【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき

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第五十九話 恐怖という感情

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「お、お父様!? そんなことをすれば、私の立場はどうなるのですか!?」

 即座にお姉様が食いつく気持ちは、わからなくもない。私が言うということは、私が聖女だったと公表するようなものだ。そうすれば、ただでさえ立場が悪くなっているお姉様が、今度こそ完全に立場と居場所を失うことになる。

 まあ、それはそれで面白そうではあるのだけど、私の最終的な復讐で、それはあまりにもぬるすぎる。前回の復讐と同じ程度では、ただの二番煎じだもの。

 ……なんて、偉そうに考えているけど、どうすれば前回の復讐を超えられるかなんて、一つも思いついていないのよね……。

「落ち着け。今の聖女としてのジェシカの信頼など、もはや皆無だ。そこで、本当の聖女はセリアであることを公表し、ソリアン国に婚約者として行ったら手酷い扱いを受けたこと、ソリアン国が戦争の準備をしていること、そして予知で戦争でカルネシアラ国の民にかつてない被害が出ることを伝えるのだ」

「……お言葉ですがお父様。そのようなことをして、なんの意味が? 仮に信じてくれたとしても、それがこの状況の改善に繋がるのでしょうか?」

「間接的には繋がる。具体的に言うと、ワシの魔法にかかりやすくするために、必要な処置なのだ」

 お父様の魔法って、洗脳魔法かしら? 一体どういうことなのだろうか。私はお父様の洗脳魔法について、詳しいことを何も知らないから、これを機に聞き出すのもいいかもしれない。

「まあ、それは素晴らしいですわ。ただ、私にはどうしてそうなるのか、理解が追い付きません。愚かな私がお父様のお力になれるように、どういう理屈なのか、ご教授お願い致します」

「なんて出来の悪い娘だ。まあいい、その態度に免じて教えてやろう。ワシの魔法をかける時に、既に対象者にあるものを利用すると、魔法をかけやすいのだ」

「と、いいますと?」

「わかりやすいものだと、恐怖だ。例えば犬に噛まれた経験を持っていて、犬に対して恐怖感を持っていたとする。それを魔法を利用して、犬というのは恐ろしく、滅ぼさなければいけないものだという考えを持つようにするのだ」

「なるほど、なんとなく理解出来ました。つまり、私の言葉でソリアン国への恐怖を植え付けることで、洗脳魔法にかかりやすくするのですね」

「そうだ。無から植え付けることも、不可能ではない。実際に昔はそうした経験もある。だが、時間も労力も比ではないのでな……あれはもうやりたくない。それに、悠長にしている時間は、我々には無い」

 今の会話で、なんとなく今までのことがわかったかもしれない。

 昔、何かの本で人間を団結させる一番手っ取り早い方法は、共通の敵を作ることだというのを読んだことがある。お父様は、民を一つにする為に、ソリアン国をその敵に仕立て上げたんだ。

 普通なら、全ての民にそんな敵意を持たせる事なんて出来ないが、お父様の類まれな魔力で洗脳魔法を使い、ソリアン国は蛮族が住む危険な国とされてしまったのだろう。

 これが正しければ、平和なソリアン国がどうして危険視されていたのか、お父様の魔力が無くなってしまったのか、説明がつく。

 どうしてそう思ったのかって? 前にフェルト殿下から聞いたお話や、今の会話の中で得た情報……特に、最後のもうやりたくないという言葉を聞いて、もしかしたらって思ったのよ。

 ……問題は、それがわかった以上、私が民の恐怖心を煽るようなことをしては、マズいのではないかということだが……状況的に、反発は出来ない。民が私の言葉を信じてくれないことを願うしかない。

「ちなみにですが、その後はどうされるのですか?」

「ソリアン国に戦争を仕掛け、滅んでもらう。その際に、我々が民の指揮を取り、恐怖の象徴を滅ぼした英雄とすることで、我々への不信感を完全に払しょくする。それが我々の計画だ」 

 戦争……それが、私が予知で見た、あの赤い月の日の光景なのね。魔法をかけられた後なら、カルネシアラ国の兵士の様子がおかしかったのも、説明がつく。

「つまり、戦争はあくまで過程であって、真の目的はカルネシアラ国の民を再び手中に収めるということで間違いないでしょうか?」

「そうだ。このまま放置すれば、我々に待っているのは、完全なる破滅なのだからな」

 ……自分達が以前のような生活を送れるようになれば、カルネシアラ国の民も、ソリアン国や民も、どうなっても構わないと? 本当に、最低のクズだわ。

「私は反対ですわ! そもそも、そんな小細工をしなくても、お父様なら魔法を扱えるでしょう!?」

「一人一人の魔法の効果を上げるためにも、出来ることはした方が良い」

「なら、全てが終わった後に、また私が聖女として崇められるように、再度全ての民に洗脳魔法をかけてください!」

「それは約束できない。奪った魔力がどれほど残るか、今の段階では判断がつかぬからな」

 ……奪った……? 今、確かにそう言ったわよね?

「それでは、私はもう今までのような生活を送れないかもしれないのですか!? 冗談じゃありませんわ!」

「ワガママを言うな、愚か者め! 貴様一人のくだらん感情のせいで、作戦が失敗したらどう責任を取る!? ワシの子供なら、ワシの邪魔をするな!!」

 ……なんていうか、親子揃って余裕が無くなっているのね。お父様は、昔からお姉様のことは溺愛していて、なんでもお願いは聞いていたのに、今では見る影もない。
 お姉様も、お父様の言うことは何でも聞くような人間だったのに、自分勝手な考えで猛反発している。

 どちらも醜くて、見るに堪えないわ。言い方が悪いのは重々承知ではあるけど、こんなのと同じ血が流れていると思うと、ゾッとする。

「そもそも、こんな女の言葉なんて、誰が信じるとお思いですの!?」

「貴族の方々は、私がこのような事態を引き起こした当事者なのをご存じですわ。そんな私が帰ってくるなんて考えもしないでしょう。そんな私が帰ってきて、この国が大変なことになる予知を見たと公表すれば、信じてもらえるでしょう」

「…………」

 テキパキと答えられて立場が悪くなったお姉様は、悔しそうに爪を噛みながら、私を睨んでいる。

 うふふ、良い表情ね、お姉様。私はあなたやお父様達が、もっと悔しがる姿、苦しむ姿が見たいの。あくまでソリアン国と両国の民が第一とはいえ、復讐も大切だからね。

「まだ王家に反発している貴族の動きを抑えられるかもしれませんし、突然私が民の前で説明するよりも、信じた貴族達によって民に話が広がる方が、信じてもらえると思うのです」

 少々言い訳としては苦しいかもしれないが、こうすれば直接民に情報が伝わる時間を遅らせることが出来ると思った。
 全く信じてもらえないのを前提にすれば、さっさと民の前で説明をして失敗した方が良いのかもしれないが、仮に成功してしまった時は、一気に惨事へと近づいてしまう。それだけは避けたい。

「うむ、そこまでわかっているのなら、それでいこう。こちらでスケジュールを組んで、お前に連絡する」

「わかりました。ご期待に添えられるよう、精一杯努めさせていただきます。では、私は失礼します」

 深々と頭を下げて挨拶をしてから、私は早足で倉庫に戻り、お留守番をしていたアルフレッドに、今話していた内容を報告した。

「なるほど、聖女の言葉で恐怖心を……認めたくはないが、やり方としては間違ってなさそうだ」

「そうなのですか?」

「恐怖は、生物ならだれでも持っているものだからね。それを駆逐するために、団結しあうのは普通のことさ。どんな動物だってやると思うよ」

 アルフレッドがそう言うのなら、きっとそうなのでしょうね。お父様も、伊達に長年国を治めていたわけじゃないということね。

「さて、どういう場で君に話をさせるのかわからないが、それまでに情報を集める必要はありそうだ」

「そうですわね。以前この国を出る際に、記録魔法の力を宿した水晶を使って色々と記録をして、それを公の場で公表をしましたの。ただ、その水晶は手元に無くて……」

「その魔法なら、僕が使えるから大丈夫だ。ただ、この姿では記録できる量に限りがある。少ない情報で確実に追い詰められるようなものを見つける必要があるね」

 アルフレッドが使えることは不幸中の幸いではあるが、使える情報が少ないというのは、かなりの痛手だ。
 だからといって、こんなタイミングで元の姿に戻ったら、いざという時に最大限に動けなくなるのが容易に想像できる。

「こちらの魂胆に気づかれて、洗脳魔法をかけられてしまえば、それで終わりですし……」

 必死に考えても、いい方法は浮かばない。その代わりというか、現実から逃げているだけというか……とある疑問が頭に浮かんできた。

「そういえば、先程お父様は、魔力を奪ったって仰っておりましたが……どういうことなのかしら?」
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