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はじまり

魔力の師 新

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竜王への謁見を終えたお父様に魔術の師をつけて欲しいとお願いしたらすんなり了承を貰えた。
その話をしてからものの数日でお父様曰く、大陸内でも指折りの闇の使い手と名高い魔術師が指南をつけてくれることとなった。
そんなこんなで、動きやすい服装に身を包んだライラは王城の緑の芝生が多い茂る広大な中庭で、今日から始めまる魔術の特訓のために師を待っていた。・・・のだが、約束の時間を既に半刻ほど過ぎているというのに一向に師が現れる気配はない。

 『魔術の練習をするのではなかったのか?』

どうしようかと、途方に暮れるライラに声をかけてきたのは契約精霊のダークである。
 魔力を上げる練習をする事をダークに話すと、面白そうだと着いてきたのだ。

 「そのはずだったのですが・・・・・・、先生が来ないのです。何かあったんでしょうか?」

 『さぁな、だが、こうしていても仕方あるまい。私が見てやろう。』

 「・・・・・・ダークがですか?」

 『なんだ不満か?私は闇の精霊王だ。闇の魔法ならお前たちの何倍も特化している。』

それもそうだと思い、指南をお願いすることにした。
今の魔力の大きさを見てもらうために意識を集中させ手の内に魔力を集める。

 「ノーラ!!」

ライラの口から放たれた言葉に反応するかのように、手の内に黒い光を放つ小さな球体のようなものが現れる。
ライラが使える魔法の中で一番威力のある攻撃魔法である。
それを、中庭に予め用意しておいた練習板に向けて放つ。
小さな爆音とともに、板にぶつかったそれは小さな傷後をつけて消失した。

 『なるほど、お前の今の力はアレくらいなのか。ふむ。非力だな』

まじまじと練習板を眺めたダークの言葉にライラは少しムッとする。

 「非力じゃありません!!」

そもそも学び舎で魔力の習得をしたと言っても、それは数ある魔法陣の図や呪文を覚える暗記の授業だけで実際に魔法を使うのはこれが初めてなのである。
 初めて魔法を使うものの中には魔力を上手く魔法に変動させることが出来ず不発で終わる者も少なくない。初めての実戦では威力云々ではなく魔法を発動させられることが評価その物につながるのだが、そんな事を知る由もないライラはダークの言葉に悔しさを覚える。

 『そうか?・・・・・・“ノーラ”。』

 意地の悪い笑みと共にダークの指先から放たれた術は、強大な光を放ち真っすぐに練習板に目掛け勢いよく飛んでいく。
 大きな光が練習板を呑み込み、地面を大きく抉り音もなく静かに消失した。
 同じ呪文を放ったはずなのにその力の差にライラは呆然とする。

 『ふむ、まぁこんなものか』

しばらく放心していたライラだったが、驚きで見開かれた瞳には興奮と渇望の色が強く浮きだされる。

 「すごい!!すごいです!!ダーク!!板が消えました!!地面もあんなに・・・・・・・、同じ魔法なのにこんなに違うなんて!!」

 『あれぐらいお前も直ぐに出来るようになる。なんせ、お前は・・・、』

ライラのあまりの興奮する様にダークが口を開きかけた時、直ぐ近くで握手が向けられる。

 何事かと音のした方に顔を向ければ、ライラ達からほんの数歩離れただけの場所に黒色の髪に漆黒の瞳を持つ全身を黒の衣服に身を包んだ年若い青年がそこにいた。

 (まぁ、全身黒ずくめのこの方はどなたでしょう?・・・・・・こんなに近くにいたのに全く気付きませんでした)

見事に気配を消し、そこにただずむ青年の瞳には一寸の隙もなくまるで獲物を品定めするかのような遠慮のない視線にライラは居心地の悪さを感じた。

 「・・・・・・流石、と言うべきか?精霊王ってのは初めてみるが、魔力が桁違いだ。おチビちゃんもその歳にしては魔力が安定してるな。良いもの見せてもらった。」

ずかずかと傍までやって来た男はそんな言葉をライラ達に向ける。
初対面の人間に対しあまりにも不躾な態度にライラは呆気にとられる。

 (おチビちゃんって・・・・・・私のことでしょうか?)

 『なんだお前は・・・・・・さっきからジロジロと、』

遠慮なく距離を縮める青年に怪訝な顔を向けたダークは途端、珍しいものを見るかのように目を見開く。

『・・・・・・小僧お前、闇の高位精霊を連れているな。ほぉ、・・・・・・我が眷属の高位精霊を連れている人間とは久方ぶりに見る』

「・・・・・・精霊王ってのはそんな事も分かんのか。確かに俺のパートナーは闇の高位精霊だが、あんたの足元にも及ばねぇよ」

かけられた言葉に平然と、だがどこか気怠そうに返す青年にダークの目がスッと細められる。

 「俺は今日からそこのおチビちゃんの面倒を押し付けられたしがない指南役だ。それ以外の何者でもねえよ。俺のことは適当にアランとでも呼んでくれ。・・・・・・さて、初歩的な事は問題なく一通りこなせそうだがどこまで教えればいいのやら」

アランと名乗った青年が高位精霊を連れていることにも驚きだが、その口から出た思いがけない言葉にライラは目を瞬く。

(この方が、大陸でも名高い闇使いの・・・・・・私の先生になる方なのですか?)

 公爵から師をつけて貰えると聞いたときから、ライラは勝手に師は同じ上層階級の者だろうと思い込んでいた。
 公爵令嬢という立場上、それなりの身分がある者に教えを問わなければそれが恥とみなされるからだ。
だが、どうだろうか。今、目の前にいる青年はお世辞にも上層階級の出とは言い難い不作法者である。
呆気にとられる中、そんなライラの心情を知ってか知らずかダークが心底面白そうな笑みを浮かべ青年に言葉をかけた。

『・・・・・・まぁ、いい。師が来たというのなら私は離れているとしよう。ああ、小僧、ライラに傷一つつけてみろ、許さないからな』

青年にしっかりと牽制を残しダークは少し離れた場所に腰を下ろす。

 「はいはい、分かってるよ。・・・・・・ったく、おいチビ、お前もう少し自分の精霊の手綱握れるようになれよ」

 呆れ顔を向ける青年にライラは困惑しながらも声をしぼりだす。

 「チビじゃありません。ライラです。」

そんなライラにチラリと視線を向け、半刻遅れてきた事実などないかのようにアランは魔術の練習を颯爽と開始するのだった。














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