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第五話 お幸せになってください
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フレリック様の口にした言葉によって、楽しそうな空気に包まれていた会場が、一転して張り詰めた空気となり、同時にどよめきが聞こえてきた。
中でも一番取り乱していたのは、あたしのお父様であるクレマン・スチュワートだった。
「そ、そんな話は何も聞いていないぞ!」
「仰る通り、なにもご相談はしておりませんので」
「ふざけるな! そんなことがまかり通ると思っているのか!? そもそも、一体何がどうしてそうなった!?」
「クレマン様は、なにもご存じないのですか? まあ、それも致し方なありませんか。家の発展のことばかり考えていて、自分の娘のことなど、道具のことのようにしか考えていないのですからね」
「うぐっ……な、なんて口の利き方を……!」
確かに失礼な言い方にも聞こえるけど、残念ながらそれは事実だ。
だから、お父様も強く言い返せず、悔しそうに唇を噛むことしか出来ないみたい。
「エリーザから何度も相談されていたのですよ。長い間、学園でミシェルからいじめを受けていて、教師に言っても改善してくれない、何度も死を覚悟するくらいつらい思いをしているから、婚約者である私に何とかしてほしいとね」
「…………」
前世の記憶がなくて、ワガママな性格になっていたとはいえ、自分のしたことで一人の女の子が傷ついてしまったと思うと、胸が張り裂けそうになる。
「そんな話を聞いて、結婚したいと思うお人好しが、どこの世界にいるのですか? だから私は、ミシェルとの婚約を破棄することを決めたのです。ああ、このことは父上も了承済みです」
「勝手な真似をして! こんな野暮ったくて華の無い女の何が良いのだ!? それに、スチュワート家とカルフォン家の長年の繋がりを忘れたのか!?」
「別に忘れてなどいませんよ。しかし、あなた方のような醜い方達との関係を今後も良好にするために、一人の女性を犠牲にする選択は、我らカルフォン家には無かっただけのことです。それと、あなたのような人間には、エリーザの良さはわからないでしょう」
うん、ここまではあたしが知っている通りの流れだ。
前回は、ここであたしはお父様と一緒に猛抗議をして、それでも受け入れてもらえずに結局婚約破棄が決まり……あたしは破滅に向かうということだね。
そんな未来、絶対に受け入れたくないよ! あたしは何としてでも、元の世界に戻って家族に会うんだから!
「相談を受けているうちに、彼女の心根の優しさや笑顔に惹かれました。父上も、ミシェルと結婚するよりも、エリーザと結婚する方が良いと仰ってくれました。そういうわけだ、ミシェル。すまないが君との婚約は破棄――」
「はい、よろこんで!!」
「させてもら、う……はっ?」
まさか、あたしがこんなに素直に受け入れると思っていなかったのだろう。フレリック様は何とも間抜けな声を漏らし、ポカーンとした顔で固まっていた。
「……ごほん。ミシェル、もう一度伝える。君とのこんや――」
「よろこんで破棄させてもらいます!!」
「…………」
フレリック様やエリーザ様を含めた、多くの人があたしの言葉を聞き、彼と同じようにポカーンと口を開けている。
「ミシェル!? き、きき、貴様……!」
「お父様、ワタクシがエリーザ様に酷いことをしてきたのは、紛れもない事実です。だから、その罰を受けなければなりません」
「そんもののために、有望な嫁ぎ先を失うというのか!? 我がスチュワート家に泥を塗るつもりか!?」
「はい、その通りです」
「っ!!!!」
お父様は、真っ直ぐな目で見つめながら頷いたのが気にいらなかったのか、公共の場だと言うのに、あたしのほっぺたを思い切り叩いた。
叩かれたほっぺたがビリビリと痛むけど、悲しいことに叩かれることについては、前世では日常だったから、この程度はへっちゃらだったりする。
「今はこれだけにしてやる。あとで私の部屋に来い! ああ、それと! 貴様らカルフォン家とは絶縁を宣言する! もう金輪際関わってくるな!」
「ええ、もちろん。父上もよろしいですか?」
「ああ。先代からの付き合いがあるというだけで、色々と曲がったお方のご機嫌取りをしなくて済むのは、ありがたい話だ」
「き、貴様ぁ……! 恩を仇で返すとは、まさにこのことか! もういい、私は帰らせてもらう! それと……この恨み、いつか返してやるからな!」
まるで三下の悪役のような、品の無い恨み節を吐き捨てたお父様は、会場を逃げるように去る。
その後を急いで追いかけたが、お父様は使用人を全員連れて、馬車に乗って帰ってしまった。それも、あたしが乗る予定だった馬車まで連れて。
「ちょ、ちょっと! 馬車無しでどうやって帰ればいいの!?」
こんな動きにくいドレスとヒールの高い靴で歩いて帰るとか、無理にも程があるよ! それに、外はもう真っ暗なんだよ!?
……はぁ……仕方がない、あとでフレリック様にお願いして、馬車を一台用意してもらおう……用意してくれるかわからないけど……。
「……フレリック様、父が大変失礼しました」
あたしは、溜息を漏らしながら会場の中に戻り、フレリック様に深々と頭を下げて、謝罪の意を示した。
「フレリック様。どうかエリーザ様とお幸せに」
「……あ、ああ」
「それと、こんな言葉で許してもらえるなんて思ってないけど……ごめんなさい、エリーザ様」
「えっ……?」
あたしは、エリーザ様の前に立つと、深々と頭を下げた。
「ワタクシがあなたにしてきたことは、いじめなんて言葉で片付けられない。暴行や器物破損、それに人格否定も……本当に酷いことをしてしまった。本当に……本当にごめんなさい……」
「そ、そんな……お気になさらず……」
気弱で優しいエリーザなら、あたしが謝ったらすぐに許してくれるかもと、少しだけ思っていた。
でも、その優しさに甘えていては、あたしはあたしを許せない。だから、誠心誠意謝った。
「では、ワタクシは失礼しますね。これ以上この場にいたら、せっかくのおめでたい日が、更に台無しになってしまいますので」
「帰るって……失礼だが、君は本当にあのミシェルなのか?」
「はい、ミシェルですが」
「私の知っているミシェルなら、もっと癇癪を起こすと思っていたのだが」
「わ、私もそれは気になってました……まるで、精神が別の人間になったような……」
「ぎくっ……」
エリーザ様の疑問は、ある意味的を得ている。
前世を思い出したことで、あたしの考え方はミシェルじゃなくて、前世の真琴としての考え方になっているから、ある意味精神が変わっているとも言えるもんね。
「せ、精神を入れ替えるなんて魔法は、ワタクシには出来ませんよ。色々あって、考え方を改めただけです。今更と言われれば、その通りではありますけどね……あ、あはは」
「な、なるほど……?」
まずい、多分納得してもらえてない雰囲気だよ! なんとかこの場を去ってしまわないと、余計なことを聞かれてしまうかもしれない!
「あっ、あの! フレリック様に最後に一つお願いがあるのですが!」
「なんだ?」
「帰るための、馬車を一台用意してくれませんか? 父が馬車を全て連れていってしまったので、帰る術が無くて……」
「なるほどな。さすがに夜分に女性を一人で歩いて帰らせるほど、私も愚かではない。改心した君への最後の選別として、すぐに用意させよう」
「ありがとうございます、フレリック様! ではワタクシは外でお待ちしております」
いまだに怪訝な表情を浮かべるフレリック様とエリーザ様に頭を下げてから、あたしは会場を後にする。
……とりあえず、前回の時とは違う流れに出来たと思う。これであたしが処刑される事態にならなければいいんだけど……。
「はっはっはっ! 公の場で婚約破棄をされるのは、何度か見たことがあるが、こんなに快く受ける令嬢は初めてだな!」
「兄上、そんな大声で笑ったら、みっともないですよ」
「硬いことを言うな、アラン! それにしても、あのミシェル嬢が、あそこまで素直になるとはな! パーティーでは、目を見張るほどのワガママっぷりを発揮していたのにな!」
「何か裏があるのかもしれません」
「まあ、その辺は本人のみが知るところだな。さあ、我々はパーティーを楽しもうではないか! ほれ、アランも久しぶりなんだから、楽しめ楽しめ!」
「はぁ……半ば無理やり参加させられたパーティーで、楽しめと言われても……早く帰って研究をしたい……あ、お待ちください兄上!」
中でも一番取り乱していたのは、あたしのお父様であるクレマン・スチュワートだった。
「そ、そんな話は何も聞いていないぞ!」
「仰る通り、なにもご相談はしておりませんので」
「ふざけるな! そんなことがまかり通ると思っているのか!? そもそも、一体何がどうしてそうなった!?」
「クレマン様は、なにもご存じないのですか? まあ、それも致し方なありませんか。家の発展のことばかり考えていて、自分の娘のことなど、道具のことのようにしか考えていないのですからね」
「うぐっ……な、なんて口の利き方を……!」
確かに失礼な言い方にも聞こえるけど、残念ながらそれは事実だ。
だから、お父様も強く言い返せず、悔しそうに唇を噛むことしか出来ないみたい。
「エリーザから何度も相談されていたのですよ。長い間、学園でミシェルからいじめを受けていて、教師に言っても改善してくれない、何度も死を覚悟するくらいつらい思いをしているから、婚約者である私に何とかしてほしいとね」
「…………」
前世の記憶がなくて、ワガママな性格になっていたとはいえ、自分のしたことで一人の女の子が傷ついてしまったと思うと、胸が張り裂けそうになる。
「そんな話を聞いて、結婚したいと思うお人好しが、どこの世界にいるのですか? だから私は、ミシェルとの婚約を破棄することを決めたのです。ああ、このことは父上も了承済みです」
「勝手な真似をして! こんな野暮ったくて華の無い女の何が良いのだ!? それに、スチュワート家とカルフォン家の長年の繋がりを忘れたのか!?」
「別に忘れてなどいませんよ。しかし、あなた方のような醜い方達との関係を今後も良好にするために、一人の女性を犠牲にする選択は、我らカルフォン家には無かっただけのことです。それと、あなたのような人間には、エリーザの良さはわからないでしょう」
うん、ここまではあたしが知っている通りの流れだ。
前回は、ここであたしはお父様と一緒に猛抗議をして、それでも受け入れてもらえずに結局婚約破棄が決まり……あたしは破滅に向かうということだね。
そんな未来、絶対に受け入れたくないよ! あたしは何としてでも、元の世界に戻って家族に会うんだから!
「相談を受けているうちに、彼女の心根の優しさや笑顔に惹かれました。父上も、ミシェルと結婚するよりも、エリーザと結婚する方が良いと仰ってくれました。そういうわけだ、ミシェル。すまないが君との婚約は破棄――」
「はい、よろこんで!!」
「させてもら、う……はっ?」
まさか、あたしがこんなに素直に受け入れると思っていなかったのだろう。フレリック様は何とも間抜けな声を漏らし、ポカーンとした顔で固まっていた。
「……ごほん。ミシェル、もう一度伝える。君とのこんや――」
「よろこんで破棄させてもらいます!!」
「…………」
フレリック様やエリーザ様を含めた、多くの人があたしの言葉を聞き、彼と同じようにポカーンと口を開けている。
「ミシェル!? き、きき、貴様……!」
「お父様、ワタクシがエリーザ様に酷いことをしてきたのは、紛れもない事実です。だから、その罰を受けなければなりません」
「そんもののために、有望な嫁ぎ先を失うというのか!? 我がスチュワート家に泥を塗るつもりか!?」
「はい、その通りです」
「っ!!!!」
お父様は、真っ直ぐな目で見つめながら頷いたのが気にいらなかったのか、公共の場だと言うのに、あたしのほっぺたを思い切り叩いた。
叩かれたほっぺたがビリビリと痛むけど、悲しいことに叩かれることについては、前世では日常だったから、この程度はへっちゃらだったりする。
「今はこれだけにしてやる。あとで私の部屋に来い! ああ、それと! 貴様らカルフォン家とは絶縁を宣言する! もう金輪際関わってくるな!」
「ええ、もちろん。父上もよろしいですか?」
「ああ。先代からの付き合いがあるというだけで、色々と曲がったお方のご機嫌取りをしなくて済むのは、ありがたい話だ」
「き、貴様ぁ……! 恩を仇で返すとは、まさにこのことか! もういい、私は帰らせてもらう! それと……この恨み、いつか返してやるからな!」
まるで三下の悪役のような、品の無い恨み節を吐き捨てたお父様は、会場を逃げるように去る。
その後を急いで追いかけたが、お父様は使用人を全員連れて、馬車に乗って帰ってしまった。それも、あたしが乗る予定だった馬車まで連れて。
「ちょ、ちょっと! 馬車無しでどうやって帰ればいいの!?」
こんな動きにくいドレスとヒールの高い靴で歩いて帰るとか、無理にも程があるよ! それに、外はもう真っ暗なんだよ!?
……はぁ……仕方がない、あとでフレリック様にお願いして、馬車を一台用意してもらおう……用意してくれるかわからないけど……。
「……フレリック様、父が大変失礼しました」
あたしは、溜息を漏らしながら会場の中に戻り、フレリック様に深々と頭を下げて、謝罪の意を示した。
「フレリック様。どうかエリーザ様とお幸せに」
「……あ、ああ」
「それと、こんな言葉で許してもらえるなんて思ってないけど……ごめんなさい、エリーザ様」
「えっ……?」
あたしは、エリーザ様の前に立つと、深々と頭を下げた。
「ワタクシがあなたにしてきたことは、いじめなんて言葉で片付けられない。暴行や器物破損、それに人格否定も……本当に酷いことをしてしまった。本当に……本当にごめんなさい……」
「そ、そんな……お気になさらず……」
気弱で優しいエリーザなら、あたしが謝ったらすぐに許してくれるかもと、少しだけ思っていた。
でも、その優しさに甘えていては、あたしはあたしを許せない。だから、誠心誠意謝った。
「では、ワタクシは失礼しますね。これ以上この場にいたら、せっかくのおめでたい日が、更に台無しになってしまいますので」
「帰るって……失礼だが、君は本当にあのミシェルなのか?」
「はい、ミシェルですが」
「私の知っているミシェルなら、もっと癇癪を起こすと思っていたのだが」
「わ、私もそれは気になってました……まるで、精神が別の人間になったような……」
「ぎくっ……」
エリーザ様の疑問は、ある意味的を得ている。
前世を思い出したことで、あたしの考え方はミシェルじゃなくて、前世の真琴としての考え方になっているから、ある意味精神が変わっているとも言えるもんね。
「せ、精神を入れ替えるなんて魔法は、ワタクシには出来ませんよ。色々あって、考え方を改めただけです。今更と言われれば、その通りではありますけどね……あ、あはは」
「な、なるほど……?」
まずい、多分納得してもらえてない雰囲気だよ! なんとかこの場を去ってしまわないと、余計なことを聞かれてしまうかもしれない!
「あっ、あの! フレリック様に最後に一つお願いがあるのですが!」
「なんだ?」
「帰るための、馬車を一台用意してくれませんか? 父が馬車を全て連れていってしまったので、帰る術が無くて……」
「なるほどな。さすがに夜分に女性を一人で歩いて帰らせるほど、私も愚かではない。改心した君への最後の選別として、すぐに用意させよう」
「ありがとうございます、フレリック様! ではワタクシは外でお待ちしております」
いまだに怪訝な表情を浮かべるフレリック様とエリーザ様に頭を下げてから、あたしは会場を後にする。
……とりあえず、前回の時とは違う流れに出来たと思う。これであたしが処刑される事態にならなければいいんだけど……。
「はっはっはっ! 公の場で婚約破棄をされるのは、何度か見たことがあるが、こんなに快く受ける令嬢は初めてだな!」
「兄上、そんな大声で笑ったら、みっともないですよ」
「硬いことを言うな、アラン! それにしても、あのミシェル嬢が、あそこまで素直になるとはな! パーティーでは、目を見張るほどのワガママっぷりを発揮していたのにな!」
「何か裏があるのかもしれません」
「まあ、その辺は本人のみが知るところだな。さあ、我々はパーティーを楽しもうではないか! ほれ、アランも久しぶりなんだから、楽しめ楽しめ!」
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