冤罪で処刑されたら死に戻り、前世の記憶が戻った悪役令嬢は、元の世界に帰る方法を探す為に婚約破棄と追放を受け入れたら、伯爵子息様に拾われました

ゆうき

文字の大きさ
3 / 60

第三話 前世の記憶

しおりを挟む
「……はぁ!!」

 意識を失ったワタクシは、大きな声を出しながら起き上がる。するとそこは、先程までいた見知らぬ部屋ではなく、飽きる程見てきた部屋の中だった。

「ここは、ワタクシの部屋?」

 もしかして、ここも天国の一部なのかしら? ふんっ、使い勝手のわかっているワタクシの部屋を用意しておくだなんて、ようやくワタクシへの接し方がわかってきたようですわね。

「はぁ……変なものを見せられたせいで、気分が悪いですわ……痛っ……!」

 ベッドの上で上半身を起こしたワタクシの右手の指に、鋭い痛みが走った。痛みのしたところを確認すると、右手の人差し指と中指、そして薬指に包帯が巻かれていた。

 これって……半年前に、ワタクシが暇つぶしに読んでた本で、見事に指を切ってしまった時と同じ指ですわ。
 同時に三本もの指を切ったのは、これが最初で最後でしたので、よく覚えておりますの。

 天国にいるというのに、どうして過去の怪我をしているのかしら? それに、死んだ後でも痛みって感じるものですの?

「天国って、本当に意味のわからない場所ですわね……ここでこうしていても仕方ありませんし、外の様子でも見に――うぐっ!?」

 現状に不満を漏らしながらも、とりあえずベッドから出たワタクシの頭に、とてつもない激痛が走った。

「あ、あぁぁぁ!? い、痛い……痛いぃぃぃ!? な、なんですのこれぇぇぇぇ!?!?」

 頭の中を強打されながら、グチャグチャにかき回されているかのような激痛に耐えきれなくて、思わずその場でうずくまってしまった。

 一体、何が……!? どうしてワタクシがこんなに苦しまなくちゃいけないんですの!? これも全て、あの聖女のせい……!

「うっ……こ、これは……!?」

 激痛のせいで、目を力強く閉じているはずなのに、なにかの景色が見えてきた。それも、どれもこれもワタクシが知らないものばかりだった。

 小汚い男に殴られたり、ヒステリックな女に無理やり勉強させられたり、よくわからない場所に押し込められて、ぎゅうぎゅうになりながら移動したり、太った醜い男に頭を何度も下げたり……そして、幼い子供達と楽しそうに話していたり。

 どうしてこんな知らない光景が……違う、全てワタクシは知っている。これは紛れもなく、ワタクシの記憶……!

「……思い、出した……あれは、ワタクシの……ううん、あたしの記憶だ……!」

 さっき見た光景が、あたしの記憶だとわかったとたん、激痛が嘘だったようにスーッと消えていた。

 あともう少し続いていたら、痛みのショックでまた死んじゃってたかもしれない。もう二度も死ぬのを経験しているんだから、しばらくはそんな経験したくない。

「ミシェルお嬢様!? いかがされましたか!?」

 痛みから解放された安心感を感じながら、ベッドに腰を下ろしていると、屋敷に仕えている若い女性の使用人が、血相を変えてやってきた。その女性に続いて、何人も部屋に飛び込んできた。

 あれだけ大きな声を出したら、なにかあったのかって思っちゃうのも無理はないよね。早く大丈夫だって伝えて、安心させなきゃ。

「大丈夫です。ちょっと虫が出て驚いてしまっただけですので……」
「さ、左様でございますか。尋常じゃない叫び声でしたので……」
「ご心配をおかけして、申し訳ありません。それと、わざわざ見に来てくれてありがとうございます」
「……えっ……?」
「どうかしましたか?」
「いえ、その……暖かいお言葉をいただけて、感謝と驚きでつい……」

 そ、そうだよね……以前のあたし……ミシェル・スチュワートという人間だったら、心配するのは当然とか、来るのが遅いとか、傍から聞いてたら何様だって思うような発言をしていたと思う。

 前世の記憶を思い出したからなのか、今のあたしは、前世の性格を基準にした考え方になっているから、そんなことは言わない。

 ……まあ、どうして記憶が戻ったのかとか、性格が前世のものになっているのかとか、全然わからないんだけどね。わからないことが多すぎて、頭がパンクしちゃいそうだ。

「大変失礼いたしました。それと、そろそろフレリック様のお誕生日パーティーに向かうための、準備をさせていただきます」
「フレリック様の……わ、わかりました。少し休んでからでもよろしいでしょうか?」
「かしこまりました。では三十分後に伺わせていただきます。では、失礼いたします」

 使用人達は深々と頭を下げてから、あたしの部屋を去っていった。

「この指の怪我、それにフレリック様のお誕生日パーティー……まさか、ここはあたしが処刑される半年前の時間……? もしそうなら、あれも残ってるのかな?」

 あたしは机の引き出しを開けると、とあるものを見つけた。それは、綺麗な装飾がされたオルゴールだった。

 このオルゴールは、三年前……あたしの十三歳の誕生日に、フレリック様が誕生日プレゼントとして贈ってくれたものだ。
 でも、婚約破棄をされた日の夜に、あたしを捨てたフレリック様への怒りと憎しみをぶつけるように、粉々に砕いてしまったはず。

 それがあるということは、少なくともここは、処刑された日よりも前の時間だということだ。

「……とりあえず、今までのことを整理して、一旦落ち付こう」

 何度か深呼吸をしてから、静かに目を閉じる。

 ――あたしは元々、椎名真琴という名前の、どこにでもいるOLだった。でも、ママに押し付けられた、双子の弟妹を養うために働きすぎた結果、過労から来た眩暈のせいで階段から落ちて、そこであたしは人生の幕を下ろしたはず。

 だというのに、あたしは何故か別の世界で、ミシェル・スチュワートという人間として生きていた。

 人間の父とエルフの母を持つこの世界のあたしは、ハーフエルフとしてこの世に生まれた。

 父は今もこの家の当主として働いているが、母はあたしがまだ物心がつく前に、病気で亡くなってしまった。
 最後の最後まで、あたしのことを大切にしてくれた、素晴らしい女性だったと、使用人から聞いたことがある。

 そんな二人の間に生まれたあたしは、幼い頃は家のために真面目に勉強する子だったけど、いくら頑張ってもお父様に認めてもらえず、真面目に生きるのがバカバカしくなって……まるで物語に出てくる悪役令嬢みたいな、ワガママで性格最悪な人間になった。

 無事に悪役令嬢になったあたしは、この後に行われるパーティーで、婚約者であるフレリック様に婚約破棄を突き付けられ、学園でずっといじめていた女性――エリーザによって、大罪の冤罪をかけられて、処刑されちゃうんだよね。

 それで、なぜかあたしは死んだ後に前世の記憶を見て、半年前にタイムスリップをして、前世の記憶を思い出した、と……なるほどなるほど……。

「って! 全然意味がわからないよ!? なるほどじゃないよ! 普通、人間は死んだらそこで終わりじゃないの!? テレビで前世の記憶があります~、みたいな特番を見たことあるけど、まさか現実に起こるとかありえないって! しかも魔法がある世界ってなに!?」

 考えれば考える程、意味がわからなくて頭がまた痛くなってきた。

 でも……はっきりしていることはある……あたしは、大切な家族を置いてきてしまったんだ。

「二人共、大丈夫かな……寂しくて泣いてないかな……施設に預けられて、離れ離れになってないかな……お腹すかせてないかな……」

 大切な家族を置いて逝ってしまった自分への不甲斐なさや、弟妹への申し訳なさ、そしてもう会えないという寂しさが、涙となって目から溢れた。

「……ううん、泣いてたって何も解決はしないよね。もしかしたら、元の世界に戻る方法はあるかもしれない」

 幸いにも、この世界には魔法というものが、数多く存在している。その中に、もう一度転生する魔法とか、移動する魔法とか、何かしらの方法がきっとあるはずだ。

「この世界に来れたなら、戻る方法だってきっとあるはず! うん、そう考えたら、少し元気が出てきたかも!」

 よし、今後の目標は、なんとかして元の世界に帰る方法を見つけることだ。

 しかし、このまま普通に過ごしていたら、あたしは婚約破棄をされて、謂れの無い大罪の冤罪をかけられて、殺されてしまう。
 あたしが復讐なんてしなければ、そんなことにはならないかもしれないけど……あくまで可能性でしかないから、なるべくその可能性は潰しておきたい。

「それなら、今日のパーティーで行われる婚約破棄を喜んで受けて、禍根が残らないようにして……その後にこっちのパパ……じゃなかった。お父様に追放されるはずだから、家を出たら復讐なんて考えないで、遠くの地に行って、元の世界に帰る方法を探そう!」

 大雑把ではあったけど、自分の中で色々とまとまった頃を見計らっていたかのように、先程の使用人がやってきた。
 どうやら、いつの間にかパーティーに行くための準備をする時間になっていたみたいだね。

 ……お姉ちゃん、絶対に二人の元に帰ってみせるから。帰ったら、たくさん遊んであげるし、二人が大好物のハンバーグを作ってあげるからね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

悪役令嬢だけど破滅したくないから神頼みしたら何故か聖女になりました

当麻リコ
恋愛
五歳にして前世の記憶に目覚めたライラ。 彼女は生前遊んでいた乙女ゲームの世界に転生していたことを知る。 役どころはヒロインの邪魔ばかりする悪役令嬢ポジション。 もちろん悪役にふさわしく、悲惨な末路が待ち構えている。 どうにかバッドエンドを回避しようと試行錯誤するが、何をやってもゲームの設定からは逃れられなかった。 かくなる上は、最終手段の神頼みしかない。 思いつめたライラは、毎日神殿に通い祈りを捧げ続けた。 ヒロインが登場するまであとわずか。 切羽詰まった彼女の身に、とんでもない奇跡が起きた。 一切魔力を持たなかった彼女に、突如膨大な魔力が宿ったのだ。 呆然とする彼女に、神殿から下された使命は「聖女として神様のお世話をすること」。 神殿の権力は強く、侯爵令嬢という高貴な身の上にも関わらず問答無用で神殿に住み込むことが決められた。 急激に変わり始める運命に、ライラは持ち前の度胸と能天気さで前向きに挑む。 神様と急造聖女の、無自覚イチャイチャ恋愛劇。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年12月06日、番外編の投稿開始しました。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

処理中です...