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愛してる
「――メルティン、というのか……?」
「はい、陛下」
ルティの兄、メルティンはソーマに向かって頭を下げた。
そして顔を上げると、まっすぐに彼を見つめる。
「まずは俺の起こした行動により、大変なご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「…………逃げたと聞いたが?」
ソーマからの問いに、メルティンは瞳を伏せる。
「――結果的にそうなってしまいましたが……俺はちゃんと帰ってくるつもりでした」
「……海を、見に行ったのか?」
メルティンは目をぱちくりさせたあと、花が綻ぶように微笑んだ。
「――はい。夢だったんです。だから……ハレムに入る前に、見ておきたいと思ったんです」
やはり海に行っていたのだ。
兄の朗らかな表情で理解できた。
夢だった海が見れて、彼は嬉しそうだ。
「ですがそのせいで家族に迷惑をかけました。……まさか両親が弟をハレムに入れたなんて……本当に驚きました」
メルティンの瞳が、ソーマからルティへ移る。
「――ルティ、本当にごめんね。まさかこんな目に遭ってるなんて思わなかったんだ」
「……兄さん」
「本当は海を見てすぐに戻るつもりだったんだ。……けれど、問題が起こってすぐには帰れなくて……」
「問題?」
一体なにが起こったというのだろうか?
首を傾げるルティに、メルティンは表情をこわばらせた。
「――あ、嵐で足止めされたんだよ。それで……すぐには戻れなくなってしまったんだ」
「……そう、なんだ」
メルティンはルティの元までやってくると、手を繋いだ。
まるで子どものころ、よく二人で繋ぎあった時のように。
「でもそのせいでまさか……家族にこんなに迷惑をかけるなんて思わなかったんだ。本当にごめん、ルティ」
「…………」
なんと返事をしたらよかったのだろうか?
いっそのこと、罵れたら楽だったのかもしれない。
けれど兄の気持ちを考えもせず過ごしていたルティには、彼への罪悪感がある。
ゆえに口をつぐむルティに、メルティンは悲しげに眉尻を下げた。
「……そうだよね。そう簡単に、許せるわけないよね」
メルティンはルティの手を掴んだまま、力強い瞳でソーマと向き合う。
「陛下! 陛下の運命のつがいは俺ですよね? なら、弟はもう解放してあげてください!」
「兄さん!? なにを――」
「罰なら俺が受けます。元よりハレムには俺が入ることになっていたんですから、弟は自由にしてあげてください!」
兄の言葉に、ルティはグッと下唇を噛み締める。
まさか兄がそんなことを言うなんて思わなかった。
黙り込むルティの耳に、さらなる絶望の言葉が届けられる。
「そうです、陛下! 本来ベータがハレムになど入れません! 本当のオメガがきたのなら、ベータは追い出すのが普通かと!」
「本来なら罰するべきほどの重罪です! ベータ如きが陛下のご寵愛を受けたなんて、あってはならないことです。必ず追い出すべきです!」
周りから聞こえてくるその声に、ルティがそっと彼らを見る。
するとそこにいたザインと目が合い、ニヤリと笑われた。
まるでこうなることを望んでいたかのような顔に、ルティは静かに息を吐き出す。
ここで感情的になってはダメだ。
それではソーマに迷惑をかけてしまう。
どちらにしても、ルティはここを去るつもりだったのだから、なにを言われようとも大丈夫だ。
そう思って押し黙っていたルティの耳に、大きな打撃音が届いた。
音のした方を見れば、ソーマが拳で椅子の肘掛けを殴ったのだ。
「お前たちは、私が国のことを考えていないと思っているのか……? 色に溺れ国を傾ける暴君だとでも?」
「い、いいえ陛下。我々はただ、この国の未来を憂いて……」
「だからお前たちはそう言っているのだろう? 私を愚かな王だと。周りを見ることもできなくなっていると」
ソーマからの発せられる鋭い空気に、先ほどまで饒舌に語っていたものたちが、一斉に黙り込んだ。
彼らもアルファであるというのに、ソーマの怒気には敵わないらしい。
やはりソーマはすごい人なのだ。
アルファの中のアルファ。
人の上に立つべき人。
そんな人につかの間とはいえ愛されたのだ。
夢のようなひと時を過ごせたのだから、夢は夢で終わらせなくてはと、ルティは肩から力を抜いた。
「私は考えて行動している。……だから少しの間黙っていろ。あと少しなんだ」
「…………」
まだ、ソーマは検査の結果に期待しているらしい。
そんなはずないのに。
どうして彼はそこまで信じているのだろうか?
両手を強く握りしめたルティのそばで、メルティンは口を開いた。
「……それはつまり、ルティを解放してはくれないということですか?」
「――そうだ」
「どうして……!? ルティは関係ない! 俺が……俺がここに残れば、それでいいはずでしょう!?」
メルティンの言葉に、ソーマは口を開く。
「愛しているからだ。――ルティを」
ルティは揺れる瞳でソーマを見る。
それはありえないことのはずだ。
だって彼の目の前には、兄が……運命のつがいがいる。
それなのに、どうしてルティにそんなことを言ってくるのだろうか?
呆然とするルティに、ソーマははっきりと告げる。
「私が愛しているのは、ルティだ。――それは変わらない」
ああ、やめてくれ。
期待させないでくれ。
運命に勝てると、錯覚させないでほしい。
ルティはただ一人、静かに胸の鼓動を押さえつけた。
よろこびなど、感じてはダメだと……。
「はい、陛下」
ルティの兄、メルティンはソーマに向かって頭を下げた。
そして顔を上げると、まっすぐに彼を見つめる。
「まずは俺の起こした行動により、大変なご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「…………逃げたと聞いたが?」
ソーマからの問いに、メルティンは瞳を伏せる。
「――結果的にそうなってしまいましたが……俺はちゃんと帰ってくるつもりでした」
「……海を、見に行ったのか?」
メルティンは目をぱちくりさせたあと、花が綻ぶように微笑んだ。
「――はい。夢だったんです。だから……ハレムに入る前に、見ておきたいと思ったんです」
やはり海に行っていたのだ。
兄の朗らかな表情で理解できた。
夢だった海が見れて、彼は嬉しそうだ。
「ですがそのせいで家族に迷惑をかけました。……まさか両親が弟をハレムに入れたなんて……本当に驚きました」
メルティンの瞳が、ソーマからルティへ移る。
「――ルティ、本当にごめんね。まさかこんな目に遭ってるなんて思わなかったんだ」
「……兄さん」
「本当は海を見てすぐに戻るつもりだったんだ。……けれど、問題が起こってすぐには帰れなくて……」
「問題?」
一体なにが起こったというのだろうか?
首を傾げるルティに、メルティンは表情をこわばらせた。
「――あ、嵐で足止めされたんだよ。それで……すぐには戻れなくなってしまったんだ」
「……そう、なんだ」
メルティンはルティの元までやってくると、手を繋いだ。
まるで子どものころ、よく二人で繋ぎあった時のように。
「でもそのせいでまさか……家族にこんなに迷惑をかけるなんて思わなかったんだ。本当にごめん、ルティ」
「…………」
なんと返事をしたらよかったのだろうか?
いっそのこと、罵れたら楽だったのかもしれない。
けれど兄の気持ちを考えもせず過ごしていたルティには、彼への罪悪感がある。
ゆえに口をつぐむルティに、メルティンは悲しげに眉尻を下げた。
「……そうだよね。そう簡単に、許せるわけないよね」
メルティンはルティの手を掴んだまま、力強い瞳でソーマと向き合う。
「陛下! 陛下の運命のつがいは俺ですよね? なら、弟はもう解放してあげてください!」
「兄さん!? なにを――」
「罰なら俺が受けます。元よりハレムには俺が入ることになっていたんですから、弟は自由にしてあげてください!」
兄の言葉に、ルティはグッと下唇を噛み締める。
まさか兄がそんなことを言うなんて思わなかった。
黙り込むルティの耳に、さらなる絶望の言葉が届けられる。
「そうです、陛下! 本来ベータがハレムになど入れません! 本当のオメガがきたのなら、ベータは追い出すのが普通かと!」
「本来なら罰するべきほどの重罪です! ベータ如きが陛下のご寵愛を受けたなんて、あってはならないことです。必ず追い出すべきです!」
周りから聞こえてくるその声に、ルティがそっと彼らを見る。
するとそこにいたザインと目が合い、ニヤリと笑われた。
まるでこうなることを望んでいたかのような顔に、ルティは静かに息を吐き出す。
ここで感情的になってはダメだ。
それではソーマに迷惑をかけてしまう。
どちらにしても、ルティはここを去るつもりだったのだから、なにを言われようとも大丈夫だ。
そう思って押し黙っていたルティの耳に、大きな打撃音が届いた。
音のした方を見れば、ソーマが拳で椅子の肘掛けを殴ったのだ。
「お前たちは、私が国のことを考えていないと思っているのか……? 色に溺れ国を傾ける暴君だとでも?」
「い、いいえ陛下。我々はただ、この国の未来を憂いて……」
「だからお前たちはそう言っているのだろう? 私を愚かな王だと。周りを見ることもできなくなっていると」
ソーマからの発せられる鋭い空気に、先ほどまで饒舌に語っていたものたちが、一斉に黙り込んだ。
彼らもアルファであるというのに、ソーマの怒気には敵わないらしい。
やはりソーマはすごい人なのだ。
アルファの中のアルファ。
人の上に立つべき人。
そんな人につかの間とはいえ愛されたのだ。
夢のようなひと時を過ごせたのだから、夢は夢で終わらせなくてはと、ルティは肩から力を抜いた。
「私は考えて行動している。……だから少しの間黙っていろ。あと少しなんだ」
「…………」
まだ、ソーマは検査の結果に期待しているらしい。
そんなはずないのに。
どうして彼はそこまで信じているのだろうか?
両手を強く握りしめたルティのそばで、メルティンは口を開いた。
「……それはつまり、ルティを解放してはくれないということですか?」
「――そうだ」
「どうして……!? ルティは関係ない! 俺が……俺がここに残れば、それでいいはずでしょう!?」
メルティンの言葉に、ソーマは口を開く。
「愛しているからだ。――ルティを」
ルティは揺れる瞳でソーマを見る。
それはありえないことのはずだ。
だって彼の目の前には、兄が……運命のつがいがいる。
それなのに、どうしてルティにそんなことを言ってくるのだろうか?
呆然とするルティに、ソーマははっきりと告げる。
「私が愛しているのは、ルティだ。――それは変わらない」
ああ、やめてくれ。
期待させないでくれ。
運命に勝てると、錯覚させないでほしい。
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