末代まで、いいや貴様が末代だ!

映月

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ケモノたちの小噺

くわ  れる

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 荒く、荒く、興奮した獣の息遣いが闇に響いた。
「……ッは」
そして、それに呼応するような、男の吐息も。
 陽の光はとうに沈み、薄暗い世界の中で、彼は腰を砕けさせて、地に尻をつけていた。その眼前には異形の獣。
 大部分は、獅子と呼ぶに相応しい、巨大な獣。だがその背には翼が畳まれ牙は口内に収まらない。
「シオ……シ、シオウ……」
 獣が彼に顔を近づけ、彼は震える声でナニカの名を呼ぶ。……傍から見れば、獣の捕食だと捉えられる光景だろう。
 しかし獣の牙は、ついぞ彼の肉を割くことはなかった。
「まっ、て」
 大きく無防備に広げられた男の足。その間へ、獣が頭を滑り込ませる。
「こ、わぃ……アッ」
そして既に勃ち上がっていた雄の象徴に、愛おしげな様子で顔を摺り寄せた。男が、軽く声を上げる。 
 目を細め、如何にも”愉悦”を感じさせる様子を醸し出し。あまり手入れされてない下生えの近くですんっ、と鼻を鳴らす。
「ぁ、あんまり匂い、嗅いだら……」
僅かに顔を赤らめた末の言葉は、獣に届いているのか。ますます目を細め、下生えの中に鼻をうずめてしまう。
「シオウっ……」
 自分の陰毛の匂いを嗅がれている。自分の風呂事情を想うなら、きっと、清潔と呼べないであろう場所の匂いをじっくりと嗅がれている。その事実だけで、頭が沸騰しそうなほどに熱い。
 それにふっ、ふっ、と興奮しきった息が、自身に触れてしまって落ち着かない。その上、獣の──シオウの口から突き出した牙の側面が、ぴとりと自身に押し付けられている。
「ねっ、何か言って、いつも……よく悪態ッ……うぅっ」
 自身に押し付けられたは牙の先端ではないから、すぐにすぐ自身が傷付くことはない。だが、シオウが少し頭を動かし口を開ければ、きっと自身は……。その思考で、体は無意識に強張ってしまうし背筋は冷えて……その冷えで、自身はピクリと震えてしまう。
 恐怖で快感どころではないはずなのに、自身は一向に萎えない。どころかより膨らんでいる気さえする。
「ずぅっと無言、だと怖いんだけどっ」
それをあからさまにするのが嫌で、取り繕おうとして、余計に声が裏返る。
「な、せめて一言でも──」
 ぅるる。
 まだまだ言い足りない文句を、獣の唸りが遮った。やっとヒクつかせていた鼻を、自身の根本から離す。そしてその双眸が男の顔へ向いた。
「ッ……」
 思わず息が詰まる。威圧するかのような面立ちは、シオウの意図するものなのだろうか? 生唾を飲み込んで、見つめ返す。
 そうして、暫くそのままでいた、あと。
 また獣が目を細めて喉を鳴らす。少しばかり舌を出し、口の周りを舐める。御馳走を前にしたような反応だ。その行動の意図が分からず、ただ見つめることしか出来ない彼をそのままに。
 シオウの頭がまた、股下のモノへ寄った。
「えっ、また嗅ぐのかッ」
 男が足を閉じようとしても、獣の逞しい肩で叶わない。匂いを嗅がれる、というのはとても恥ずかしいし……それだけだと刺激が足りないから、辞めて欲しいのだが。
「もう嗅ぐのはイイって……!」
もっと、もっと、それ以上を……。正直言って、嗅がれるだけはツラい。だってシオウと自分は───。
 だが、獣の鼻は根元までいくことはなかった。先端に届くか届かないかの所でとどまっている。敏感なところへ息が吹きかけられる。……なんだ?
 ぐる、るるる
 男の頭が疑問で埋まる中、獣がまた喉を鳴らす。そして口を開けて舌を出し──
「ッ……~~~!?」
先端をざらりと舐め上げた。
 獅子の舌は、獲物の肉を削ぎ取るためヤスリのようになっていると聞く。舐められなどしたら、その皮膚は削れ血が噴き出てしまうほどに。
「ぇ、な、なっに……んん!?」
 だがこの場面では、舐められた先端が血を噴き出すことはなく。余程慎重に触れているのか、ただ快感で、更に陰部を膨らませるだけであった。
 とても、気持ちいい。
 ただでさえ敏感で、普通に触られるだけでも擽ったい箇所を、そろりと突起で撫でられる。ソレがどれほどの快感を生むのか。
 太腿の筋肉が自然と痙攣し、閉じようと力がこもってしまう。ただ相変わらず、獣はそれだとビクともしない。
「しぉ、シオウっあァっ」
 文句を言う余裕すらない。あっという間に追い詰められ、射精欲が高まっていくのを感じる。
 脳が悲鳴を上げる。唐突に追い詰められて、過ぎた気持ち良さがつらい。早く出して終わらせて。いや出しても終わるのか?
 くるるっ
 大の男が悶絶する様を見て、獣が愉快そうに喉を鳴らす。少しばかり舌の動きが大きくなって、雁首の辺りをそっと突起で引っ掻いた。
「イぃっ……!!」
ほぼ悲鳴のような情けない声が上がる。足ばかりでなく腰も、無様に前後へ振られてしまう。
 腰が揺れてしまえば、勿論それに合わせて、彼の自身も揺れる。獣の舌から先端が外れ、頼りなくぺちり、と彼の腹を叩いた。
 ぐるぐルルっ!
 それに対して、咎めるような唸り。
「ッうぁ?」
先程とは違う響きに、妙ちきりんな声が漏れるが。
 次の瞬間、獣が口を開け自身を丸呑みする様子を見て、ヒュゥと息が引き攣れた。
 先程まで外気に触れていた自身が、温かな肉に包まれている。その肉は微動だにせず、刺激はほぼ与えられていないが、温かさが心地いい。
 散々焦らされたと思ったら追い詰められ、そうだと思ったら優しく包まれ。混乱の中ぼんやりと、シオウの顔を見つめる。
 自分の大事な場所が、あの口の中に収まっているのだ。容易く肉を割けるような、鋭い牙が並んでいるであろう口内に。
「た、べ──ぁ?」
食べられてるみたいだ……そう口にしようとしたが。これは先の出来事に比べて、格段に危ないことではないのだろうか。
 少し、ほんの少し背筋が冷たくなる。まさか、な。
「ね、ね、しぉ……ッ!?」
獣に語りかけようとした、彼自身の根元に、硬く鋭い感触が伝わる。
「ぁ……」
 ぴたりと、根元に歯が押し当てられている。自分が腰を動かせば、傷つくことは避けられないだろう。
 まさか、まさか。
「ぇ、へ? な、に、どうなって」
腰を動かすことも出来ず、ただ疑問を口に出すことしかできない。
 なんとか平常な声音を保とうとするが。
「ホント、冗談だったらわらえ──ぁ、あぁあ!」
段々と根元への圧迫が強くなっているのを感じて悲鳴を上げた。
「やだ、やだヤダお願い」
 まだ獣の歯は、彼の肉を貫いてはいない。だが確かに僅かずつ、食い込んでいく。
「やめて、お願いだからやめて……!」
口内から自身を引き抜くことも叶わず、ただ悲痛にまみれた懇願をすることしか出来ない。精一杯頭を振って、拒絶の意を表す。
 目元から雫がこぼれる。その様子を見て、また獣が喉を鳴らし。更に歯を食い込ませていく。
「もっ……いやだぁ……」
痛みと恐怖で脳内が白む。あと、もう少し、”彼”が口を閉じればきっと──。
「──~~ッ!」
 そう脳裏によぎった瞬間、糸が切れた。
 自身の中を押し広げ外へ飛び出す、いつもの感覚が男を襲う。眼前が明滅し、太ももがビクビクと痙攣する。
「ッが!?」
シオウが驚いたように唸りを上げ、1歩2歩と後ずさった。そして、かっ、かヒっ……と咳き込むような動作を見せる。
「ぁ、ぁ……」
 全身を弛緩させ、地へ思い切り倒れ込む男。吐精の快感故にだらしなく口を開け、ぼんやりと虚空を見る。
「……このッ」
 どれくらい、そうしていただろうか。やっと意識が覚醒し、男が身を起こす。
 その瞬間、怒りに震えた声が響き渡り。男の口がむに、と思い切り掴まれた。
「ふヒャィ!?」
男の眼前に獣の姿はない。その代わりに、掘りの深く思慮深そうな、壮年の男がしゃがみ込んでいる。
「”血族”めが……私は、貴様の性癖まで歪めた覚えはないぞ?」
眉根を寄せ、怒気を漂わせながら、吐き捨てる。
「全く……予想外だ。おかげで醜態を晒したろうが」
「ぉ……ほぇんって、ひぉぅ~……」
 未だ口を掴まれたまま、申し訳なさそうに”ひおう”──シオウと、獣と同じ名で男を呼ぶ。
「精一杯焦らして焦らせ、そして長引かせ……私に対して、貴様が普段やっていることを、やり返してやろうかと言うのに。ヒト風情が生意気だな」
「ぅぁうぅあう~」
シオウが手を左右に振れば、男の頭も合わせてカクカク揺れる。
「……フッ。不細工だな」
その様子が可笑しかったのか。男の顔から手が離れた。
「……りふじん……」
 解放された男が、じと、とした目でシオウを見る。
「理不尽。当然だろう? 貴様は人で、私は魔物──そして貴様の言葉を借りるなら、コイビト。多少の理不尽なら許される関係だと聞いているが」
だがシオウは意に介さず、鼻で笑うように見返して……更には、男の頭をぽんぽんと撫でた。まるで子供扱いだ。
「……普段は、勘違いするな恋人じゃないって言うのにズルい」
 それも含めて、不満げな口調で文句を言えば。
「あぁそうだな。コイビトだと思っていない……私はただ、お前が子を成せなければ良いだけだからな。だが、毎回貴様がそう言い張るから便乗してやった」
感謝しろ、と尊大に言い返される。完全に相手のペースである。
「恋人なら……血族、なんて言い方じゃなくて名前で呼んでよ。“サニ”って」
「断る」
 バッサリ切り捨てられ、どうやっても相手のペースに食い込めない。
「次に寝るときは、絶対にブチ犯す……泣いて許してって言っても、僕が満足するまで終わらせない……」
 沈んだ声で、せめて、と。負け惜しみのように呟く。だがそれすらも、シオウは鼻で笑う。
「はっ、威勢が良いことで。だが、アソコを噛み千切られるような状況で興奮した貴様が、普通の交わりで満足できるか?」
「う……さっきのは、怖いのとなんか色々がグチャグチャになってたし! よく聞くじゃん、死にかけて本能でイっちゃうとか……僕自身は変態じゃない……」
シオウの言に、涙目で言い返せば。
「ほぉ……なら正常な精神ならば、普段でも満足できると」
 何故か感心したらしい、声音が聞こえる。
「あ、たり前だっ!」
「そうか……」
それを聞き、シオウが静かに相槌を返す。あざ笑うような、先ほどの口調とは一変した、穏やかな語調。
「なら……先に貴様が言ったこと。次の機会でなく、今からやればどうだ」
「は?」
 何を言ったのか分からないでいるうちに。シオウの腕が、自分の首に回され引き寄せられる。
「うわ……」
シオウは、全身を全て地に預けさせている。そうなれば当然、自身の下に”恋人”がいる状況になる。ぴたりと全身が密着し……相手の昂ぶったモノの存在がはっきり分かる。
「私はまだ、満足してないからな……あともう1度くらい達することは容易だろう、貴様は? ほら」
「ッ……」
 ぐり、と太ももが自身を刺激する。すると呆気なく、また体が熱に浮かされていくのを感じる。若い、とはこういうことか……情けない。
「なにを悔しげに……私は魔性だぞ? 貴様は、先の言葉通りにやればいい……」
呆れたような声色。自分が分かりやすいのか、それとも本当に魔性なのか。
 ……いや。それを今考えるのは、無駄なのかもしれない。溜息をつき、自分から、恋人を押さえつける。
「ん、の……後悔しても遅いからな……?」
 そして、唸るように吐けば。
「……ク」
応えるように、喉が鳴った。
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