼の行動と共にヴィクトールは身の引き締まる感覚を覚える。

「隊長! こいつは……!? 」
「構うな! 俺がやる……! お前らは他の連中の撤退を援護しろ! 」
「でも……! 」
「ごたごた抜かすなッ!! いいから早くしろッ!! 」
「こっちだ、二人ともッ! 」

ヴィクトールの大喝により、ゲイルとルシアはエヴァリィ率いる戦列へと駆けた。
骸の騎士がそれを逃すはずも無く、二人に向かって行く。

「行かせねぇぞ……この化けもんがァッ! 」
「良いぞ……! 我を楽しませろォッ! 」

振り上げた剣の刃を太刀打ちで受け止め、奥歯を嚙み締める。
彼の隣にいたギルベルトが飛び上がり、各々部隊の指揮とヴィクトールの援護に回った。
即座に騎士の背後に回ったギルベルトが腰に差していた細剣を引き抜き、切っ先を突き出す。

「甘い」
「ッ!? 」

突出された細剣の先を左手に持っていた盾でギルベルトの腹部を殴りつけ、彼の身体を後方へ吹き飛ばした。
岩壁に叩き付けられ、ギルベルトの体内から酸素が強制的に吐き出される。

「マスター!? 」
「脆い。老いた兵士など、取るに足らん」
「テメェ……! 」

怒りに身を震わせながらヴィクトールは槍の柄を握り締めた。
地面を蹴り、骸の騎士との距離を詰める。
対する騎士も迫る彼に向けて剣を振り上げ、刀身と穂先が鍔競り合った。

「テメェも人工魔獣の内の一人って訳か……! 」
「さぁな? 」

余裕を持ちながらヴィクトールの攻撃を受ける騎士に対して苛立ちを覚えたのか、彼は詠唱を短縮して魔法を発動する。
彼の得意とする幻影魔法で、もう一体の分身を創り出した。
ヴィクトールの幻が騎士と鎬を削る中、彼は素早く背後に回り音を立てずに槍を突き出す。

「幻影魔法か。この程度の小細工で我を討ち取れると思うな」

対峙していた騎士がそう言葉を連ねる直後、背後を取ったヴィクトールに正確無比な斬撃が迫った。
致命傷を避けられたものの、銀の刃が彼の頬や腕を掠める。
数滴の赤い雫が宙を舞い、ヴィクトールは顔を顰めた。

(幻影魔法が効かねぇ!? 何なんだこいつは……!? )

舌打ちをしながら凶刃を肉薄し再度骸の騎士との距離を離れる。
だがその隙を許す事もなく驚異的な速度で銀色の刃がヴィクトールに迫った。
地面に槍を突き出して空中に身体を置く事で回避し、その拍子に槍の穂先を振り上げる。
戦火によって抉られた砂塵が宙に舞い、騎士の眼前を覆った。
彼の作りだした隙を捉えるかのようにヴィクトールは一歩前へ踏み出し、穂先を騎士の顔面へ突き出す。

「やるッ! 」
「ぐゥッ!? 」

彼の動きを呼んでいたかのように骸の騎士は砂塵が舞う中から手にした得物を突出させた。
刃がヴィクトールの左頬の肉を削ぎ落し、再度鮮血が空中に舞う。
彼を援護するかのようにヴィクトールの背後から数本のナイフが放たれ、強制的に両者の距離が突き放された。
クレアの投げナイフによる一撃だと察知したヴィクトールは声を上げながら槍を横殴りに振るい、相手の身体を押し戻す。

「クレア! 無茶はするな! 」
「それでも……マスターや隊長の援護は……! 」
「いい腕をしているな、小娘。だが、我が同胞にも短剣を用いる者はいる」

ヴィクトールの背後にいた彼女の身体を蹴飛ばし、再度地面に叩き付けられた。

「貴様ァッ!! 」

後方に吹き飛ばされていたギルベルトの咆哮が聞こえ、空中に幾つもの光が見える。
ギルベルトの愛用する得物である鋼線の光である事を理解したヴィクトールは、一歩後に身体を移動させた。
肉眼では捉える事の出来ない幾千もの斬撃が宙を舞い、骸の騎士を襲う。
射出された鋼の糸は確かに彼の全身を捉え、一時的ではあるが拘束した。

「鋼線か。そのような物も使うとは、中々良い敵に巡り合えた」

だが、と騎士は付け加えた直後両腕に力を込め糸を無理やり引きちぎる。
空中で輝く鋼線が対峙していたヴィクトールとギルベルトの視界に映り、思わず身体を硬直させた。

「この程度、我の動きを止めるに値しない。ね」

騎士はギルベルトの存在を厄介だと感じたのか音も立てずに一瞬で彼に近づき、眼前で剣を振り上げる。

「ギル――――! 」

ヴィクトールが彼の名前を口にし、その声に感化されてギルベルトは本能的に体を傾けた。
致命傷は避けられたものの凶刃は彼の肩と腕の肉を掻っ攫い、多量の血が周囲に舞う。

「ぐぁッ……あァッ!? 」
「ほう、あの状況で避けるとはな。流石は老兵、と言った所か」
「ギルさん! 」
「マスターァッ!! 」

ヴィクトールが動き出すよりも早く、彼の隣を一人の少女が駆け抜けた。
二振りの短剣を手にしたクレアは怒りのままナイフを投擲し、騎士との距離を詰める。

「怒れ、小娘。我に見せてみろ」
「あぁぁぁぁァッ!!! 」

普段見せる事のない彼女の怒りを涼しげな表情で男は捌く。
クレアの跳び膝蹴りを容易く受け止め、横殴りの一撃を彼女に振るった。
空中で身体を一回転させる事でその反撃を避け、軽装を纏った細い両足で騎士の首を絞める。
そのままクレアは再度両手の中にあったナイフを振り下ろし、頭部に一撃を加えた。

筈だった。

「まだまだ甘い。我の首からその小汚い足を退けよ」
「なッ……!? 」

あろうことか骸の騎士はクレアの一撃を歯で受け止め、ナイフの刃を噛み砕く。
目の前に映る光景に脳の処理が追い付かないのか、クレアは僅かばかり隙を晒した。
その瞬間だった。
背後から魔力の充填される音が鳴り響き、白い魔力矢が騎士の胴体に直撃する。
矢の放たれた方向へ視線を傾けると、肩で息を整えるルシアとゲイルの姿が其処にはあった。

「馬鹿、逃げろって……! 」
「撤退は完了しました! 私たちだけみすみす逃げる訳にはいかないんだから! 」
「隊長! みんな! 俺たちが時間を稼いでいる内に逃げろ! 」
「まだ来るか。年端のゆかぬ若者共を手に掛けるのは心苦しいがな……」
「どの口が抜かしやがるッ! 」

恐怖を打ち消すかのようにゲイルが騎士の方へと抜刀し、同じようにしてルシアも弓の弦を引き絞る。
彼が鍔競り合う直前にルシアの魔力矢が骸の騎士に殺到すると、僅かばかりの隙を晒した。

「貰ったァッ! 」
「未熟。あまりにも未熟」

左手に持っていた盾によってゲイルは殴りつけられ、彼の視界は動転する。

「ゲイル! 」
「余所見をする余裕があると思うなよ、小娘」
「ッ――――!? 」

そんな言葉が聞こえた直後。
ルシアの腹部に生温かい液体が流れ落ちる感覚が走り、恐る恐るその方向へ視線を向ける。
自身の腹から銀色の刃が伸び、深紅の血が流れていた。
途端に激痛が走り、彼女は地面に倒れる。

「ルシアッ!! 」
「馬鹿、止せっ!! 」

ヴィクトールの制止も空しく、ゲイルは怒りに狂ったまま立ち上がると騎士の下へ再度向かって行った。
彼の脳裏に忌々しい記憶が再び甦り頭痛が走るが、構わずゲイルの援護に入る。

「テメェッ!! よくも、よくもォッ!! 」
「良いぞ、小僧。我を楽しませろ」

彼の刀が騎士の両刃剣と鎬を削る。
我武者羅に振り上げた刀で剣を弾くと、一歩前へゲイルは踏み込んだ。
首元を狙った一撃が騎士の身体を伝って伸びてくる。
その一撃を首を傾けるだけで避け、骸の騎士は口角を吊り上げた。

「せめて一太刀で葬ってやる」

止めろ。
その剣を、止めてくれ。
我武者羅にヴィクトールは地面を蹴る足の力を強め、ゲイルの身体を突き飛ばした。
彼の肩に騎士の剣はめり込み、深く傷を付けていく。

「が、ぁッ」
「……た、隊長? 」
「見事。身を挺して己の同胞を守るとは」

銀の刃が引き抜かれ、鮮血が周囲を飛び交う。
スローモーションのように自身の身体が崩れ落ちていくのが理解でき、ヴィクトールは地面に伏した。
意識はある。
呼吸も出来る。
ただ、立ち上がる事が出来なかった。
エヴァリィの部隊も新たに発生した人工魔獣の群れを抑えるのに必死だ。
他のメンバーも既に傷を負っている。
戦える状況ではない。

「ゲ……イル……。逃げ、ろ……! 」
「は、はぁっ……あ、あァッ……!? 」

完全にゲイルは目の前の光景に気が動転してしまっている。
ゆっくりと地面を踏み締めるブーツの靴音が聞こえた。
その方向へ視線を向け、ヴィクトールは不敵に笑みを浮かべる。

俺もここで終わりか。
すまん、レーヴィン。
約束は、守れそうにない――――。
ヴィクトールの命を終わらせる銀の凶刃が、静かに振り下ろされた。


――――その、筈だった。


鋼の弾かれる甲高い音が周囲に響いたかと思うと、彼に近づいていた骸の騎士は後方へ押し戻される。
直後、ヴィクトールの眼前に二人の騎士が土煙の中に降り立った。
短く切り揃えられた金髪に鈍色の騎士甲冑を纏う男は、地面に剣を突き立て周囲に青い防護壁を創り出す。

負傷したルシアやクレア、ギルベルトや合流しようとしていたエヴァリィたちまでもを包み込み、治癒魔法を施し始めた。
そしてもう一人の騎士は結わいた金髪を揺らしながら黒い甲冑に身を包み、手にしていた剣の切っ先を骸の騎士に向ける。

「ステルク・レヴァナント。人類に仇なす敵を討つため、此処に馳せ参じた」
「……ハインツ・デビュラール。今一度、貴君らを護ろう」
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