ベータの僕がオメガだけのハレムに嫁いだ理由

Natuめ

文字の大きさ
45 / 45

僕がハレムにきた理由

「……それで、そんなにたくさん食べてるの?」

「ん、……うん! たくさん食べて、たくさん寝て、たくさん運動する」

 テーブルの上にはたくさんの料理が置かれている。
 肉も野菜も甘いものも。
 スラム生まれのルティには、はじめてのものばかりだ。
 だがそれでも臆することなく口に含み、ルティはもぐもぐとよく噛んで飲み込む。
 そんなルティを見て、メルティンは笑う。

「ルティがこんなに食べてるところはじめて見たかも」

「今までは豆スープでお腹を膨らませるくらいしかできなかったから。……美味しくなかったし」

「……そうだね。あれは美味しくはないね」

 思い出したのか、二人してなんともいえない顔をしてしまう。
 お腹を満たすだけのスープだったから、あまり美味しさを求めてはいなかった。
 食べられるだけでしあわせだったのだ。
 だがここにきて美味しいものを食べると、途端に昔の食事が不味いものに思えてくる。
 過去に戻れないなと笑う一方で、ルティはそっと瞳を伏せた。

「……両親のこと、聞いてるよね?」

「……うん。ルティがなにを聞きたいのかもわかる。――全部俺のせいだ。俺のせいだけど……許せないよ」

「……そうだね。許せない。……でも、わかる気もするんだ」

 一度自由を手に入れ、贅沢を知った両親。
 上を知らぬなら、耐えることもできただろう。
 しかし知ってしまったのなら、もう落ちたくないと願うのが人の常だ。
 
「だから、一生生きていけるだけのお金を渡して……縁を切ろうと思うんだ」

「――…………うん。そうだね。それがいいよ」

 どこかで無事に、生きていてくれればそれでいい。

「ルティの家族ならここにいるし。……まあ? そのうち新しい家族もできるかもしれないしね!」

「――」

 メルティンの言葉に、ルティは持っていたお肉をそっとテーブルに置いた。
 若干ほおを赤らめつつも、むにむにと唇を動かす。

「……僕、本当にオメガなのかな……?」

「え? ……まあ、確かに。ヒートがないんじゃ、ベータの時とそう変わらないから、あんまり実感わかないよね」

 メルティンは腕組みをするとこくりと頷く。

「でもその首輪してるってことは、万が一に備えてるってことでしょう?」

 そう、ルティの首元にはソーマからもらった首輪がついている。
 それに触れつつも、静かに頷いた。

「いつヒートがくるかわからないから……。その時絶対そばにいたいけど、そうできない可能性もあるからって」

「まあ……そうだね。万が一に備えるってのはいいことだよ」

 メルティンはなにやらニヤけつつ、ルティの首元を見た。
 
「ダシャが調べて、結果もちゃんとオメガだったらしいし。……自信持ったほうがいいよ。なによりあの陛下が間違いないって言うんだもん!」

 ルティとしては己の体に大きな変化がないため、自信を持てずにはいた。
 しかしメルティンの言うとおり、確かに診断の結果もソーマの感も、ルティがオメガだと言っている。
 それなら信じようと頷きつつも、そういえばとメルティンに聞く。

「ダシャ様とはどういう知り合いなの?」

「――」

 ルティからの問いに、メルティンはピシリと動きを止めた。

「…………兄さん?」

「…………海で出会っただけだよ」

「それは前回も聞いたよ? でも……」

 ただ海で出会っただけの縁には見えない。
 双子の感とでも言うのか。
 どうもメルティンがダシャのことを強く意識している気がするのだ。
 なにやら挙動不振のメルティンをじっと見つめれば、彼はおずおずと居住まいを正した。

「本当に……海で会っただけなんだよ。その時変に縁ができたというか……」

「…………兄さん、ダシャ様のこと好きなの?」

「――はあ!? そんなんじゃない!」

 慌てふためいて否定してくるメルティン。
 その顔がいつもより赤く見えるのは、気のせいだろうか?

「本当に! ただの! 縁!」

「……僕が言えた義理じゃないけど、素直になったほうがいいよ?」

 ルティがそう伝えれば、メルティンは大きく目を見開いた。

「……本当にルティに言われたくないけど、体験者の言葉は胸に刺さるわ」

「でしょう? 素直になれなくて大変だったからね」

「って、別にまだまだ素直とは言えないと思うよ? そうやって不安に思ってること、陛下に伝えた?」

「――僕の話はいいんだよ」

 話を逸らそうとすればメルティンは不服そうにしつつも、軽く肩をすくめた。

「別に本当にただの縁だよ。……その縁が特別ってわけでもないし」

「特別?」

「少なくともルティたちみたいに、俺たちは運命のつがいとかじゃないってこと!」

 なぜそこで運命のつがいの話が出てくるのかは不思議だったが、ルティは静かに告げた。

「……縁って、それだけで特別だと思うよ? だってダシャ様が言ってたじゃないか。この広い世界で、出会えただけ奇跡って」

「それは運命のつがいの話で……」

「違うよ。全ての縁だよ。……出会うことは運命なんだから」

 ルティの言葉に、ダシャは黙り込んだ。
 どうやら今の言葉は効いたらしい。
 素直になれない兄に、弟としてできることをしよう。

「兄さんらしくない。思い立ったらすぐ行動じゃないの?」

「――だって……。なに考えてるかわかんないやつなんだ」

 なんだか恋する乙女のようなことを言い出したメルティンに、ルティはにやりとしてしまう。
 だがこの兄はこれ以上からかうと、意地になってしまう可能性がある。
 なのでこれ以上はなにも言わないと、ルティは決めていた。
 ただ一つだけと、口を開く。

「どうなっても兄さんなら大丈夫。……兄さんのおかげで僕は今ここにいる。なら兄さんもきっとしあわせになれるよ」

「……それお礼言ってる?」

「半分嫌味かな?」

「やっぱり!」

 くすくすと笑いあう二人。
 ハレムにきたばかりの時には、こんなふうにメルティンとまた笑い合える日がくるなんて思ってもいなかった。
 本当にしあわせだと笑っていると、ソーマがやってくることを侍女が知らせてくる。
 その知らせにいち早く立ち上がったのはメルティンだった。

「それじゃあ、俺は行くよ」

「うん、またあとで」

 バイバイと手を振ったメルティン。
 そんなメルティンと入れ替わるように、部屋にアーリアが入っていた。

「布を垂らします」

「――うん。お願い」

 入り口に金色の薄布が垂らされる。
 それを見つめながら、ルティはゆっくりと入り口に近づいた。
 最初は変だと思っていたこの習わしも、今では待ち遠しいものとなっている。
 ソーマがこの布を上げて、部屋の中に入ってくるのを今か今かと待つ時間。
 この時間がとても好きだと思えた。
 だってこんなに嬉しいことはないだろう。
 愛する人が会いにきてくれるのだから。
 そんなことを思って布を見つめていると、外が騒がしくなってきた。
 どうやらやってきたようだ。
 すると布が揺れ、部屋の中にソーマが入ってくる。
 彼はルティを見つけると、その黄金色の瞳を蕩けさせた。

「ルティ。――私の運命。会いたかった」

「お帰りなさい、陛下。僕も、会いたかったです」

 彼のぬくもりに抱かれて、その香りを胸いっぱいに吸い込んで、ルティは肩から力を抜く。
 この時間が、生きていて一番好きだと思えた。

「今日はなにをした? 君の全てを聞かせてくれ」

「はい、陛下。今日は――」

 僕がこのオメガだけのハレムに嫁いだのは、陛下に会うため。
 運命に導かれたんだ。
 たった一人の運命のつがいに、会うために……。


 完
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

のんの
2026.04.10 のんの

メルティンお兄ちゃん強い!ルティがこれくらい強気な子だったらハレムでもやってけたけど、お話がコメディになってたでしょうねw
メルティンにもザインにも、相性の良いαとの出会いがありますように…
ザインも必死で可愛そうになっちゃいます…

2026.04.10 Natuめ

感想ありがとうございます!
ルティがメルティン並みに強かったら、確かにコメディ寄りになりそうですねw
二人にも良い出会いがあるよう、祈ってくださってありがとうございます!

解除
たかしほまま
2026.04.08 たかしほまま

更新を楽しみにしています。しかし、兄が出てきてから?マークがいっぱいで…💧話がこの兄は通じないんでしょうか?弟を助けたいと言いながら、弟の話もまともに聞かず追い出したい感じで…それとも何か思惑があるのかな〜、本当は自分が番になりたいのかな〜と疑ってしまいます。
これからどう物語が進むのか楽しみにしています。

2026.04.08 Natuめ

感想ありがとうございます!
メルティンの行動にもいろいろ意味はありますので、もう少しお待ちいただければと思います…!
これからもお楽しみいただけるようがんばります!

解除
tdn
2026.04.07 tdn

メルティンを見てソーマがどんな反応をするのか、更新されるまでルティと同じくらい緊張していました。検査結果が出るまでドキドキは収まりませんが…!

ソーマがどう感じていたのか、メルティンが本当は何に足止めされていたのか、ルティ視点以外の物語も気になって仕方ありません。
これからもお話の続きを楽しみにしております。

2026.04.07 Natuめ

素敵な感想ありがとうございます!
ルティとともにドキドキしてくださって、本当にうれしいです!
まだ物語は続きますので、ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです!

解除

あなたにおすすめの小説

愛されたいだけなのに

まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。 気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。 しかしまた殺される。 何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

ただのハイスペックなモブだと思ってた

はぴねこ
BL
 神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。  少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。  その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。  一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。  けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。 「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」  そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。  自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。  だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……  眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました