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医師の診断
「国王陛下、ルティ様。ご準備はよろしいでしょうか?」
「うん。大丈夫だよ」
「呼んでくれ」
「かしこまりました」
あの話の次の日。
さっそくソーマが医者の手配をしてくれた。
王宮に仕える医師らしくて、その腕前は国一番だと言われているらしい。
昨日まで休暇で休んでいたようなので、こんなことで呼んでしまうのは少し申し訳なく思ってしまう。
とはいえ王族に呼ばれては、医師も来ないわけにはいかない。
そんなわけで部屋に入ってきた医師は、ソファに座るソーマとルティの前に膝をついた。
「国王陛下、ルティ様。御前、失礼致します」
「ダシャ。戻ってきて早々悪いな」
「そのようなこと、陛下がお気になされることではありません」
そう言って顔を上げたダシャに、ルティはハッと息を飲み込んだ。
王宮に仕える医師優秀な医師ともなれば、彼はアルファなのだろう。
燃えるような赤い髪を三つ編みにして前に垂らし、同色垂れ気味の瞳を持った美丈夫。
彼はソーマの許しを得て、立ち上がった。
「それでは、ルティ様の検査を――」
「………………先生?」
「――あ、いえ。失礼致しました」
ダシャがルティを見て、一瞬言葉を詰まらせたのだ。
それに不思議そうに首を傾げれば、ダシャは慌てて首を振った。
「では、ルティ様。今回は血液検査をさせていただきます」
「はい」
以前と同じだなと、腕を差し出した。
どうもルティは血管が出にくいらしく、二度三度と針を刺されて痛い思いをしたことを思い出し、若干体に力が入ってしまう。
するとそんなルティの肩を、ソーマが抱く。
「ルティ、ダシャは優秀な医師だ。だから安心していい」
「――は、はい……」
着々と血液検査の準備を進めていたダシャが、ルティの腕を見ながら言う。
「ルティ様は血管が見つかりにくいですね。ですがご安心ください」
軽くアルコールで拭き取り、注射器の針をルティの腕へと向ける。
ギクっと肩を震わせ、恐ろしさのあまり目をつぶった。
早く終われ、と冷や汗の出る手を力強く握っているとダシャがくすりと笑う。
「終わりましたよ。お疲れ様でした」
「――え?」
ぱちりと目を開ければ、確かに彼の手にある注射器に血が入っていた。
あれ?
と己の腕を見れば、止血用の布が置かれている。
「……痛くなかった」
「ダシャは優秀だと言っただろう? ちゃんと第二の性
についても調べてくれるから、安心していい」
「……はい。よろしくお願いします」
ダシャは血液を大切に箱に戻しつつ、にこりと笑った。
「もちろんです。陛下より精密に検査するようにと言われていますので、一週間ほどお時間いただきたく思います」
「ああ、任せた」
ソーマが期待のこもった目でダシャを見ているのがわかり、ルティはそっと瞳を伏せた。
ソーマをがっかりさせてしまう結果が出ることが、分かりきっているからだ。
しゅんっと落ち込むルティに気づいたのか、ダシャがふむと顎に手を当てた。
「……陛下、ルティ様。少しだけご無礼よろしいでしょうか?」
「――もちろんだ」
なんだろうか?
ルティが顔を上げると、ダシャがルティに近づいてきた。
「ルティ様」
「はい? ――っ!」
なんだろうかとダシャを見れば、ふわりとなにやらいい香りがしてきた。
甘いバニラのような香りは、たぶんダシャのものなのだろう。
甘いものが嫌いではないルティにとって、それは好きな香りだ。
なのに――。
(――なに? ……なんか、変な感じ……っ)
好きた香りのはずなのに、あまり好ましいとは思えない。
どちらかと言えば不愉快な匂いに感じて、ルティはそっと口元を手で覆った。
「――ふむ、失礼致しました」
だがそれも一瞬だった。
ダシャが三歩ほど後ろに下がれば、匂いは薄くなる。
そのことにホッと息をついたルティに、ダシャはその場で膝を折った。
「ご無礼失礼致しました。少し確かめたいことがありましたので」
「……確かめたいこと……?」
なんのことだろうか?
不思議そうにするルティへ、ダシャは立ち上がると深く頷く。
「ええ。……陛下とルティ様はつがいになられたとか」
「――そ、れは」
「そうだ。私とルティはつがいになった」
ルティがベータである以上、つがいになんてなれない。
ただごっこ遊びをしているにすぎないのに、それをソーマ以外のアルファに知られるというのは少し気まずかった。
ゆえにルティは言い淀んだのだが、ソーマははっきりと頷く。
「なるほど。……いろいろ、調べたいことができました」
ダシャはうんうんと一人頷くと、道具の入った箱を持ち上げた。
「ルティ様」
「――はい?」
なんだか一人だけ取り残されている気がする。
話についていけず不安そうなルティに、ダシャは穏やかに微笑んだ。
「陛下は昔から、感の鋭いお方です。そしてその感が外れたことなど、今まで一度だってありません」
「……そう、なんですね?」
どういうことだろうか?
不思議そうにするルティに、ダシャは深々と頭を下げた。
「どうぞお体を大切になさってください」
「……ありがとう、ございます」
それでは、とダシャは頭を下げながら部屋を出て行った。
彼の言いたいことの半分も理解できなかったが、そんなルティの隣にいるソーマはなにやらうれしそうだ。
「ルティ。ダシャの言うとおり、体を大切にしてくれ。鎖は外そう。だがここにいてくれ。……いいね?」
「……わかりました」
急にどうしたのだろうか?
だがまあ、多少の自由をくれるというのならいいかと頷いた。
そんなルティを抱きしめつつ、ソーマは安堵のため息をこぼす。
「結果を見るまでもなかったな」
「――陛下?」
「なんでもない」
「うん。大丈夫だよ」
「呼んでくれ」
「かしこまりました」
あの話の次の日。
さっそくソーマが医者の手配をしてくれた。
王宮に仕える医師らしくて、その腕前は国一番だと言われているらしい。
昨日まで休暇で休んでいたようなので、こんなことで呼んでしまうのは少し申し訳なく思ってしまう。
とはいえ王族に呼ばれては、医師も来ないわけにはいかない。
そんなわけで部屋に入ってきた医師は、ソファに座るソーマとルティの前に膝をついた。
「国王陛下、ルティ様。御前、失礼致します」
「ダシャ。戻ってきて早々悪いな」
「そのようなこと、陛下がお気になされることではありません」
そう言って顔を上げたダシャに、ルティはハッと息を飲み込んだ。
王宮に仕える医師優秀な医師ともなれば、彼はアルファなのだろう。
燃えるような赤い髪を三つ編みにして前に垂らし、同色垂れ気味の瞳を持った美丈夫。
彼はソーマの許しを得て、立ち上がった。
「それでは、ルティ様の検査を――」
「………………先生?」
「――あ、いえ。失礼致しました」
ダシャがルティを見て、一瞬言葉を詰まらせたのだ。
それに不思議そうに首を傾げれば、ダシャは慌てて首を振った。
「では、ルティ様。今回は血液検査をさせていただきます」
「はい」
以前と同じだなと、腕を差し出した。
どうもルティは血管が出にくいらしく、二度三度と針を刺されて痛い思いをしたことを思い出し、若干体に力が入ってしまう。
するとそんなルティの肩を、ソーマが抱く。
「ルティ、ダシャは優秀な医師だ。だから安心していい」
「――は、はい……」
着々と血液検査の準備を進めていたダシャが、ルティの腕を見ながら言う。
「ルティ様は血管が見つかりにくいですね。ですがご安心ください」
軽くアルコールで拭き取り、注射器の針をルティの腕へと向ける。
ギクっと肩を震わせ、恐ろしさのあまり目をつぶった。
早く終われ、と冷や汗の出る手を力強く握っているとダシャがくすりと笑う。
「終わりましたよ。お疲れ様でした」
「――え?」
ぱちりと目を開ければ、確かに彼の手にある注射器に血が入っていた。
あれ?
と己の腕を見れば、止血用の布が置かれている。
「……痛くなかった」
「ダシャは優秀だと言っただろう? ちゃんと第二の性
についても調べてくれるから、安心していい」
「……はい。よろしくお願いします」
ダシャは血液を大切に箱に戻しつつ、にこりと笑った。
「もちろんです。陛下より精密に検査するようにと言われていますので、一週間ほどお時間いただきたく思います」
「ああ、任せた」
ソーマが期待のこもった目でダシャを見ているのがわかり、ルティはそっと瞳を伏せた。
ソーマをがっかりさせてしまう結果が出ることが、分かりきっているからだ。
しゅんっと落ち込むルティに気づいたのか、ダシャがふむと顎に手を当てた。
「……陛下、ルティ様。少しだけご無礼よろしいでしょうか?」
「――もちろんだ」
なんだろうか?
ルティが顔を上げると、ダシャがルティに近づいてきた。
「ルティ様」
「はい? ――っ!」
なんだろうかとダシャを見れば、ふわりとなにやらいい香りがしてきた。
甘いバニラのような香りは、たぶんダシャのものなのだろう。
甘いものが嫌いではないルティにとって、それは好きな香りだ。
なのに――。
(――なに? ……なんか、変な感じ……っ)
好きた香りのはずなのに、あまり好ましいとは思えない。
どちらかと言えば不愉快な匂いに感じて、ルティはそっと口元を手で覆った。
「――ふむ、失礼致しました」
だがそれも一瞬だった。
ダシャが三歩ほど後ろに下がれば、匂いは薄くなる。
そのことにホッと息をついたルティに、ダシャはその場で膝を折った。
「ご無礼失礼致しました。少し確かめたいことがありましたので」
「……確かめたいこと……?」
なんのことだろうか?
不思議そうにするルティへ、ダシャは立ち上がると深く頷く。
「ええ。……陛下とルティ様はつがいになられたとか」
「――そ、れは」
「そうだ。私とルティはつがいになった」
ルティがベータである以上、つがいになんてなれない。
ただごっこ遊びをしているにすぎないのに、それをソーマ以外のアルファに知られるというのは少し気まずかった。
ゆえにルティは言い淀んだのだが、ソーマははっきりと頷く。
「なるほど。……いろいろ、調べたいことができました」
ダシャはうんうんと一人頷くと、道具の入った箱を持ち上げた。
「ルティ様」
「――はい?」
なんだか一人だけ取り残されている気がする。
話についていけず不安そうなルティに、ダシャは穏やかに微笑んだ。
「陛下は昔から、感の鋭いお方です。そしてその感が外れたことなど、今まで一度だってありません」
「……そう、なんですね?」
どういうことだろうか?
不思議そうにするルティに、ダシャは深々と頭を下げた。
「どうぞお体を大切になさってください」
「……ありがとう、ございます」
それでは、とダシャは頭を下げながら部屋を出て行った。
彼の言いたいことの半分も理解できなかったが、そんなルティの隣にいるソーマはなにやらうれしそうだ。
「ルティ。ダシャの言うとおり、体を大切にしてくれ。鎖は外そう。だがここにいてくれ。……いいね?」
「……わかりました」
急にどうしたのだろうか?
だがまあ、多少の自由をくれるというのならいいかと頷いた。
そんなルティを抱きしめつつ、ソーマは安堵のため息をこぼす。
「結果を見るまでもなかったな」
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