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第四十二話 で、デートをしてください!!
「どうしましょう……ああ、どうしましょう……!」
部屋に帰ってきた後、今日の魔法の授業をしてもらったのに、全く集中できなかった私は、ずっと頭を抱えていた。
本当にこれでよかったのか、デートなんて行っても良いのか、行くならどこが喜んでもらえるのか、アルフレッド様は嫌がらないだろうか。とにかく、ありとあらゆる考えが浮かんでは消えてを繰り返していて、頭がパンクしそうだ。
「セリア様、ご気分はいかがですか?」
「レイラ様……はい、おかげさまで少しは落ち着きましたわ。せっかく本日も授業をしていただいたのに、申し訳ございません……」
「いえ、お気になさらず」
今はリズが別の仕事でいないからと、レイラ様が私のために冷たい水を持ってきてくれた。おかげで、悩みすぎて熱を持った体が、少しだけ落ち着いた。
「何をお悩みなのかは存じ上げませんが、私に力になれることがあれば、なんでもお申し付けくださいませ」
「ありがとうございます。その時は、是非相談させていただきますわ」
さすがに、アルフレッド様とのデートで悩んでるとは言いにくくて、誤魔化すことしかできなかった。
はぁ……こんなに後ろ向きにうじうじ考えているなんて、まるで昔の自分に戻ったかのようだ。
あの予知を見てから、変わらなきゃって思って頑張った。その結果、復讐に関しては変われたが、それ以外のことに関しては、弱気で後ろ向きな部分が出てしまう。やはり、そう簡単には変わらないみたい。
「では、私は次の用事がございますので、今日のところは失礼します」
「ええ。ごきげんよう」
レイラ様を見送ってから、誰もいなくなった部屋の中に溜息を響かせながら、ベッドに仰向けに寝転がった。
「……これではダメですわよね。私は変わるって決めたのですから、復讐以外のことでも、変わらなければ意味がありませんわ。大丈夫、きっと大丈夫……!」
私は、ベッドに置いてある、例のアルフレッド様に治してもらったぬいぐるみと、お母様がプレゼントとして遺してくれたぬいぐるみを抱きしめながら、自分を鼓舞する。
まったく、ただ一言デートをしてくださいとお願いするだけなのに、これだけ考え込むだなんて、情けない限りだ。
「この時間だと、どこにいらっしゃるのかしら? 誰かに聞いた方が早いかも――」
意を決してアルフレッド様のところに行こうとした瞬間、部屋の中にノックの音が響いてきた。
「セリア様、アルフレッドだ。いるかな?」
「あ、ああ、アルフレッド様!?」
こっちから会いに行こうとした人が、向こうから来てくれた。普通に考えれば、良いタイミングだと思うだろうが、まだ完璧に心の準備が出来ていない私にとっては、その場で飛びあがってしまうほどの衝撃でしかなかった。
「ど、どうぞ!」
「失礼するよ。リズ嬢に、セリア様が話したいことがあると聞いて来たのだけど、なにかあったのかい?」
「あ、あう……えっと……」
先程は、偉そうに変わるとかなんとか考えていたくせに、いざ本人を前にしたら、緊張で頭と呂律が回らない。それと同時に、まるで燃えているのではないかと錯覚するくらい、体が熱くて汗が噴き出てくる。心臓の音もうるさいし、口の中がカラカラだ。
「顔が真っ赤じゃないか。もしかして、熱でもあるのか!?」
「ひゃっ……!?」
アルフレッド様の整った顔が私の顔に近付き、おでこ同士が触れ合った。
顔が近い、まつ毛が長い、吐息と熱を感じる。それだけで、もう私は意識を保っているのが精いっぱいな状態になっていた。
……だ、ダメよ私! このまま恥ずかしがって流れに身を任せていたら、絶対に誘えないで終わってしまう! 復讐の時は変われていたのだから、今だって出来るはずだ!
「随分と熱いな……本当に熱があるみたいだ。すぐに医者を呼んでくるから、ここで――」
「ち、違うんです! 待ってください!」
「セリア様?」
「あ、あのあの……で、でで、でででで……」
「で?」
「うぅぅぅ~~~~……!」
デートをしてください。たった一秒程度の言葉を言うだけなのに、それが出来ないのがもどかしくて、情けなくて……私は、その感情をぶつけるように、爪が手のひらに食い込むほど、力強く握り拳を作っていた。
そんな私の拳の上に、アルフレッド様の手がそっと重なった。
「セリア様、落ち着いて。大丈夫、ここには君を笑う人も、バカにする人もいないから。自分の言いたいことを、素直に言って良いんだ」
「アルフレッド様……」
「大丈夫。僕はどんなことがあっても、君の味方だ。それに、どんなことがあっても、全て受け止めるさ」
私の全てを包み込んでくれる、優しい笑顔。それを見つめていたら、スーッと心が落ち着いてくれた。これなら、きっと伝えられる!
「わ、私りょ……で、デートをしてくりゃひゃい!!」
「…………」
もはや恥ずかしいどころか、笑ってしまいそうなくらい噛んでしまったが、なんとか伝えたいことは伝えられた。
そう思ったのも束の間、アルフレッド様は数十秒ほどその場で停止した後、そのままバタンッと倒れてしまった。
「あ、アルフレッド様!? どうされたのですか! しっかりしてくださいませ!」
「セリア様が、僕をデートに……!? 嬉しすぎて、前が見えない……これは夢か? そうだ、こんな幸せなこと、夢に決まっている……ああ、夢なら永遠に覚めないでくれ……!」
「夢ではありませんわ! これは現実です!」
「現実……本当に?」
私の言葉が信じられないと言わんばかりに、アルフレッド様は思い切り自分の頬をつねる。それがよほど痛かったようで、思わず痛い……と呟いたのが、ちょっぴり可愛かった。
「本当に夢じゃないみたいだ。セリア様、僕とデートに行ってくれるのかい?」
「は、はい。不束者ではございますが、私でよければ……」
「何を言っているんだ!? 君はこの世で一番素敵で美しい人だというのに、どうして卑下するようなことを言うんだ!」
あ、相変わらず押しが強い! 今そんなことを言われたら、嬉しさとドキドキで耐えられないから! あと、顔が近い! そんなに迫ってこなくても、私は逃げないから!
「よし、そうと決まれば予定を何とかこじ開けなければ! セリア様、少し僕は忙しくなるだろう。だから、一緒にいられる時間は減るだろうが――」
「いえ、実はこの件をフェルト殿下にお願いしたのですが、お休みの日を設けると仰っておりました。ですので、予定を詰める必要はありませんわ」
「なんだって? しかし、それでは色々と公務が……」
「一日くらいなんとかすると、仰っておりましたわ。それと、アルフレッド様は頑張り過ぎだから、ちゃんと休んでほしいとも」
「やれやれ、父上や国、そして民のために頑張っていたのだけど、逆に心配をかけてしまっていたか。父上には申し訳ないことをしてしまったな」
アルフレッド様は、罰が悪そうな表情で視線を逸らす。彼のことだから、極力誰かに心配をかけたくないのね。本当に優しい人で、惚れ直しでしまいそうだ。
「……わかった。父上の好意に報いるためにも、君と最高のデートをしよう。どこか行きたいところとか、したいことはあるかい?」
「それが……私、お恥ずかしながら、このような経験は皆無でして……どういったデートをすれば、アルフレッド様が喜んでくださるか、皆目見当もつきませんの……」
「ははっ、大丈夫! 僕も君と出会うまでは、そういった類の物とは縁がなかったからね! 初心者同士、ゆっくり話し合って決めよう! きっと、それもデートの醍醐味だろうからね!」
「アルフレッド様……はいっ!」
「そうと決まれば、まずは情報収集だ! 城の人間で、恋愛経験がある人間に、どういった場所がオススメか聞いてみよう!」
「そうですわね。何事も、先人の教えをいただくのは大事ですわ!」
「さすがセリア様は、話が分かる人だ! この後、まだもう少し時間があるから、一緒に聞いて回ろうじゃないか!」
私は、アルフレッド様にギュッと手を握られながら、部屋を飛び出した。
自分達がデートをするから、どういうものがあるのか教えてほしいなんて聞きまわるのは、とても恥ずかしい。でも、素敵なデートをするため、アルフレッド様に休んでもらうためにも必要なこと! 恥ずかしいけど、頑張らないと!
部屋に帰ってきた後、今日の魔法の授業をしてもらったのに、全く集中できなかった私は、ずっと頭を抱えていた。
本当にこれでよかったのか、デートなんて行っても良いのか、行くならどこが喜んでもらえるのか、アルフレッド様は嫌がらないだろうか。とにかく、ありとあらゆる考えが浮かんでは消えてを繰り返していて、頭がパンクしそうだ。
「セリア様、ご気分はいかがですか?」
「レイラ様……はい、おかげさまで少しは落ち着きましたわ。せっかく本日も授業をしていただいたのに、申し訳ございません……」
「いえ、お気になさらず」
今はリズが別の仕事でいないからと、レイラ様が私のために冷たい水を持ってきてくれた。おかげで、悩みすぎて熱を持った体が、少しだけ落ち着いた。
「何をお悩みなのかは存じ上げませんが、私に力になれることがあれば、なんでもお申し付けくださいませ」
「ありがとうございます。その時は、是非相談させていただきますわ」
さすがに、アルフレッド様とのデートで悩んでるとは言いにくくて、誤魔化すことしかできなかった。
はぁ……こんなに後ろ向きにうじうじ考えているなんて、まるで昔の自分に戻ったかのようだ。
あの予知を見てから、変わらなきゃって思って頑張った。その結果、復讐に関しては変われたが、それ以外のことに関しては、弱気で後ろ向きな部分が出てしまう。やはり、そう簡単には変わらないみたい。
「では、私は次の用事がございますので、今日のところは失礼します」
「ええ。ごきげんよう」
レイラ様を見送ってから、誰もいなくなった部屋の中に溜息を響かせながら、ベッドに仰向けに寝転がった。
「……これではダメですわよね。私は変わるって決めたのですから、復讐以外のことでも、変わらなければ意味がありませんわ。大丈夫、きっと大丈夫……!」
私は、ベッドに置いてある、例のアルフレッド様に治してもらったぬいぐるみと、お母様がプレゼントとして遺してくれたぬいぐるみを抱きしめながら、自分を鼓舞する。
まったく、ただ一言デートをしてくださいとお願いするだけなのに、これだけ考え込むだなんて、情けない限りだ。
「この時間だと、どこにいらっしゃるのかしら? 誰かに聞いた方が早いかも――」
意を決してアルフレッド様のところに行こうとした瞬間、部屋の中にノックの音が響いてきた。
「セリア様、アルフレッドだ。いるかな?」
「あ、ああ、アルフレッド様!?」
こっちから会いに行こうとした人が、向こうから来てくれた。普通に考えれば、良いタイミングだと思うだろうが、まだ完璧に心の準備が出来ていない私にとっては、その場で飛びあがってしまうほどの衝撃でしかなかった。
「ど、どうぞ!」
「失礼するよ。リズ嬢に、セリア様が話したいことがあると聞いて来たのだけど、なにかあったのかい?」
「あ、あう……えっと……」
先程は、偉そうに変わるとかなんとか考えていたくせに、いざ本人を前にしたら、緊張で頭と呂律が回らない。それと同時に、まるで燃えているのではないかと錯覚するくらい、体が熱くて汗が噴き出てくる。心臓の音もうるさいし、口の中がカラカラだ。
「顔が真っ赤じゃないか。もしかして、熱でもあるのか!?」
「ひゃっ……!?」
アルフレッド様の整った顔が私の顔に近付き、おでこ同士が触れ合った。
顔が近い、まつ毛が長い、吐息と熱を感じる。それだけで、もう私は意識を保っているのが精いっぱいな状態になっていた。
……だ、ダメよ私! このまま恥ずかしがって流れに身を任せていたら、絶対に誘えないで終わってしまう! 復讐の時は変われていたのだから、今だって出来るはずだ!
「随分と熱いな……本当に熱があるみたいだ。すぐに医者を呼んでくるから、ここで――」
「ち、違うんです! 待ってください!」
「セリア様?」
「あ、あのあの……で、でで、でででで……」
「で?」
「うぅぅぅ~~~~……!」
デートをしてください。たった一秒程度の言葉を言うだけなのに、それが出来ないのがもどかしくて、情けなくて……私は、その感情をぶつけるように、爪が手のひらに食い込むほど、力強く握り拳を作っていた。
そんな私の拳の上に、アルフレッド様の手がそっと重なった。
「セリア様、落ち着いて。大丈夫、ここには君を笑う人も、バカにする人もいないから。自分の言いたいことを、素直に言って良いんだ」
「アルフレッド様……」
「大丈夫。僕はどんなことがあっても、君の味方だ。それに、どんなことがあっても、全て受け止めるさ」
私の全てを包み込んでくれる、優しい笑顔。それを見つめていたら、スーッと心が落ち着いてくれた。これなら、きっと伝えられる!
「わ、私りょ……で、デートをしてくりゃひゃい!!」
「…………」
もはや恥ずかしいどころか、笑ってしまいそうなくらい噛んでしまったが、なんとか伝えたいことは伝えられた。
そう思ったのも束の間、アルフレッド様は数十秒ほどその場で停止した後、そのままバタンッと倒れてしまった。
「あ、アルフレッド様!? どうされたのですか! しっかりしてくださいませ!」
「セリア様が、僕をデートに……!? 嬉しすぎて、前が見えない……これは夢か? そうだ、こんな幸せなこと、夢に決まっている……ああ、夢なら永遠に覚めないでくれ……!」
「夢ではありませんわ! これは現実です!」
「現実……本当に?」
私の言葉が信じられないと言わんばかりに、アルフレッド様は思い切り自分の頬をつねる。それがよほど痛かったようで、思わず痛い……と呟いたのが、ちょっぴり可愛かった。
「本当に夢じゃないみたいだ。セリア様、僕とデートに行ってくれるのかい?」
「は、はい。不束者ではございますが、私でよければ……」
「何を言っているんだ!? 君はこの世で一番素敵で美しい人だというのに、どうして卑下するようなことを言うんだ!」
あ、相変わらず押しが強い! 今そんなことを言われたら、嬉しさとドキドキで耐えられないから! あと、顔が近い! そんなに迫ってこなくても、私は逃げないから!
「よし、そうと決まれば予定を何とかこじ開けなければ! セリア様、少し僕は忙しくなるだろう。だから、一緒にいられる時間は減るだろうが――」
「いえ、実はこの件をフェルト殿下にお願いしたのですが、お休みの日を設けると仰っておりました。ですので、予定を詰める必要はありませんわ」
「なんだって? しかし、それでは色々と公務が……」
「一日くらいなんとかすると、仰っておりましたわ。それと、アルフレッド様は頑張り過ぎだから、ちゃんと休んでほしいとも」
「やれやれ、父上や国、そして民のために頑張っていたのだけど、逆に心配をかけてしまっていたか。父上には申し訳ないことをしてしまったな」
アルフレッド様は、罰が悪そうな表情で視線を逸らす。彼のことだから、極力誰かに心配をかけたくないのね。本当に優しい人で、惚れ直しでしまいそうだ。
「……わかった。父上の好意に報いるためにも、君と最高のデートをしよう。どこか行きたいところとか、したいことはあるかい?」
「それが……私、お恥ずかしながら、このような経験は皆無でして……どういったデートをすれば、アルフレッド様が喜んでくださるか、皆目見当もつきませんの……」
「ははっ、大丈夫! 僕も君と出会うまでは、そういった類の物とは縁がなかったからね! 初心者同士、ゆっくり話し合って決めよう! きっと、それもデートの醍醐味だろうからね!」
「アルフレッド様……はいっ!」
「そうと決まれば、まずは情報収集だ! 城の人間で、恋愛経験がある人間に、どういった場所がオススメか聞いてみよう!」
「そうですわね。何事も、先人の教えをいただくのは大事ですわ!」
「さすがセリア様は、話が分かる人だ! この後、まだもう少し時間があるから、一緒に聞いて回ろうじゃないか!」
私は、アルフレッド様にギュッと手を握られながら、部屋を飛び出した。
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