囁き少女のシークレットボイス

うみだぬき

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119話 囁き少女との天望

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 愛李の真剣な眼差しは、火照った身体を冷まさせる。
 まさか、ここにきて菖蒲との交際を止めさせられるのではないかと身構える。
 だがしかし、藍李の話は百八十度違うものだった。

「あなたは菖蒲とのこれからの関係を、どの程度見据えているのかしら」

 質問の意図は詳しくは分からないが、ひとまず『別れろ』などという事ではなく安堵する。

「…と言いますと?」

 藍李はシラフを保つためかビールではなく、ノンアルコールを一口飲む。

「そのままの意味よ。あなたは菖蒲とこれからも、恋仲で居続ける気はあるのかしら?」

 キリッとした鋭い視線が響を突き刺す。

「で、出来ることならこれからも続いて欲しいとは思ってますけど…」
「それは高校生活の中での話?それともその後もかしら?」

 高校を卒業した後のことなどまだ深くは考えたことがなく、咄嗟に答えることは出来なかった。

「まぁ、矢継ぎ早にこんな質問をされて、困るのは分かるわ。でも、今の菖蒲には大事なことなの…」
「何かあったんですか?」

 藍李はドアを開け、菖蒲が風呂場にいることを確認する。

「この話は菖蒲には内緒でお願いね」

 そう言うと少し前の出来事を話し出す。


『あら、菖蒲どうしたの?こんな時間に起きてるなんて珍しいわね』
『…実は悪夢を見てしまって…』

 深夜三時頃、仕事から帰り遅めの夕食を取っていた藍李の元に、目を泣き腫らした菖蒲がやって来た。
 藍李は温かいホットミルクを入れ、菖蒲の座るソファに腰掛ける。

『どんな夢だったの?話せば正夢にならないわ』

 菖蒲はホットミルクをちびちび飲み、汗により引っ付いた服をパタパタとする。

『…響さんには内緒ですよ?…私が不甲斐ないせいで響さんに愛想尽かされ、別れを切り出されたんです…』

 口に出したことでより悲しさが込み上げたのか、腫らした目から大粒の涙が零れる。

『…もしそれが現実になったら、私…』
『…菖蒲』

 菖蒲は膝を抱え、小さく震える。

『あの子に際してそんなことはしないわよ。仮にそんなことしたのなら、私の手が飛ぶわ』


「…手が飛ぶんですか」

 藍李の手のひらが凶器に見え、逃れるように視線を逸らす。

「重要なのはそこじゃないわ。菖蒲があなたのことを好きなのはわかってると思うけど、それと同時にあなたが大きな支えになってるのよ」
「それのどこに問題が?」
「つまり、菖蒲はあなたに依存してるのよ」

『好き』や『支え』と聞くと悪い気はしないが『依存』と言われると、少し考えが変わる。

「菖蒲はあなたと出会ってから良い方向へ進んだわ。それはもちろん感謝してる。だけどね、もしもあなたが菖蒲から離れた時、あの子は私だけじゃ支えきれないの」

 実の母と言えど、少し前までは冷たく半ばネグレクトのような状況だった藍李と比べると、響の方に軍配が上がるらしい。

「母親の私が支えるのは当たり前なのだけど…菖蒲にはなの」

 珍しく藍李はこちらを探るように、目を泳がせる。

「あなたの将来はあなたのものだから、私がとやかく言えたことじゃないのだけど…」

 言い淀む藍李に響は自分なりの答えを出す。

「『絶対』なんて調子のいい言葉があるとは思いませんが、菖蒲より他の子に目移りするなんてことに有り得ません」

 いつもと違い、強い言葉を吐く響に藍李は目を大きく開く。

「…一瞬で矛盾してるわよ」
「なんなら、俺が菖蒲に捨てられる可能性の方が高いぐらいです」

 雰囲気もあってか、表に出すはずのないことも口に出してしまう。

「三人」
「さんにん?いきなりなんの話よ?」
「俺が欲しいと思ってる子どもの人数です」

 藍李は口をパクパクさせ、脳が言葉を紡ぐのに失敗しているらしい。

「俺は菖蒲との将来設計を授業中に考えるぐらいには大好きです」
「…よく恥ずかしげも無くそんなこと言えるわね…」

 響の勢いは止まらず言葉を続ける。

「今言えることは一つです。菖蒲に捨てられない限りは、俺は隣で支えて、支えられようと思ってます」
「あなた…」

 響の覚悟に藍李は大きなため息をつく。

「そう。…あなたが菖蒲の彼氏になってくれて良かったわ」
『っただいま上がりました!』

 話に一段落ついたタイミングで、菖蒲が濡れた髪のままリビングに飛んで来る。

『お二人で何のお話をしてたんですか?』

 向かい合って座る響たちに不信感を覚えたのか、菖蒲は首を傾げる。

「っちょ、ちょっとした世間話よ」
「そ、そうそう!ちょっとした世間話!」

 菖蒲は眉にしわを寄せ、不信感を強める。

「ぬ、濡れたままだと風邪引くぞ?」
『確かにそうですね、なら響さんに乾かしてもらうことにしますっ』

 菖蒲は響の隣の椅子に座ると響に背中を向ける。
 藍李とのアイコンタクトで、どうにか話題逸らしに成功したことを称え合う。
 シルクのように柔らかい髪を乾かしていると、いつもの菖蒲の匂いが強くなる。

「今日は良いクリスマスイブでしたねっ!」

 菖蒲にさっきの話を伝えることは無いと思うが、いつか二人の形を進化させる機会があったら話しても良いだろう
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