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Chapter 1: Becoming a Human Being
Act 9. Time to Cut off
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<ロサンゼルス市郊外>
悪徳企業に買われた武装ギャンググループ、トルペード。
そのアジトに真正面から突っ込んだ斎、グレイ、リンの三人はそれぞれの得物を握り、一斉に動き始める。斎は先ず真正面に居た強化スーツに身を包む白人の男へ、リンとグレイは彼をカバーするように引き金を引きつつ、倉庫の内部に配置されていた空きコンテナの陰に身を潜めた。
『イツキクン、敵の数はおよそ30人だよ! その中には機械素体を持った奴もちらほらいる! 』
『機械素体は戦闘タイプと大型の工業タイプがいるでありますよ! 斎さんはそちらを、グレイさんとリンちゃんは生身の敵をお願いします! 』
インカムから響くリュディとミカエラの声を横目に、斎は握った愛刀・日秀天桜のトリガーを引くと羽虫の羽ばたきに似た鈍い音が周囲に響く。高濃度のエネルギーが刀身に宿る音を響かせた瞬間、強化外骨格を身に纏っていた男の腕を一刀の下斬り捨てた。
「あ、っ、ぎゃ――――」
「悲鳴を上げるなよ。耳障りだ」
深紅の雫が周囲を舞い、特殊柔合金製の装甲ごと人間の腕が地面に落ちる。一瞬の事で脳の処理が追い付かなかったのか、相手は一呼吸おいて痛みに絶叫する。ボディーアーマーよりも強固な鎧を纏っているからこその安心感。だがそんな感情を斎は一刀で斬り捨て、夥しい量の鮮血を垣間見る。地面に膝を着いた男の首根っこを掴み取り、左手で男の身体を盾にするように宙に固定した。
「止まったぞ、撃て」
瞬間、斎の背後から通常の弾丸よりも遥かにけたたましい炸裂音が聞こえる。直後呆気に取られていた別の一員の頭が文字通り弾け飛び、脳漿交じりのグロテスクなシャワーを周囲に撒き散らした。
「Bull's Eye! 」
「いやっほう! 久々の殺し合いだぜぇ!! 」
グレイの軽口が聞こえたかと思うと斎は首を掴んだまま左方へ駆け、まだ誰も殺されていない敵のグループへと到達する。刀の届く位置に辿り着いた瞬間に斎は男の身体を投げ捨て、3人のメンバーの前に姿を現した。手にした日秀天桜を横へ薙ぐと向けられていた安物の自動小銃ごと首を切断し、瞬く間に3つの肉塊を作り上げる。直後斎は銃口が向けられる軽い駆動音を聞き取り、無我夢中で駆けだした。別のコンテナに身を隠した斎は左腿のホルスターに収納されていたGLOCK 34を引き抜くと自分の下へ向かってくる幾つもの足音を感じ取る。
『正面に敵、数は3! 』
リュディのアナウンスを脳に叩き込んだ後斎は身を乗り出し、まず一番最初に対面した男の脳天を撃ち抜く。その背後にいたもう一人の団員は即座に危険を感じ取ったのか斎から体を逸らし、反撃として手にした自動小銃の引き金を引こうとしていた。強化外骨格を貫く威力を持つ弾丸"MMR弾"を放つ事の出来る拳銃、HK社製 GLS18。その武骨かつ巨大な銃口が、斎に向いている。右手にあった日秀天桜を構えた直後にGLS18から大口径の鉛玉が射出された。9㎜大の銃弾が斎の脳天目掛けて駆けるが、日秀天桜の黒い刀身と衝突する。
「じょ、冗談じゃ――――」
そんな声が、聞こえた気がした。そもそも四肢を切断されても尚こうして生き永らえている斎にとっては冗談も糞も無い。目の前の男が刀一本で高速の銃弾を叩き斬った。ただそれだけの事だ。その光景を受け止めきれないのかMMR弾を放った男は茫然と口を開けたまま、斎によって身体を真っ二つに両断される。再度返り血を浴びるが、臆せずに最後に残った機械素体の男と目が合った。愛刀を振り切った隙を突くように目の前の男は手にした高周波を伴うマチェットを振り翳す。
「テメェだけが剣を使えると思うなよォッ! 」
「……少しは楽しめそうだ」
戯言を吐きながら斎は迫り来る高周波マチェットを愛刀で受け止め、激しいスパーク音を周囲に撒き散らした。鍔競り合った後に横殴りに振るうも、相手の刀身が彼の剣撃を叩き落とす。凄まじい速さで身体を回転させ、その勢いで反対側から剣を振るうも再度受け止められた。直後、右方から敵の援護が来るのを察知した斎は片手のみで刀を柄を握り、左手で脇から銃口を向ける。牽制として放たれた数発の9㎜弾は敵の足を止める事に成功するが、マチェットの刃が刻一刻と迫ってくる光景を目の当たりにした。機械素体を身に纏った黒人の男は邪悪に口角を吊り上げながら柄を握る力を強めていく。
『斎さん!? グレイさん、カバーを――――』
「いんや、必要ねえさ」
そんな二人の会話が耳に入る。グレイに今の心境を言い当てられたのは癪だが、斎は片手だけで日秀天桜を支えた。短い呼吸の後敢えて柄を握る力を弱め、マチェットの刀身は彼の胸から腕に掛けて肉薄する。肩と胸部が高周波の振動を感じ取るが、刃は彼の身体には届かない。目の前の相手が体勢を崩した瞬間に斎は右手の日秀天桜を横殴りに振るい、腹部の機械装甲を真っ二つに切り裂いた。上半身と下半身が両断され、ピンク色の臓物片が周囲を舞う。
「貴様だけが剣を使えると思うなよ。出直してこい」
と言っても、もう聞こえていないだろうが。吐き捨てる言葉と共に斎は銃弾の飛び交っていないコンテナの陰に再度身を隠し、深く息を吐いた。
「不本意ながらグレイの言う通りだ、ミカエラ。それよりもニコラスとやらの位置は? 」
『……倉庫の外に逃げたでありますよ。 おそらくオフィスにでも向かっているのでしょう』
冷や冷やさせるな、と言わんばかりにミカエラからため息が漏れる。斎はコンテナの陰から顔だけを出すと、グレイとリンが銃撃戦を繰り広げている光景を目の当たりにした。グレイの方は銃弾の飛び交う戦場の香りを楽しんでるように見えるが、リンの方は自分の事で精一杯と言った様子である。彼らに加勢するべく斎はGLOCK 34のマガジンリリースボタンを押し、弾倉を掌の上に落とすと弾数を確認した。装弾数は17発だが、先ほど使ったせいで残弾は10発と言った所だろう。
「これから二人の援護に向かう。ミカエラとリュディは目標の追跡を怠るなよ」
『任されたであります! 大船に乗った気持ちでどうぞぉ! 』
『ボクだって役に立つんだからね! 』
二人のやかましい声をインカム越しに聞いたまま、斎はグレイたちと対峙している数人のグループへグロック34の銃口を向ける。ポリマー製の肉抜きされたスライドが数回前後移動し、9㎜弾を金色の銃身から射出させた。グレイとリンも斎の援護に気が付いたのか彼に視線を向けるなり隠れていた鉄骨群から身を乗り出し、急接近した敵に掌底と回し蹴りを浴びせている。その後二人は動けなくなった相手に向けて止めの弾丸を放ち、斎の下に駆け寄ってきた。
「怪我は? 」
「不思議と五体満足さ。案外神さまに愛されてるのかもな」
「冗談止してくださいよセンパイ。さっきのクセー台詞まだ覚えてるっスからね」
「余計な事だけ覚えなくていいんだよスカタン」
ともかく、とグレイはロングコートの懐からラッキーストライクの箱を取り出し一本の巻き煙草を咥える。愛用している銀色のジッポライターで火を点け、辺りに燻ぶった煙草の匂いが充満した。
「奴さんは逃げちまったのか? リュディ、反応は? 」
『生体反応はまだ近くにあるみたいだけど……うーん』
「おいおい、天才美少女AIじゃねえのかぁ? いざという時に役に立たねぇな」
『むっ、失礼だねリンちゃん! ボクの索敵能力を舐めちゃ――――……』
瞬間リュディの声が途切れ、地面から凄まじい揺れを感じる。三人は即座に戦闘態勢に入り、周囲を見回した。直後倉庫の巨大な引き戸が文字通り拉げ、星が点々とする濃紺の空に巨大な鉄の塊が姿を現す。
「何処までも私の邪魔をしやがってぇっ!! 消えろ蛆虫共ォッ!! 」
大型の工業用機甲兵を持ち出したニコラスが、外部スピーカーで斎たちに向けて唾を飛ばしながらありとあらゆる罵詈雑言を吐いた。どこからそんな語彙力が湧き出るのか斎は少しだけ興味を抱いたが、機甲兵が全体像を現した瞬間には既に関心など持ち合わせていなかった。両隣にいたリンとグレイは再度左右に散らばり、斎はただ機甲兵を見上げながらその場に静止する。
「ミカエラ。他の連中は? 」
『とっくのとうに逃げ出したであります。まあ気持ちは分かるでありますねぇ、企業のトップがあれじゃあ』
「同情する。……少しだけな」
そんな軽口を吐きながら斎は風を切りながら振り下ろされる巨大な工業アームを見据えた。錆びた鉄塊が彼の頭部から潰そうとした瞬間、斎は腰の高周波ブレードを抜き払う。振動と共に斬り捨てられた鉄片が周囲を舞うが、眉一つ動かさずに第二撃を振るった。
「グレイ」
「御任せあれ、ってな」
いつの間にか二階のキャットウォークに移動していたグレイが死体から奪い取ったグレネードランチャー・コルトM79の銃口を向けている。榴弾というものはいつの時代も機械を壊す代物だ。たとえ時代が過ぎ去ろうとも、錆びついた二足歩行の工業機甲兵にダメージを与えるのには十分であった。40㎜大の榴弾が炸薬に射出され、爆風と共に機甲兵の腕を瞬く間に奪い去る。
「リン! 」
「あいよぉ! 」
グレイの声に呼応するかのように反対側からリンが最新鋭の半自動狙撃銃 HK社製 MMSR586をキャットウォークの鉄柵に置きながら出番を待っていた。機械装甲を簡単に打ち破る機甲炸薬弾を射出するこの銃は、人間の力だけではとてもではないが反動を抑えられない。その為彼女の両腕には簡易式の機甲籠手が装着されており、犬歯を剥き出しにしながら引き金に指を掛けていた。
「Hey Asshole!! Kick your fuckin' ass!! 」
出せるだけの罵声を浴びせながら、リンは引き金を引く。直後轟音と共に小型化された炸薬弾が放たれる。二種類の爆風と対面した斎は素早く身を隠した後、すぐさま身体を前に乗り出した。地面に膝を着くようにコントロールを失った機甲兵は大きな隙を晒し、機能しなくなった腕の上を駆けてくる斎を見据える事しか出来ない。
「く、くそぉっ!? こんな事があってたまるか……!? 」
敢えて剥き出しになったコックピットは避け、生き残っていた手足を高周波ブレードで斬り捨てるとまるで一昔前のコメディ映画のようにコックピットのみが地面に落ちる。落下した際に顔面をぶつけたのかニコラスは鼻血を流しながら姿を現し、高々と上る黒煙の中から三つの足音を耳にした。
「おーおー、随分と情けねえ姿になっちまって。沢山手下連れてたみたいだが、それももう終わりだな」
「き、貴様……! 私を誰だと思っ――――」
突如として黒いスキニージーンズを穿いた筋肉質の脚がニコラスの顔面に蹴りを食らわす。スナイパーライフルのスリングを肩に掛けたリンが、深紅の髪と黒いレザージャケットの裾を揺らしながら彼の胸倉を掴んだ。
「テメーみてえな小汚ねぇオッサン、アタシは知らねえがな。依頼人が欲しがってるものがあんだよ。それ渡したら命だけは助けてやる」
「か、金か!? それなら幾らでも……! 」
「株式会社クーレ・メディケの全取引を記録したデータを渡せ」
冷やかに斎がそう告げると、膝を着くニコラスは血相を変えながら3人へ顔を上げる。
「ほ、本当にそれで助けてくれるのか!? こ、これだ! ほら、早く助け――――」
再度斎はニコラスを強く殴りつけ、彼の身体を地面に伏させた。ニコラスのポケットに入っていたスマホを取り出し、911の番号をコールする。
「行くぞ。その内救急車が来る」
「今回は優しいねぇ、俺達」
「地獄を見るのは後の事だ。――――裁くのは、俺達じゃない」
そんな言葉を呟きながら斎は無事だったYAMAHA XJRに跨りエンジンを点火すると、大きく空を仰ぐ倉庫の出入り口を潜り抜けた。取り残されたグレイとリンも逃げるように倉庫を後にし、やがてミカエラの運転するトレーラーと合流する。こうして騒がしいロサンゼルスの夜は明けていく。闇の中で暗躍する者達がいるとは、誰も思うまい。
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「止まったぞ、撃て」
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「Bull's Eye! 」
「いやっほう! 久々の殺し合いだぜぇ!! 」
グレイの軽口が聞こえたかと思うと斎は首を掴んだまま左方へ駆け、まだ誰も殺されていない敵のグループへと到達する。刀の届く位置に辿り着いた瞬間に斎は男の身体を投げ捨て、3人のメンバーの前に姿を現した。手にした日秀天桜を横へ薙ぐと向けられていた安物の自動小銃ごと首を切断し、瞬く間に3つの肉塊を作り上げる。直後斎は銃口が向けられる軽い駆動音を聞き取り、無我夢中で駆けだした。別のコンテナに身を隠した斎は左腿のホルスターに収納されていたGLOCK 34を引き抜くと自分の下へ向かってくる幾つもの足音を感じ取る。
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「じょ、冗談じゃ――――」
そんな声が、聞こえた気がした。そもそも四肢を切断されても尚こうして生き永らえている斎にとっては冗談も糞も無い。目の前の男が刀一本で高速の銃弾を叩き斬った。ただそれだけの事だ。その光景を受け止めきれないのかMMR弾を放った男は茫然と口を開けたまま、斎によって身体を真っ二つに両断される。再度返り血を浴びるが、臆せずに最後に残った機械素体の男と目が合った。愛刀を振り切った隙を突くように目の前の男は手にした高周波を伴うマチェットを振り翳す。
「テメェだけが剣を使えると思うなよォッ! 」
「……少しは楽しめそうだ」
戯言を吐きながら斎は迫り来る高周波マチェットを愛刀で受け止め、激しいスパーク音を周囲に撒き散らした。鍔競り合った後に横殴りに振るうも、相手の刀身が彼の剣撃を叩き落とす。凄まじい速さで身体を回転させ、その勢いで反対側から剣を振るうも再度受け止められた。直後、右方から敵の援護が来るのを察知した斎は片手のみで刀を柄を握り、左手で脇から銃口を向ける。牽制として放たれた数発の9㎜弾は敵の足を止める事に成功するが、マチェットの刃が刻一刻と迫ってくる光景を目の当たりにした。機械素体を身に纏った黒人の男は邪悪に口角を吊り上げながら柄を握る力を強めていく。
『斎さん!? グレイさん、カバーを――――』
「いんや、必要ねえさ」
そんな二人の会話が耳に入る。グレイに今の心境を言い当てられたのは癪だが、斎は片手だけで日秀天桜を支えた。短い呼吸の後敢えて柄を握る力を弱め、マチェットの刀身は彼の胸から腕に掛けて肉薄する。肩と胸部が高周波の振動を感じ取るが、刃は彼の身体には届かない。目の前の相手が体勢を崩した瞬間に斎は右手の日秀天桜を横殴りに振るい、腹部の機械装甲を真っ二つに切り裂いた。上半身と下半身が両断され、ピンク色の臓物片が周囲を舞う。
「貴様だけが剣を使えると思うなよ。出直してこい」
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「不本意ながらグレイの言う通りだ、ミカエラ。それよりもニコラスとやらの位置は? 」
『……倉庫の外に逃げたでありますよ。 おそらくオフィスにでも向かっているのでしょう』
冷や冷やさせるな、と言わんばかりにミカエラからため息が漏れる。斎はコンテナの陰から顔だけを出すと、グレイとリンが銃撃戦を繰り広げている光景を目の当たりにした。グレイの方は銃弾の飛び交う戦場の香りを楽しんでるように見えるが、リンの方は自分の事で精一杯と言った様子である。彼らに加勢するべく斎はGLOCK 34のマガジンリリースボタンを押し、弾倉を掌の上に落とすと弾数を確認した。装弾数は17発だが、先ほど使ったせいで残弾は10発と言った所だろう。
「これから二人の援護に向かう。ミカエラとリュディは目標の追跡を怠るなよ」
『任されたであります! 大船に乗った気持ちでどうぞぉ! 』
『ボクだって役に立つんだからね! 』
二人のやかましい声をインカム越しに聞いたまま、斎はグレイたちと対峙している数人のグループへグロック34の銃口を向ける。ポリマー製の肉抜きされたスライドが数回前後移動し、9㎜弾を金色の銃身から射出させた。グレイとリンも斎の援護に気が付いたのか彼に視線を向けるなり隠れていた鉄骨群から身を乗り出し、急接近した敵に掌底と回し蹴りを浴びせている。その後二人は動けなくなった相手に向けて止めの弾丸を放ち、斎の下に駆け寄ってきた。
「怪我は? 」
「不思議と五体満足さ。案外神さまに愛されてるのかもな」
「冗談止してくださいよセンパイ。さっきのクセー台詞まだ覚えてるっスからね」
「余計な事だけ覚えなくていいんだよスカタン」
ともかく、とグレイはロングコートの懐からラッキーストライクの箱を取り出し一本の巻き煙草を咥える。愛用している銀色のジッポライターで火を点け、辺りに燻ぶった煙草の匂いが充満した。
「奴さんは逃げちまったのか? リュディ、反応は? 」
『生体反応はまだ近くにあるみたいだけど……うーん』
「おいおい、天才美少女AIじゃねえのかぁ? いざという時に役に立たねぇな」
『むっ、失礼だねリンちゃん! ボクの索敵能力を舐めちゃ――――……』
瞬間リュディの声が途切れ、地面から凄まじい揺れを感じる。三人は即座に戦闘態勢に入り、周囲を見回した。直後倉庫の巨大な引き戸が文字通り拉げ、星が点々とする濃紺の空に巨大な鉄の塊が姿を現す。
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「ミカエラ。他の連中は? 」
『とっくのとうに逃げ出したであります。まあ気持ちは分かるでありますねぇ、企業のトップがあれじゃあ』
「同情する。……少しだけな」
そんな軽口を吐きながら斎は風を切りながら振り下ろされる巨大な工業アームを見据えた。錆びた鉄塊が彼の頭部から潰そうとした瞬間、斎は腰の高周波ブレードを抜き払う。振動と共に斬り捨てられた鉄片が周囲を舞うが、眉一つ動かさずに第二撃を振るった。
「グレイ」
「御任せあれ、ってな」
いつの間にか二階のキャットウォークに移動していたグレイが死体から奪い取ったグレネードランチャー・コルトM79の銃口を向けている。榴弾というものはいつの時代も機械を壊す代物だ。たとえ時代が過ぎ去ろうとも、錆びついた二足歩行の工業機甲兵にダメージを与えるのには十分であった。40㎜大の榴弾が炸薬に射出され、爆風と共に機甲兵の腕を瞬く間に奪い去る。
「リン! 」
「あいよぉ! 」
グレイの声に呼応するかのように反対側からリンが最新鋭の半自動狙撃銃 HK社製 MMSR586をキャットウォークの鉄柵に置きながら出番を待っていた。機械装甲を簡単に打ち破る機甲炸薬弾を射出するこの銃は、人間の力だけではとてもではないが反動を抑えられない。その為彼女の両腕には簡易式の機甲籠手が装着されており、犬歯を剥き出しにしながら引き金に指を掛けていた。
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出せるだけの罵声を浴びせながら、リンは引き金を引く。直後轟音と共に小型化された炸薬弾が放たれる。二種類の爆風と対面した斎は素早く身を隠した後、すぐさま身体を前に乗り出した。地面に膝を着くようにコントロールを失った機甲兵は大きな隙を晒し、機能しなくなった腕の上を駆けてくる斎を見据える事しか出来ない。
「く、くそぉっ!? こんな事があってたまるか……!? 」
敢えて剥き出しになったコックピットは避け、生き残っていた手足を高周波ブレードで斬り捨てるとまるで一昔前のコメディ映画のようにコックピットのみが地面に落ちる。落下した際に顔面をぶつけたのかニコラスは鼻血を流しながら姿を現し、高々と上る黒煙の中から三つの足音を耳にした。
「おーおー、随分と情けねえ姿になっちまって。沢山手下連れてたみたいだが、それももう終わりだな」
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そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
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