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第七話 聖女のお仕事
「おい、起きろ! いつまで寝ているつもりだ!」
「うぅ……」
体を蹴られる衝撃でゆっくりと目を開けると、そこにはお城の兵士の姿があった。
体中が痛いし、腕が動かない……ああ、そうだ。私は昨日、お姉様の拷問部屋に連れてこられた後、磔にされて散々いたぶられて……最後には、意識を失ってしまったんだった。
お姉様から散々いたぶられた私の体は、腫れや傷、火傷でボロボロだ。唯一、王女として表舞台に出た時に不審に思われないように、顔だけは無事なのが、不幸中の幸いかもしれない。
ボロボロになってしまったが、私はお姉様に勝った。なぜなら、お姉様の言うフルコースとやらを、私は最後まで弱音を吐かず、許しを乞うことはなかったからだ。
それが何だと言われればその通りだけど……弱音を吐かない私を見て、悔しそうな顔をしていたお姉様を見られたから、良しとしよう。
まあ……一度お姉様の悔しがる姿を見たからといって、私の復讐心は一切晴れたりはしない。むしろ、今回の一件で、家族への恨みはさらに募ったわ。
「……絶対に、復讐してやるんだから……」
「何をブツブツ言っている? もうすぐ、聖女様の謁見の時間だ。早く準備をしろ!」
「いたっ……乱暴にしないでくださる? もし痛みで再び気を失ったら、今日の謁見を済ませられませんわよ?」
「ちっ……話には聞いていたが、本当に人が変わったみたいだな……」
面を食らった感じの兵士につられれて、自室へと戻ってくると、そこにはこの前私が追い払った使用人達がいた。
「ごきげんよう。今日もよろしくお願いしますわ」
「か、かしこまりました!」
ふふっ、随分と丁寧な対応ね。私の嘘の予知で、不幸は私を虐げていた時に起こったと伝えたから、それが怖くていつものような態度は取れるはずがないものね。
「なるべく目立たないようにお願いしますわ」
「は、はい!」
悠々と化粧台の前に座ると、鏡に長い白髪と、やや幼く見える丸い青い目が特徴的な、私の顔が映った。
……改めて見ると、本当に顔だけは一切傷つけられていないのね。お姉様の無駄に高い拷問の芸術点には、感心してしまいそうだわ。
「えっと……支度の前に、まずは傷の手当てからさせていただきます」
「まあ、ありがとうございます」
「では、失礼します……」
「うぐっ……!」
「あっ、申し訳ございません! 痛みましたか!?」
「いえ、お気になさらず」
散々私のことを見下し、虐げていた使用人達が、嘘の予知を信じて私に媚びへつらうなんて、昔の私が聞いたら驚くでしょうね。ああ、良い気味だわ。
それにしても、さすがに体が傷むわ。あれだけ遠慮なしにやられたのだから、仕方がないことではある。
……良い気になれるのも、今のうちだけなんだから。必ずお姉様にも復讐するから、みていなさい。
「ああ、そういえば、ドリアーヌは無事に出発したのかしら?」
「はいっ! 明朝に自分の仕事を彼女に任せて、意気揚々とお城を出ていかれました!」
「そうですか……ふふっ」
教えてくれた使用人の視線の先には、ドリアーヌの次に年長者の女性が立っていた。私となるべく関わりたくないのか、ぶつかった視線をすぐにそらしている。
突然使用人の長がいなくなって、自分にその責任を押し付けられて、かわいそうね。まあ、彼女も率先して私を虐げていたのだから、同情の余地は欠片もないが。
****
治療と身支度で生じる体の強い痛みに耐えること数十分。無事に痛みを乗り越えて、身支度をすることが出来た私は、お城の敷地内にある教会へとやってきた。
この教会の礼拝堂には、多くの人がお祈りに来る。お姉様は、毎日決まった時間に礼拝堂にやって来て、民に不幸がないかを予知する。
お姉様は予知の力はないから、私がお祈りに来た人をこっそり見て、予知が発動したら、一緒にいる伝達魔法の使い手に伝えて、直接お姉様に予知の内容を教えて、それを民に伝える。
伝えると言っても、あくまで予知で見えたものを伝えるだけで、その解決方法はかなり適当だ。
それもそのはずで、お姉様は民がどうなろうと知ったことではなく、あくまで良い男がいないかを見繕っているだけに過ぎない。
もちろん、お父様もお義母様も、民のことなんて一切考えていない。愛する娘が聖女として民に愛されれば、それでいいの。
「セリア様。先程からずっとお静かにしてますが、予知は発動していないのですか?」
「はい」
予知の発動は、いつ起こるかわからない。だから、今日みたいに何も見えないなんてことは、珍しいことではない。
……そうだ、ここで見てもいない予知をお姉様に伝えて、大恥をかかせるっていうのは……いや、ダメね。その予知が間違っていたと知るのが、いつになるかわからないし、罪もない民を不安にさせるのは、よくないもの。
私がしたいのは、あくまで憎んでいる人への復讐であって、無関係の民を巻き込む必要は無い。
「せ、聖女様! ワシの孫が病気になってしまって……た、助かるでしょうか!?」
「ご安心なさい。あなたから、不幸は見えません。きっとお孫様は良くなるでしょう」
「聖女様! 今度商売を始めるんですが、上手くいくでしょうか?」
「…………これは、なにかしら。不幸……のような、でも違うような……不思議なものが見えますわ。よく調べたいので、今晩お城に来てもらえますでしょうか?」
「わ、わかりました!」
聞こえてきた声に、思わず私は溜息を漏らす。
……きっとあの商人の男性、お姉様の標的にされてしまっただろう。教会という神聖な場で行われていることが、お金や欲といったものを満たす場になっているだなんて、なんて嘆かわしい……。
「うぅ……」
体を蹴られる衝撃でゆっくりと目を開けると、そこにはお城の兵士の姿があった。
体中が痛いし、腕が動かない……ああ、そうだ。私は昨日、お姉様の拷問部屋に連れてこられた後、磔にされて散々いたぶられて……最後には、意識を失ってしまったんだった。
お姉様から散々いたぶられた私の体は、腫れや傷、火傷でボロボロだ。唯一、王女として表舞台に出た時に不審に思われないように、顔だけは無事なのが、不幸中の幸いかもしれない。
ボロボロになってしまったが、私はお姉様に勝った。なぜなら、お姉様の言うフルコースとやらを、私は最後まで弱音を吐かず、許しを乞うことはなかったからだ。
それが何だと言われればその通りだけど……弱音を吐かない私を見て、悔しそうな顔をしていたお姉様を見られたから、良しとしよう。
まあ……一度お姉様の悔しがる姿を見たからといって、私の復讐心は一切晴れたりはしない。むしろ、今回の一件で、家族への恨みはさらに募ったわ。
「……絶対に、復讐してやるんだから……」
「何をブツブツ言っている? もうすぐ、聖女様の謁見の時間だ。早く準備をしろ!」
「いたっ……乱暴にしないでくださる? もし痛みで再び気を失ったら、今日の謁見を済ませられませんわよ?」
「ちっ……話には聞いていたが、本当に人が変わったみたいだな……」
面を食らった感じの兵士につられれて、自室へと戻ってくると、そこにはこの前私が追い払った使用人達がいた。
「ごきげんよう。今日もよろしくお願いしますわ」
「か、かしこまりました!」
ふふっ、随分と丁寧な対応ね。私の嘘の予知で、不幸は私を虐げていた時に起こったと伝えたから、それが怖くていつものような態度は取れるはずがないものね。
「なるべく目立たないようにお願いしますわ」
「は、はい!」
悠々と化粧台の前に座ると、鏡に長い白髪と、やや幼く見える丸い青い目が特徴的な、私の顔が映った。
……改めて見ると、本当に顔だけは一切傷つけられていないのね。お姉様の無駄に高い拷問の芸術点には、感心してしまいそうだわ。
「えっと……支度の前に、まずは傷の手当てからさせていただきます」
「まあ、ありがとうございます」
「では、失礼します……」
「うぐっ……!」
「あっ、申し訳ございません! 痛みましたか!?」
「いえ、お気になさらず」
散々私のことを見下し、虐げていた使用人達が、嘘の予知を信じて私に媚びへつらうなんて、昔の私が聞いたら驚くでしょうね。ああ、良い気味だわ。
それにしても、さすがに体が傷むわ。あれだけ遠慮なしにやられたのだから、仕方がないことではある。
……良い気になれるのも、今のうちだけなんだから。必ずお姉様にも復讐するから、みていなさい。
「ああ、そういえば、ドリアーヌは無事に出発したのかしら?」
「はいっ! 明朝に自分の仕事を彼女に任せて、意気揚々とお城を出ていかれました!」
「そうですか……ふふっ」
教えてくれた使用人の視線の先には、ドリアーヌの次に年長者の女性が立っていた。私となるべく関わりたくないのか、ぶつかった視線をすぐにそらしている。
突然使用人の長がいなくなって、自分にその責任を押し付けられて、かわいそうね。まあ、彼女も率先して私を虐げていたのだから、同情の余地は欠片もないが。
****
治療と身支度で生じる体の強い痛みに耐えること数十分。無事に痛みを乗り越えて、身支度をすることが出来た私は、お城の敷地内にある教会へとやってきた。
この教会の礼拝堂には、多くの人がお祈りに来る。お姉様は、毎日決まった時間に礼拝堂にやって来て、民に不幸がないかを予知する。
お姉様は予知の力はないから、私がお祈りに来た人をこっそり見て、予知が発動したら、一緒にいる伝達魔法の使い手に伝えて、直接お姉様に予知の内容を教えて、それを民に伝える。
伝えると言っても、あくまで予知で見えたものを伝えるだけで、その解決方法はかなり適当だ。
それもそのはずで、お姉様は民がどうなろうと知ったことではなく、あくまで良い男がいないかを見繕っているだけに過ぎない。
もちろん、お父様もお義母様も、民のことなんて一切考えていない。愛する娘が聖女として民に愛されれば、それでいいの。
「セリア様。先程からずっとお静かにしてますが、予知は発動していないのですか?」
「はい」
予知の発動は、いつ起こるかわからない。だから、今日みたいに何も見えないなんてことは、珍しいことではない。
……そうだ、ここで見てもいない予知をお姉様に伝えて、大恥をかかせるっていうのは……いや、ダメね。その予知が間違っていたと知るのが、いつになるかわからないし、罪もない民を不安にさせるのは、よくないもの。
私がしたいのは、あくまで憎んでいる人への復讐であって、無関係の民を巻き込む必要は無い。
「せ、聖女様! ワシの孫が病気になってしまって……た、助かるでしょうか!?」
「ご安心なさい。あなたから、不幸は見えません。きっとお孫様は良くなるでしょう」
「聖女様! 今度商売を始めるんですが、上手くいくでしょうか?」
「…………これは、なにかしら。不幸……のような、でも違うような……不思議なものが見えますわ。よく調べたいので、今晩お城に来てもらえますでしょうか?」
「わ、わかりました!」
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